Soulbound Chronicle   作:「」

1 / 6
第一節 出会い

風が強い日だった。

市場の喧騒が、石畳に乱れて吹きつける塵と共に舞い、色とりどりのテント布が大きく波打っていた。

わたくし――アスター・エルミナは、学術都市の端にあるエルダーグローヴで偶然その少年と出会った。

 

いや、偶然ではないのかもしれない。

出会うべくして、わたくしと彼はそこに居合わせたのだ。

 

「おい、そこの! 払えないなら置いていけ!」

 

声がする方を振り返ると、一人の少年が果物屋の主に腕をつかまれていた。

その銀髪の少年は、背はわたくしより少し低い程度。

けれど、身体の動きには野生の勘が光っていた。

 

「ちょっと見ただけだって! まだ触ってもないじゃん!」

 

「その目つきが怪しいんだよ!」

 

荒れる大人と、引かない少年。

わたくしは呆れたように微笑みながら、その間に歩み寄った。

 

「そこのお二人、少し落ち着いてくださいませんか?」

 

一言。

わたくしが口を開いただけで、果物屋の男の表情がピクリと引きつる。

 

「ひ、ひぃ…ア、アスター様……!」

 

「あら、わたくしのことをご存知でしたか?」

 

「い、いえっ、もちろんです! 何でもない誤解です、はいっ今すぐ手を引きますから!」

 

彼は汗を噴き出しながら、少年の腕を放した。

当然である。 学園を主席で卒業し、城下で名の知れた魔術師――それが、わたくしなのだから。

 

「……助かった」

 

少年がぽつりと呟いたその声が、意外と低くてわたくしは少し驚いた。

まだ幼さの残る顔立ちだったのに、その声音は、どこか深く沈んでいて。

 

「礼を言うべきは、そちらではなくわたくしのほうかもしれません。 見ていて実に面白い交渉術でしたもの」

 

「……えっと……」

 

わたくしの冗談を理解しかねたのか、彼は困ったように眉を寄せた。

その表情が、どこか愛嬌に満ちていて、わたくしは自然と口元を緩める。

 

「お名前は?」

 

「アヤセ。 アヤセ・ナイトシェイド」

 

「アヤセ…うん…いい響きですね。 わたくしはアスター・エルミナ。今は自由の旅をしている者です」

 

「……知ってる」

 

「え?」

 

「魔法学園の主席卒業生。 炎属性の魔法に関しては、国内最高評価。 それでいて、旅に出た理由が幸せのための魔法っていう……変わり者」

 

わたくしは一瞬、返す言葉を失った。

彼の口調には嘲りや揶揄はなく、真っ直ぐな敬意と興味に……少しの憧れが滲んでいた。

 

「ふふ、ずいぶん詳しいのですね」

 

「まあ、調べたっていうか……前から、気になってたから」

 

その瞬間、彼の目がわたくしを見た。

真剣な、少年には似つかわしくないほどまっすぐな眼差しだった。

不意に心が揺れた。 これは一目惚れ――いえ、もっと違う。

これは、直感。 運命のようなものが、確かにそこにあった。

 

「アスターさん」

 

呼ばれた名前に、胸が少しだけ高鳴る。

 

「俺……トレジャーハンターやっててさ、今、仲間を探してるんだ。 誰かと旅したくて、でもどうしても、相手が見つからなくて……でも、今思ったんだ。 アスターさんが、仲間になってくれたら、きっと全部うまくいくって」

 

(……何を言っているの、この子は)

 

そう思うはずだった。

けれど、わたくしの心は……拒絶ではなく、熱を帯びていた。

 

「……いいですよ」

 

「え?」

 

「同行者としての適性を、これから判断します。 その結果次第では、あなたの申し出を考えてもいい」

 

アヤセは一拍遅れて、それから満面の笑みを浮かべた。

少年らしい無邪気な笑顔。

でもその笑顔の奥に――どこか、大人びた覚悟の影があることを、わたくしは感じ取っていた。

 

「じゃあ……よろしくお願いします、アスターさん!」

 

「ええ、アヤセくん。 よろしくお願いします」

 

この出会いが、わたくしに何をもたらすのか。

まだ、それは分からない。 けれど、確かにひとつだけ──

 

この旅は、わたくしにとっても、きっと特別なものになる。




アヤセ 年齢15歳
アスター 年齢22歳
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。