ショッピングモール跡地での死闘から数時間が経過していた。
保健室の中は、静寂が支配していた。
中央のベッドでは、キルアが深い眠りに落ちている。
その右側、椅子に腰かけた三輪が、彼の手を握ったまま、そっと頭を垂れて眠っていた。
部屋の明かりは暖色に落とされており、外はすっかり夜の帳が降りている。
時計の針が静かに時を刻む音だけが、場を和ませていた。
虎杖が、少し身を乗り出して三輪を見やり、口を開く。
「……あの任務の後だもんな。むしろ、今まで起きてたってことがすごいよね。」
伏黒は軽く頷きつつ視線を伏せ、釘崎が小さく息をついた。
「そうね……。三輪ちゃん、物理的にはあまり傷ついてないように見えても、精神的には相当きてたと思うわよ。
目の前で、好意を寄せてる相手が激痛に叫んで、死んでしまうかもしれないって恐怖……それを前に、何もできなかった絶望……。想像するだけで辛いわ。」
「……えっ?三輪さんってキルアのこと、好きなの?」
虎杖が驚いた顔で釘崎を見る。
「はあ……アンタ、ほんっと鈍感ね。」
釘崎があきれたように額を押さえ、ため息をついた。
その時だった。
「……んっ……」
ベッドのキルアが、喉の奥から微かな音を漏らす。
三人の視線が一斉に彼に集まる。
「……そろそろ起きるな。」
黙っていた伏黒が、静かに言った。
「そうね。じゃあ、私たちも出ましょうか。」
釘崎が立ち上がる。
「え?出るの? 起きるのに?」
虎杖がきょとんとするが、釘崎は手を取って立たせる。
「いいから出るの。空気読みなさい」
そう言って、虎杖を引っ張り、伏黒もそれに続いた。
保健室の扉が静かに閉まる。
その直後だった。
「……んんっ……」
キルアが目をゆっくりと開けた。
薄暗い天井を見つめながら、ぼんやりと瞬きを繰り返す。
「……あれ、寝ちゃってたのか……」
そう呟きつつ、ゆっくりと上体を起こす。
その時、自分の手を握っている温もりに気づいた。
視線を落とすと、椅子に座ったまま自分の手を握り、眠っている三輪の姿があった。
一瞬、キルアの顔に驚きが走る。
だがすぐに、ふっと優しい笑みがこぼれた。
そして、もう片方の手をそっと三輪の頭へと伸ばし、優しく撫でた。
「……ありがとな。本当に助かった。」
その言葉は、ごく小さな、囁くような声だった。
三輪のまぶたが、ぴくりと揺れた。
(……あ……キルア……起きてる……)
意識がゆっくりと浮上する。
(あれ……これ……頭……撫でられてる……?)
ぼんやりとした思考のなかで、確信がゆっくりと心の中に広がる。
(え……撫でられてる!?)
その瞬間、三輪の心臓が跳ね上がった。
ドクン、と鼓動が体中に響く。
安堵と緊張、そして猛烈な恥ずかしさが一気に押し寄せ、三輪の思考が真っ白になる。
(どうしよう……どうしよう……!)
たまらず、三輪はゆっくりと顔を上げた。
目が合う。
「あっ……! ごめん……」
キルアが気まずそうに手を引きかける。
だが三輪は、そっと首を振った。
「ううん。……キルア……起きて、よかった……」
その顔は耳まで真っ赤に染まっていたが、確かに笑っていた。
そんなふたりの様子を、室内の隅で黙々と作業していた硝子が、ふいに口を開いた。
「……あ?起きた? そろそろ保健室、締めるよ」
その声にキルアが飛び上がるように反応する。
「……えっ!? 居たの!?」
「居たよ」
淡々とした硝子の返答。
「……見てた……?」
「見てたよ」
キルアの顔が、みるみるうちに真っ赤になる。
「……うわっ……まじか……」
恥ずかしさに耐えきれず、勢いよくベッドを降りたキルア。
「お、お世話になりましたっ……!」
頭を下げ、三輪の手を取って保健室を飛び出していく。
バタン、と扉が閉まる。
静寂が戻った室内。
硝子はカルテの山をテーブルに置き、一本の煙草に火をつける。
ふう、と煙を吐き出して、ぽつりと呟いた。
「……青春だねぇ」
白い煙が天井へゆっくりと立ち昇っていった。