異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい   作:パンデュ郞

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第21話

 黄金の稲穂亭で今後の事について考えながら食事をしていた時のことだった。

 

「おい! そこのお前!」

「ん?」

 

 甲高い声が気になり、声がした方を見る。

 まさか俺が呼ばれたとは思っていないが、もめ事が起こるなら仲裁するのが正しい行為だ。

 ……なんて思っていたら、なんかこっちの方を指さしている少女がいる。

 

「もしかして、俺か?」

「他に誰がいるというのです。お前がタイランでしょう!」

「はぁ、まあ俺がタイランですけれど……」

 

 見覚えがない少女だが、身なりからして結構な身分に見える。少なくとも商人、下手したら貴族だろうか。

 

「ほら見たことか! 私の考えは正しかった!」

 

 偉そうにふんぞり返る少女。何だこいつ。

 よっぽど甘やかされて育ったのかもしれないな。世間知らずという感じがする。

 だからと言ってつれなくするのはアルテシアちゃんのファンとしての面子が悪い。

 ここは穏便に行こう。

 

「それで、わざわざ俺に何か用で?」

「そうです! 話を聞かせなさい!」

 

 いや何の話を。

 本当に知らない子なのか、俺が忘れてるだけなんじゃないか。そんな気もするがまるで覚えがない。知り合いの子供かと思えば、似ている奴も思い浮かばない。

 本気で初対面だとすれば、何と失礼な子だろうか。

 

 まあ、ここまででおおよそ推測はできてるよ。貴族の子だってんだろ。

 俺の何を聞きつけたのかは知らないが、なんか話を聞きたいらしい。

 いやだから何のだよ!?

 

「俺は別に人の頭の中覗けるわけじゃないんでね、用件を教えてくれるか」

「まあ! なんて失礼な!」

「えぇ……」

「下々の民は、私がやりたいと言えば即座に要望を叶えるのが役目でしょう!」

 

 うん、貴族確定だな。こういう言い方をするのはお貴族様って相場が決まってる。

 

「もしかして、私が誰かわからないというの!?」

「いやわからないですが???」

「なんて世間知らずな人なのかしら! この私を知らないだなんて!」

 

 世間知らずなのは否定ができねぇ。

 アルテシアちゃん以外の事については何も知らないからな。なんならアルテシアちゃんの事も秘匿情報が多すぎてあんまり知らない。もっと公開情報出してほしい。

 それはさておき、人違いの線はなさそうだ。じゃあ、どうにかして相手しないと。

 

「それじゃあ、名前を教えてくれるか?」

「人に名前を尋ねるときは自分から名乗るのがマナーでしょ!?」

「いや俺の名前知ってるだろうが!」

 

 駄目だこいつ、話が通じねぇ! とことん自分の道を行くタイプだ。

 話には聞くが、会うのは初めてだ。話が伝わらないのではなく、自分の言いたいことを言い聞きたいことしか聞かないタイプは本当に見たことない。

 

「む、そうでしたね。でも、改めて名乗りなさい!」

「はいはい……俺の名前はタイランだ。で、お嬢さんの名前は?」

「私はメグリテ! 家名は理由あって伏せさせてもらいますが、立派な貴族令嬢でしてよ!」

 

 メグリテ、メグリテ。うん、知らない人確定だ。流石に名前ぐらいは基本的に覚えてる。

 家名があるってことは貴族であることも確定だ。この国では一般人に苗字はない。通名はあることもあるけどな。

 こういう時メグサさんがいるといいんだけどなぁ。名前と顔がわかればその背後関係ぐらいパッと喋ってくれるんだよな。あの人の頭の中には一体どのぐらいの情報が詰まっているんだろうか。

 

「それではタイラン! お前の知っていることを教えなさい!」

「教えなさいって、どれを」

「しらばっくれるではありません! お前が一番詳しいのは周りに聞いて知っているんだから!」

 

 だから、何を……って、俺が一番詳しいってことになっていること?

 そんなの、一つしか思い当たらないぞ。

 

「ひょっとして……アルテシアちゃんについてか?」

「そう、それが聞きたいの!」

 

 な、なんだと?

