異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい   作:パンデュ郞

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第10話

 馬は明らかに不機嫌だった。不機嫌だったが、誠意は感じてくれたのかきちんと乗せてはくれた。早く下ろしたかったのか、気持ち行きよりも速く走ってた気がする。すまねぇ……。

 村の人たちは大変感謝してくれて、是非お礼をと引き留められたけれど、村でゆっくりしてるとアルテシアちゃんのライブに遅れてしまうかもしれないから断った。

 

 なんか断った時に感動されていたけれど、何だったんだろうな。よくわからん。

 バジリスクの脅威から解放された喜びの感動とは違う感じしたんだよな。まあいっか。

 そんでもって、俺は予定通りライブの日の朝に王都まで戻ってくることができた。

 

「なんかあったのか?」

 

 気のせいか、王都の人通りが少し減ったか? 違うな、空気が少し不穏なんだ。事件が起こった後みたいな空気感を感じる。

 お前もそう思うか? あっ、違う? さっさと帰りたいのか? 引っ張らないでくれよ。

 

 そんな感じで、馬を返した後、冒険者ギルドへ報告しに行った。

 受付嬢は、ちょうどこの依頼を貰った人だった。

 

「どうも」

「あっ! タイランさん。いかがいたしましたか? 依頼遂行に当たって、情報をお求めですか?」

「いえ、討伐してきたので、その報告を」

「えっ」

「え?」

 

 固まってしまった。

 うーん、別になんもおかしくはないよな。二日かけて行って、一日で倒して、二日かけて戻ってきた。うん、時間の計算はぴったりだ。何も問題はない。

 

「え、と。何か証明になるものは持ってますか?」

「ああ、はい。これバジリスクの鱗です」

 

 一枚引っぺがしておいたんだよな。証拠が必要になるだろうと思って。

 牙の一本でも引っこ抜いた方がよかったんだろうが、砕いちまったからなぁ。重いし。嵩張るし。

 これ一枚で信用してくれるといいんだが。

 

 拝見してもと言われたので、すんなり渡す。

 随分必死に見るんだな。万が一これで適当なところで買ってきた奴ですとかだと困るしそりゃそうか。

 これまでは大体依頼先の人間連れてきて証人になってもらってたからなぁ。時間的余裕がこれほどない依頼は殆どなかったし。

 

「間違いなく、バジリスクの鱗ですね。あの、もしかして他に何かあったり……」

「他に? ああ、じゃあこれも渡しておきます。バジリスクの頭に埋まってたんで」

 

 俺が持っててもしょうがないし、あの黒い杭みたいなのも渡しておくか。

 アルテシアちゃんへのお土産にしようかと思ってたけど、よくよく考えたら黒い靄とか出てたんだよな。危なそうだから冒険者ギルドで処理してもらおう。

 

「後は、バジリスクの死体は近隣の村に運んどいたんで、多分そっちで保管してくれてると思います」

「えっ、と。はい、わかりました。ちょっとお待ちください」

 

 随分と驚いた様子だったな。あの黒い杭を持って、一回奥へ引っ込んでいってしまった。

 新人さんだから経験が少ないのか? まあ、そのうち慣れるさ。

 しばらく待たされて、ようやく戻ってきたと思ったら、熟練っぽい受付嬢さんも来た。

 

「タイラン様。少々よろしいですか?」

「はい、なんかありました?」

「少し討伐に関してのお話を伺いたくて……」

 

 そう言って、奥の部屋を指さされた。

 ああ、変異種だったもんな。その話を聞きたいのか。

 

 奥の部屋に通されると、随分と偉そうな女性が座っていた。

 誰だっけ? 見たことあるような気が……。

 

「お噂はかねがね伺っております。私、この王都のギルド長を務めておりますディーナと申します」

「ギルド長でしたか。私はタイランと言います」

「では、早速ですが腰をおかけになってください」

 

 促されたので座る。

 大人しく従ったのを見て、ギルド長が満足げに頷いた。

 それから、質問が始まる。

 

「まず、バジリスクについては死体の解剖班を向かわせました」

「ああ、ありがとうございます。いくら魔物の死体が腐りにくいとはいっても、長いこと放置はできませんからね」

「ええ、それと、申し訳ありませんが、死体を確認できるまで半額しかお渡しできません。……そちらはよろしいでしょうか?」

 

 ん、そうなのか。まあそうか。一応証拠の鱗があるとはいえ、証人がいるわけじゃないもんな。

 半分か。まあ半分あれば今日のライブ分は賄えるだろ。

 最悪貯金を切り崩せばいいだけだしな。アルテシアちゃんの新規イベントとか新規グッズとか出た時にコンプする用の貯金を。

 

「来週までにもう半分もらえるなら、別に構いませんよ」

「ありがとうございます。なるべく早く確認してお支払いできるようにしますね。追加の支払い準備ができましたら、黄金の稲穂亭に知らせを送るでよろしいでしょうか?」

「それで結構です」

 

