異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい   作:パンデュ郞

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第12話

「あああああああ! やってしまいました、やってしまいましたぁ~!」

 

 枕に顔を埋めて、はしたないと自覚していても悶えてしまうのを堪えられません。

 アルテシアとして歌を歌っている時は良かったのですが、いざアルテミシアに戻ってみると、己のしたことの恥ずかしさに耐え切れませんでした。

 王女としてあるまじき姿。ですが、それだけのことをしてしまったのです私は。

 

「姫様、大丈夫ですか?」

「大丈夫に見えますか貴女には!」

「見えませんね」

 

 お付きのケイトはいたたまれない面持ちでこちらを見てきますし……うぅ、散々です。

 全ては私の軽率な行動が原因なのですけれども。けれども!

 

「まあまあ。姫様はただ心配でいらしただけなんですよね」

「……はい」

「バジリスクとの戦いで怪我を負ってないかずっと心配してらしたので、つい確かめにいってしまったんですよね」

「……はい」

 

 うう、今度こそはしたない女だと思われたに違いありません。

 その時は意識してなかったですけれど、触ってみると男の方らしいたくましい体だとすぐに……ああああああああああっ!

 

「悶えてますねぇ」

「悶えますよ! 悶えますとも!」

 

 どのような顔をして明日お会いすればよろしいのでしょう!

 きっと軽蔑の眼差しを向けられるに違いません。終わりです、終わりました。私の先は真っ暗です。

 

 幻滅されたでしょうね。これまで華々しく歌い踊っていた女が、気軽に男の体に触れるような恥も知らない女だと思われたに違いありません。

 娼婦のようなことを裏でしている安い女だと思われたに違いありません!

 もう幻聴が聞こえますもの!

 

『幻滅しました。アルテシアちゃんってそんな人だったんですね。ファン止めます……別の素敵な子を見つけますね』

 

 ああああああああああっ!

 想像するだけでとてもではありませんが正気ではいられません!

 

「……まあまあ、落ち着きましょうよ姫様」

「これが落ち着いていられますか!」

 

 何を呑気にお茶を淹れてるんですか!

 え? 飲まないのかって? ……飲みますけれど。

 ベッドから起き上がり、テーブルまで移動します。そして、慣れ親しんだお茶の香りで口の中を満たす。鼻孔の奥をくすぐるこの香りで、少しだけ落ち着きを取り戻しました。

 

「落ち着きました?」

「……ええ、多少は」

「それは良かったです」

 

 そう言いながら、お茶を注ぎ直すケイト。

 主の一大事だというのに、どうしてこの子はここまで落ち着いていられるというのでしょう。

 一緒に知恵を振り絞って何とか打開策を見つけるべきではないでしょうか? 忠義を疑うわけではありませんが、その、あの、薄情者!

 

「よくよく考えてみてくださいよ。その時の守護者様の反応を」

「タイラン様の反応、ですか?」

「ええ、嫌悪してるように見えましたか?」

 

 ええっと。確か……少し困ってらっしゃるようでした。恥ずかしがられてる? みたいな。

 嫌悪はされてなかったと思います。どちらかと言えば笑みを必死に堪えてらっしゃったような気がします。

 

「ほら、やっぱり。突然だったので戸惑われただけですよ」

「……本当にそうでしょうか」

「じゃあ明日聞いてみればいいじゃないですか」

「他人事だと思って無責任なこと言わないでください!」

 

 杞憂ならばよいですが、もしも想像していたことを面と向かって言われてみなさい! 私は向こうしばらく使い物にならなくなる自信ありますよ!