 貴族の令嬢が、アルテシアちゃんに興味を? これは一体どういうことだ。

 詳しく話を聞いてみる必要がありそうだ。

 

「確かにそれなら俺が一番詳しい自信はあるが、何を聞きたいんだ?」

「全てを!」

 

 す、全て?

 オタクに対して全てを語れと申すか。

 それは、いや、知らないだけだな。うん、自重しよう。よく思いとどまった俺。

 

「いいですか、彼女がどこの者かはわかりませんが、私の方がより優れた芸事を披露できます! ならば、彼女の名声も私がもらうべきなのです!」

「な、なるほど? つまり、君もアイドル志望ってことなのか?」

「アイドル! なるほどそう呼ぶのですね。ただの歌手とは何か違いがあって?」

「多分ない。しいて言えば歌いながら踊るぐらいか」

「お、踊り……いいえ、私にできないことはありません!」

 

 なんかちょっと不安になる子だなぁ。でも、元気があるのはいいことだ。

 アイドルに興味があるってことなら、多分そこまで悪い子ではないだろう。

 

 しかし、少し考えるところではある。

 俺はアルテシアちゃんのファンだ。よって、彼女がナンバーワンであるよう応援しなければならない。

 ライバルの子に対して、色々と教えてあげるのはどうなのだろうか……。

 

 ――いや、俺の知っているアルテシアちゃんは、そんな心の狭い子ではない。やりたいと望む子がいるのであれば、是非と手を差し伸べるぐらいしてみせるはずだ。そのうえで上回る、それでこそアルテシアちゃんなんだ。

 

 これが見当違いで、もしも怒られたら後でごめんなさいしよう。

 許してはくれる……はず! きっと!

 

「わかった。アイドルに興味があるっていうのなら、色々と教えてあげることはできる」

「本当ですね! わかりました、お前を私の相談役にしてやります、喜びなさい!」

 

 元気な声を出しながら近づいてきたと思ったら、おもむろに指差してくる。

 ここまでくるといっそ微笑ましいな。笑顔になってくる。

 これはアイドルの才能か? 愛嬌があるってのはいいな。

 

 実際問題、王女様の依頼は一段落ついたとのことだし、後は冒険者ギルドの人探しの方が残ってるぐらいだ。ストーカー組織潰したときに投降した連中は逐次状況を確認してる。メグサさんが色々働き口を探したりして、真っ当な社会復帰を手伝っている途中だ。特に問題は起こしていない。

 というわけで、ぶっちゃけできることがなくて暇なのだ。最近色々あったから、そう感じるだけかもしれんが。

 

「でも、なんでわざわざ貴族の子女がアイドルなんかに?」

「それを聞きますか……。いいでしょう! 答えて差し上げます」

 

 そこから語られた内容は、なんともまあ反応しにくい物だった。

 隠していたはずの家名は話すわ、お茶会でアルテシアちゃんの噂を聞いて勝手に対抗心燃やすわ、その話をした友達は非公式アルテシアちゃんファンクラブの会員だったわで、新情報が盛りだくさんだ。

 そっかぁ、あの子貴族の子だったかぁ。気づかなかったなぁ。

 

 ここまでくると疑いようがない。

 この子は――ポンコツだ。間違いない、ここまで散々なのに自信満々だと疑いようがなくて逆に怪しくなるレベルでポンコツだ。

 

「――と、言うわけです。何を頭を抱えてらして?」

「いや、すまない。続けてくれ」

 

 頭が痛くなりそうだ。ここにいるということは当然親の許可を取っていると思っていたが、それすらも疑わしくなってくる。

 これ、俺が関わってても大丈夫な奴か? 後で大変なことになったりしないか?

 

「つまり、私は誰よりも目立たなければならないのです! そのためには、アイドル? とやらになれば目立てるでしょう!」

「いや、まあ、それはそうかもしれないが……」

「よって、お前には私を手伝う義務があります! 相談役なのですからね!」

 

 勝手に任命されて勝手に義務付けられてる。

 ここまで強引だといっそ清々しさを感じるな。

 

 ……これは断じて推し変とかではない。

 だが、頑張ろうとしている子を応援しないのも後味が悪い。

 最低限の面倒は見てあげるか……。

 

「しばらくできることもないし……多少なら手伝うか」

「それでよいのです! では、まず何をすべきか教えなさい!」

 

 なんか最近本当に騒がしいなと思ってきた。

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