唐突ですが最近聞いたTHE BACK HORNの「罠」がクリスのこれまでにピッタリすぎなことに気づきました。ぜひ、みなさんも聞いてください。
過去から今へのあなたに
真夜中の闇を切り裂いて、鉄の塊がひた走る。
乗客用の窓も、柔らかなシートもない。無機質な鋼鉄で囲まれた閉鎖空間――在日米軍基地へと向かう軍用列車。その内部で、一人の少女が静かに目を閉じていた。
雪音クリス。
彼女は硬質なベンチに腰掛け、規則的な振動に身を任せながら、思考を巡らせていた。隣では、今回の護衛対象である『ソロモンの杖』を収めたジュラルミンケースを抱えた男――ドクター・ウェルが、静かに佇んでいる。
(……何事もなければ、すぐに終わる)
クリスは自身にそう言い聞かせていた。これは、特異災害対策機動部二課の一員として、彼女に正式に割り振られた任務。フィーネとの戦いを経て、多くのものを得た。かけがえのない仲間、そして『コモド』という名の温かい帰る場所。あの優しい青年に救い上げられた日から、彼女の世界は色を取り戻した。だからこそ、この任務を完璧にこなし、胸を張ってあの場所へ帰らなくてはならない。その決意が、彼女の背筋を伸ばしていた。
その、刹那だった。
鼓膜を突き破るような轟音。車体が大きく軋み、まるで巨人に蹴り飛ばされたかのような、暴力的な衝撃が襲う。
『警告! 外部よりエネルギー反応を検知!』
けたたましいアラートが鳴り響き、車内が瞬く間に赤色の非常灯で染め上げられた。乗車していた軍のオペレーターが、悲鳴に近い声で報告を上げる。
「ノイズです! 多数のノイズが列車を襲撃!」
壁面のモニターが一斉に点灯し、おびただしい数のノイズが列車に群がる地獄絵図を映し出した。だが、クリスの目は別のものを捉えていた。ノイズの動きは無秩序な破壊衝動によるものではない。先頭車両の連結部、後方の動力部。的確に列車の機能を奪おうとする、明確な『意志』を持った動きだ。
(……人為的、か)
脳裏に、かつての自分の所業が嫌でも蘇る。フィーネの手駒として、この忌々しいノイズを操り、奏や翼に牙を剥いた日のことが。この統率の取れた動きは、あたし自身がよく知る戦術そのものだった。
そして、敵の目的は明白だ。
(ソロモンの杖……!)
ウェル博士が抱えるケースに視線を送る。完全聖遺物。その強大な力を求め、何者かがこの列車を襲撃した。まるで、ネフシュタンの鎧を求めていた頃のあたし自身を見ているようで、ずきりと胸の奥が痛んだ。苦いものがこみ上げてくる。
……だけど。
(だからこそ、あたしがやらなくちゃいけないんだ)
過去の過ちから目を逸らすな。あの時のあたしを止めてくれた人たちがいる。絶望の淵から救い出してくれた、たった一人の優しい男がいる。もう、あたしは一人じゃない。
「おい、博士」
あたしは立ち上がり、ウェルに向かって静かに告げた。
「ここはあたしに任せな。あんたは部隊の連中と、絶対にその杖を手放すなよ」
「君一人でどうするというんだね?」
「どうするもこうするもねえよ。――全部、ぶっ飛ばすだけだ!」
返事も聞かず、あたしは車両のハッチを開け、吹き荒れる夜風の中に身を躍らせた。風が頬を叩く。眼下には、蠢くノイズの群れ。あたしは胸に手を当て、聖遺物を起動させるためのトリガーを引く。あたしだけの歌を、あたしだけの力を、この夜に響かせるために。
Killter Ichaival tron
聖詠が、決意と共に闇に溶ける。迸る光の粒子があたしの身体を包み込み、大部分を赤と白を基調とした戦衣――シンフォギア『イチイバル』が顕現する。
「MEGA DETH PARTYッ!」
背中のウイングを展開し、無数のミサイルポッドを解放する。狙いは、列車に群がるノイズ共。
「届け、あたしの歌ッ!」
