異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい   作:パンデュ郞

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第5話

「あ~! 緊張した!」

 

 宿に帰ってきて、俺はベッドに背中からダイブする。

 ふんわりとした素材のマットレスが優しく俺の体を包み込んでくれる。こういう時も、高い宿に泊まっていてよかったと思わされる。

 

「……本当に王女様に会ったんだよな」

 

 言葉にしてみるが、実感はない。

 雲の上の人だ。生まれが違う。言葉にしてみれば、幾らでもできる。だから、そういうことではないんだろう。

 

「う~ん。苦労してそうな人だったな」

 

 あの後色々と話をしたが、何かと人に話題を合わせるのが上手い。

 マナーを教えてもらっていたが、俺程度の頭に合わせて言葉にしてくれていたのがよくわかった。聞きなれないであろう言葉を避けて、実例を多用することで想像しやすいようにしてくれる。

 王女様でなければ、教師に向いてると言っていたかもしれない。

 それらもすべて、彼女が培ってきた努力が成せるものなのだと伝わってきた。

 

「なーんか、アルテシアちゃんを彷彿とさせるんだよな」

 

 努力してるところが伝わってくるところとか、細かくこちらの様子を見てくれるところとか。

 俺が好感を持ってるから重ねてるだけかもしれんけど。

 

「ま、王女様が護衛もつけずに町に下りてくるなんてありえないか!」

 

 ちょっと考えてみたけど、あり得ない話だな。

 何より、隠れて英雄様が警護につくぐらい大事にされてるんだ。許されるはずがないだろう。

 騎士ならわかる。英雄だぞ英雄。そんな大それたこと言われてる人物が警護につくんだぞ。それはもう、とんでもない重要視されてるってことよ。

 その英雄様を見てみたい思いはあったけどな。失礼になりそうだから言わなかったけれども。

 

「ともかく、心配してたことが起きず良かった良かった」

 

 本当に良かったのかはわからないが、王女様も楽しそうにしてくれてたし、いいだろ。

 礼儀作法を教えてもらうのは大変ためになった。今後貴族関係で何かがあってもいけるだろう。

 

 いやあ、アルテシアちゃんに貴族相手だろうが何とかして見せるって啖呵切った以上、貴族相手の事も考えないとだったからな。

 無作法な乱暴者の流儀だけじゃ何とかならんこともあるだろう。

 そういう意味じゃ今回王女様とお知り合いになれたのはでかいか? 気は進まないが、いざという時王女様に話を聞いてもらえるかもしれん。

 

 最初はどうなるかと思ったが、強力な縁ができたと前向きに考えよう。

 ……ただ、腑に落ちないところは全然残ってるが。

 

「なんで俺だったんだろうなぁ」

 

 冒険者なら俺以外にもたくさんいる。

 確かに、アルテシアちゃんに貢ぐため、短期で稼げる仕事をこなしていたが。が、だよな。そのぐらいじゃあなぁ。王女様の目につくには弱いと思うんだよなぁ。

 

 腕っぷしは強いという自信ある。でも、知名度は低いと思うんだよな。実際他の冒険者は貴族から指名されて依頼受けてたりするのに、俺はさっぱりそういうのないし。

 不思議なこともあるもんだ。本当に。

 

「ま、悩んでてもしょうがないか」

 

 もしもまた今度縁があれば、今度は色々と聞いてみよう。作法も学んだしな。

 忘れないうちに、少し練習しておこう。

 アルテシアちゃんのファンは貴族にも通じるマナーにも精通していると示せれば、ひょっとしたら彼女のためになるかもしれない。

 

「そんじゃ。今週も彼女のために働きますかねーっと」

 

 ひとしきり一人反省会も終えて、晩飯がまだだったので起き上がる。

 下に下りるか……と思っていると、部屋の扉がノックされた。

 

「はいはい。なんですか?」

 

 さっさと扉を開けると、そこには宿の従業員がいた。

 

「これをお客様へ。お手紙です」

「それはそれは、お疲れ様です」

 

 手紙か。何だろうな。

 ひっくり返すと、そこには最近見た覚えがある封蝋の印――王家の印があった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「……緊張しました!」

「なさってましたねぇ。はい、お茶ですよ」

 

 タイラン様が帰られて、そっと顔布を取ります。

 王族のしきたりとして顔布をしておりましたが、必要なかったでしょうか? タイラン様は私の正体をご存じのはずですし。

 でも、慣習は蔑ろにしてはいけません。お知り合いだからと、手を抜く女と思われては嫌ですから。

 

「姫様、緊張すると所作に出るんですよね。まるで作り物のような動作になっちゃうんですから」

「せ、洗練されたと言ってください!」

 

 仕方がないでしょう!