 

「姫様、一つお聞きしていいですか?」

「……なんでしょう」

 

 途端にケイトは表情を真剣なものにして、質問があると言うではありませんか。

 思わず少しだけ怯んでしまいます。

 

「姫様は、守護者様の事を好いておられるのですか?」

「んっ! ぐっ!」

「ああ、そうなんですね」

「な、ななななな何を言うのですかケイト」

「だってぇ、姫様がそんなに気になさる殿方って守護者様ぐらいじゃないですか。特別に思われてるのかなーって」

 

 不意打ちで聞かれた言葉に、思わず狼狽えてしまいます。それこそ、はしたなくむせてしまうほどに。

 でも、常々考えていたことだからこそ、返すべき答えは落ち着いて出すことができました。

 

「……ケイト、私はこの国の王女ですよ」

「そうですね」

「タイラン様は確かに素晴らしいお方。ですが、市井の方です。身分が釣り合いません」

 

 そう、そうなのです。

 どんなことがあろうとも、身分というのは無視できないもの。

 それに、大事なことがあります。

 

「自由恋愛なんて、許される身ではありませんから」

「アルテミシア様……」

 

 この国の次期王はお兄様。私は血統を絶やさないためのスペア。

 そう決まっているのです。ならば、私はなるべく尊い血を残すべく動かなければなりません。

 あまり優れた子を成しても、正当な玉座を脅かすだけ。ならば、凡庸な子を望みます。英雄たるタイラン様と番うことなど、あるはずありません。

 

「私に望まれているのは、平穏であること。趣味である魔法の研究ぐらいは国益になるとみなされて許されるかもしれませんが、あまりお兄様を脅かすような素振りはしてはなりません」

 

 市井と触れあえるアイドル活動も、刺客を私に向けさせる目的だから許されること。

 私を王位に望むような声があってはいけないので、万が一にも正体が広まるようなことはあってはならない。実利には疎い、お飾りの王女でなければならないのです。

 タイラン様は私の身分にお気づきですが、彼は聡い方ですから。事情を汲んでくださり、情報を他に話してらしてる様子はございません。

 

「……ごめんなさい。少しだけ一人にしてください。お茶、美味しかったですよ」

「姫様……」

 

 ああ、いけませんね。私は王女なのに、こんなに心を揺れ動かして。

 落ち着きたい。あの方の側では、私は心安らかでいられるのに。

 ベッドの上に横たわり、そっと目を閉じます。

 部屋の扉が開き、閉じた音がしました。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 私はケイト。今、憤っています。

 私が仕えるべき主人は物分かりが良すぎるのです。そりゃあ、色々と大変な立場ですけれども。

 所詮使用人風情がと思われるかもしれませんが、こう見えて姫様とは生まれてからの付き合い。姉妹みたいなものだと私は勝手に思ってるぐらいですから!

 

 そんな物分かりの良すぎる妹の面倒を見てあげたいんですが、さてはてどうしたものか。

 何をするのが正解なのか、さっぱりわからないではありませんか。

 下手に事態を動かして姫様の兄上であるイリオス殿下に睨まれるのも良くないですからねぇ。

 

 正直、私としてはイリオス殿下より姫様の方に王となっていただきたいんですけれど。姫様は頑なに首を縦に振らないでしょう。立ってくだされば、きっと貴族の方々も賛同してくださる方はいらっしゃると思うんですけれど。

 何分、イリオス殿下は気性が荒いことで有名ですから。

 

 もしもイリオス殿下が失脚するようなことがあれば、その時は立ってくださるんでしょうが。そうすれば、我慢する必要もないので色々と策を練れるんですけどねぇ。

 例えば、タイラン様を王宮に召し上げて、その実力で実績積んでもらって貴族号を手に入れてもらうとか。どこかの家と交渉して、あの方を養子として迎え入れてもらって姫様とくっつけるようにするだとか。

 

 まあ、考えるだけですよ。考えるだけ。今のところはですけれども。

 

 くるりと振り返って、主が眠っている部屋の扉を見ます。

 本当に、ままならないことの辛いことですよ。

 

 ……可愛い可愛い私の主様。

 何があろうと、この首を捧げようと、私の主様を泣かす奴は、許さない。

 それが、あの人のお付きとしてできることだから。

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