異世界でドルオタしてる俺氏、知らんところで救国の英雄扱いされているらしい   作:パンデュ郞

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第8話

「いやー! 久しぶりの遠出でワクワクするな~!」

 

 俺は馬を借りて、街道を走らせている。この馬はもはや慣れ親しんだ仲で、とある縁から王都の貸し馬屋に行くと必ずこいつを選んでいる。

 久しぶりに乗るけれど、やっぱ楽しいな。馬はいいよな、愛嬌がある。

 

「よーしよしよし。お前も走れて楽しいか?」

 

 走りながら馬が嘶く。お前も気持ちよさそうだな。

 こんなやり取りをもう二日やってる。そろそろ目的地に着く頃合いだ。

 街道で出会った人々の手助けをしつつアルテシアちゃんの布教をしてたから、もうちょっと時間かかるかと思ってたが。

 

「お前のおかげだな。本当に優秀な馬だよお前は」

 

 俺の問いかけに答えるように鳴く。本当に賢いなお前な。

 

 さて、目的地の沼地に行くか、先に近場の村によるかだが、村に寄ってからにしよう。

 この馬を連れて行くわけにはいかないからな。村に預けて、そっから沼地に歩いて行こう。そんな距離はないはずだ。だから危険なんだけどな。

 まあ、今日中には片付くだろう。

 

「おっ。もう見えたな」

 

 村の入り口が見えた。

 村の周囲は木の杭で囲まれ、簡易的な防壁が建てられている。その中にある門の前まで移動して、俺は中にいるであろう人へ呼びかけた。

 

「バジリスク調査と討伐の依頼を受けた冒険者だ! 中に入れてくれ!」

「……名はっ!」

「タイランだ! 王都の冒険者ギルドよりやってきた!」

 

 返答を終えると、少しの間をおいて門が開き始めた。

 いや、物見やぐらから俺一人であることを確認してたな。盗賊被害でも出てるのか?

 ここまで所々休みながら馬を走らせてきたけれど、そんな気配はなかったがな。

 ぱっと見で俺は丸腰の男。襲うだけのメリットもないと判断されたとかか?

 それも後で聞いてみるか。困っているなら助けてやらないとだからな。

 

 門が開き、中から杖を突いた老人が二人の青年に挟まれながら出てくる。

 この人が村長かな? かなりのご高齢のようだ、珍しい。この世界の平均寿命はそんな長くないはずなんだが。

 若干痩せて見えるのは村が貧しいからか、それとも……。

 

「よくおいでくださいました。まずはゆっくりと休まれますか?」

「いや、この馬を預けたらすぐにでも沼地に出発する予定ですね。簡単に状況だけ説明してくれません? 一刻も早く終わらせたいんで」

「なんと……っ!」

 

 一刻も早く終わらせて、アルテシアちゃんのライブの準備をしたい。

 村で休んでいる余裕があるなら、王都まで頑張って帰った後に休むさ。それだけの理由で急いでいる。

 ん、なんか三人は凄い驚いてるな。何だろう。ああ、休まずに動いて大丈夫なのかって心配してるんかな?

 

「ま、心配しないでくださいよ。鍛えてますから!」

 

 場の空気を和ませるように、軽くおちゃらけながら答えてみせる。

 あら、ちょっと不安そうな表情になってしまった。失敗したな。

 しょうがない。早々に討伐して安心させてあげよう。

 青年たちはお互いに一度視線を合わせ、老人は息を長く吐く。その後、話し始めてくれた。

 

「最初に黒い影を見たというのは、こいつです」

「はい、俺が見ました。沼地で、薬草の採取してた時に、ぬるっと動くでかい影が遠くに見えたんです」

「それがバジリスクだと?」

「ええ。普段はもっと奥地にいて、俺たちが行くようなところには出ないんですが……」

 

 なるほど。そら調査として出てくるわけだ。

 じゃあ、変異個体かもしれないって話はどこから来たんだ?

 

「それで、その、後になって一応調べてみたら、やっぱバジリスクの通った跡っぽいんですけど、所々に黒色のヘドロが落ちてたんです」

「黒色、ですか」

 

 バジリスクの毒液だとすれば、通常は紫色だ。黒色の毒を吐くバジリスクは知らんなぁ。前殴り飛ばしたのも紫色の毒液出す個体だったし。

 毒で何かが腐食させられた可能性はあるか? だとしたら点在してる理由がわからんか。

 

「ま、それだけ分かれば十分です。黒に気をつけろってだけで随分と違う」

「ほんとに行く気なんですか!? その、お一人ですよね?」

 

