異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい 作:パンデュ郞
何も成果を得られず、数日が経過した。
俺は無駄な時間を過ごした今日を思い返しつつ、ベッドに寝転がり天井をぼーっと見つめている。
どちらも一夕一朝でどうにかなるような依頼じゃないので、焦りはない。が、何をすればいいかわからないってのが一番つらい。
とにかく動いて誤魔化してはいるが、他の依頼を受けるわけにもいかず、ままならない時間が過ぎ去っている。
「いっそのこと、向こうから来てくれねぇかな。なんて」
あり得ない望みを口にするぐらいには望み薄だ。
前世でやったこともないしやり方もわからない仕事を振られたときのことを思い出す。あの時はどうしたんだっけかな。とにかく色んな事をがむしゃらに試して、上手くいくまで粘ったんだったか。
今回も同じだろうなぁ。王女様やディーナさんには申し訳ないが、何とかなるまで待ってもらおう。
「ん、なんだ?」
部屋の扉がノックされた。
誰だろうか。起き上がり扉を開ける。
黄金の稲穂亭の従業員だった。
「夜分遅くに申し訳ございません」
「はいはい、何ですかね?」
「お手紙をお持ちいたしました」
手紙か。最近手紙を受け取ってばかりだな。
誰からだろう。王女様からかと思ったけれど、いつもの印がないので違うみたいだ。
「誰からかわかります?」
「それが、顔を半分隠していらっしゃったので……」
「ふうん? よく受け取りましたね」
怪しい人からの贈り物とかはシャットアウトしてくれるのが普通なのに。何かあったのか?
「それが、先日タイランさんから投げかけられた問いの返答だと仰ってまして……無断で断るのも不都合があったら困りますので、お手紙ならと」
「先日……あぁ、もしかしてその人って緑色の瞳をしたキレ目の人でしたか?」
「はい、そうでした」
おおー、なるほど。伝言が伝わったのか。それは良かった。
因みに、この世界には普通に呪言とかあるので、手紙でも危険はある。まあ、物的な贈り物の方が遥かに危険だし、そんな文章だけで人を害せる奴なんてめったにいないが。クソムズイらしい。
ただまあ、伝言の返事ならいいだろ。
俺はその場で手紙を開けて、中身を見る――と同時に、目の前が白く光った。
「はい?」
開いた手紙の文字が光る。パッと見で分かる、これは危ない奴だ。
俺は咄嗟に店の人を突き飛ばしつつ、後ろに飛んで被害が及ばないように動く。
部屋の中がちょっと散らかるぐらいは許してくれるよな? 不可抗力ってことで……。
そう思いながら、何が起こるか観察する。
文字が光り浮かび上がる。表面上でうねり、鋭く先端が尖ると、次の瞬間には俺の眉間へ向かって飛び出してきた。鋭く素早い文字列の矢は、そのまま行けば間違いなく俺の脳天を貫くだろう。
――よかった、これだけか。
飛んできた光の文字列が届く前に右手で掴み、握りつぶす。文字の矢はぐしゃりと歪み、霧散した。
残されたのは文字が途切れ途切れになった、ただの手紙だ。
「だ、大丈夫ですかお客様!」
「ああ、こちらは大丈夫です。そちらはどうですか? すみませんね、危険だと判断したので少し手荒なことをしてしまって」
もし爆発とかされてたら、俺はともかくこの人が危なかったからな。
こんなしょぼい仕掛けでよかった、大分悪意はあったけどな。
うーん、恨まれてはいるってことか。逆恨みではあるけれど、犯罪歴つけさせた本人ではあるからな。わからんでもない。
まあ、文字が残ってるってことは、これが本文なんだろう。読んでみるか。
「……なるほどなぁ」
場所と日時が指定されてる、いわゆる果たし状のような内容だった。
文章から相当頭に来ていることが察せられる。
うーん、うーん。思った以上に恨まれてるなこれ。
「すみません! お客様を危ない目に遭わせてしまい……っ!」
「ああ、お気になさらず。ちょっと仲間から恨みを買ってしまってたみたいでしてね、手荒な挨拶をしたかったみたいです。こちらこそ、巻き込んでしまってすみません」
行くか行かないかで言えば、行くしかないだろう。
依頼の方は先行きが見えないし、闇雲に動き続けるだけよりかは、同じアルテシアちゃんのファンを非行から更生させられるかもしれない用事の方が有益だ。
何度か手紙の内容を読み直しても、文面は変わらない。
うん、間違いないな。かんっぜんに果たし状だこれ。
うーん。手荒な真似はしたくないんだが。話を聞いてもらうためにはもう一回殴り飛ばすしかないかぁ?
