異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい   作:パンデュ郞

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第15話

「やあ! タイラン殿! 浮かない顔をしてどうしたのかな?」

「おお、メグサさん」

 

 黄金の稲穂亭の酒場部分で一人飲んでいると、メグサさんに話しかけられた。

 彼は幾つかの町を跨いで商売をしている勢いある商会の主らしい。凄腕で偉い人でありながら、俺なんかにも気さくに話しかけてくれるいい人だ。

 何より、同じアルテシアちゃんの魅力に取りつかれた人でもある。非公式アルテシアちゃんファンクラブの同志だ。

 

「いや、実はちょっと今受けてる依頼が難題でしてね」

「ほうほう、タイラン殿が困る依頼とは相当と見た」

「突っ込んで殴り飛ばせば全部解決するならいいんですがね。殴り飛ばす相手の情報がちょっと足りなくて困ってるんですよ」

 

 そう、王女様から受けた依頼を遂行するにあたって、非常に困ったことになっている。

 敵対組織の存在は分かっているが、具体的な拠点が判明してないのだ。どこに殴り込みに行けばいいのかがわかってない。

 目撃情報とかから、拠点がありそうな区画までは絞りこめているものの。どうしたものか

 苦手なんだよな、情報収集。

 

「ははははっ! 相変わらず快活で気持ちの良い方だ」

「馬鹿なだけですよ」

 

 笑いながら彼は俺の隣の席に座る。そして、まだ昼間だというのに酒を頼んだ。

 流石に俺だって酒は飲んでないぞ。いいのか、商会主がそれで。

 

「なあに、君の着眼点の良さはよく知っているさ。数々の応援グッズ、あれは素晴らしいものだ」

「それで? 俺になんか用ですか?」

「おお! そうだった。君が聞き捨てならない体験をしたと聞いて、それについて聞きたかったんだ」

 

 聞き捨てならない体験?

 一体何のことだろう。

 

「ふむ、しかし私だけ質問するというのは良くないな。ここはどうだ、交換条件というのは?」

「と、言いますと?」

 

 商人しぐさだなぁ。律儀というか、借りを作ることを嫌がるというか。

 そういうところがきっと成功の秘訣なんだろう。俺にはわからんが。

 

「情報が足りないというのなら、私が手を貸そうじゃないか。その代わり、君も私がほしい情報を提供してほしい。如何かな?」

「それは是非! 凄いありがたい申し出ですよ」

 

 おおっ! メグサさんの助けを得られるのなら全然あり得るぞ!

 情報集めはやはり人的資源が物を言う。まさに天からの助けだ!

 これはアルテシアちゃんが繋いでくれた縁だから、実質彼女のおかげだ。やっぱ一生ついていくぜ!

 

「それで? なんでも聞いてください」

「そうか。では遠慮なくなんでも聞かせてもらおう」

 

 ちょうどメグサさんの頼んだ酒が届いた。

 彼は一口それに口をつけた後、食い入るようにこちらへ身を乗り出してきた。

 

「実は、先日君がアルテシア殿と直接会話をしたという話を聞いてだね」

「あっ。あー……」

「なんと! その反応を見るに、噂は正しかったようだ。何と羨ましい!」

 

 見られてたのか? 気が付かなかったな。

 先日の路地裏でストーカーどもを退治した時の話だな。

 ううむ、大変申し訳ないが、メグサさんの望んだ話はできなさそうだ。

 

「残念ながら、あれは偶然だったんですよ」

「偶然、偶然と来たか。だがしかし、我らが一縷の望みを託すには十分な偶然だ」

 

 俺の手を取り、目を見て話してくる。

 商人仕草だなぁ。

 

「どうだね。もしも次があれば、是非ともアルテシア殿に我らの要望を伝えてはくれないか」

「要望とは?」

「ファンミーティングでも度々話題に上がっていた、アルテシア殿を週一以外でも応援するための、公式商品の販売依頼だ! 欲を言うならば、是非我々に取り扱わせてほしい」

 

 あー。確かにずっと話には上がっていたけれど、アルテシアちゃんに要望を伝える機会がなくて、結局ファンの間でのみ盛り上がってただけになってたんだよな。

 確かに、俺も欲しい。あの時はテンパって要望を伝えるどころじゃなかったけれども。

 これを約束するぐらいならいいだろう。だって俺も欲しいもん。メグサさんは商機を見てるのもあるだろうけれど。

 

「……わかりました。もしもまた機会があれば、代表して伝えさせてもらいます」

「おお! ありがとう我らがリーダーよ! 希望が繋がるだけで、我々はまだ戦える!」

 

 俺たちは熱い握手と約束を交わした。

 多少の目的のずれはあれども、心は同じだ。

 

「それでは、今度はそちらの話を聞かせてもらおう。依頼で困っているんだったね?」

「ああ、そうなんですよ。ちょっと依頼主は誰かは明かせないんですが……」

 

 俺は依頼の内容だけをメグサさんに伝える。

 王女様からの依頼と聞けば、また商機だとみて別の話が挟まってしまうだろう。

 いや、もう交換条件として提示されたからそれはないのかな? よくわからないけれど、よくわからないならやらない方が良いと思う。馬鹿なりの処世術だ。

 

