ハッピーエンドに向かうには   作:内海空洞

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現時点の簡易戦闘表(あくまで個人的な目安)
1=原作無印編の弦十郎  

奏:ガングニール装着時、0.8 未装着時、0.3
翼:アマノハバキリ装着時、0.7 未装着時、0.3
クリス:イチイバル装着時、0.5 未装着時、0.1以下
フィーネ:ネフシュタン装備時、1.5

マリア、セレナ:現在、0.1〜0.3(リンカー等の調子による)
切歌、調:現在、0.1〜0.2(リンカー等の調子による)

ここの弦十郎:5





苦渋の選択

動揺で静寂が続くステージの上、先ほどまで煌びやかにドレスを纏った女王は、黒い鎧に身を包み、その圧倒的なカリスマを以て、世界へと語りかける。その声はアリーナ中に、そして通信衛星を通じて全世界に響き渡っていた。

 

「もう一度言おう。我が名はフィーネ。――今宵、貴様たちの偽りの平和を終わらせるために舞い降りた、厄災の名だ」

 

凛とした声には、揺るぎない覚悟が満ちていた。彼女は、自らが率いる組織が掲げる大義を、雄弁に語り始めた。

 

「貴様たちが、平和と経済発展の裏でひた隠しにしてきた暗部――アメリカ政府直属の非人道的研究機関、F.I.S.の悪行について、今この場で断罪する!」

 

マリアの言葉に、配信を見ていた世界中の人々が固唾を飲む。F.I.S.――その名は、ごく一部の諜報関係者以外には知られていない、影の組織。

 

「F.I.S.の始まりは、かつて世界を救うためにその身を賭した一人の巫女、フィーネとの協力関係にあった。彼女は人類の未来のため、その知識と技術をアメリカ政府に提供した。だが、貴様たちはその信頼を裏切った!」

 

マリアの声に、怒りの色が滲む。

 

(こんな腐敗した世界だからこそ、あの少年のような優しさが踏みにじられてはならない。だが……その彼を利用しなければ、この戦いは始められない……!)

 

一瞬だけ脳裏をよぎる優斗の困惑した顔を、マリアは意志の力で振り払った。

 

「フィーネの影響力が失われたことを好機と見るや、F.I.S.は完全に私物化された。政府上層部の後押しを受け、彼らは聖遺物と呼ばれる物、それを使役するための『部品』――レセプターチルドレンと呼ばれる子供たちを世界中から拉致し、過激で非人道的な生体実験を繰り返した! その果てに積み上げられたのは、おびただしい数の犠牲者の屍だ! これを見過ごし、黙っていることなど、誰ができようか! 故に、フィーネの名と魂を受け継ぎ、私たちは立ち上がったのだ!」

 

その演説は、力強く、そしてあまりにも切実だった。彼女の言葉は、ただのテロリストの戯言ではない、確かな真実の重みを持っていた。アジトでその様子を見守っていたナスターシャは、静かに頷く。これでいい、と。世界に揺さぶりをかけ、F.I.S.を白日の下に晒す。それが、彼女たちの戦いの第一歩だった。

 

マリアは、世界に向けて二つの指を突きつける。

 

「私たちの要求は二つ! 一つ、F.I.S.の即時完全解体! 一つ、実験体として拉致され、今なお囚われ生き残っている全てのレセプターチルドレンを解放し、彼らの未来ある生活を生涯にわたって保証すること!」

 

彼女は一度言葉を切り、黒いガングニールを纏ったその身から、凄まじい威圧を放った。

 

「もしこの要求が受け入れられぬのなら、私たちは躊躇なくお前達を焼き尽くすだろう。このノイズの群れが、その力の証明だ!」

 

その言葉通り、彼女たちがノイズを自在に操れるのは、世界にとって最大の脅威であった。だが、とマリアは続けた。

 

「だが、私たちは貴様たちのような非道に堕するつもりはない。今回はあくまで宣戦布告。まずは、誠意を見てもらおうか」

 

マリアが指を鳴らすと、観客を囲んでいたノイズが一斉に光の粒子となって消滅していく。彼女は、恐怖に震える観客たちに、最後の通告を言い渡した。

 

「去りなさい。これは、貴様たち市民を巻き込むための戦いではない。だが、覚えておくがいい。貴様たちの沈黙が、F.I.S.という怪物を育てたのだということを」

 

堂々とした、それでいて理路整然とした演説。その姿は、単なるテロリストではなく、腐敗した権力に立ち向かう革命家のようにも見え、聞いた者たちをただ圧倒した。

 

