「ま、待ってよ……そんな急に……」
三輪がキルアに引かれるまま、廊下を小走りに進んでいた。手はまだ繋がれたまま。温もりが指先に残っている。
「いや、だって……あんなとこ見られたとか、恥ずかしすぎて死ねるし……」
キルアは顔を真っ赤にしながら早口で言うと、ようやく人気のない曲がり角で立ち止まった。
額にうっすら汗。耳まで染まっている。
三輪もようやく足を止め、息を整えながら口を開いた。
「……でも、なんか……あの……嬉しかった、よ?」
キルアがちらりと三輪を見る。
その目は素直で、まっすぐで――けれど、どこか気恥ずかしさを隠せないでいた。
「そう、か……俺もさ……三輪がそばにいてくれて、本当に助かった。」
その言葉に、三輪の目が潤む。
先ほどまで泣いていたのに、まだ涙がにじんでくる。
嬉しさと、安心と、少しの照れくささ。
ふたりはそのまま無言で寮の一室――二人の部屋へと戻っていった。
カーテンは閉じられ、柔らかな常夜灯だけが照らす静かな部屋。
部屋に入ると、キルアが小さく息をついてベッドに腰を下ろす。
一方で三輪は、洗面台に向かいながらぽつりとつぶやいた。
「……ねえ、今日は……同じベッドで寝ても、いい?」
キルアが振り返る。
いつもより少し小さな声だったけれど、それでもその言葉は、耳にしっかりと届いた。
「え? ……いいの?」
思わず問い返すキルア。
「少しでも……そばにいたいの」
そう言いながら、三輪はタオルを手に戻ってきて、キルアの額の汗をそっと拭ってあげる。
「そっか……」
キルアは目を伏せ、少し照れながらも、うなずいた。
ベッドの端に並んで腰かけるふたり。
時計の秒針が静かに回る音だけが、夜の空気に重なっていく。
「……俺さ、あの時、確かに過去の記憶を再生されて……すっげぇ痛くて、死にたくなるくらいだったんだけどさ……」
キルアがゆっくりと言葉を紡ぐ。
「でも、不思議だった。三輪の声が、聞こえてた。呼んでくれてる声。……それが、ずっと引き戻してくれてたんだ。」
そう言って、ふと隣を見やる。
三輪は、泣きそうな笑顔でキルアを見返していた。
「私も、何もできなかったけど……それでも、呼ぶことしかできなかったけど……でも、届いてよかった。」
そう言って、ぎゅっとキルアの手を握る。
キルアもその手を握り返す。今度は、自分から。
「……ありがとう」
小さな声で、けれど確かに伝えられた想い。
そしてふたりは、寄り添うようにベッドの上に身体を預けた。
お互いの温もりを確かめ合うように、肩が触れ、指先が繋がったまま、静かな夜に包まれていく。
カーテンの隙間から月光が差し込む中、心地よい沈黙が流れていた。
やがて、どちらともなく目を閉じる。
戦いの傷を、心の痛みを、互いの存在で癒し合うように――。
そして、ふたりだけの安らぎの夜が、そっと始まった。