異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい 作:パンデュ郞
なぜか予定の時刻よりも早く王城に来るように伝えられたと思ったら、メイドさんに部屋に連れ込まれた。
誰だっけ? って一瞬思ったけれど、前に王女様に会いに来た時に案内してくれた子だ。
俺は椅子に座らされて、彼女は目の前に立っている。何だろうこの状況。
えと、なんか怒ってる?
「タイラン様、聞いてますか?」
「はい!? ごめんなさい!」
呆れたように溜息を吐かれる。
なんでこうなったのか考えるのにいっぱいいっぱいで、話を聞いている余裕がなかった。
「ですから、タイラン様は姫様の事をどう思われているのかって聞いているのです」
「どう思っているかと言われましても、いやー、それはー」
たった一回会っただけですよ?
それで何か言えるわけないでしょ。というか下手な事言ったら不敬罪まっしぐら。
沈黙は金、と言いたいところだが、それは許してくれそうな雰囲気ではない。
どうしよう。すっごい困ってます。助けて王女殿下。
「……はぁ。わかりました、では質問を変えます」
「はい」
「タイラン様は、姫様のために働けと言われたら、働く気はありますか?」
ああ、この質問なら即座に答えられる。
「それなら、喜んで働きますよ」
アルテシアちゃんがそうであるように、王女様も努力している方だというのはよくわかる。努力している人の力になるのは当然だ。報われて欲しいからな。
だから、この質問は考える必要もない。イエス一択だ。
少し不機嫌そうだったメイドさんの表情が少し和らいだ。良かった良かった。
「タイラン様はご自身の考えをもっと周りに話されるべきです」
「そうは言われましても、俺は大して何も考えてないですよ?」
「謙遜はよろしいですから」
謙遜じゃないんだけどなぁ。
王城だと下手な事言えないから余計に口数少なくなっているのは自覚しているけれども。
ふうむ、もう少し王女様と打ち解けて欲しいってことなのか?
ひょっとすると、王女様はなんか病気でもお持ちなのか? それで話し相手として外を知っている俺を選んだとか?
ははあん、何となくわかってきたぞ。要は外のあれこれを話して上げればいいんだな。
「わかりました。今後はもう少しいろんなことを話すようにしますよ」
「ええ、お願いします」
さて、これで用事は終わりかな? 予定の時刻までにはまだ時間がある――。
「邪魔するぞ」
唐突に部屋の扉が開かれた。
そこに立っていたのは、まあ美形な男。若干アルテシアちゃんに似てるか? 気のせいか? どっちにしても知らん男だ。
そいつが騎士を二人引きつれて入ってきた。
「イリオス殿下……っ!」
「ここに件の男がいると聞いてな。なるほど、そいつがそうか。思ったよりも平凡な見た目をしているな」
イリオス殿下。ふむ、つまり王子様か。王女様の兄っぽいな。顔を隠してないけど、いいのかな。
視線が合う。やっべ、じろじろ見ていたことに気が付かれた。視線逸らすのも、印象悪いよな。しょうがないのでじっと見続ける。
ただ、向こうは余裕の微笑みを浮かべた。凄いイケメン仕草だな。
「タイランだったか? 妹に随分と気に入られていると聞く」
「はぁ。光栄です?」
「噂とは随分と違うな。思いのほか覇気がない」
うーん。王女様と違って凄い偉そう。実際偉いんだけど。
てか噂って何。噂になるようなことしたことないけど。
もしかして王子様もアルテシアちゃんのファンだったりする? それなら俺の話聞いたことあるのは分かる。応援してる時ほど覇気がないってのは当然の事だからな。
「……それで、殿下がどうしてここに」
「お前は……ああ、妹の付き人か」
先ほどまでは友好的な笑みを浮かべていた。が、メイドさんを見る視線はまるで違う。
ゴミを見る眼、いいや、どうでもいいものを見る眼だ。興味がない、何なら視線に入ってることすら気が付かなかったと言わんばかりだ。
……なるほど、そういう人間か。
「下がってよいぞ。お前に用はない」
「この方はアルテミシア様のお客人で――っ!」
「俺は下がれと言ったぞ。おい」
王子様の合図で、後ろにいた騎士の一人が動く。
そして、無造作にメイドさんの腕を掴み、外へ引きずり出そうとするじゃないか。
「やめっ! いっ……!」
よほど掴まれた力が強いのか、顔を歪めるメイドさん。
――それ以上は見逃せないな。
「ちょっと待ってくださいな」
俺は立ち上がり、騎士の腕を掴む。
「女性相手にそんな乱暴するものじゃあないでしょうよ」
「貴様。殿下の指示であるぞ」
「それは大事だ。でもね、やり方ってものがありますよね」
腕に力を籠める。今度は騎士が苦悶の表情を浮かべ、メイドさんから手を離した。
そのまま力を籠め続ける。騎士が膝を付いたのを見て、ようやく手を離す。
「貴様ぁ!」
もう片方の騎士が激昂し、襲い掛かってくる。
なんと、腰に下げていた剣を引き抜いている。
「室内で刃物を抜くのは危ないですよ」
降りかかる刃を指で挟むように受け止める。
なんだ、騎士といっても大して訓練してない連中か。これなら、アルテシアちゃんのストーカー連中の方がまだ手ごたえがあるぞ。
ぴたりと止まった刃を何とか動かそうと、剣を前後に動かそうとするが、まるで鍛え方が足りていない。その程度の筋力じゃダメダメだ。
でも、ここからどうするかな。いきなり手を離すのも危ないんだよな。
「……素晴らしい!」
状況を動かしてくれたのは王子様だった。
パチパチと拍手をし、口には笑みを浮かべている。
「こいつら程度では相手にならんか。なるほど、これは妹が欲しがるわけだ」
言いながら、こちらへ無造作に近づいてきた。
ちょうど場が硬直したので、剣を放して王子様へと向き合うように体の向きを直す。
「どうだ、お前、俺の部下にならんか?」
……これは噂に聞くヘッドハンティングと言う奴か?