 

 

 

「皆さん、こちらです! 急いでください!」

 

緒川さんの鋭い声に導かれ、響ちゃんと未来ちゃん、その友達3名を連れて裏の避難通路を走っていた。響くんと未来ちゃんが、僕の手を固く握ってくれている。その温もりが、今の僕には何よりも心強かった。

 

マリアさんの、突然の宣戦布告。ステージに現れたノイズ。何もかもが現実感を失っていた。ただ、早く安全な場所に避難しなければ。その一心で足を動かしていた、その時だった。

 

人が居るはずの無い通路に二人の少女がすっと姿を現し、僕たちの前に立ちはだかった。

黒にピンクを基調とした私服。一人は小柄で、長い黒髪をツインテールにし、人形のように整った顔立ちをしているけれど、その瞳には一切の感情が浮かんでいない。もう一人は快活そうな金髪のショートカットだが、その表情もまた、今は硬くこわばっている。

 

「君たちも早く逃げないと!」

 

僕は咄嗟に、彼女たちをはぐれてしまった一般の観客だと思い、一緒に避難しようと声をかけた。だが、僕の前に立った緒川さんが、鋭い視線で二人を睨みつける。

 

「……何の用ですか?」

「あなたに用はない。私たちの用事は――新城優斗、あなただけ」

 

感情の読めない声でそう言ったのは、小柄な方の少女だった。彼女は、懐から一枚の写真を取り出し、僕の目の前に突きつけた。

 

「――え……?」

 

そこに写っていたのは、見間違えるはずもない。僕の、父さんと母さんだった。

見慣れない、薄暗い部屋の椅子に座らされ、その顔には困惑と不安の色が浮かんでいる。

 

「父さん……母さん……!?」

 

どうして、二人がこんな写真に。驚愕に目を見開く僕に、調さんは淡々と、しかし決定的な言葉を告げた。

 

「あなたの両親は、今、こちらで保護している。彼らの安全と、あなたの身柄。交換してほしい」

 

頭が、真っ白になった。

両親は、今、アメリカにいるはずだ。仕事の都合で、なかなか会うことはできないけれど、時々メールで連絡を取り合っている、僕の大切な家族。その二人が、人質……?

 

「そんな……!」

「優斗さんのお父さんとお母さんが!?」

 

僕の両親のことを知っている未来ちゃんと響くんが、悲鳴に近い声を上げる。後ろの3人も言葉が出なかった。

 

なぜ? どうして僕が? 様々な疑問が頭を渦巻く。でも、一つだけ確かなことがあった。

 

写真の中の両親は、確かに囚われている。そして、この少女たちの瞳は本気だ。もし僕がここで逃げれば、響ちゃん達に危害が及ぶ。それは、直感的に理解できた。

 

「緒川さん……すみません」

 

僕は、固く握られていた響ちゃんと未来ちゃんの手を、そっと解いた。

 

「優斗さん!?」

「お兄ちゃん、ダメだよ!」

 

二人が必死に僕を引き留めようとする。その手を振り払うのは、胸が張り裂けそうなくらい辛かった。

 

「緒川さん、弦十郎さんたちに伝えてください。僕のせいで、本当にごめんなさい、と」

「優斗くん、いけない! それは敵の罠です!」

「罠でも、本当でも、僕には関係ありません。家族を見捨てることなんて、できない……!」

 

僕の心は、もう決まっていた。たとえどんな危険があろうと、両親を危険に晒すわけにはいかない。それは、僕という人間の、絶対に譲れない根幹だった。

 

「響ちゃん、未来ちゃん」

 

僕は、泣きそうな顔で僕を見上げる二人の前に屈み、その小さな身体をそっと抱きしめた。

 

「ごめん。でも、心配しないで。僕は大丈夫だから。必ず、みんなのところに帰ってくる」

「いや……いやだよ、お兄ちゃん……!」

「優斗さんがいないと、私……!」

 

腕の中で震える二人の温もりを感じながら、僕は必死に想いを込めた。大丈夫。大丈夫だよ。君たちは、奏ちゃんや翼ちゃんたちと一緒に、日常を守って。僕も、僕の家族を守るから。

 

「……行ってきます」

 

そっと二人を離し、僕は立ち上がって調さんと切歌さんに向き直った。

 

「分かりました。あなたたちと、行きます」

僕の決意を見た調さんは、こくりと頷いた。

 

そして、二人は同時に胸のペンダントーー聖遺物を起動させるための聖詠を歌い上げる。

 