 所作を間違えてしまえば、王女としての体面に関わります。万が一この程度かと幻滅されてみなさい、今後どのような顔でアルテシアを演じれば良いのですか!

 せっかく守ってくださっているのに、この程度の人物を守っていたのかと幻滅されてしまえば……ああ! 想像もしたくありません。

 ふふふとケイトが笑います。

 

「向こうも緊張なさってたみたいですよ」

「え、ええ。それはわかりました」

「ま、相手がわかっていたとは言えど王宮ですものねぇ。見慣れてない人にとっては緊張しますか」

 

 彼ほどのお方でも、委縮することはあるのだと。少しだけ勇気を貰えた気がします。

 

「しかし、幾ら長い間お話したいからって、本題に入ろうとしたのをはぐらかす人がいますか?」

「そ、それは……確かにそうですけれど」

 

 あまり無駄話を好まない方なのでしょうか。実は、彼の事はまだよくわかっていないのです。

 調べようと思っても、交流を持っている人が少なすぎて。孤高、というものなのでしょうか? あれだけの実力をお持ちなのですから、仕方がないのかもしれませんけれども。

 

「ただ、姫様の事は大事に思ってくれてるみたいでしたね。聞いていたお話の通りでした」

 

 ケイトに肯定されて、少しだけ嬉しく思います。

 もしかしたら、彼は歌手アルテシアにだけ興味があり、王女アルテミシアとは関わりたくないのではないかと考えてしまう――そんなはずはないのですけれど――ときがあるのです。

 

 もちろん、弱い私の弱気な妄想で、直接聞いたわけではありません。

 冒険者の方々は、報酬や名誉を求めて貴族と関わりますが、同時にそれらを疎ましく思う方々もいらっしゃると聞き及んでおりました。タイラン様は違う、と思っていても、つい頭によぎってしまったのです。

 

「そう、ですね。部屋に入ってきた直後、王宮内だというのに刺客が立ち入る隙があるか、周りを見渡してくださってました」

「あれはしびれましたねぇ。陰の守護者様様って感じでしたよ」

「騎士はいないのかとまで尋ねられたのには驚きました」

 

 王宮内で刺客が襲ってくるだなんて、あり得るはずがありませんのに。

 タイラン様にとってはそうではなかったのでしょう。

 

「英雄たるタイラン様本人がいらしているというのに、あそこまで気を張られるだなんて。本当に気を緩めない、常在戦場というものなのでしょうか?」

「もしくは、本当に万全を期したい方なのかもしれませんね」

「あっ、そちらの方がイメージに合いますね。きっとそうでしょう」

 

 それも、私を守るため……そう考えると、本当に騎士のようです。

 いっそのこと、冒険者という身分を捨てて頂いて、近衛に抜擢してしまいましょうか?

 ううん、それも望まれてるとは限りません。勝手な真似をして嫌われたくはありません。

 せっかく今日はいい印象を持っていただけたのに、それを台無しにしては……いい印象を持っていただけましたよね?

 

 マナーをお教えしてましたけれど、鼻につく高慢な女と思われてないでしょうか。

 そっと手を取ってお教えしたタイミングもありましたが、殿方と肌で接触するだなんてふしだらな女だと思われたでしょうか。

 ああ、もっとできたことがあったのでは――。

 

「ほら、姫様。リラックスなさってください」

「で、でも。ケイト……」

「タイラン様もお好きと仰っていたお茶をお飲みください。姫様もお好きでしょう」

「……いただきます」

 

 スッと鼻の奥を撫でるかぐわしい香り。この風味が苦手という方も少なくはありません。お兄様は少なくとも好みでないと仰っていました。

 でも、タイラン様は美味しいと。

 カップの縁を、そろりと指でなぞります。

 

「落ち着きました?」

「はい。ありがとうございます」

「それはようございました」

 

 冷静に考えてみれば、アルテシアの時のことを考えればそのようなことを気になさる方ではないとわかります。

 

「次の招待のため、予定を伺う手紙も出しましたし」

「ですね。今回はタイラン様の方に時期を指定してもらう形にしましたけれど……よろしかったのでしょうか」

 

 この発案はケイトがしたものです。常にこちらが予定を調査して、大丈夫そうなときに予定を入れるのではなく、タイラン様にある程度の日時を決めてもらう。

 そうすることで、段々と馴染ませるのだとか。呼んでも素直に応じてもらえるように。

 

「次こそはタイラン様の真意を尋ねられるといいですねー。楽しいお話に夢中になりすぎず」

「うっ。そ、そうですね」

 

 今回はお話するのが目的になってしまって、本来尋ねるべきことを尋ねられませんでした。

 次、次こそは。ですね。

 誤魔化すように飲んだお茶は、確かに胸の内を温かくしてくれました。

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