異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい 作:パンデュ郞
「そうですか、お兄様が……」
イリオス殿下だっけ。彼が去った後、俺たちは急いで王女様のいる部屋に移動した。
メイドさんは何が起こったのか事細かに説明していたし、俺は変なこと言わないように黙っていた。このメイドさん優秀だな。まとめる能力が非常に高い。
王女様は話を聞いて少し考えている様子だった。因みに王女様の方はちゃんと顔布をしている。
……聞いてみてもいいのかな。
「すみません、一つ質問いいですか?」
「はい、構いませんよ。なんでしょう?」
「さっきの王子様? は顔布してなかったんですけど、それって何の意味があるんですか?」
ぴしりと音が鳴ったような気がする。俺の発言と同時に、王女様が石になったかのように硬直した。
き、聞いちゃいけないことだったのか……?
「存じていらっしゃらないのですか……?」
「え? すいません、そういう事には疎いもので……」
思わず頭を下げる。
なんか悪いこと言ったかな。
「……姫様、逆に考えてください。これはチャンスでは?」
「で、ですが……」
「イリオス殿下が機会をくださったと思いましょう」
まさか、王女様も顔布を取るのか?
ちょっとご尊顔は拝見してみたい。噂ではめっちゃ可愛いって話だし。流石にアルテシアちゃん越えはないとは思うが、気になるもんは気になる。
「……王族の顔布は、親しい相手か対等とみなした相手以外と会うときにする慣習となっているのです」
「ほほう?」
「つまり、イリオス殿下はかなり本気でタイラン様を勧誘するつもりだったということです」
ふーん。特別扱いってことだったのか。
よくわからん人だと思ったけど、よくわからん人だったな。俺なんかに本気になる辺り、見る眼がない人なのかもしれない。今後の王様がそんなんだとちょっと不安だな。
「なら、取らなくていいですよ」
「えっ」
「無理して取るようなものでもないでしょう。何より、俺はあの王子様より王女様の方が好ましく思ってます」
抵抗があるのに王子様への対抗意識だけで取らせるなんて、女性に対してあるまじき行いだ。アルテシアちゃんに顔向けできん。
「こ、好ましくだなんて……」
「王女殿下は俺でも分かるほど努力が所作ににじみ出ていらっしゃる。努力を欠かさず、身分が下の相手にも丁寧に接してくれる。何よりも、メイドさんを見ていれば心から慕われているのがよくわかります。人徳も人柄でしょう」
不安なんだろうと思い、俺は思っていることを口にする。
さっきメイドさんにもっと考えてることを口に出せって言われたばかりだからな。
……ん? メイドさんはどうしてこちらを見て呆れた顔をしているんだ?
王女様は……顔を抑えてどうかしたのか? 俺なんか変な事言ったか? 思ったことを言っただけだぞ?
「……タイラン様は、姫様の事がお好きですか?」
「そりゃあ好きですよ。あの王子様よりかはよっぽど」
「す、すすす好き」
「はい。素敵ですよね、応援したくなる方って」
あっ、なんか王女様が項垂れてしまった。
よくよく考えてみれば、これ不敬か? 前回の事があって、大分打ち解けられた気がしたからつい話過ぎてしまった。
あんまり口が上手くないから普段口数少なくしてるんだよなぁ。
「つかぬことをお聞きしますが、タイラン様はお慕いしている方はいらっしゃるのですか?」
「おし……? ああ、いますね」
「えっ」
「えっ」
「えっ?」
なにそのえっ、は。
俺の推しはアルテシアちゃんですが。非公式ファンクラブ統括ですが。
推し変なんてありえない。生涯単推しだ。
えっ、何。一気に空気が変わったんだけど。
空気が重い。今のは失言だったのか? まさか、ドルオタは気持ち悪くて相手したくないタイプの方々?
