雷光、呪の渦中へ   作:ぴーまんねこ

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第九章 観察者としての任務

朝の高専前。空気は澄んでおり、夏の気配をうっすらと含んでいる。

 

正門の前に、銀髪の少年が静かに姿を現した。

 

両手をポケットに入れ、飄々とした足取りで門へと向かう。

 

その場にはすでにスーツ姿の男が一人、静かに待機していた。

 

「……あれ、早いね。」

 

七海建人は腕時計をちらっと見てから答える。

 

「あなたも、遅れずに来ましたね。」

 

「うん。八時って言われたから、それに間に合っただけ。」

 

まるで当然のことのように言うキルアを見て、七海は内心で感心していた。

 

(この年齢で、指示をきちんと守る……よくできた子だ。)

 

「では行きましょう。」

 

七海が軽く顎を動かした先、校舎の階段を下りた先に一台の黒いセダンが停まっていた。

 

運転席には眼鏡の男、伊地知潔高。助手席に七海が乗り、キルアは後部座席に滑り込む。

 

走り出してしばらくして、伊地知が口を開いた。

 

「今回の任務は、神奈川県某所にある廃村にて発生した呪霊の討伐です。」

 

「最初、対象は三級呪霊でしたが、突如として呪力量が上昇。現在は“一級相当”まで上がっています。」

 

「このまま放置すれば“特級”へ進化する可能性があるため、七海さんに対応を依頼しました。」

 

キルアは窓の外を見ながらふと訊ねた。

 

「その“等級”ってやつ……具体的にはどれくらいの強さなの?」

 

七海が言葉を返す。

 

「三級は、一般人でも拳銃が一丁ある祓えるレベル。

 

二級、あるいは準二級。

散弾銃でも危うい時がある。無策で挑めば、死にます。

 

一級、あるいは準一級。

戦車を持ち出しても不安が拭えない。

術式の理解、実力、判断力……どれか一つ欠ければ、簡単に命を落とす相手です。

 

そして──特級。

特級は“国家災害”とほぼ同義です。基本的に単独での対応は困難とされています。

クラスター弾で街を消し飛ばして、ようやく釣り合う程度です。」

 

「……なるほどね。」

 

キルアはそのまま軽く頷いた。

 

「こっちの世界、思ってたよりきっちり“ランク付け”されてるんだな。」

 

やがて車は山道に入り、木々に囲まれた道を抜けた先に、目的の廃村が姿を現した。

 

瓦の落ちた屋根、草木に覆われた家屋、無人の公民館、風の音だけが流れる空間。

 

「……空気が変だな。」

 

キルアは車を降りた瞬間、肌に纏わりつくような冷気を感じ取り、眉をひそめた。

 

七海もまた、背負っていた刀身を呪符のような布でグルグル巻きにされた大振りの鉈を手に取りながら言う。

 

「霊的濃度が高まっています。予想より早く“膨張”が始まっているかもしれません。」

 

「今回はあくまで“見学”の立場です。」

 

七海は後ろを振り返り、キルアに目を合わせた。

 

「……うーん。わかった。」

 

キルアは腕を組んで頷いたものの、その表情には明らかに不満の色が浮かんでいた。

 

「……不服ですか?」

 

七海が冷静に問う。

 

「まぁね。俺がこの世界でどれだけ通用するのか、ちょっと試してみたかったからさ。」

 

一瞬の沈黙ののち、七海は小さく頷いた。

 

「わかりました。現場の判断により、ある程度の戦闘参加を許可しましょう。」

 

「ただし、対象は一級相当です。危険を感じたらすぐに下がってください。」

 

「了解。」

 

キルアは表情を緩め、ふたたび手をポケットに入れた。

 

「視認できる距離に別の村があるため、帳を下ろします。お二人とも、お気をつけて。」

 

伊地知が印を結びながら言う。

 

「闇より出でて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え。」

 

伊地知が言うと、まるで空間ごと色彩を落としたように、景色が一変する。

 

光の強さが抑えられ、昼であるはずの空が青みを帯びた夜のように沈む。

 

「おお~……夜になってく!」

 

キルアが目を輝かせながら辺りを見回した。

 

七海は少し呆れたように言った。

 

「……虎杖君と同じ反応ですね。」

 

「この“帳”っての、便利だな。外から見えない、しかも中の呪力も外に漏れない……それでいて出られない。」

 

「ええ。基本的に任務を完了するまで、帳は解除されません。」

 

「つまり、終わらせなきゃ出られないってわけだ。」

 

「その通りです。」

 

「……じゃあ、サクッと終わらせて出ようか。」

 

「気を抜かないように。」

 

七海がそう言いながら前に出る。

 

伊地知はその場に留まり、バックアップの準備に入る。

 

廃村の奥、沈黙の向こうで――

“それ”は確かに待っていた。

 

異邦の少年と、一級術師を迎えるために。

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