雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第四十五章 静かな夜のはじまり

「ま、待ってよ……そんな急に……」

三輪がキルアに引かれるまま、廊下を小走りに進んでいた。手はまだ繋がれたまま。温もりが指先に残っている。

 

「いや、だって……あんなとこ見られたとか、恥ずかしすぎて死ねるし……」

キルアは顔を真っ赤にしながら早口で言うと、ようやく人気のない曲がり角で立ち止まった。

額にうっすら汗。耳まで染まっている。

 

三輪もようやく足を止め、息を整えながら口を開いた。

 

「……でも、なんか……あの……嬉しかった、よ?」

 

キルアがちらりと三輪を見る。

その目は素直で、まっすぐで――けれど、どこか気恥ずかしさを隠せないでいた。

 

「そう、か……俺もさ……三輪がそばにいてくれて、本当に助かった。」

 

その言葉に、三輪の目が潤む。

先ほどまで泣いていたのに、まだ涙がにじんでくる。

嬉しさと、安心と、少しの照れくささ。

 

ふたりはそのまま無言で寮の一室――二人の部屋へと戻っていった。

カーテンは閉じられ、柔らかな常夜灯だけが照らす静かな部屋。

 

部屋に入ると、キルアが小さく息をついてベッドに腰を下ろす。

一方で三輪は、洗面台に向かいながらぽつりとつぶやいた。

 

「……ねえ、今日は……同じベッドで寝ても、いい?」

 

キルアが振り返る。

いつもより少し小さな声だったけれど、それでもその言葉は、耳にしっかりと届いた。

 

「え? ……いいの?」

思わず問い返すキルア。

 

「少しでも……そばにいたいの」

そう言いながら、三輪はタオルを手に戻ってきて、キルアの額の汗をそっと拭ってあげる。

 

「そっか……」

キルアは目を伏せ、少し照れながらも、うなずいた。

 

ベッドの端に並んで腰かけるふたり。

時計の秒針が静かに回る音だけが、夜の空気に重なっていく。

 

「……俺さ、あの時、確かに過去の記憶を再生されて……すっげぇ痛くて、死にたくなるくらいだったんだけどさ……」

キルアがゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「でも、不思議だった。三輪の声が、聞こえてた。呼んでくれてる声。……それが、ずっと引き戻してくれてたんだ。」

そう言って、ふと隣を見やる。

 

三輪は、泣きそうな笑顔でキルアを見返していた。

 

「私も、何もできなかったけど……それでも、呼ぶことしかできなかったけど……でも、届いてよかった。」

そう言って、ぎゅっとキルアの手を握る。

 

キルアもその手を握り返す。今度は、自分から。

 

「……ありがとう」

小さな声で、けれど確かに伝えられた想い。

 

そしてふたりは、寄り添うようにベッドの上に身体を預けた。

お互いの温もりを確かめ合うように、肩が触れ、指先が繋がったまま、静かな夜に包まれていく。

 

カーテンの隙間から月光が差し込む中、心地よい沈黙が流れていた。

 

やがて、どちらともなく目を閉じる。

戦いの傷を、心の痛みを、互いの存在で癒し合うように――。

 

そして、ふたりだけの安らぎの夜が、そっと始まった。

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