同志を殴るのは心苦しいんだぞ。
しゃーないか。アルテシアちゃんのライブ日程とも被らないし、大人しく向こうの要求に従うとしよう。
「とりあえず、きちんと受け取りましたんで。お仕事お疲れ様です」
挨拶をして、扉を閉める。
寝るか。礼儀として、体調だけは整えておこう。
◇ ◇ ◇
「やあやあ、それじゃあ報告を聞こうか」
「はいっす!」
商会の一室で、私は商会員の報告を聞く。
タイラン殿の頼みだ。彼には色々と世話になっているため、是非とも力になってあげたい。
とはいっても、私に直接的にできることはないのだがね! こういう時、人脈というのは力だと実感させられるよ。
「具体的な拠点までは辿りつけてないっすけど、近々何か動きがありそうな雰囲気があるっす」
「ほほう、それは重畳。具体的な内容はわかるかね?」
「すんません、そこまでは……」
「いやいや、構わないよ」
最初から全てが分かるとは思っていない。兆しが見えたのならば僥倖。
それをきっかけに、事態は動いていくことだろう。
大事なのは、機会を逃さないことだ。最初から全てをこなすことではない。
「しかし、普段はこういう危ない話には触れないのに、今回はどうしたんすか?」
「ん? 不思議かね?」
ふむ、確かに私は清廉潔白をモットーに活動している。怪しい話には乗らないし、裏社会へ探りを入れるような真似もしない。
関わりを完全に断つのは難しくとも、可能な限り触れないようにすることはできる。
にもかかわらず、今回は意識して動いている。そのことが不思議なのだろう。
もちろん、きちんとした理由がある。
「タイラン殿はね、金の生る木なのさ」
「彼が……ですか?」
おや、信じられないという表情だね。結構結構、正直でよろしい。
私も最初は、彼の事は大して意識していなかったさ。しかし、あの日から彼を見る眼は変わった。
『君、そちらの手に持っている道具は何かな?』
『ん? ああ、応援道具ですよ』
『応援……道具?』
『ええ。ほら、こうやれば盛り上がるし、皆が同じものを持っていれば一体感が出るでしょう? 同じ人を応援している身なんだから仲良くするべきだし、俺たちが仲良くしてたほうがきっとアルテシアちゃんも嬉しいと思うので』
そう、一体感。彼の着眼点は非常に正しい。
実際に体験してみたけれど、あの高揚感は中々に得難いものだった。
私はその経験を取り入れ、すぐさま商会内で仲間意識を持てるように制度の調整を行った。
結果、仲間意識が芽生えた皆は自由に意思伝達を行うようになり、情報伝達のミスが減ったのだ。それまでは切り捨てていたり、放っておかれた問題も、解決へと自然に導かれるようになっていった。
それまで私は、業務上必要ないことはやらなくてもよいと考えていたが、そうではなかったのだ。細かい日常のところで、実際の業務に差し障るものがある。いざという時の対応に、天と地ほどの差が出るのだ。
何より、ミスをした仲間を助けたいと思える。それは素晴らしいことではないか。人的資源は限られているのだから。下手な足の引っ張り合いをされては私が困る。
その後、彼が設立した組織、非公式アルテシアちゃんファンクラブに入ってみたが、そこでの施策も優れたものが多い。
まるで、彼には完成図が予め見えていたのかというほど正確に、冷静に組織を作り上げていってみせた。
私は確信したとも、彼の才覚は天性のものだと。
彼と共に経験したことは間違いなく今に活かされているし、何よりも彼にとっては当然の事であると。
知識の共有、体験の共感になんら躊躇いがない。どうして彼を避けることがあろうか、あるはずがない! 近くにいれば、優れた知見と経験が得られる存在と疎遠になる利こそない。
何よりも、彼は純粋なのだ。ただひたむきである、何と素晴らしきことか。あれだけの慧眼を持っていれば、数々の汚れを知らぬわけではなかろうに。
これは打算だが、彼は仲間を見捨てないだろう。故に、私は彼と親しくする。彼の価値を知っているがために。
「君には是非とも頑張っていただきたい。タイラン殿に恩を売ることほど、確実な投資はないと私は思っているのだから」
「は、はいっす!」
「では、行きたまえ。良い報告を待っているよ」
今回の件で、私はより彼と親密になれるだろう。
そして、彼の敬愛しているアルテシア殿とつながりを持てれば、それは比類なき縁となる。現時点でも共通の話題として活躍してくれているが、その上をくださるというのは、彼女は私にとっても女神様に違いない。タイラン殿の真似ではないがね。
さてはて、この投資は上手くいくかな?