異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい   作:パンデュ郞

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第7話

 出てきた依頼は確かに一発で大量に稼げるものだった。

 なんかやたらと見てくる視線がキラキラしてたし、古くからいそうな熟練の受付嬢さんが一緒についてきていたのが気になったけれども。

 

 俺は宿の自室に返って、のんびりその依頼表を眺めている。

 

「ほーん。沼地のバジリスク退治ねぇ」

 

 バジリスクってのは、沼地に住んでるでかい毒蛇だ。危険な魔物なんだが、それが人里付近の沼地にて目撃情報があったらしい。その調査と、できるならば討伐までが依頼の内容だ。もちろん、討伐は追加依頼で、基本的には調査がメインになる。

 

「調査だけで結構な金もらえるな。これなら来週どころかその次のライブも十全に戦えそうだな」

 

 ただ、問題があるとすれば……少しばかり遠いことだ。片道二日かかる。討伐に一日かけるとして、来週のライブまでにはぎりぎりだ。

 ライブの日の朝に戻ってきて、手続きして昼過ぎ。夕方にライブで一応行けるか。

 

「何々? 『このバジリスクは変異個体の可能性あり』?」

 

 なるほど、高額な理由はこれか。調査依頼が出る時点で、かなり接触にリスクがあるのはわかっていたが、変異個体となると初見殺しされる可能性がある。通常の個体と違う生態である可能性が高いからだ。

 ただまあ何とかなるだろう。これまでも何とかしてきたしな。

 バジリスクの討伐経験がないわけじゃない。毒が厄介だが、毒さえ注意すればただのでかい蛇だ。

 

「そうと決まれば、さっそく出発しないとな。……っと、忘れるところだった」

 

 王都から出るのなら、手紙の返事をしないとな。

 王女様から来た、二回目の招待の手紙。その都合のいい日時についてだ。

 

 ううん、どうしたものか。今週はずっとこの依頼をするとして、来週か。

 ライブが終わった次の日とかでいいか? あんまり待たせるのは不敬だよな。仕事があるからって後回しにする時点で不敬かもしれないが、あの王女様はそのぐらい許してくれるだろう。きっと、優しそうだったし。

 

「じゃあ、来週のライブが終わった日。昨日謁見したわけだから、それからちょうど一週間後になるのか」

 

 うん、キリがいいかもしれないな。

 もしかしたら今後ライブの次の日は謁見になるんじゃないかみたいな予感が脳裏をよぎったが、はははまさかな。

 そのうち王女様も飽きるさ。大した話もできないもんな、俺は。

 

 手紙はどうすればいいんだっけ? そうだ、後で王宮の人が回収しに来てくれるんだったな。でも、できればすぐ出発したい。これは宿の人に言伝して、預けるしかないか。

 それも礼儀知らずじゃないか? でも、ライブに間に合わなくなるのは何よりも嫌だ。避けたい。

 

「……うん、預けるしかないな」

 

 出発の事を考えると、待っている余裕はない。

 仕方がない、か。

 手紙の返事として、ギルドで依頼を受けるついでに買ったものを机の上に広げ、文面を考える。

 後回しにするという無礼を働くわけだし、なるべく不快感を与えないようにしたい。

 

「えーと。依頼が重要そうだって書いておくか」

 

 変異種が出たとなれば、嘘じゃない。人里付近となればなおさらだ。大量の犠牲者が出る前になんとかしなければならない。バジリスクは平気で人を餌にする魔物だから、実際急を要する話だ。

 

 依頼の内容ももう具体的に書いておくか。王女様なんだから、国民を救うためとなれば許してくれるに違いない。

 予定では来週に戻る予定なので、戻ってきた日は休息を取らせてもらうという名目で。その次の日ということに。

 

 よし、これで真っ当な理由が出来上がったぞ。

 いやあ、王女様が国民の事を何とも思ってなさそうな暴君じゃなくて良かった。おかげでアルテシアちゃんのために働くことができる。

 機会があれば王女様のために働いてもいいが、アルテシアちゃんの方が優先度が高い。どちらかを選べと言われたらアルテシアちゃんだ。王女様はいい人っぽいし苦労してそうだから、余裕があれば助けてあげたいぐらいには思っているが、それはそれ。

 

「よし、それじゃあこれは出発の時に宿の人に渡すとして、バジリスク退治のための準備をしますか」

 

 変異種退治なんて久しぶりだ。気を引き締めないとな。

 怪我なんてしてライブに参加したら、アルテシアちゃんに心配をかけてしまう。そうならないように、万全な状態、五体満足で帰ってくるのは必須条件だ。

 何より、アルテシアちゃんのファンは、変異種退治なんて簡単にこなせるんだというところを見せつけてやらねばならない。そうすれば、他の人たちにもいかにアルテシアちゃんは素晴らしい人なのかが伝わることだろう。

 ファンの立ち居振る舞い一つ一つが、アイドル本人の格に繋がるのだ。

 

「よし、書けたな。……字きったな。王女様に幻滅されないかなこれ」

 

 書けた手紙を見直すと、文字の汚さが目に付く。高貴な方に見せる手紙がこんな字でいいんだろうか? 代筆人とか探してみるか? できればアルテシアちゃん以外に金は使いたくないんだけれど、王女様に無礼を働いたうえで俺がアルテシアちゃんのファンだってバレて見ろ。彼女の評判は地に落ちる。

 

「不慣れなもので申し訳ありませんって謝罪の文章入れとこ……」

 

 できることはやっておこうの精神で一文付け加える。

 それじゃあ、これは宿の人に渡して、もう出発するとするか。普段から遠出はできるように、準備はまとめてあるからな。

 よし、それじゃあ行くか! 来週のライブが今から楽しみだぜ!