「……なるほど。危険組織の拠点を把握しかねている、と」

「何とかできますかね?」

「むむむ、難しいだろうが、契約は交わされている。できる限りのことはしようじゃないか」

 

 よかった。そんな危ないことには手を貸せないって言われるかもとはちょっとだけ思ってたんだ。

 

「しかし、依頼主は明かせぬ上で、内容がそうとは。君も随分と出世したものだ」

「はははは。俺としては、ただのそこら辺にいるおじさんぐらいな気持ちなんですがね」

「そういうな。君はまだ二十代だろう? 全然若いさ、元気を出すべきだ」

 

 そうかな? そうかも。

 冒険者は若い子が多いからなぁ。みんな年を取る前に死ぬ人が多いってだけなんだけどさ。

 世知辛い仕事だよ。でも、真っ当でない人間が職にありつけること自体がありがたいことだ。犯罪を犯さず生きていける。それだけで感謝しなければならない。

 

 そりゃ、前世と比べれば腕っぷしがなければ生きていけないという意味で厳しい世界ではあるが。仕方のないことだろう。もう慣れた。

 そこまで豊かな社会じゃないんだ。どこかで妥協は必要になるさ。

 俺にできるのは、俺にできる範囲で何かをすることさ。

 危険な仕事をしようとしている駆け出したちに助言をしたりな。役に立たねーってほぼ毎回言われるけど。

 

「さて、それではさっそく動くとするかな」

「いいんですか?」

「君もお願いを聞いてくれただろう? 商人たるもの、約束は違えぬものだ。そして、一度確定させてしまったことには全力を尽くすことも重要なのさ」

 

 ウインクするその姿すら様になる。本当にイケおじだよあんたは。

 

「この仕事が終わったら、一杯奢らせてください」

「楽しみにしていよう! では、活躍を期待しているよ!」

 

 酒の残りを一気に飲み干し、行ってしまった。

 嵐のような人だったな。尊敬はしているんだけど。

 

 さて、それじゃあ俺は何をしようか。アルテシアちゃんと接触することでも考えるか? 約束を守ってもらう以上、俺も何とかして約束を果たさないといけないからな。

 でもなぁ。ストーカー退治してるだけだしなぁ。また同じ場面に出くわすのは嫌だぞ。

 女の子に暴力沙汰の現場なんて見せるものじゃない。これはオタクの勝手な欲望かもしれないが、アイドルはそういう危険とは切り離されるべき存在だ。

 

 うーんうーんと悩んでいると、また別の来客がきた。

 

「こんにちは、タイランさん」

「あれ、ディーナさんじゃないですか。どうかなさいましたか?」

 

 先日バジリスクについての話をしたばっかりだから、流石に覚えている。

 ギルド長が冒険者ギルドの外にいるなんて珍しい。一体何だろうか。

 

「あなたに用がありまして。ちょうど今暇ですか?」

「ええ。構いませんよ」

 

 何だろう。バジリスクの件で追加で何かあったのかな?

 ああ、あの黒い杭について何かわかったとか? それで追加の事情聴取したいとか。

 全然あり得る話だな。

 

「場所を変えましょう。人に話を聞かれないところがいいですね」

「なら……すみません! 奥の部屋使わせてください」

 

 黄金の稲穂亭には、秘密話をするための部屋がある。そこは、泊っている人間ならば誰でも使わせてもらえる。

 もちろん予約や既に使っている人間がいないときだけだ。

 今はちょうど使われていなかったらしい。快く貸してもらえた。

 

 部屋を移動して、対面に座る。

 さてさて、何の話なんだろうな?

 

「ええと、実はタイランさんに直接、ギルドから依頼を出したくてですね……」

「えっ!」

 

 ギルドからの直接依頼? 噂には聞いたことがあるけれど、相当信頼度の高い冒険者にのみ与えられるものだって話だぞ。なんで俺なんかに。

 冗談ではないだろうな。ギルド長が直接来るんだ。これで冗談なら手が込みすぎている。

 

「先日達成していただいた依頼について、覚えてらっしゃいますよね?」

「もちろん」

「では話が早い。ご存じの通り、一刻を争う事態です。我々は信用できる冒険者の方々に、急ぎ特別依頼を出しています」

 

 そんな大ごとなのかあれ。よくわからんけれど、ギルド長がそういうならそうなんだろう。

 とりあえず頷いとこ。話の腰を折ると悪いし。

 

「……やはり、知ってたんですね。王女殿下伝いに聞いていたんですか?」

「あー、何についてかはわかりませんが。王女様との会話の内容はあんまり外に出したくなくてですね」

 

 ギルドに秘密で依頼受けてるなんて言えないよな?

 いや、王女様側から伝えてるだろうし、特に言う必要もないだろう。何かあって怒られるの嫌だし、うん、黙ってよう。

 

「なるほど、こちらが浅慮でした。では、端的に伝えさせてもらいますね」

 

 あっ、依頼を断るって選択肢は用意してもらえてないんですね。そうですか。

 ……いいのかな?

 

「あなたには人探しをしてもらいたいのです。もちろん、これは他の依頼を受けながらで構いません。極秘ですからね、他の方にバレるわけにはいきません」

「人探し、ですか」

「ええ。改めて、ターマバルス博士を探し、その身柄を捕獲してください」

 

 マジで知らん人来た。

 知らん人や知らんものを探せって依頼多すぎだろ!

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