Soulbound Chronicle   作:「」

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迷いの森と開かれし道

陽は高く昇り、草原の道を抜ける頃には街の鐘の音も聴こえなくなっていた。

左に進めば「エメラルドの森」右は「オークの村」と古びた看板が木に括りつけられている。

アヤセくんは迷わず左を指さした。

 

「こっちだな。 あえて危ない方を選ぶのが冒険者ってもんだろ?」

 

「ふふ、たしかにそうですね? けれど、あえてと言いながら自然に危ない道を選ぶのは、少し天然かもしれませんよ?」

 

「あれ、それ褒めてない?」

 

「……どうでしょう?」

 

わたくしは微笑みながら、少しだけ彼の袖を引いた。

そうやって肩が触れ合うくらいの距離になると、彼はほんのわずかに耳を赤らめる。

でも離れたりはしない。

 

わたくしも、そうしなかった。

 

森の入口は、まるで世界が変わったかのような静けさに包まれていた。

木々は太く、枝は上空で編まれた屋根のようになって陽を遮り、足元には靄が漂っている。

空気は湿っていて、息を吸い込むと、草と魔力の匂いが胸に刺さる。

 

「ここが迷いの霧……」

 

「手を離すとすぐはぐれそうだなー」

 

「じゃあ……そうしましょう」

 

わたくしは、ふいに彼の手を取った。

彼は驚いた顔をしたけれど、すぐに握り返してくれる。

 

「……アスターさんの手…柔らかいね」

 

「……あなたの手もあたたかいです」

 

照れ隠しのように、わたくしは杖を取り出して呪文を唱える。

 

「《光の道標〈ルクス・ガイド〉》」

 

杖の先から、青白い光の珠が生まれ、ゆっくりと前へ進んでいく。

わたくしたちはそれを追うように歩き出した。

 

「この魔法、まるで灯台みたいだな」

 

「ええ、道を照らしてくれるだけでなく、意識が“最も望む方向”へ導く性質を持っているんです。 ……だから、光が導く方が、わたくしたちの答えなのかもしれません」

 

「俺が望む方向……」

 

彼は、わたくしの顔をじっと見つめた。

その視線が、心に触れるように感じられて、思わずわたくしは前を向いてしまった。

 

「……そ、それより、しっかり歩かないと転んでしまいますよ」

 

「そういうアスターさんが一番転びそうなんだけどな……」

 

「……それは、つまりわたくしがドジだと?」

 

「いや……可愛いなって」

 

「……っ!」

 

反論の言葉が出てこなかった。

そのまま、わたくしたちは手を繋いで、森の奥へ進み続ける。

不思議と、霧の中でも心細くなかった。

 

やがて、霧が晴れた先に、巨大な岩の扉が現れた。

樹木に覆われ、苔むしていたが、扉の表面には明らかに人工的な魔法陣が刻まれている。

 

「これは……封印魔法! 間違いありません」

 

「アスターさんなら開けられる?」

 

「ええ、ですが少し時間がかかりますね。 アヤセくんは、後ろで見張りをお願いできますか?」

 

「任せてよ。 背中は俺が守るから」

 

その言葉に、わたくしの胸がまた温かくなる。

 

わたくしは魔導書を開き、詠唱を開始した。

古代ルーンで構成された魔法陣が、ゆっくりと空中に浮かび上がっていく。

 

「アル・フェア・クリス・テオル……」

 

風が止まり、空気が重くなる。

封印が、こちらの介入を拒むかのように振動している。

 

「アスターさん、後ろに……!」

 

アヤセくんの声と同時に木の陰から黒い影が現れた。

狼、いや、魔力で変質した“影狼”だ。

わたくしは動けない。 詠唱を中断すれば、すべてが無に帰す。

 

「じゃまをするな!!」

 

アヤセくんが飛び出し、剣を抜いた。

小柄な身体が宙を舞い、影狼の鼻先に剣を突きつける。

威嚇だけではなかった。 あの一撃は彼の守るための牙だ。

 

「グアアアアアァァ!!」

 

その叫びと同時に、扉が開いた。

アヤセくんがわたくしの手を取り、扉の中へ飛び込む。

 

閉ざされた扉の奥、静寂が訪れる。

 

「……間に合いましたね」

 

「うん……ていうか、俺の叫び、ちょっとかっこよくなかった?」

 

「ふふ……かっこよかったですよ。 とても、野性的で」

 

「本当!? ギャオスって感じじゃなかった?  怪獣っぽくない?」

 

「それは、次回にとっておきましょうか。 次に叫ぶときは、ぜひ技名にアスターという名を叫んでくださいね」

 

「……えっ、名前呼び……あの……ちょっと、もう一回それ言って」

 

「ア・ヤ・セ・くん」

 

「やばい……鼻血出そう……」

 

「こら、アヤセくん。 魔法で鼻血を止めるのも、わたくしの仕事になってしまいますよ?」

 

わたくしは彼の額を軽くつつく。

その笑顔は、わたくしの目的を忘れさせるほどまぶしかった。

 

──この旅路は魔法よりも不思議な奇跡が待っている気がしてならなかった。

 

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