翌朝。
高専の食堂には早くから人の気配があった。虎杖と釘崎がトレーを持って席につき、いつものように口喧嘩混じりの朝食タイムを繰り広げている。
「虎杖。前々からずっと思ってたんだけどさ、アンタ、味覚終わってるでしょ。ソーセージにジャムって……」
「えっ、普通じゃない? 甘じょっぱいの最強だよ? ほら、伏黒も言ってやってくれよ!」
伏黒は無言で味噌汁をすすっている。
「……別に、どうでもいい。」
「ほら〜〜! アンタの味覚、孤立無援!」
「やかましいな……」
そんな賑やかな食堂の隅で、キルアは湯気の立つ茶碗を見下ろしていた。
味噌汁、白米、焼き鮭――
「日本の朝って、ほんとにこんな感じなんだな……」
「おはよ、ゾルディック!」
振り返ると、虎杖がにこやかに手を振っていた。
「一緒に食べようぜ!」
その時キルアが小さくため息をついた。
「……やっぱ、“ゾルディック”って呼ばれるの、なんかイヤだ。」
三人の動きがピタリと止まる。
「俺、そう呼ばれてたの、あんまいい思い出ないんだ。昔から“キルア”で通してるから、そっちで呼んでくれない?」
伏黒が少し眉をひそめる。
「……名字呼びがこっちの基本なんだが。」
「うん、わかってる。でも、俺は“外から来た”人間だし、この世界のルールに全部合わせるつもりはないよ。」
その言葉に、虎杖が笑ってうなずいた。
「なるほどな〜。わかった、じゃあキルア!」
「あんた順応するの早すぎでしょ。」
釘崎が苦笑する。
「わかったわ。でも私は“釘崎”のままで頼むわよ?」
「ああ、それでいいよ。」
伏黒は一瞬口をつぐんだあと、小さく呟いた。
「……了解。キルア。」
「うん。サンキュ、伏黒。」
四人の間に、ごく自然な空気が流れる。
その瞬間、小さな距離がふっと縮んだ気がした。
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〜放課後・訓練場〜
午後、再び訓練場へ呼び出されたキルア。
今度は、昨日会っていなかった2年の生徒たち――狗巻棘とパンダが顔を揃えていた。
「こいつが例の転移少年か~! おー、マジで白いな!」
パンダが陽気な声で近寄ってくる。
「お前、パンダ……じゃないよな?」
キルアが警戒半分に問いかける。
「見たまんまパンダだぞ。よろしくな、キルア!」
「……よろしく。」
「……ツナマヨ。」
隣の狗巻が口を開く。
「え?」
「大丈夫。狗巻先輩は“呪言師”ってやつで、喋る内容が呪いになっちゃうから普段はおにぎりの具しか言わないようにしてんの。」
虎杖が補足する。
「ふーん。面白いね。」
キルアは狗巻の顔をじっと見つめ、ふっと表情を緩めた。
「この世界、ほんと変な奴ばっかだね。……それも楽しいけど。」
狗巻が「しゃけ」とだけ呟いて、親指を立てた。
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〜夜・寮の廊下〜
その夜。自室に戻ろうとしたキルアは、ちょうど伏黒とすれ違った。
「……今日は騒がしかったな。」
「まあ、馴染んできたってことでしょ。」
キルアが軽く肩をすくめる。
「それに、やっぱ“名前”って大事だよ。」
伏黒が一瞬立ち止まった。
「名前で呼ばれるってことは、誰かとして認識されるってことだろ?」
「……そうかもな。」
「だから、ありがとな。名前で呼んでくれて。」
そう言ってキルアは部屋に入っていった。
伏黒はしばし無言で立ち尽くし、静かに扉の閉まった部屋を見つめていた。
(キルア――)
(……お前のこと、見届けるつもりでいる)
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こうして、銀髪の異邦者は確実に“この世界”に溶け込んでいく。