腰部アーマーから小型ミサイルを一斉に発射された超高速のミサイルの雨は、ホーミングレーザーのように正確な軌道を描き、ノイズの一群に着弾した。爆炎と閃光が夜を焦がし、ノイズはなすすべもなく炭化していく。イチイバルの殲滅能力は、二課の中でもトップクラスだ。今の、優斗の料理のおかげで更に高まったシンフォギアとの親和性をもってすれば、この程度の数、物の数じゃない。
あたしは天を舞い、次々とミサイルと弾丸を撃ち込んでいく。蹂躙。まさしくその言葉が相応しい、一方的な展開。
だが、心のどこかは冷静だった。これは始まりに過ぎない。このノイズを操っている『誰か』が、必ずどこかにいる。
これは、過去を乗り越えようとする雪音クリスの、孤独で、けれど孤独ではない戦いの幕開けだった。
僕、新城優斗は全く別の場所にいた。
夜だというのに、昼間のような熱気と光に満ちた巨大なアリーナ。無数のサイリウムが星屑のように揺れ、ファンの絶叫にも似た歓声が地鳴りのように響き渡っている。
ここは、今をときめくトップアーティスト、ツヴァイウィングの二人――天羽奏ちゃんと風鳴翼ちゃん。そして、最近彗星の如く現れ、その圧倒的な実力で音楽シーンの頂点に駆け上がった超新星、マリア・カデンツァヴナ・イヴさん。その三人が共演する、夢のコラボイベント『QUEENS of MUSIC』の会場だった。
「うわーっ! すごいね未来! ステージめっちゃ見えるよ!」
「そうね、響! 優斗さん、これも全部奏さんたちのおかげですよ!」
僕の隣で、親友の立花響ちゃんと小日向未来ちゃんが興奮気味に声を上げる。彼女たちの友人である、安藤創世ちゃん、寺島詩織ちゃん、板場弓美ちゃんの三人も、初めて見る大舞台の迫力に目を輝かせていた。僕たちが奏ちゃんたちと親しいおかげで、関係者用の特等席からこのライブを観覧することができていた。
「クリスちゃん、本当に間に合うのかな……」
未来ちゃんが、少しだけ心配そうな顔で僕に尋ねる。クリスちゃんは二課の任務で、今日のライブには少し遅れて参加する予定になっていた。
「うん、さっき弦十郎さんから連絡があったんだ。少しトラブルはあったみたいだけど、無事に任務は終わって、今こっちに向かってるって。だから、きっと大丈夫だよ」
「よかったぁ……!」
僕の言葉に、未来ちゃんは心底ほっとしたように胸を撫で下ろした。彼女は本当に優しい。クリスちゃんのことも、本当の友達として大切に思ってくれているのが伝わってくる。
皆がステージに夢中になっている中、僕はおもむろに席を立った。
「あれ、お兄ちゃん、どこ行くの?」
僕が立ち上がったことに気づいた響ちゃんが、不思議そうに首を傾げる。僕は、足元に置いていた紙製のボックスを手に取った。
「ちょっと、頑張ってる人たちの応援にね」
にこりと笑ってそう言うと、僕は一人、控え室へと向かった。
会場の喧騒が嘘のように静かなバックステージ。その一室、ツヴァイウィングの控え室では、奏と翼が本番前の程よい緊張感を漂わせながらも、リラックスした様子で談笑していた。傍らには、彼女たちのマネージャー兼二課の一員である緒川慎次が、スマホで司令室と連絡を取っている。
「――はい、承知しました。……ええ、クリスさんの件、二人にも伝えておきます」
通信を終えた緒川が、ふぅ、と一息ついて奏たちに向き直った。
「司令からです。クリスさんは少々ゴタゴタはあったものの、無事に護衛任務を完遂。今、こちらへ向かっているそうです。ライブのクライマックスには間に合うかと」
「へへっ、だろ? あいつはあたしが認めた、自慢の後輩だからな!」
報告を聞いた奏が、自分のことのように嬉しそうに歯を見せて笑う。その隣で、翼も「ええ、本当に」と誇らしげに頷いた。最初はギスギスしていた彼女たちの関係も、今では確かな信頼と絆で結ばれている。
その時、控え室のドアが控えめにノックされ、優斗が顔を覗かせた。
「優斗! どうしたんだ、こんなとこまで」