「報酬は国一番を約束しよう。妹は所詮飾りの王族だ、次期王である俺とは権力が違う。どうだ、今のうちに勝ち馬に乗る気はないか?」
「で、殿下……」
「お前たちは黙っていろ。情けない奴らめ。容易くやられおって」
少し考える。どうしたものか。
「……大層気に入っていただけたようですがね。俺程度、そこらにいますよ」
「謙遜するな。実際、今目の前で二人の騎士を制圧して見せたではないか」
「鍛え方が足りてません。言っちゃ悪いですが、普段相手してる連中の方がよほど手ごたえがありますよ」
この二人には悪いが、これは事実として受け止めてもらおう。
アイドルのストーカーに実力で負ける騎士なんて何をしてるんだまったく。真面目に訓練してくれ。腕っぷしは強い方だと思っているが、所詮我流。まともに訓練してる連中に勝てるとは思ってない。
つまり、俺に負けるような騎士は鍛え方が足りてない。
王子様は冗談だと思ったのか大声を上げて笑う。
本気で言ってるんだけどなぁ。話を聞かない人だ。偉い人ってそういうところあるよな。
「なるほど、これは傑物だ。で、どうだ? 俺のものにならんか?」
……これはなぁ。どうしたものか。
普通なら喜んで受けるんだろうが、女性にあんな乱暴にする連中が部下なんだろ?
そうなれば、普段どういう教育しているのかも透けて見える。
アルテシアちゃんのファンとして、王子様の部下ってのは肩書として素晴らしいかもしれないが、女性に躊躇わず暴行を行う連中ってのは大きなマイナス要素だ。
そんなもの、権力がある盗賊団と何が違う。
でも、断るのも角が立つ。不敬だと言われるかもしれない。それに、勘違いされてるみたいだしな。雇われてから失望されて処刑とかになったら堪ったものじゃない。
あっちを立てればこっちが立たず。俺はあんまり頭が良くないんだから、こんな難しい状況を投げつけないでくれ。頼むから。
「……失礼ながら、タイラン様は既にアルテミシア様から依頼を受け、そちらの遂行中なのです」
助け船を出してくれたのはメイドさんだった。
「あー、実はそうなんですよ」
すかさず話にのっかかる。そうか、その流れならいけるな。
「ほう、それと何の関係がある」
「冒険者ってのは、基本的に依頼は同時に一件のみしか受注できない決まりになってるんですね。それで、今は王女殿下の依頼を受けている最中なので、申し訳ありませんがそれが終わるまでは返事もできないんです」
昔、同時に依頼を受けまくって、大量に失敗した輩がいたせいでできたらしい仕組みだ。同じ依頼を別の冒険者に渡すわけにもいかないし、大変なことが起こったらしい。
だから俺は一発ででかく稼げる依頼を探してるわけだな。
「冒険者をやめればいいだろう」
「依頼遂行中に依頼放置ってなると、冒険者ギルドが怒るんですよ。仲介役ですから」
「冒険者ギルドか……流石に敵に回すのは早い、か」
おっ、納得してもらえたかな?
「仕方があるまい。今日のところは引こうじゃないか。おい、お前ら、行くぞ」
「お、お待ちを殿下!」
踵を返し、彼らは部屋から出ていく。
無事に終わったと一息つこうとしたところ、閉まろうとしている扉の隙間から覗く王子様の目と再度視線があった。
「妹よりも俺に属したほうが良かった。次会うときはそう聞かせてもらえることを願うぞ」
そう言い残し、扉が閉じられる。
……あー、怖かった! 無事に終わってよかったー!
過大評価は止めてくれ。心臓が縮む。マジで怖かった。
「立てますか?」
「はい、ありがとうございます……」
地面に座ったままのメイドさんを助け起こす。
それじゃあ、王女様と面会しますかね……。既に大分疲れましたが。
◇ ◇ ◇
使えない護衛二人を引き連れて、俺は廊下を進む。
いやはや、足を運んだ甲斐があった。良いものを見られた。
「お前たち、見たか?」
「はっ、何をでしょう」
「あの男、俺と視線を合わせても一歩も引く気がなかったぞ」
王族と視線を合わせておきながら、むしろ何かすればただではおかないという威圧さえしてくるとは。それだけ、己に自信があるという事なのだろう。
散々話には聞いていたが、なるほど、一筋縄ではいかないわけだ。
俺の顔を直接見ても、まるで驚いた様子がなかったのも驚いた。本来王族が素顔を晒すのは、よほど親しい相手か対等とみなした相手にのみだ。それだけ俺が本気であることを示したつもりだったのだが……動じることすらしないとは。
己の価値を考えれば、当然だという考えか。
更には、仮にも王族の護衛を任される人物に対して鍛錬が足らないと来た。その程度の手駒しかもっていないのか? とこちらの陣営の力量を見極めていたのだろう。
あれは飾りの王族には勿体ない人物だ。是非とも欲しい。
今回は向こうの顔を立てたが、次はそうはいかん。必ずや、その首を縦に振らせてみせよう。
その時が、今から楽しみだな。