夜の空気は涼しく、少し湿り気を帯びていた。
自販機前の四人は、缶ジュースを手にそのまま腰を下ろし、話に花を咲かせていた。
「そういえばさ。」
缶を軽く揺らしながら、キルアが言った。
「この学校の人って、みんなあの目隠しの先生みたいな力持ってんの?」
「まぁ、呪術は使う。」
伏黒が静かに答える。
「ただ、五条先生の力は……生まれ持ったものだな。別格だ。」
「ふーん……伏黒もなんか使えんの?」
「……使える。」
一拍の沈黙の後、伏黒が答える。
「どんなの?」
キルアの目が光る。
伏黒は缶コーヒーを一口飲み、視線を合わせた。
「話してもいいが……まずはお前からだ。」
その一言に、虎杖と釘崎が同時に反応した。
「おっ、珍しい。伏黒からそんなこと言うなんて。」
「興味あるんだな、伏黒も。」
キルアは一瞬考えた後、うなずいた。
「まぁ、呪術ってやつとは違うけど――俺は雷を使う。」
「……雷?」
伏黒が少しだけ目を細めた。
「うそ、アンタ自分の能力そんなあっさり教えるの?」
釘崎が意外そうに眉を上げる。
「うん、普通は言わない。でも……なんとなく、あんたたちならいいかなって思った。」
キルアはそう言って、再びコーラを口に含む。
「……雷って、具体的にはどんな感じなんだ?」
虎杖が身を乗り出して聞いた。
「そのまんまだよ。足に溜めて加速したり、手から放電したり、対象に雷落としたり。いろいろできる。ちなみに、五条先生の前では使ってないよ。」
「……あれより速くなるってのかよ……」
虎杖が呆れたように天を仰いだ。
「で、伏黒は何使うの?」
「……俺は影だ。」
その答えに、キルアが即座に反応する。
「影! かっけぇ!」
「“十種影法術”と言って、俺の影を媒介にして十種類の式神を召喚する。」
「なるほどな……具現化系って感じか。」
「……具現化?」
伏黒が首をかしげる。
「“念能力”ってやつの分類。こっちの世界じゃ通じないかもだけど、俺らの世界では能力の性質をタイプ分けしてるんだ。」
キルアは簡単に“強化系・変化系・操作系・放出系・具現化系・特質系”の六系統を説明した。
「いろいろあるんだな……」
虎杖が純粋に感心するようにうなずく。
「そういう虎杖は何使うの?」
「さっきの分け方で言うなら……俺は“強化系”かな。術式とかは特にないし。パワーで殴る!」
「……ゴンみたいだな。」
キルアがふっと笑いながら言った。
「ゴン?」
「あー、友達。似てんだ、ちょっと。」
「へー!」
「で、釘崎は?」
キルアに問われ、釘崎は少し考え込む。
「……ま、アンタも教えてくれたし。言ってあげるわ。私は“釘”。」
「おお、名前そのまんまじゃん。」
「別に名前に合わせたわけじゃないけど。……釘と藁人形を使って呪いを打ち込む術式よ。」
「念能力の分け方で言うと……放出系って感じか。」
「……そうかもね。」
「だな。」
虎杖が缶を持ったままうなずいた。
「五条先生は完全に“特質系”だろ、あれは。」
「……それな。」
と、そこへ――
「は〜い、みんな楽しそうにしてるとこ悪いけど〜。」
軽快な声と共に、五条が現れた。
その隣には、スーツ姿の大人の男。七海建人。
「あ。」
釘崎がすぐに立ち上がる。
「ナナミン!」
虎杖が手を振ると、七海は無言で軽くうなずいた。
「珍しいわね、七海さんがここまで来るなんて。」
「いや、五条さんに強引に引っ張られただけです。」
七海の冷ややかな声に、五条が肩をすくめて笑った。
「だって〜、せっかくの“異世界からのゲスト”だよ? ちょっとくらい顔合わせしておくべきでしょ、ナナミン。」
「その“ナナミン”と呼ぶのはやめてください。」
「ナナミンの方がみんな親しみやすいでしょ〜。」
「…………。」
釘崎と虎杖は苦笑い、伏黒はいつも通り黙して見守る。
キルアはというと――
「……あの人も強いのか?」
伏黒が短く答えた。
「ああ。七海さんは一級術師だ。」
「一級……そっちの世界にも“等級”みたいなのあるんだな。」
「ある。強さと任務の危険度に応じてな。」
キルアは七海をじっと見つめた。
(……この人、スキがねぇ。あの目隠しの先生とは違う意味で)
五条がにこやかに言う。
「というわけで、明日からキルアくんにはちょっとした“実地研修”してもらおうかな〜って思ってるから。」
「実地?」
「ナナミンと一緒に、ちょっとした呪霊退治の現場見学。まぁ、様子見ってことで。」
「……ふーん。いいよ。」
キルアはコーラを飲み干し、空き缶を手の中で軽く回した。
「どうせこの世界のこと、もっと知りたいと思ってたとこだし。」
「ふふ、頼もしいね。じゃ、明日の準備しといてね〜。」
そう言って、五条はくるりと背を向けた。
七海も一言だけ残す。
「明日、朝八時。正門前に集合してください。」
「了解。」
静かに答えたキルアの目は、わずかに鋭さを増していた。
新たな出会い、新たな戦場――
世界は、また一歩、キルアを呪術の深淵へと誘っていた。