「差し入れ、持ってきたんです。皆さん、本番前でお腹が空いているかと思って」
奏に招き入れられ、優斗は持ってきたボックスをテーブルの上に置いた。蓋を開けると、ふわりと甘い香りが広がる。中には、カスタードと生クリームをたっぷり詰めたシュークリームが、行儀よく六つ並んでいた。
これは、優斗が皆のために心を込めて作ったものだ。「今日のライブが成功しますように」「みんなが最高のパフォーマンスを発揮できますように」。彼の純粋な祈りは、彼自身も知らぬうちに、神聖な儀式となって食材に宿る。
生命力の象徴である卵と牛乳が『概念の選定』として選ばれ、混ぜ合わせる行為が『摂理の編纂』となって「調和」の法則を定義する。味付けは『運命の調律』。幸福を願えば砂糖がその因果律を宿し、加熱によって奇跡は『定着』する。
彼が作る料理は、単なる栄養補給ではない。優斗の無自覚の祈りが編み上げた、「食せる奇跡」そのものだった。
「うおっ、シュークリーム! やった! いいのか優斗!?」
「ありがとうございます、優斗さん。いつも私たちのことを気遣ってくださって」
奏は子供のようにはしゃぎ、翼は優雅に微笑んで感謝を述べた。
その時だった。
再びノックが響く、緒川さんの対応を待たずにドアが開かれる。そこに立っていたのは、装飾が煌びやかに光る、華麗なドレスを身に纏う女王――マリア・カデンツァヴナ・イヴ。彼女の後ろには、スーツ姿の妹、セレナが控えている。
「……!」
マリアが入室した瞬間、ほんの一瞬だけ、緒川の身体が僅かに沈み、いつでも動けるような警戒態勢に移行した。長年の鍛錬が染みついた、無意識の反応。その師の微細な変化を看破できたのは、技の弟子である翼だけであった。
彼はマリアから目を離さぬまま、そっと表情を引き締めた。優斗はただ、空気が変わったことだけを肌で感じていた。
マリアは、そんな周囲の空気を意にも介さず、女王然とした態度でツカツカと歩み寄り、奏たちの前に立った。
「挨拶に来たわ。今日のライブ、私は私のやり方でいかせてもらう。あなたたち、ついてこられるかしら?」
「上等だ。そっちこそ、あたしたちの歌に喰らいついてきな。遅れんなよ?」
バチチッ、と二人の間に見えない火花が散る。その傍らでセレナと緒川が苦笑し、翼は深いため息を吐いた。
どうしたものか、と僕が完全に蚊帳の外でオロオロしていると、不意にマリアさんの視線がこちらを捉えた。
「あら……久しぶりね、と言ったところかしら?優斗」
彼女は、先ほどの刺々しい雰囲気を霧散させ、驚くほど穏やかな、親しげな声で僕に話しかけてきた。
え? と僕は困惑する。彼女と会った記憶が、僕には全くない。
「覚えていないのも無理はないわ。私とあなたが会ったのは、ほんの偶然で、一瞬だけだったから」
そう言って微笑むマリアさんの瞳は、どこか懐かしむような色を湛えていた。彼女はテーブルの上のシュークリームに気づくと、ふわりと香りを嗅いだ。
「これ、あなたが作ったの?」
「は、はい。一応……」
僕が頷くと、彼女はためらうことなく一つ手に取り、ぱくりと一口頬張った。
そして、その目が驚きに見開かれる。
「……えっ、なにこれ、美味しっ……」
ほんの少しだけ、いつもの女王様然とした仮面が剥がれ、素の少女のようなリアクションが漏れる。その無防備な表情に、思わずこちらの頬も緩んだ。
「はは、お口に合ったならよかったです」
「ええ、とても……」
味を褒められて素直に喜ぶ僕を見て、マリアさんは悪戯っぽく、ニヤリと笑った。
そして次の瞬間、信じられない行動に出る。
「――ファンサービスよ」
そう囁くと、彼女は自分が齧った、そのシュークリームを、僕の口にぐいっと押し込んできた。
「!?」
柔らかなシュー生地と、とろけるように甘いクリームが口の中に広がる。しかし、その味を認識するよりも先に、僕の思考は完全に停止した。
え、今、僕……?