Zeios igalima raizen tron

Various shul shagana tron

 

眩い光と共に、二人の身体がシンフォギアを纏っていく。

調さんは、ピンクと黒を基調とした、ツインテールに機械のような装飾が特徴的なギア。

切歌さんは、緑と黒を基調としたデザインのギア。

その尋常ならざる光景を、僕はただ呆然と見つめていた。

 

次の瞬間、ふわりと身体が浮き上がる。ピンクのギアの少女が、僕の身体をいわゆる『お姫様抱っこ』の形で軽々と抱え上げていた。

 

「えっ、ちょっ……!?」

「暴れないで。舌、噛むよ」

 

無機質な声で告げられ、僕は抵抗する言葉を失う。緑のギアの少女は、僕たちから視線を逸らし、響ちゃんたちの方を気まずそうにちらりと見て、ぽつりと呟いた。

 

「……ごめんなさい、デス」

 

その小さな謝罪の言葉だけを残して、三人の姿は闇の中へと消えていった。

 

 

 

観客が全て去り、がらんどうとなったアリーナ。その中央ステージで、三人の歌姫が再び対峙していた。

 

「人質がいなくなった今、もう鞘を当てない理由は無いな!」

「ああ。てめえらの好きにはさせねえ!」

 

翼と奏は、怒りを力に変えてシンフォギアを纏う。青き剣士『天羽々斬』と、情熱の戦士『ガングニール』。

 

「二対一で相手だが、余裕の腹か?」

「どうかしらね」

 

翼の言葉を、マリアは不敵な笑みで受け流した。その言葉に応えるかのように、ステージの影からもう一つのシンフォギア――銀色の鎧『アガートラーム』を纏ったセレナが姿を現す。

 

「マリア姉さん、首尾は上々。〝鍵〟は確保しました」

「そう、ご苦労様、セレナ」

 

マリアは安堵の息を漏らすと同時に、胸の奥に小さな棘が刺さったような痛みを感じた。

 

「じゃあ、後は時間稼ぎだけね」

 

その直後、激しい戦闘の火蓋が切って落とされた。

戦闘力では、奏と翼が圧倒していた。奏の叩きつけるような一撃がマリアを吹き飛ばし、翼の神速の剣閃がセレナの防御を切り裂く。だが、奏と翼の連携にも負けないほど、マリアとセレナの連携も上手かった。マリアが盾となって攻撃を受け止め、その隙にセレナが的確なサポートで反撃の機会を窺う。傷つき、消耗しながらも、二人は必死とも呼べる驚異的な粘り強さで奏と翼の猛攻を凌ぎ続けた。

 

「……時間稼ぎは、ここまでよ」

 

不意に、頬についた汚れを手で拭ったマリアが笑みを深めた。その言葉に、奏と翼が不審を感じて一瞬動きを止める。

 

その隙を突くように、二つの影がステージに舞い降りた。ピンクと緑のギアを纏った、調と切歌。切歌は緑色に輝く巨大な鎌を肩に担いでいた。

そして――武器の代わりに、調の腕の中に、お姫様抱っこの形で抱えられている、優斗の姿。

 

計画通りのはずなのに、調の腕に無抵抗で抱かれている優斗の姿を直視できず、マリアは一瞬だけ強く目を閉じた。

 

「優斗ッ!?」

「優斗さん!?」

 

信じられない光景に、奏と翼の思考が停止する。

 

「動かないで。動けば、この人の命はないと思って」

 

調の冷たい声が響き、切歌が構えるイガリマの巨大な刃が、無防備な優斗の首筋にぴたりと添えられた。ちょっと驚いた優斗。

 

あまりに卑劣な人質。怒りに燃える奏も、冷静な翼も、その一線だけは越えることができず、身動き一つ取れなくなってしまう。

沈黙が、重くアリーナにのしかかる。その静寂を切り裂くように、上空からヘリコプターのローター音が響き渡った。

 

任務を終え、急行した雪音クリスだった。

ヘリのハッチから眼下の光景を確認した瞬間、彼女の表情が怒りに染まる。ただでさえ、楽しみにしていた先輩たちのライブを台無しにされたのだ。その上、絶望の淵から自分を救ってくれた恩人であり、淡い想いを寄せる相手でもある優斗が、敵の腕に抱かれて人質になっている。

 

「てめぇらァ……ッ!!」

 

怒声と共に、クリスの全身が光に包まれる。イチイバルを纏った彼女は、躊躇なくその砲口をマリアたちに向けた。

 

