異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい 作:パンデュ郞
場所は王都の外にある森の中。
指定された場所に行くと、矢が大量に飛んでくるとかいう随分なお出迎えを去れた。
おーおー、壮観だなぁ。よくもまあこんなに人数を集めたわけだ。
何人いる? ひーふーみー。まあ十人以上いるな。見えてないところにもいるから相当人数いる。
全員顔つきが怖いぞ。本当に恨まれているらしい。
「おーい。賑やかだけどどうしたんだ?」
「良く逃げなかったな」
「逃げる? なんでだ?」
あら、余計に顔が怖くなっちゃった。
ううん、確かに手紙には仕込みがあって悪意があった。でもなぁ、俺としては志を同じくする仲間たちを相手してるつもりなんだよ。
気に食わないのは理解できるが、そこまで殺気に満ち溢れられると悲しくなってくる。
「俺は話し合いにきたつもりなんだが……今からでもそうするつもりはないか?」
「話し合い? 話し合いだとっ!」
叫ぶのは緑目の男。彼がリーダー格なのか。
「今更何を話すことがあるというのだ! もはや、どのような手段を用いようとお前を殺さねば、俺らの渇きは癒されぬ!」
いや、そこまで恨まれてるの!? 流石には逆恨みが過ぎるんじゃねぇかなぁ!
「ここまで馬鹿にされたのは生まれて初めてだ」
「馬鹿にしたつもりもないんだが……」
「その態度が! 既に馬鹿にしているというのだ!」
えぇ……。もう何をしても駄目じゃん。
やっぱり一線を越える奴らってちゃんとやばいんだな。話が通じる気がしない。
いや、でもアルテシアちゃんのファンであることは共通なんだ。諦めてしまうのはまだ早い。
「まあまあ、落ち着いてくれよ」
ここは譲歩から行こう。
「そんなに腹立ててるなら、俺の事を一発ぶん殴ってもいいから――」
「殺せっ! 二度とその口を開かせるな!」
完全に怒らせてしまったらしい
余計な一言だったのかもしれない。ううん、ムカつくなら一発殴っていいから話をしようって言おうと思ったのに。
揃っていた面々は好き好きに武装をしている。武器を構え、今にも襲い掛かってきそうだ。
……しょうがないな。
「話を聞く気がないのなら、一回黙らせてから聞いてもらうとするか」
「我らが威信にかけて! 誇りにかけて! 全力で殺しにかかれぇええええええええ!」
さてはて、森の中だからな。相手も長物は振り回せない、小回りが利く剣や弓が主体となっているようだ。
動きが統率されてる。よほど俺がウザかったらしい。俺を殺すためだけに訓練したとすれば、お前たち才能の固まりすぎるぞ。
ただ、好き勝手動いてる連中もいる。どうやら、俺を積極的に殺したい奴とそうでもない奴がいる、のか?
じゃあとりあえず積極的な連中から相手するとするか。
「一つだけ教えてやる」
戦いにおいて、数は必ずしも有利に働くとは限らないということを。
俺は最初に突っ込んできた奴を掴み――他の奴に投げつける。
近づいてきてくれるなら好都合。存分に利用させてもらおう。
集団戦において相手そのものを武器に使うことは凄い有効だ。何せ、二体同時に攻撃ができる。魔法のような溜めも必要ない。理想的だ。
「おっと」
厄介なのは弓使いだ。俺は素手だからな、遠距離に干渉できる方法が限られている。放たれた矢を掴んで投げ返すか、そこらにあるものを投げつけるか。追いかけるのもいいが、この数相手だとちょっと厳しい。
流石に矢を投げ返すのはまずいな。死ぬ可能性がある。向こうは殺す気かもしれないが、俺には殺す気はないんだから。
石ころ……ぐらいでも危ないか。なら、木からはたき落とすか。
「おらぁ!」
近場にある木を全力で蹴り飛ばす。すると、幹が砕けて木が望み通り傾いてくれた。
その傾いた先にあるのは――弓使いが乗っている木だ。
「いや、うそ――ぎゃああああ!」
「よし、狙い通り」
あんだけ枝に絡まれてれば矢を打てんだろう。
ほら、他の連中も同じように対処するぞ。
「うわああああ」
「化け物がああ!」
悲鳴がそこらじゅうで響き渡る。
悪いとは思うよ。悪いとは思うけど、人に弓を向けてるんだから正当防衛でいいよな?
