雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第四十三章 静かな証明

帳がゆっくりと晴れてゆき、夕陽の光がショッピングモール跡地に差し込んでいた。

その廃墟の出口から三人の姿が現れる。

 

先頭を歩くのは、術服に身を包んだ夏油傑。

その背中には、ぐったりとしたキルアが負ぶわれていた。

彼の顔は血の気を失い、目を閉じたまま動かない。

 

その隣を歩く三輪は、歩調も重く、瞳は真っ赤に腫れていた。

張り詰めた任務の緊張と恐怖、様々な感情が涙と共に流れた後の、静かな空白が彼女を支配していた。

 

その姿を見た車内待機の伊地知の胸に、鋭い不安が突き刺さる。

 

(……まさか、キルア君は……間に合わなかったのか……?)

 

震える手でドアを開け、駆け寄る。

 

「お、お疲れ様でした……」

伊地知の声は明らかに動揺に満ちていた。

 

三輪はうつむきながらも小さく返す。

 

「お疲れ様です……」

 

だが、次の瞬間、夏油の落ち着いた声が彼の不安を払拭する。

 

「お疲れ様。キルアは心配ないよ。今は眠っているだけだ」

 

「はっ……!本当ですか!?……よかった……」

伊地知の肩が大きく沈み、顔に安堵が広がる。

 

「心配かけたね。……高専へ戻ろうか」

夏油の一言に、誰もが頷いた。

 

 

---

 

~呪術高専・保健室~

 

夕暮れの光が高専の保健室にも静かに差し込んでいた。

中央のベッドには、安らかに寝息を立てるキルアの姿。

 

右側には椅子に座ったまま彼の手を握る三輪。

その顔には涙の痕が残るも、どこか柔らかな安心がにじんでいた。

 

左側には虎杖、釘崎、伏黒の1年ズが椅子を並べて座っている。

それぞれ無言ながらも、キルアの回復を見守っていた。

 

足元には、五条、夏油、そしてカルテを手にした硝子が立っていた。

 

「脳に受けたダメージに関しては、夏油が現場で適切に処置してくれたみたいだから、問題はなかったよ。

あとは……精神的な部分の回復次第、ってところかな。」

 

硝子がカルテに視線を落としながら、淡々と告げる。

 

「すげ~……夏油さんって反転術式も使えるんですか。」

虎杖が驚いたように言うと、夏油は小さく首を振った。

 

「いや、私じゃないよ。反転術式を使える呪霊を使っただけだ。

《折翳》という術者型の呪霊でね。私が保有している中でも、治癒に特化した異例の存在だ。」

 

「本当に便利な技ね……」

釘崎がつぶやく。

 

伏黒がベッドのキルアに視線を落としながら言った。

 

「それにしても……あのキルアがここまで眠るほどのダメージって、相当だったんですね。」

 

夏油は静かに頷いた。

 

「……おそらく、並の術師だったら間違いなく命を落としていただろう。

私と悟でも、単独任務かつ一撃で建物全体を吹き飛ばさなかった場合ならどちらかが死んでいた可能性はある。」

 

その言葉に、五条が興味深そうに眉を上げる。

 

「そんなに?僕の無下限でもダメだったの?」

 

「奴の術式は、物理でも呪力でもない“精神”への干渉だ。

無下限のバリアでは防げない領域への攻撃……悟、お前でもきつかったかもしれないよ。」

 

「なるほどね。……でも僕、精神そんなに弱くないよ?」

五条が冗談めかして肩をすくめる。

 

「分かってる。だがな……今回の領域展開、これはちょっと別格だった。

対象がこれまで経験した“過去の痛い記憶”を強制的に想起させて、その全てを“脳に再現された激痛”として実感させるんだ。」

 

その説明に、1年ズの三人が息をのんだ。

 

「……領域展開を使ってきたんですか!?」

伏黒が思わず声を上げる。

 

「あぁ。私が着いた時には二人ともすでにその領域内だった。

外から上書きできたから助かったが……そうでなければ、二人とも……」

 

夏油は語尾を濁した。

 

「……そんな……」

 

「しかも、領域内で呪霊が使った技は、痛みを“記憶”から引き出して脳に叩きつけるもの。

キルアの場合……ゾルディック家での過去が、凄まじい苦痛として再現されたんだろう。」

 

虎杖が低く呟いた。

 

「……拷問……だよな。訓練って名のもとに。」

 

「おそらく、そのすべてが脳に再現された。肉体的にも、精神的にも。

それに耐えて戻ってきたんだ。……称賛に値するよ」

 

夏油が静かに、尊敬の眼差しを向ける。

 

「……それと、これはこいつを取り込んだ後で気づいたことだが、

術式の特性上、呪霊が精神を攻撃できる対象は1人までだった。

それでも三輪を領域に入れたのは、彼女を“脅威ではない”と判断したからだろう。」

 

その一言に一年ズの視線が三輪へ集中する。

 

「結果的に、それがキルアを救った。

三輪がいたからこそ、彼の精神がつなぎ止められた。」

 

夏油の言葉に、三輪が静かにうつむく。

だが、キルアの手を握るその指先は、ほんのわずかに力強くなった。

 

五条が、ベッドのキルアを見下ろして微笑んだ。

 

「……よく頑張ったね、キルア。……偉いよ」

 

そして、くるりと振り返る。

 

「さてと、僕は次の任務があるからそろそろ行くね。

キルアが起きたら、よろしく言っておいて。」

 

そう言って、手をひらひらと振りながら部屋を出て行く五条。

 

それを見送りながら、夏油が静かに言う。

 

「私もそろそろ失礼しようかな。君たちは?」

 

虎杖が振り向く。

 

「俺たちも、ここにいますよ。キルアが起きるまで」

 

釘崎と伏黒もうなずいた。

 

そして三輪は、そっとキルアの手を握りしめたまま言った。

 

「……私も。……キルアが目を覚ますまで、ずっといます」

 

夏油はそんな彼らを見て、小さく頷いた。

 

「わかった。……ありがとう。よろしく頼むよ。」

 

そう言って、部屋を後にする。

 

夕陽が差し込む保健室。

その穏やかな静けさの中、キルアの寝息は安らかに響いていた。

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