「ふざけんのも、大概にしやがれェッ!!」

 

放たれた弾丸の雨は、しかし、マリアたちを直接狙うものではなかった。彼女たちの足元、周囲の床を蜂の巣にし、撤退も前進も許さないという、クリスの怒りに満ちた牽制射撃。

 

「……やれやれ。切り札が増えたみたいね。ここまで、かしら」

 

マリアは忌々しげに舌打ちし、撤退を決断する。その雰囲気を悟った奏と翼が、優斗を奪還すべく追撃の体勢に入ろうとした、その時。

 

「待ちなさい。これ以上追うというのなら、彼の両親の命も保証できないわよ」

 

マリアが放った言葉に、三人の装者は凍り付いた。

優斗だけでなく、彼の両親も人質に取っている。二重の人質。

 

「……緒川さん、確認を!」

 

翼がインカムで叫ぶ。数秒の沈黙の後、司令室からの返答が、彼女たちの最後の希望を打ち砕いた。

 

『――事実です。アメリカでつけていた新城夫妻の警護担当と連絡が取れません!』

「……ッ!」

 

翼は、自らの非力さに、悔しげに歯を食いしばった。

 

「関係ねぇッ! どうだろうと、まずは優斗を……!」

 

クリスが怒りのままに飛び出そうとする。だが、その肩を、力強い手が掴んで止めた。

 

「……先輩?」

 

振り解こうと振り返ったクリスは、言葉を失った。

そこにいたのは、いつもの快活な天羽奏ではなかった。その瞳には、目の前の敵に対する純粋な、底なしの殺意と、全てを焼き尽くさんばかりの怒りの炎が燃え盛っていた。クリスが感じていた怒りなど、生温いとさえ思えるほどの、凄まじい気迫。その殺気に、クリスは思わず気圧された。

 

そうだ、ここで無理に動けば、どうなる?

優斗か、その両親か、あるいは、まだ避難しきれていない観客か。誰かに、最悪の犠牲者が出てしまう。ノイズを操る相手だからこそ、その脅威は計り知れない。

 

手出しができない。それが、彼女たちが突きつけられた、残酷な現実だった。

 

追撃の意思がないことを確認し、マリアたちは撤退を開始する。だが、その顔に、宣戦布告を告げた時の高揚感はない。特にセレナと調の表情は、自らの行いに対する苦渋と罪悪感で深く歪んでいた。

 

調が跳躍しようとした、その時。

 

「……あの、ちょっと待ってもらえますか」

 

腕の中の優斗が、か細い声で言った。調は一瞬戸惑ったが、彼の頼みを聞き入れ、動きを止める。

 

お姫様抱っこをされたままという、あまりにも異様な状況で。優斗は、奏たちに向けて、必死に笑顔を作って見せた。

 

「大丈夫! みんなを信じてるから。だから……行ってきます」

 

それは、絶望的な状況下で仲間を気遣う、彼の精一杯の優しさだった。

その言葉を最後に、調もまた闇へと消え、ステージには三人の装者だけが取り残された。

 

静寂が、アリーナを支配する。

 

翼は、防人として、そして友人として、彼を守れなかった己の未熟さを、唇を噛み締めて悔いた。

 

奏は、自らの太陽であり、何よりも大切な宝物である優斗を奪われた怒りで、握りしめた拳が血を滲ませるほどに震えていた。

 

そして、クリスは。

また、攫われた。また、自分は何もできなかった。フィーネの時と同じ、無力感。あの温かい場所に帰るために戦っていたはずなのに、その中心である彼を守ることさえできない。込み上げてくる絶望が、彼女の心を渦巻いて、そして、弾けた。

 

「くそっ! くそっ!……なんで! なんで、あいつばっかりが!………ちっくしょぉぉおおおおおおッ!!」

 

少女の慟哭が、がらんどうの会場に、いつまでも、いつまでも響き渡っていた。

 




需要がなさそうならいつか消える、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A

Q、フィーネがいい人?
A、特に表に出ておらず、月の破壊をしていないフィーネはプロパガンダにピッタリ

Q、緒川さんはなぜ何もしなかった?
A、諜報によって優斗の身の回りは把握しており、両親が本物と分かったからです。しかしタダでは置かないのが忍者

Q、マリア達は粘りすぎでは?
A、シュークリームを食べたマリアのスペックは少し上がっています。防御一辺倒のマリア達に、奏と翼は疑問を持ってました。後、優斗達の避難を待っていた。と言うのもあります

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