朝の光が静かに窓辺を照らしていた。
薄く揺れるカーテン越しに、柔らかな陽射しが部屋の空気を包む。
そんな中、キルアはゆっくりと目を覚ました。
「……ん」
まばたきを数度繰り返しながら視線を落とすと、自分のすぐ隣――ベッドの中、穏やかな寝息を立てて眠る三輪の姿があった。
スースーと規則正しく上下する胸。頬には昨晩の涙の名残がわずかに残り、唇はほんの少し開いている。
「……かわいいな……」
思わずこぼれたキルアの声は、小さくて、どこか優しかった。
そのとき――
「……んっ……」
三輪が微かに体を動かし、まぶたを開けた。
「あ……おはよ、キルア」
寝起きの声は少し掠れていて、まだ夢の中にいるような雰囲気を纏っていた。
「おはよ」
キルアは急いで顔をそらしながらも、しっかりと返事を返した。
コンコン
部屋の扉がノックされる音が響く。
続けて、聞き慣れた声が外から届いた。
「キルア、三輪、起きてるか?」
「うん、起きてるよ」
キルアが応えると、
「昨日の任務報告、最優先で頼むって夜蛾学長からの伝言だ。」
伏黒の落ち着いた声が返ってきた。
「わかった。すぐ行く」
キルアが布団を抜け出す。
三輪もすぐに後に続き、ふたりで身支度を整えた。
短い時間で着替えと身なりを整え、ふたりは並んで学長室へと向かった。
並んで歩く背中には、夜の静けさの名残と、新しい朝の始まりの清々しさが同居していた。
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学長室。
中央の机に夜蛾正道が座っており、すでにその正面には夏油傑の姿があった。
資料をまとめていたのか、目線は書類に落とされていたが、ふたりの気配にすぐに顔を上げる。
「おはよう。二人とも。体調は大丈夫かい?」
夏油がやさしく問いかける。
「うん。おかげさまでほぼ完治」
キルアがさらりと答えた。
「私も、問題ないです。」
三輪も、背筋を伸ばして答える。
夜蛾は静かにうなずく。
「うむ。では昨日の任務報告を頼む。」
キルアと三輪は順を追って、現場の状況と戦闘の詳細、蠱紅との遭遇、そして夏油の到着までを簡潔に報告した。
報告を終えた後、夜蛾はしばし黙考し、顎に手を当ててうなるように言った。
「なるほど。……ありがとう」
すると、夏油が静かに視線を三輪に向ける。
「驚いたな。特級を、祓ったのか」
「ふむ。キルアが多少ダメージを与えていたとはいえ……特級を祓うか」
夜蛾もその目を細めながら感心するように呟いた。
「実際、あのときの三輪、マジで速かった。俺の神速並みの速度は出てたよ。」
キルアが少し笑いながら振り返ると、
「キルアを守らなきゃって……それだけで動いてた気がする」
三輪は小さくつぶやきながら視線を落とした。
「じゃあ、特級を祓ったってことは……三輪も特級?」
キルアが目を輝かせて夜蛾に問う。
だが、夜蛾は首を横に振りながら冷静に説明を加えた。
「特級術師というのは、どのような条件下でも安定して特級呪霊を祓える力が必要だ。今回、三輪はキルアの与えたダメージと、強い感情の後押しがあったからこそ倒せた。つまり偶然と気迫も加味された結果だろう。」
三輪は黙って、ただうつむいた。
「だが、特級呪霊を祓ったという事実は変わらない。二級、もしくは準一級への昇級はまず間違いないだろう。」
夜蛾のその言葉に、三輪の顔がパッと明るくなった。
「やったじゃん、三輪!」
キルアがにっこりと笑って声を上げる。
「うん……!」
三輪も目を輝かせながら、自然と笑顔になっていた。
「詳細は追って連絡する。それまでは自由にしていて構わん。」
夜蛾が手元の資料に目を戻しながら言った。
「二人とも、本当にお疲れ様。次の任務が入るまで、ゆっくりお休み。」
夏油も優しく声をかけた。
「失礼します」
ふたりは礼をして、学長室をあとにした。
扉を閉めて廊下に出たとき、ふたりの足取りはどこか軽やかで、心に残るものは確かな充実と、互いへの信頼だった。