「貴方を、私のファンにしてあげる」
その言葉には、ただのリップサービスではない、確かな意志が込められているように聞こえた。
部屋の空気が凍りつく。
奏ちゃんは「は…あぁ!?」と声にならない声を漏らし、顔がみるみる引き攣っていく。翼ちゃんは「おお……」と、ある意味感心したように小さく声を上げた。
僕が顔を真っ赤にして固まっている間に、セレナさんが「マリア姉さん、そろそろ時間です」と冷静に告げる。
「それじゃあ、またステージで会いましょう」
マリアさんは僕にだけ意味深なウィンクを残し、何事もなかったかのように優雅に部屋を出ていった。数秒後、復活した奏ちゃんが半狂乱で叫ぶ。
「お、緒川さんッ! 塩! 塩を撒いて、今すぐこの部屋を清めてくれ!!」
翼ちゃんが「優斗さん、あなた一体、彼女とどういうご関係で?」と真剣な顔で聞いてくるが、僕に分かるはずもない。
「ぼ、僕にも何がなんだか……!」
しどろもどろに答えるのが精一杯だった。緒川さんが深いため息をつくその後ろで、奏ちゃんが残りのシュークリームを片手に「こうなったらあたしが上書きしてやる!」と僕に詰め寄り、それを翼ちゃんが「奏、やめなさい!」と必死に止めている。控え室は、一瞬にしてカオスな空間と化していた。
姉さんと二人、無言で廊下を歩く。
先ほどの控え室での大胆な行動が嘘のように、姉――マリア・カデンツァヴナ・イヴは、耳まで真っ赤に染まっていた。その必死に平静を装う横顔に、思わず口元が緩んでしまう。
「……マリア姉さん」
「な、何よ、セレナ」
「そんなに恥ずかしいなら、最初からしなければいいのに」
私の指摘に、姉さんは「う、うるさいわね!」と顔を背ける。でも、その声は全然怖くない。
あの人に会って、姉さんは機嫌がいい。まるで、ずっと昔に戻ったみたいに。
――私たちの運命が、あの優しい手によって書き換えられた、あの日に。
あれは、今から約六年前。
私たち姉妹の親代わりであるナスターシャ教授の管理下で、来るべき『ネフィリム』の実験に向けて調整していた頃。張り詰めた毎日が続く中、教授は「たまには外の空気を吸ってきなさい」と、精神のリフレッシュを兼ねた外出を許可してくれた。
久しぶりの外の空気。けれど、心から楽しむことなんてできはしない。私たちには監視役の人間が控え、自由とは名ばかりの、見せかけの休息。そんな諦めにも似た気持ちで、アメリカの街をマリア姉さんと歩いていた時だった。
公園のベンチで、一人の少年がいた。
日本人だろうか。少し大きめの服を着て、スマホを片手にきょろきょろと周りを見渡している。明らかに、迷子だった。
「放っておきなさい、セレナ。面倒ごとに巻き込まれるわ」
姉さんは冷たく言い放ったけれど、私達はなぜか、その少年から目が離せなかった。
結局、ほっとけなかった私達が少年に近づくと、彼はこっちを見た。私たちが敵意のないことを察したのか、少しだけ警戒を解いて、とても流暢な英語で話しかけてきた。
「あ、あの……」
その時、彼のお腹が「きゅるる~」と可愛らしく鳴った。少年――新城優斗くんは、あははと笑いで誤魔化しているが、真っ赤にした顔が隠せていない。お腹を押さえる優斗。そのあまりに人間らしい反応に、姉さんも私も、思わず噴き出してしまった。
張り詰めていた空気が、ふっと和らぐ。
「……そうだ、よかったら、これ。僕のおやつなんだ。お近づきのしるしに」
彼はそう言って、大事そうに抱えていた鞄を開けた。中には、少し不格好だけど、とても美味しそうなクッキーが入っていた。
彼は、アメリカに住む両親に会いに来たけれど、途中で逸れてしまったらしかった。私たちが近くの交番まで連れて行ってあげると、彼はそのお礼だと言って、そのクッキーを私たちにくれたのだ。
「ありがとう。……美味しい」
「ええ、とても温かい味がするわ」
