異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい   作:パンデュ郞

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第16話

 よくわからん組織を叩けと言われたり、よくわからん人を探せと言われたり。

 なんか色々困ってしまうわけですよ。人には得意不得意というものがあってですね。

 なんて、愚痴を言っても仕方がないので、俺は話に聞いていた区画の見回りをしている。

 千里の道も一歩から。何もしないよりかはマシだろうと思って、ふらふら散歩してるわけだ。

 

「つっても、何探せばいいかわからんしなぁ」

 

 王女様たちが探して見つけられないような奴らを俺が見つけられるとは思えない。

 メグサさんの情報を素直に待つのが賢いやり方なのかもしれない。

 だとしても、何もせずにぼうっとしてるのは性に合わない。基本的には何かをし続けていたい人間なんだ。昔からの癖だな。

 考える時間も終わったしな。考えても無駄だって結論を出せた。

 

「……んあ?」

 

 今、見覚えがある奴がいたような?

 人通りが多い中、見間違えかもしれない。そもそも俺が見覚えがある気がするというのがおかしいか。

 俺の知人と言えば、ギルドの人たちに、非公式アルテシアちゃんファンクラブの面々と、最近になって王女様たちが追加されたぐらいだ。

 

 その人たちの顔と名前ぐらいは流石に覚えてる。見覚えがある、程度で済んでいるのがおかしいんだ。

 それこそ、何か印象的な事件でも起きていない限りは……。

 

「……探すか」

 

 他にやることもないし、気になるなら調べてもいいだろう。

 どうせただの時間つぶしなんだから。

 

 そう思って、しばらくふらついてみると、何となくわかってきたことがある。

 ――ずっと誰かに見張られている。

 なぜそうなのかとかはわからんが、気になる視線をずっと感じてる。

 

 いつからだろう? わからん。

 気が付いたのはさっきだ。

 こんな町中でじっと監視されるだなんて初めての経験だ。

 

 ……あー、やっぱ向いてないな。とりあえず動けばいいってだけならいいんだけれども、難しいことを要求され始めるとてんで駄目だ。

 半日ぐらいぶらついて、結局収穫はゼロ。てか何ならずっとこの辺うろちょろしてる奴ってことで監視されてるのかもしれん。でも兵士たちっぽくはないんだよな。彼らは俺に気が付くと挨拶してくれるし。

 

「あっ」

 

 ようやく思い出した。見覚えがあると思ったやつ、以前退治したことがあるストーカー野郎の一人だ! 顔を隠していたけれど、あの目元は間違いない。

 へぇ、この辺に住んでたのか。まあそんなものだよな。

 そんなでかい罪状でもないし、せいぜいちょっと罰金払うぐらいで解放されるだろうからな。

 

 思い出したとなると、凄いすっきりしたな。

 そうだ! せっかくだからちょっと話に行ってみるか。

 同じアルテシアちゃんを思う仲間ではあるんだ。道を間違えてはしまったが、じっくり話せばわかり合うことができるはず。

 

 ストーカー連中は悪行に走った後、二度とライブに来てくれていない。確かに道を踏み外してしまい、申し訳ないと思う気持ちは分かる。だとしても、悔い改めればやり直すことはできるはずだ。

 

「これは本腰入れて探さないとな」

 

 俄然やる気が出てきた。当初の目的? 依頼なんて知らん知らん。

 それよりも、一人でも多く正しいアルテシアちゃんの推し方を知っている人物を増やすことの方が大切だ。

 

 闇雲に探してもそうそう見つからないだろう。じゃあ、少し考えてみるか。

 

「やや、そこにいるのはタイランさんじゃないっすか!」

 

 とか考えてたら、唐突に話しかけられた。

 若い男の子だ。この子に関しては見覚えがない。

 

「ん? 申し訳ない、どちら様ですか?」

「えーっと。なんていえば……そうだ、メグサ商会長の部下っす!」

「あー。ファイス商会の」

「ですです!」

 

 そうか、調べてくれてるのか。ありがたいありがたい。

 

「タイランさんはどうしてここに?」

「人を探してるんだ。前に会ったことがある人なんだけど、じっくり話をしてみたくて」

「ほほう。特徴とかわかります? 自分、そういうの得意ですよ」

 

 おお! それは心強い。

 とはいえ、そんな目立った特徴はない。人探ししてもらえるほどではないだろう。

 いや、特徴と言えば特徴はあるか。

 

「以前ちょっと厄介事を引き起こして、警邏に引き渡したことがあるんだ」

「なるほど。つまり、厄介者の気質があるってことっすね」

「……はっきり言うんだな」

「仕事なんでー」

 

 うーん、誤解させるような言葉を使いたくないということなのだろうか。誠実なのか、それとも無頓着なのか。

 

「……タイランさんなら、大丈夫っすかね」

「と、言うと?」

「その手の人が集まってる場所があるんすよ。ちょっと傷ありな方々が」

「あー、治安が悪かったり?」

「ですです」

 