「……姫様の事は、お好きなんですよね?」
「ええ、そうですね。素晴らしい方だと思ってます」
「でも、他にも好きな方がいらっしゃると」
「そりゃあ、まあ」
王女様が黙って下を向いてしまった。
やばい、何かはよくわからないがやばそう。
何が悪かったのかはわからないが凄い失言をしてしまったらしい。
「……話題を変えましょう! 今現在、タイラン様は姫様から依頼を受けていることになってますので、その帳尻合わせについて相談しませんか?」
「ええ! 是非お願いします!」
メイドさんありがとう!
この苦しい状況から脱出できるならどんな話にも乗るぞ!
依頼の一つや二つ幾らでもこなしてみせるさ!
「姫様、姫様。ほら、依頼についてのお話をしましょう?」
「……はい」
ああ! ほら、声にぜんっぜん元気がない! ほんっとうにごめんなさい!
「タイラン様には、是非受けて頂きたいお話があるのです」
「なんでもします。ええ、なんでもやって見せます。何でも言ってください」
よーし、おじさん頑張っちゃうぞー! 何をすればいいのかなー?
今ならドラゴンの一匹ぐらいだったら生け捕りで捕まえてくるぐらいはできる気がするなー!
だからメイドさんはその視線をやめてほしいな! 俺が悪いのは自覚してますから! 何が悪かったのかはわからないけど!
「実は、他国からの犯罪者を王都内部に手引きしている集団がいるようなのです」
「……ほう」
それは一大事だ。
他の国で犯罪を犯した連中が王都内に? 前世での国外逃亡みたいなものだろうか。
大事なのは、それで王都内の治安が下がるってことだ。
「これまでは内通者の存在を見つけるために、存在を知っていてもある程度見逃していた部分があるのですが、これ以上は危険と判断しました」
「それを俺に退治しろってことですね?」
王女様はゆっくりと頷く。
……なるほど。なるほど?
「でも、どうして俺に? 治安維持ならそれこそ騎士――」
言いかけて、気が付く。俺なんかがすぐに思いつくようなことを、王女様が思いついてないはずがない。
でも、だとしたら、この国は相当やばい状況にあるんじゃないか?
「――お察しの通り、騎士団内部にもその組織と繋がっている人間がいるとみています」
「それ、俺に聞かせても大丈夫なんですか?」
「タイラン様ならば信頼ができると思っての判断です。ただ、どうか他言は無用でお願いいたします」
それはもちろんだ。こんなこと、外で話せばどうなることか。
不信は治安の低下に繋がり、治安の低下はアルテシアちゃんの身の危険に繋がる。
俺は黙って頷く。二人も、満足そうに頷いてくれた。
「これは私、アルテミシアからの直接の依頼だと思ってください」
「わかりました」
「必要な情報や、途中経過などはそちらのケイトに伝えてくださるようお願いいたします。黄金の稲穂亭の方に、ケイトへと伝えて頂ければ、手紙が届くようになっております」
驚いた。あの宿、王族と関わりがあったのか。流石王都一のでかい宿。
ひょっとしたら宿での俺の素行も筒抜けだったりする? 恥ずかしくない行動はしているつもりだが、今度から更に気をつけよう。
「では、お兄様に認知された以上、あまり王城に長く居座るのもまずいでしょう。本日はここまでにいたしましょう」
「わかりました」
「次回は……ちょっと私の方も見通し立てられないので、申し訳ありませんがケイトとやり取りをお願いいたします」
あっ、これで会うのは最後とかじゃないんだ。
てことは、そこまで幻滅されたわけじゃない? よかった。よかった、のか?
冒険者としては王族との繋がりを保てて良かったになるか。あと、下手に王女様とつながりが切れると、あのいけ好かない王子様相手が困るし。
彼なぁ、ちょっとあの人の下につくのは嫌だなぁ。感情論だけれども。
「では……。ケイト、後はよろしくお願いします」
「はい、承りました。では、タイラン様、こちらへ」
「は、はい」
やっぱり、少し語気に力がこもってない。
ショックを受けている様子の王女様を残すのは大変気が悪いが、これ以上できることはない。
俺は黙って、案内されるがままに部屋を後にした。