雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第四十四章 眠りの先に

ショッピングモール跡地での死闘から数時間が経過していた。

 

保健室の中は、静寂が支配していた。

中央のベッドでは、キルアが深い眠りに落ちている。

その右側、椅子に腰かけた三輪が、彼の手を握ったまま、そっと頭を垂れて眠っていた。

 

部屋の明かりは暖色に落とされており、外はすっかり夜の帳が降りている。

時計の針が静かに時を刻む音だけが、場を和ませていた。

 

虎杖が、少し身を乗り出して三輪を見やり、口を開く。

 

「……あの任務の後だもんな。むしろ、今まで起きてたってことがすごいよね。」

 

伏黒は軽く頷きつつ視線を伏せ、釘崎が小さく息をついた。

 

「そうね……。三輪ちゃん、物理的にはあまり傷ついてないように見えても、精神的には相当きてたと思うわよ。

目の前で、好意を寄せてる相手が激痛に叫んで、死んでしまうかもしれないって恐怖……それを前に、何もできなかった絶望……。想像するだけで辛いわ。」

 

「……えっ?三輪さんってキルアのこと、好きなの?」

虎杖が驚いた顔で釘崎を見る。

 

「はあ……アンタ、ほんっと鈍感ね。」

釘崎があきれたように額を押さえ、ため息をついた。

 

その時だった。

 

「……んっ……」

ベッドのキルアが、喉の奥から微かな音を漏らす。

 

三人の視線が一斉に彼に集まる。

 

「……そろそろ起きるな。」

黙っていた伏黒が、静かに言った。

 

「そうね。じゃあ、私たちも出ましょうか。」

釘崎が立ち上がる。

 

「え?出るの? 起きるのに?」

虎杖がきょとんとするが、釘崎は手を取って立たせる。

 

「いいから出るの。空気読みなさい」

そう言って、虎杖を引っ張り、伏黒もそれに続いた。

 

保健室の扉が静かに閉まる。

 

その直後だった。

 

「……んんっ……」

キルアが目をゆっくりと開けた。

 

薄暗い天井を見つめながら、ぼんやりと瞬きを繰り返す。

 

「……あれ、寝ちゃってたのか……」

そう呟きつつ、ゆっくりと上体を起こす。

 

その時、自分の手を握っている温もりに気づいた。

 

視線を落とすと、椅子に座ったまま自分の手を握り、眠っている三輪の姿があった。

 

一瞬、キルアの顔に驚きが走る。

 

だがすぐに、ふっと優しい笑みがこぼれた。

 

そして、もう片方の手をそっと三輪の頭へと伸ばし、優しく撫でた。

 

「……ありがとな。本当に助かった。」

その言葉は、ごく小さな、囁くような声だった。

 

三輪のまぶたが、ぴくりと揺れた。

 

(……あ……キルア……起きてる……)

意識がゆっくりと浮上する。

 

(あれ……これ……頭……撫でられてる……?)

 

ぼんやりとした思考のなかで、確信がゆっくりと心の中に広がる。

 

(え……撫でられてる!?)

 

その瞬間、三輪の心臓が跳ね上がった。

 

ドクン、と鼓動が体中に響く。

安堵と緊張、そして猛烈な恥ずかしさが一気に押し寄せ、三輪の思考が真っ白になる。

 

(どうしよう……どうしよう……!)

 

たまらず、三輪はゆっくりと顔を上げた。

 

目が合う。

 

「あっ……! ごめん……」

キルアが気まずそうに手を引きかける。

 

だが三輪は、そっと首を振った。

 

「ううん。……キルア……起きて、よかった……」

その顔は耳まで真っ赤に染まっていたが、確かに笑っていた。

 

そんなふたりの様子を、室内の隅で黙々と作業していた硝子が、ふいに口を開いた。

 

「……あ?起きた? そろそろ保健室、締めるよ」

 

その声にキルアが飛び上がるように反応する。

 

「……えっ!? 居たの!?」

 

「居たよ」

淡々とした硝子の返答。

 

「……見てた……?」

 

「見てたよ」

 

キルアの顔が、みるみるうちに真っ赤になる。

 

「……うわっ……まじか……」

 

恥ずかしさに耐えきれず、勢いよくベッドを降りたキルア。

 

「お、お世話になりましたっ……!」

頭を下げ、三輪の手を取って保健室を飛び出していく。

 

バタン、と扉が閉まる。

 

静寂が戻った室内。

 

硝子はカルテの山をテーブルに置き、一本の煙草に火をつける。

 

ふう、と煙を吐き出して、ぽつりと呟いた。

 

「……青春だねぇ」

 

白い煙が天井へゆっくりと立ち昇っていった。

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