ちゃんと直接殴り飛ばしてる連中も死なない程度に手加減はしている。ちょっと装備が歪んだり剣がへし折れちゃったりしてるのはご愛嬌ってことで。
「貴様ぁああああ!」
ついにリーダーである緑目の彼が直接やってくる。
動きが明らかに違うな。前よりも迫力が凄い。
前は大して強くないと思ったけれど、武器を持つと動きが桁違いに良くなっている。本来はこっちがメインってことか。
流石にこれは少し本腰入れないときついな。
「お前のせいで! お前のせいで我らの立場は!」
「いや、自業自得だろ。最初から悪事に手を染めるのが悪い」
「悪事だと! 我々にとっては正義なのだ!」
戦いながら、剣を躱しながら、俺たちは言葉を交わす。
立場が悪くなったのはお前らが犯罪まがいの事をしたからだし、正義だと言っても世間的には悪事なのは変わりはない。
本気で説得は無理な気がしてきた。
試しては見るけれども。
「まあまあ、人間、幾らでもやり直しの機会はあるさ」
「それが今なのだ! お前を殺し、最初から仕切り直す! そうすれば障害はもはやないも同然なのだ!」
おー、こわ。そこまでしてアルテシアちゃんとお近づきになりたいかね。
俺にはわからん。推しが幸せならそれでいいじゃないか。
なぜ推しの生活に入りたがる。なぜ推しを怖がらせるような真似を自らする。その先に待っているものは一体なんだ。
「……しゃあない。もう一回、牢屋で頭冷やしてきな」
「ガッ……」
「話したくて付き合ったが、悪いが俺には理解ができないみたいだ。すまん、俺の頭が悪くて」
いつでも倒すことはできた。ただ、この機会じゃないと話せないとみて、付き合ってただけだ。
「この……クソが…………」
最後の捨て台詞を吐いて、気絶した。
本気で恨まれてたなぁ。ちょっと罪悪感。
リーダーが倒れたことで、残された連中にざわめきが走る。
発起人がいなくなると困るよな。わかるよ。前世で言い出しっぺがいたから始まったプロジェクトなのに、そいつが途中で退職しやがって死ぬ目を見たことあるもん。
「さてさて、残ってる奴らもかかってくるか? 来るなら相手はするが……」
俺が問いかけると、連中は顔を見合わせてどうするか悩んでいる様子だった。
そんな中、一人の男が動いた。
「……俺はもう勘弁だ。こんな怪物と戦ってられるか!」
そう言って、武器を地面に叩きつける。
これがきっかけに、状況は動き出す。
「そうだそうだ! 恩赦があるからって参加したが、こんなんなら牢獄の方が何倍もマシだ!」
「拷問受ける方が万倍はマシだぜ!」
「俺たちは冒険者じゃねぇ! 人間相手って話だったじゃねぇか!」
おーおー、酷い言われようだ。
人の事を怪物だの魔物だの。そりゃ結構強い自覚はあるが、ちゃんと鍛えればこの世界ならいけるだろうに。だって魔法とかあるんだぞ? 人が魔物を殴り飛ばしたり素手で木をへし折ったりするぐらいあってもおかしくないだろ。
「そうだ、あんた、俺たちの事は見逃してくれないか? 俺たちはそいつらに雇われただけなんだよ」
「んー? でもお前らの顔も見覚えがあるんだよな……」
「無理やり脅されて連れてこられたんだ! 信じてくれ!」
それは可哀そうに。でも悪事は悪事だ。
「でもなぁ、一度悪事をした人間は再発率が高いし、放っておくってのは……」
「何にだって誓う! 魔法の誓約書を書いたって構わねぇ! 二度とこの国で悪事を働かねぇと誓う! なんなら、今後も送られてくるだろう仲間にも手を引くように伝えるさ!」
「まだ仲間がいるのか。事前に芽を潰せるのはありだな」
結構魅力的に思える。てか、今更だけどお前らこの国の人間じゃないんだ。へぇー。
アルテシアちゃんは元々国外の歌姫とかだったのかな。なら、新しい文化を持ち込んだのも納得できる。
ははーん。読めたぞ。全て理解した。
元々国外で活躍していたアルテシアちゃん。しかし、厄介者に目をつけられてしまってその国にはいられなくなってしまった。この国に逃げてきたはいいものの、厄介者はしつこくて手下を送り込んできている。
これが筋書だな? クソ、やっぱり根底にいるのは悪質ストーカー野郎じゃねぇか。
「……わかった。お前たちはやりたくてやってたわけじゃない。逆らえなかったんだな」
「あ、ああ。そうだ」
「状況はおおよそ把握した。なら、これを機にそんな雇い主からは逃げてしまえ」
本当に認めてくれるとは思ってなかったのか、連中は目を丸くしている。
「ただ、ちゃんとマジックスクロールで誓約書は作るぞ。それに加えてお前たちの雇い主の情報も寄こせ」
「誓約書はやるさ。でも、情報までは……」
「難しいか? でも、諸悪の根源を潰さないといつまでも続くんだろ?」
国外となると色々と難しいかもしれないが、何とかするしかないだろう。
それでしかアルテシアちゃんの安寧を守れないのなら、何だってするさ。
もう一度こいつらは顔を見合わせて、頷き合う。
「わかった。そこで倒れてる奴が建物の鍵を持ってる。その建物に、詳しい書類とかが保管されてるのを見たことがある」
「直属の部下だったってわけか。建物の場所は?」
「ああ、もちろん教える。それは――」
なるほどと場所を教えてもらい。
俺は気絶させた連中を降伏した連中に運ばせて、王都へ戻るのだった。
戻ったら諸々の手続きを終わらせて、その建物の中身を調べに行くとしよう。