 なんだ、心配してくれるのか。珍しいな。

 冒険者なんて使い捨ての駒程度に思ってるだろうに。

 ああ、失敗すれば変わらず危険に脅かされるからか。一回死人が出たとなれば、冒険者ギルドも慎重になる。時間がかかればかかるほど、危険に脅かされるのは村の人だ。

 

 ま、失敗しないけどな。失敗したらアルテシアちゃんの名誉に傷がつく。

 俺に許される道は成功だけだ。

 

「ま、そいつの事をよろしくお願いしますよ」

 

 そう言って馬を預けて、村の中には入らずに俺は沼地へと向かった。

 俺が離れた後、何か話している様子だったが、まあ気にしない。冒険者なんてそんなもんだ。所詮は荒くれものの日雇い職よ。

 

 さてさて、沼地にやってきた。

 俺の装備はいつも通り。というのも、雨の日でも対応できるように普段から耐水装備だからだ。いつなんどきでも対応できるように、金を使って最善の装備を整えている。

 とはいっても、服とかだけどな。武器は才能がなかったから持たない。俺が頼るのは、己の拳だけだ。

 

 ……かっこつけてはみたけど、前に剣を持ったらお前は間違いなく敵以外も切り殺すから二度と持つなって怒られたんだけなんだよなぁ。この体は運動神経はいいが武器を扱う才能はなかったらしい。なくても何とかなってるからいいけど。

 

「さてさて、進んでみますか」

 

 バジリスクは縄張り意識が強い魔物だ。土足で縄張りを踏み荒らされれば、向こうからやってきてくれる。

 普通の蛇もそうなんだっけ? 詳しくないから知らんけど。

 

「……ふむ、確かにちょっと腐臭がするな」

 

 沼地全体に少しばかりひりついた空気が広がっている。

 確かにこれはなんかあるな。

 

「人里近くに下りてきたってのになんか関係があるのかねぇ」

 

 バジリスクは確かに人も襲うし、大の大人を一飲みにできるぐらいにでかいが、案外臆病な生物でもあるんだ。

 縄張り意識が強いとさっき言ったが、実態は縄張りの中に閉じこもって出てこない生物だ。稀に餌が枯渇すると移動するらしいが、滅多に起きない。

 

 意外と博識だろ? アルテシアちゃんのファンとして、あんまり無知でもいられないと思って冒険者ギルドで金払って情報手に入れてるんだよ。金を払うと図鑑を貸してくれるんだ。それで勉強した。

 何が言いたいのかっていうと、これまで姿がなかったのに、急にバジリスクが現れるのはおかしいってことだ。

 

「……黒いヘドロ、これか」

 

 しばらく沼地を進むと、話に出ていた黒いヘドロを見つけた。

 若干湯気が出てるな。いかにも触れたら危なそうだ。

 試しにそこらの植物をむしって黒いヘドロへ放り投げてみる。あっ、瞬く間に黒ずんで溶け切った。こりゃだめだ。浴びたら死ぬ。

 

「普通のバジリスクの毒はもうちょいマシなんだけどなぁ。やっぱ依頼通り変異種で間違いなさそうだな」

 

 調査依頼ってことで、後は姿さえ拝めばもう帰ってもいいんだけど……あの村人たち、少し痩せこけてたな。

 アルテシアちゃんがこの惨状を知ればどう思うだろうか。間違いなく心を痛めるだろう。あの子はそういう優しい子だ。

 ならば、ファンである俺も放っておくわけにはいくまい。予定通り、討伐の方向で行こう。

 

「問題は、どっちに進んだかわからないってことだよなぁ」

 

 蛇だから、通った道は胴体を擦った線みたいな移動跡が残されている。だが、どっちが前でどっちが後ろかなんて俺にはわからん。

 

「ま、進んでけば出会えるだろ」

 

 これも予定通り、奥へ進めば縄張りに入った邪魔者か獲物かに飛びついてくるはずだ。

 ……ほうら、さっそくお出ましだ。

 

 遠くから何かを引きずる音が聞こえる。ばしゃりばしゃりと沼地の水が跳ねる音も響き渡る。

 遠目にでもわかる黒い巨大な体躯。少し鎌首をもたげただけで、俺の身長の倍の高さから見下ろしてくる怪物――バジリスクだ。

 

「見た目も普通のと違うな。なんだあの額の石」

 

 通常のバジリスクはマジでただのでかい蛇って見た目なんだが、こいつは違う。ちょうど額に当たるであろう部分に黒い石のようなものが埋め込まれている、のか? 自然に成長したと思うとちょっと痛そうだ。

 若干の黒い靄も石から出ている。なるほど、あの石が悪さして黒いヘドロになってそうだな。

 

「見るからに危なそうだが……ここで引いてはファン失格さ。どんとこい」

 

 軽く腕を動かして、俺は目の前の怪物退治へ向けて、一歩を踏み出した。

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