隠れて見ている監視役が何も口出ししないところを見ると彼は本当の一般人なのだろう。
もらったクッキーは、ただ甘いだけじゃなかった。口にした瞬間、じんわりと身体の芯が温かくなるような、不思議な感覚。気の所為と思ったけど、それは、張り詰めていた私たちの心を確かに癒してくれた。
それが、彼とのたった一度きりの出会い。
そして、その1週間後。最近、体調が良くなっていた私はマリア姉さんとマムと共にネフィリムの起動実験の見学をしていた。
しかし暴走したネフィリムを沈めるため、私はアガートラームのシンフォギアを纏って歌った。けれど、未熟な私の身体は絶唱を放ったギアのバックファイアに耐えきれず、反動で身体の自由が利かなる。はずだったが反動どころか力が張るぐらいに元気だった。
ネフィリムが暴れた影響で崩落してくる研究施設の瓦礫が目の前に迫る。
(これなら…)
身体に力を入れて、やすやすと身を捻って避けた。そのおかげで致命傷を免れた。それは、本来なら起きえない奇跡としか言いようのない出来事だった。
後に、ナスターシャ教授に私たちが感じたあの日の出来事を照合して、仮説だけど一つの結論に達した。
『あくまで仮説ですが。あの少年が渡したクッキーに宿っていた未知の力が、セレナに干渉し、書き換えたとしか考えられない』
ナスターシャは念の為このことは内緒にするよう私たちに告げた。それは私たちのような立場にとってはそれが命の恩人への礼儀だと。
そして数年後、疑問はレポートによって回答されたのだ。
そう。あの何気ない善意が、本来なら瓦礫に潰されて死んだであろう私の運命を、変えてくれたのだ。
彼は、私たちの命の恩人。
それなのに。
(ごめんなさい、優斗さん……)
心の中で、何度目か分からない謝罪を繰り返す。
彼はただ、迷子だった自分を助けてくれた私たちに、純粋な善意でクッキーをくれただけ。
その善意が生んだ奇跡を、私たちは今、私たちの目的のために『利用』しようとしている。
姉さんが、彼に対してああも大胆な行動に出たのは、照れ隠しだけじゃない。彼を私たちの側に引き込むための、無意識の布石。そして、彼を私たちの戦いに巻き込んでしまうことへの、深い罪悪感の裏返し。
私たちは、もう引き返せない。
たとえ、命の恩人の優しさを踏みにじることになったとしても。
「……行きましょう、お姉ちゃん」
「ええ……そうね」
振り返った姉さんの瞳の奥に、私と同じ、悲壮な決意の色が揺らめいいた。
緒川に付き添われ、どうにかこうにか暴走する奏から逃れてきた優斗が客席に戻ると、未来が心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「優斗さん、疲れてるみたいですけど……何かあったんですか?」
「あ、いや、なんでもないんだ。本当に」
控え室での惨状を説明するわけにもいかず、優斗は曖昧に笑って誤魔化した。
やがて、客電が落ち、割れんばかりの歓声と共にライブの幕が上がる。
ステージに現れたのは、三人の歌姫。
情熱的な赤を纏う天羽奏。
冷静な青を纏う風鳴翼。
そして、女王の風格を漂わせるマリア・カデンツァヴナ・イヴ。
三人の歌声が重なり合い、時にぶつかり合い、そして高め合っていく。奏の歌は聴く者に明日を生きる活力を与え、翼の歌は傷ついた心を癒す騎士の剣のように鋭く、優しい。そしてマリアの歌は、抗いがたいカリスマで聴衆の魂を鷲掴みにする。
『QUEENS of MUSIC』の名にふさわしい、圧巻のパフォーマンス。世界中に配信されているこの映像は、間違いなく伝説として語り継がれるだろうと、誰もが確信していた。
ライブも佳境に入り、会場のボルテージが最高潮に達したところで、三人のMCタイムが入った。
「みんなーっ! 元気してるかー!? あたしの歌で、もっともっと熱くなれよなーっ!」
快活な笑顔で叫ぶ奏。
