夕暮れが差し始めた校舎の片隅。訓練場からの帰り道、自販機の前にキルアは立っていた。
ピカピカと光るボタン。ずらりと並んだカラフルな飲料。
キルアは静かに、ひとつひとつを見上げるように眺めていた。
(……いろいろあるなー。青いの、赤いの、オレンジ……“乳酸菌入り”?)
首をかしげながらも目を輝かせる表情の裏で、ふと現実に立ち返る。
(……でもこの世界の金、持ってねーし。)
肩を落としたそのとき、背後から声がした。
「……なんか、買ってやろうか。」
振り返ると、そこには伏黒が立っていた。
「え? いいの?」
「……ああ。」
伏黒は自販機の硬貨投入口に小銭を入れる。
チャリン、と音がして、全てのランプが一斉に点灯した。
だが、キルアはそのまま動かない。ただ光るボタンを見つめている。
「……いらないのか?」
伏黒の問いかけに、キルアはハッとする。
「え? あ、これ……押していいの?」
「……好きなやつ選べ。」
「……押すだけで出てくんの?」
「そうだ。」
キルアは、信じられないといった様子で指先を赤い缶ジュースのボタンにのせる。
そして――
「えいっ」
カコン、と音がして缶が取り出し口に落ちる。
「……わぁ!! すっげ!! 本当に出てきた!!」
目を見開いてしゃがみ込み、取り出し口から缶を取り上げる。
その動きに、伏黒がやや呆れたように言った。
「……お前の世界にこれはないのか?」
「ないない! 少なくとも俺が住んでたとこにはなかったよ。」
興奮しながら缶をまじまじと見つめたキルアは、上部のプルタブに目をやる。
「……あ、これは一緒なんだな。」
カシャン、と音を立てて缶を開け、ひとくち飲む。
「……っっっ!!」
目を丸くしたまま数秒静止したキルアは、次の瞬間、叫んだ。
「うまっっっ!!! なにこれ!!!」
「……コーラだな。」
隣で伏黒が静かに答える。
そのとき、奥の廊下から足音が近づいてきた。
「ふ〜ん。可愛いとこあんじゃん。」
釘崎だった。すぐ後ろに虎杖もいる。
「かわいくねーよ。」
キルアは反射的に言い返すが、手にはしっかりコーラの缶。
「……そういえば、キルアって何歳なんだ?」
虎杖がふと思いついたように尋ねる。
「ん? 12。」
ごく自然に、ジュースを飲みながらキルアが答える。
「――12ッ!?」
三人の声が重なった。
「12であのスピードと腕力……まじかよ。」
「どんな人生送ったらそうなるのよ……」
「まあ……ちょっと特殊な家で育ったからな。」
キルアは缶を持ったまま、ほんの少し目を伏せた。
そのまま、ゆっくりと話し始める。
「俺の家、暗殺一家だった。“ゾルディック家”って名前、こっちの世界じゃ意味ないだろうけど……向こうじゃ割と有名。」
一瞬、空気が変わる。
「生まれた時から訓練漬け。毒、拷問、殺し――全部“家の教育”だった。」
誰も言葉を挟めない。
「家を出たのは……“自分の意志で生きたい”って思ったから。でも、それができたのも、あの家で鍛えられたからだし……恨んではないよ。」
静かな語り口だった。
重いはずの内容なのに、本人は穏やかに笑っている。
「……あんた、見た目以上に中身も強いのね。」
釘崎がぽつりと呟いた。
「そうか?」
キルアは一瞬考えるそぶりを見せたが、すぐに笑顔に戻った。
「っていうか、これほんとにうめーな!! コーラ最高!!」
そう言ってコーラを大きくひと口。
炭酸の刺激に目を細め、口元をぬぐう。
「……とてもそんな風には見えないな。」
伏黒が少しだけ苦笑する。
「よし、今度おごるのは俺な!」
虎杖が親指を立てる。
「……マジ? じゃあ次は“乳酸菌入り”のやつ飲んでみる!」
「そっちかよ!」
夜風がふっと吹き抜ける中、少年たちの笑い声が静かに響いていた。
そしてキルアは、また一歩――この世界と“馴染んで”いった。
HUNTER × HUNTERの世界に自動販売機があるのかないのか分かりませんがこういうキルアもいいかなと思って書いてみました。(あとコーラも)
原作に自動販売機とコーラがあったらすいません…笑