 ほほーん。まあよくある話だな。隠れ酒場みたいなものか。

 例えどこであろうと鬱憤の発散先ってのは必要だ。この区画にあるってのは意外だけどな。

 

「場所を教えてくれるか?」

「案内しなくていいんすか?」

「危ない場所なんだろ? メグサさんの大切な部下を怪我させられないからな」

 

 これに関しては完全に俺の私用だ。あんまりお世話になるのも悪い。

 メグサさんに貸しを作ると後々が怖いからな。これ以上内緒で受ける依頼は増やしたくないぞ。

 

 そんな感じで場所を教えてもらったので、さっそく行ってみることにした。

 いかにもな路地裏を進み、たどり着いた先はこれもいかにもな地下へ通じる道。

 

「天下の王都にこんな場所があるとはな」

 

 スラム街が王都内にないだけマシか? 王都の近隣にはあるとは聞くが。

 とにかく、降りてから扉を潜れば――そこはかつて映画で見たかのような隠れ酒場だ。

 

 入った瞬間、こちらに視線が集中する。

 歓迎されてないのは明確だな。新参者が来る場所じゃないってことか。

 さてさて、こういう時の作法はなんだ? とりあえず、酒場の主人に挨拶といくか。

 

「どうも、はじめまして」

「……注文は」

「あー、適当に頼む」

 

 酒の良し悪しは残念ながらわからん。酒に強いこの体じゃ酔うこともないしな。

 だからと言って、昼間っから酒を飲む男だと周囲に喧伝するのは、アルテシアちゃんに迷惑がかかるから飲まないだけだ。飲む理由がない、だから飲まない。理由があれば飲むさ。

 

 まばらにいる他の客たちは、こちらを見てひそひそ声で会話している。

 何だろうな? 喧嘩を売ってくる気配はないから、放置しているが。

 しかし、さっきざっくり見回した感じ目的の人物はいなさそうだった。無駄足かぁ。

 

「何の用ですかね、表の人がこんな場所に」

「人探しをしてるんだ。一度会っただけなんだけれど……」

 

 別に隠すほどの事じゃない。

 

「ちょっと前に外で見たんだ。顔の下半分を隠している、緑色をしたキレ目の男」

 

 ん? なんか空気感が変わったな。

 変な事言ったか? 俺。

 

「――その方に、何の御用で?」

 

 随分とこわごわと聞いてくるんだな。ただの人探しだって言ってるのに。

 

「ちょっとばかし、話したいことがあってな」

 

 俺のこの一言で、酒場中が騒めいた。

 なんだなんだなんだ。

 

「……残念ながら、私から話せることはありませんな」

「そうですか。それは残念」

 

 まあ、知らないならしょうがないよな。

 アウェーで無茶を言うだけの度胸もない。ここは大人しく引こう。

 

「あっ、でももし来ることがあれば伝えてください」

「なんと?」

「いつでも黄金の稲穂亭で待っている、と」

 

 俺の手でとっちめたが、俺はやり直しを認めないほど狭量じゃない。

 それさえわかってくれればいい。ようは、アルテシアちゃんに危害を及ぼさなければファン活動は自由だ。

 そういう意味を込めて、この言葉を選んだ。

 

「じゃ、それだけなんで。お代はこれで」

 

 カウンターテーブルの上に酒の代金を置いて、俺は店を出た。

 また会えるといいけどな。その時には酒を奢るぐらいはしよう。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「――行ったか?」

「ええ、間違いなく」

 

 迂闊だった。

 あの男、高々一瞬見えただけで人の顔を判別しただと?

 しかも、大して印象にも残ってないはずの顔まで覚えている?

 

 いや、違うか。流石は英雄様だ、一度敵対した人間は忘れないということなんだろう。

 そのうえで、あのセリフと来た。

 

『いつでも黄金の稲穂亭で待っている』

 

 これは宣戦布告だ。いつでも来い、返り討ちにしてやると。

 本国の連中だけではなく、敵にすら舐められたままで終われるものか。

 考えるだけで歯が砕ける思いだ。

 

「……本国では、俺たちは有数の人材だ」

「ええ、間違いなく」

「最近は人材が少なく、恩赦を盾に薄汚い犯罪者どもも混じっているが、統括している俺らは間違いなく精鋭として用意された人材だ」

 

 本来、容易いはずの任務だったんだ。

 利害が一致している内通者もいる。だから、無防備になった敵国の王女一人連れ出すだけのはずだった。

 それなのに。それなのに、あいつ一人が我々の計画を全て狂わせている!

 

 握りしめたグラスが音を立てて砕け散る。中身が零れ落ちるがどうでもいい。

 俺の渇きを癒してくれるのは、もはやあの男が流す血だけだ。

 

「準備をしろ。あの傲慢な男に、我々の意地を見せてやる」

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