「皆さんが私たちにくれた勇気へのお返しです。私の歌、受け取ってください」
静かな、しかし確かな力強さで語りかける翼。
そして、マリアは堂々たる態度で言い放った。
「私の歌をくれてあげる。ついてこられる者だけ、ついてこいっ!!」
三者三様の言葉。だが、その根底にあるものは同じだった。
「歌には、力がある」「世界だって、変えられる」
互いの実力を認め合うように、三人は頷き合った。
だが、その直後。マリアの雰囲気が、徐々に不穏な方へと変わっていく。
彼女は何か合図するかのように、すっと左腕を水平に振り抜いた。
その瞬間、だった。
アリーナの至る所に、空間が歪むような音と共に、無数のノイズが出現した。
「「「ぎゃあああああっ!!」」」
観客がパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う。だが、その混乱を切り裂くように、マリアの怒声が響き渡った。
「狼狽えるなッ!!」
その一喝に、会場が水を打ったように静まり返る。不思議なことに、出現したノイズはマリアに従うかのように、現れた位置から微動だにしない。襲いかかってくる様子がないと知った観客たちは、恐怖に震えながらも、ひとまずその場に立ち尽くした。
「マリア! てめえ、どういうつもりだ!」
「目的は何だ!」
奏と翼が、即座にシンフォギアを纏おうと胸に手を当てる。しかし、マリアはそれを冷ややかに制した。
「動かない方がいいわ。あなたたちが抵抗すれば、この子たちがどう動くか、保証はできない」
観客全員を人質に取るという、非情な宣告。奏は「……ッ!」と忌々しげに舌打ちをし、冷静な翼がマリアに目的を尋ねた。
「一体、何をしようと……!」
誰かのために戦おうとする二人の姿に、マリアは一瞬、好意的な、それでいてどこか哀れむような視線を向けた。
「あなたたちのような人間ばかりだったら、世界はもう少し、まともだったのかもしれないわね……」
何かを懐かしむように、ポツリとそう告げた後。
マリアは、全世界に向けて、その宣戦布告を開始した。
「私たちはこの場を以て、アメリカ合衆国に要求するッ!!」
突如の宣言に、奏と翼、そして司令室でモニタリングしていた弦十郎や、客席の優斗たちも息を呑む。
「そして―――」
マリアは高らかに歌い上げた。
その聖詠を、奏は、二課の誰もが、忘れるはずもなかった。
Granzizel bilfen gungnir zizzl
眩い光がマリアの身体を包み込む。
目の前で顕現したのは、奏が纏うそれとほぼ同じ、身の丈に近い槍。だが奏と違う所があるとすれば、それは色。
もう一つの『黒いガングニール』
ギアを纏ったマリアは、自身がこれから挑むであろう巨大な敵に向けて、明確な殺意と意志を持って、高らかに告げた。
「私は――私たちは、反F.I.S.独立組織、『フィーネ』」
その名に、奏と翼は目を見張る。
「お前たちの悪行を打ち滅ぼす、救いの槍だッ!!」
その言葉は、新たなる戦いの時代の幕開けを、全世界に告げる鬨の声となった。
もういいんじゃないかなと思いつつも、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A
Q、クリスのメンタル大丈夫?
A、ちょっとマイナス傾向かも
Q、急な三人娘
A、ここは原作通り仲良くなっています。違うのはツヴァイウィングがシンフォギア装者になっていること以外の裏の事情は知らない
Q、優斗の能力ってそんなのだったの?
A、こんなになってました(Geminiとの共同作業)
Q、ナスターシャは何故、優斗のせいってわかったの
A、外出の日以外は全く同じ生活で、その時一番接触したのが優斗です。この時のナスターシャも自分で言って、ないな。と思っています
Q、世界に宣戦布告しないの?
A、月が落ちていないので。現在、相手は別の暴走をしています