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「姫様~。愛しの守護者様から返事が戻ってきたそうですよ」

「そういうのではありませんから! もう、見せてください」

「はいはい。一応チェックはしてますからね」

 

 ケイトのいつもの軽口を聞きながら、そっと手紙を受け取ります。

 検閲が入るのは仕方がありません。私はこの国の王女なのですから。例え信頼できる相手であっても、誰かがすり替えている可能性を考えればこそ。仮に呪詛を貰えば、それを口実に王家を陥れる者は必ず現れます。

 

「……ライブの次の日ですか」

「またですよね。ただ、遠出されるみたいですよ」

「はい、理由として記載されてますね。変異種のバジリスク退治ですか!?」

 

 はしたなく声を上げてしまいましたが、驚くなという方が無理な話でしょう。

 バジリスクといえば、村の一つや二つであれば当然のように滅ぼせる強大な魔物です。騎士団一個中隊で退治に向かうのが一般的。魔物退治に慣れてらっしゃる冒険者の方々も、その危険度から上位の方々でさえ入念な準備を欠かさないだとか。

 

 それが変異種ですか。変異種とは特殊な個体で、通常よりも危険な場合が殆どです。

 例えば、一般的な魔物であるホーンラビットであれば、その変異種は角の強度が上がり強固な防具も容易に貫通するようになるだとか。通常は木ぐらいであれば刺さりますが、金属には弾かれる程度の強度しかないとの事。

 

 ただでさえ危険なバジリスクの、更に危険な変異個体。これは、幾らタイラン様でも簡単にはいかないでしょう。

 

「それで、タイラン様はどれ程のお仲間を連れて出発されたんですか?」

「一人だそうですよ」

「え?」

「はい、お一人で出発されたそうです。門兵に聞きました」

 

 ひ、一人でですか? まさか、お一人で何とかできる自信があると?

 思わず手紙を読み返します。調査とかではないですよね? 討伐って書いてありますよね? お一人で、変異種のバジリスクを討伐されるおつもりなのですか?

 

「……ケイト」

「はい、何でしょう姫様」

「私の記憶が正しければ、タイラン様が向かわれる先、早くとも片道二日はかかりますよね?」

「そうですね。乗合馬車なら片道四日。単独の馬で片道二日ぐらいでしょうか」

「次のライブの日には戻ってくる予定と書かれてますよね?」

「そうですね。五日後ですね」

「……一日で調査、捜索、討伐を終えるおつもりなのですかっ!?」

 

 あの方がとてもお強いのは存じております。ええ、存じておりますとも。

 武勇は守護者様としての働きで大変よくわかっております。ですが、それは人間相手。魔物相手はまた別でしょう!?

 

「冒険者ギルドは何をやってるんですか!?」

「大丈夫だって判断したんでしょうね」

「確かに難しい依頼は過去に何度も解決していたのは存じておりますが、にしても今回の依頼は頭一つ抜けてるでしょう」

 

 心配です。とても心配です。

 もしも次のライブの時に大怪我負ってらしたらどうしましょう。それどころか、姿が見えなければ万が一ということもあるでしょう。

 

 もしかして私との次の面会を先延ばしにするためにこんな無茶な依頼を受けたのではないでしょうか。もしそうだとすれば、私のせいで彼を危険な目に遭わせてることになります。そうとなれば、大変申し訳がありません!

 やはり最初にきちんと決めるべきでした。私が緊張や浮かれてしまっていたせいでこんなことになってしまっただなんて……。

 

「落ち着きましょう姫様。そんな慌てなくても大丈夫ですよ」

「で、ですが……」

「姫様が今思ってることではないと思いますよ。多分」

「……本当に?」

「本当です本当です。ほら、手紙の末尾をよく見てください」

 

 末尾……?

 そこには、“手紙を書くのは不慣れで申し訳ありません。今回は時間がなく直筆で失礼いたしましたが、次回からはご不快に思われないように代筆人に任せたいと思います”と書かれていました。

 

「次回からは、って書いてあるじゃないですか。つまり、タイラン様は別に手紙のやり取りだとか、姫様とお会いするのが嫌ってわけじゃないってことですよ」

「そう、ですか。よかった……」

 

 そう、ですよね。こんな風に書いてくださるということは、先の事を考えてらっしゃるということですものね。

 ならば、私にできるのは信じて待つことでしょうか。

 どうか、ご武運を。生きて帰ってきてください……っ!

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