Soulbound Chronicle   作:「」

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願いの余韻と約束

空間に満ちていた魔力が、少しずつ収束していく。

まるで、大きな呼吸が終わったあとの静けさ。

破壊されたクリスタルは、粉のように空気へ溶けて天井の高みに吸い込まれていった。

 

わたくしは、彼の手を強く握ったまま微かに揺れる図書の柱を見上げた。

 

「……終わったのでしょうか」

 

「うん。 ……なんか、胸が軽くなった気がする」

 

「本当に、全部……あなたが願ったものは、わたくしだったのですね」

 

彼は、少し照れたように視線を逸らした。

その仕草が、子どものようで、同時に、とてもまっすぐだった。

 

「だって……出会ってから、ずっと。 アスターさんの言葉とか、歩く後ろ姿とか、魔法を使うときの真剣な顔とか……たまにある無防備なとことか――」

 

ちょっと待ってください? 今何か聞き捨てならない言葉が混じってませんでした?

そう思いながらもアヤセくんは語りだす。

 

「ひとつひとつがどんどん心に溜まってった。 気づいたら、いなくなってほしくないって思ってたんだ」

 

「……ああ、もうアヤセくんは」

 

わたくしは、彼の手を引いて、自分の額をそっと彼の肩に預けた。

 

「そういうことを、真顔で言わないでください。 ……でっかく反則です」

 

「ごめんね……でも、言わなかったら後悔する気がしたから」

 

「……うれしいです。 ほんとうに」

 

わたくしはそっと、彼の胸の音に耳を澄ます。

規則正しく、けれど少し早く打つその音が、まぎれもなく恋の証に思えた。

まさかこんな年下の子に恋をするとか少し前なら思わなかったはずだ。

 

クリスタルの中心に、最後にひとつだけ淡く光る欠片が残っていた。

その光を見て、アヤセくんが小さく呟いた。

 

「……ねえ、アスターさん。これ、最後に願いをひとつ叶えてくれるって言ってたけどさ……」

 

「はい?」

 

「俺さ……もう、欲しいもの手に入ってるんだよ。

 だから、もし叶うなら──自壊してくれってそう願った」

 

「……っ」

 

心の奥が、ぎゅうっと音を立てて締めつけられる。

 

「本当に……それが、あなたの願いだったのですね」

 

「うん。 だってさ、アスターさんが隣にいる。 それだけで、俺には十分だよ」

 

──わたくしの目尻に、またひとすじ熱い雫が落ちる。

 

「……アヤセくん……あなたは、ほんとうに」

 

「ねえ、アスターさん。 俺、もう一つだけ欲を言ってもいい?」

 

「なんでしょうか」

 

「街に戻ったらさデートしよう?」

 

その言葉に、わたくしは固まった。

 

「……デ、デート……ですか?」

 

「うん、ちゃんとしたやつ。 朝から夕方まで、お弁当作って公園行って寄り道して、あの……手とかつないで……」

 

「手だけ、ですか?」

 

「……え?」

 

「ふふ。 冗談です」

 

わたくしは、赤くなった頬を隠すように笑いながら彼の手を握り直す。

 

「ええ。 ……ぜひ、行きましょう。

 わたくしもアヤセくんと……恋人らしい一日を過ごしてみたいです」

 

「……ほんとに? いいの?」

 

「わたくしの最も欲しいものも……きっと、アヤセくんだったのだと思います」

 

……うわあ……これもう完全に恋だな。 あらためて自覚する。

そして彼はぽりぽりと頬を掻いて、わたくしの前髪にそっと指を伸ばした。

 

「髪、ちょっとだけ目にかかってるよ」

 

「……触っても、いいですよ?」

 

「……えっ」

 

「あなたの指なら、傷つくことはないと、わたくしの心が言っていますから」

 

アヤセくんの指先が、わたくしの前髪をそっとなぞる。

その感触に、少しだけ目を閉じた。

 

図書館を後にする道すがら、ふたりで手をつなぎながら歩く。

かつての浮遊階段も、もう怖くなかった。

ただ、彼の横顔を見ながら歩けるだけで、地上がどれほど遠くても、怖くない。

 

白い光が差し、空がひらける。

遠くに街の尖塔が見え、鐘の音がかすかに届いてきた。

 

「アヤセくん……これから、どこへ行きましょうか?」

 

彼は立ち止まり、わたくしの手を握りなおす。

 

「まずは、デートだろ?」

 

その言葉に、わたくしの頬はまた熱くなった。

 

「……はい。 楽しみにしていますね」

 

わたしたちの冒険は、一度終わりを迎えた。

けれど、それは始まりでもあった。

ふたりだけの旅路の最初の章が終わり、次のページが今めくられようとしている。

 

──そう信じて、わたくしはアヤセくんの手をもう一度強く握りしめました。

 

 

 

 

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