 まず最初に金の話をしてくれるのは信用できるな。できれば依頼書に書いておいてほしかったけど、普通そうなってるのかもしれんし。俺はこのパターン知らないからな。

 アルテシアちゃんのライブに関係しないならぶっちゃけどうでもいい。

 

「それでは、バジリスク討伐について教えてほしいんですが――」

 

 そこからは、具体的な状況とかを聞かれた。

 俺は沼地に入ってすぐに違和感を覚えたこと。縄張りを思われるところに黒いヘドロが点在していて、おそらくこれは変異種バジリスクの毒液だろうという事。

 バジリスクの体には既に傷がたくさんあったこと、出会った時から渡した黒い杭が頭についていたことなどを話した。

 

 どうやって倒したかも聞かれたんだが、脳天にげんこつぶち込んで気絶させたって言ったら目を丸くされた。何なら聞き間違いだと思われてもう一回聞かれた。

 素手で戦う冒険者は少ないしな。仕方がないか。

 

 なんでそうしたのかって? それは普通にそうするべきだと思ったからですが。あまり痛めつけ過ぎずに終わらせた方が良いって思ったので。

 ん? なんか隣にいた受付嬢に伝えてどこかへ行かせたな。何だろう。

 

「……お話ありがとうございました。タイラン殿」

「参考になったのならば幸いです」

 

 毒が強いだけで普通のバジリスクと同じってことはこれで伝わっただろうな。

 変異種って言っても基礎行動は変わらないことが多いから、素手だと大して対策変わらないんだよな。

 

 そんな感じで解放されたので、俺は宿へ戻る。

 なんか冒険者ギルド内が騒がしかったけれど、アルテシアちゃんのライブの方が大事だ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 彼が去った後、応接室で私ことディーネは座っていた椅子に思い切り寄りかかる。

 本当に驚かされた。それに、これからの事を考えると憂鬱になる。大変忙しくなるぞこれは。

 

「なんてこった。対応にいってくれたのが彼でよかったよ」

「やっぱり、これってそうなんですか……?」

「ああ、文献で見覚えがある。魔物を使役するための道具だ」

 

 あの黒い杭は、魔物の行動をある程度人間が制御するために生み出された装置だ。

 魔物を操る研究は禁忌だ。テイマーと違い心を通わせるのではなく、無理やり意思を捻じ曲げてしまうのだから。

 

 その研究が一度だけ発覚し、事件が起こったことがある。隣国で起こった、人工的なスタンピードだ。

 その時にこの黒い杭が魔物に打ち込まれていたと文献にはあった。

 

「犯人は未だ捕まっていない。つまり、隣国から逃れて我らが王国にいると考えてよいだろう」

「それじゃあ、さっき先輩が走って行ったのは」

「王城へこのことを伝えるためだね。まったく、発覚したのが早くて良かったよ」

 

 時期を考えれば、おそらく対応は早い。何せ、依頼を分類する前に発掘されたのだから。

 もしや、彼はそのことを? この依頼の事を知っていて、それを出すように誘導したとか?

 ……まさかな。もしそうだとすれば、彼は我々冒険者ギルドを超える情報網を持っていることとなる。ただの妄想だろう。

 

 ただ、常人ではないのは確かだ。バジリスクを一発で昏倒させるだなんて、私は聞いたことがない。

 

「死体を村へ運んだのも優れた判断だったな」

「どうしてですか?」

「……死体も動かせるんだよ、あの研究によると」

 

 新人君の顔が青く染まっていく。

 ああ、そうだ。バジリスクの死体を放置して、犯人に回収されてみろ。同じことが起きるだけだ。

 それに対して、村においておけばある程度は安全だ。襲うにしても他の魔物が必要になる。

 何より、潜伏したいはずの犯人がそんな目立つことをするはずがない。諦める他ないわけだ。

 

 本人はとぼけていたが、相当な切れ者のようだな。

 流石は王女様とつながりがある冒険者、といったところか。

 先週、王女様と会っていることは知っている。それ以外は黄金の稲穂亭を拠点にしていて、高難易度の依頼を好んで行う冒険者というぐらいだった。何せ、彼はいつだって一人で仕事をこなしてきたのだから。

 

 昔からいるからこそ信頼はできるが、そうでなければ作意を疑っていただろうな。

 

「この証拠が残ってくれたのが何よりだ。――まさか」

 

 それすら知ってて、傷つけないように倒していたのか?

 それこそまさかだ。あのスタンピード事件は極秘扱いになっている。詳しい情報を彼が知っているわけがない。

 

 ――あまり痛めつけ過ぎずに終わらせた方がいいって思ったので。

 

 あれは、これを傷つけないためだったとでも?

 馬鹿な妄想だと片づけるには、少々条件が揃いすぎていた。

 なぜ彼はこれを持っていたのか。なぜ彼はこれを冒険者ギルドに提示したのか。

 最初は隠していたそうだ。それはつまり、王女様へ直接見せるつもりだったんじゃないか?

 

「……はっ」

 

 これは、今後も目が離せなさそうだ。

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