今回のおまけはほぼ、Geminiくんに書いてもらいました。最近のAIはここまで進んでいるんだなあ
アメリカ特殊部隊による二課襲撃、そしてその裏で糸を引いていたパヴァリア光明結社の存在。激動の一夜が明け、世界が新たな脅威の存在を認識してから、数週間が過ぎていた。
一連の事件の落とし所は、驚くほど静かに、しかし着実に進行していた。フィーネを名乗ったマリアたちは、ナスターシャの情報提供と保有していた『エアキャリア』のなどの譲渡を条件とした司法取引により、その罪を大幅に軽減されることが決定。
現在は二課預かりの『臨時協力隊員』として、S.O.N.G.設立に向けた準備期間を過ごしている。
世界は、次なる戦いへの嵐の前の静けさに包まれていた。
そして今日、長年日本の異端技術の中枢を担ってきた、特異災害対策機動部二課の施設は、その役目を終えようとしていた。その締めくくりとして、食堂では、ささやかな、しかし盛大な「お見送りパーティ」が開かれている。
「なんでだよッ!」
テーブルに並べられた優斗お手製の豪華な料理の数々には目もくれず、クリスが弦十郎に詰め寄っていた。その背後では、響や切歌たちが、ワイワイと楽しげに唐揚げやピザを頬張っている。
「落ち着け、クリスくん。理由は単純明快だ。二課の防衛体制が、もはや完全ではないと、前回の襲撃で証明されてしまったからだよ」
巨大なローストターキーの骨付きもも肉を片手に、弦十郎はさも当然のように答える。その隣で、両手にホールケーキを軽々と抱えた了子が、にこやかに言葉を続けた。
「もちろん、この施設が完全になくなるわけじゃないわ。地下の聖遺物保管庫は、今後もS.O.N.G.の最重要施設として運用されていくわよん」
「そして、我々の新たな基地として、専用の大型潜水艦が与えられることになった。各国からの監視の目はあれど、世界中のどこへでも迅速に展開するための、最善の策だ」
「すっごい豪華な内装なんだから、期待しといてよね。私専用の研究室も、今の三倍の広さなのよ」
まるでピクニックの予定でも話すかのような、あまりに楽観的な二人の様子に、クリスはこめかみをひくつかせた。
「いくらなんでも、はしゃぎすぎだろ、あんたらは……」
呆れ果てて溜息をつくクリスの元へ、頬にご飯粒をつけた響が、オムライスを乗せた皿を持って近づいてきた。
「まあまあ、クリスちゃん。せっかくお兄ちゃんが、こんなにたくさん作ってくれたんだから、食べないと勿体ないよ?」
「わあってるよ……。つーか、すげえ今更だけどよ。なんでお前は、あたしに敬語じゃねーんだよ」
「え? だってクリスちゃんはほら……クリスちゃんだから……?」
「理由になってねーんだよ、それは! いつからそんな奏先輩みたいな理屈を!」
響のお気楽な返事に、本気でキレるクリス。その様子を見て、未来が宥めるように、自分の分のケーキを切り分けて持ってきた。
「クリス、落ち着いて。ほら、優斗さんが作ってくれたチョコレートケーキ、とても美味しいよ」
「お前もお前で、なんで急に呼び捨てなんだよ……!!」
いつの間にか距離を詰められていることに憤慨を隠せないクリス。だが、そんな彼女の様子も含めて、食堂の雰囲気は少しの寂しさと、未来への期待が入り混じった、不思議なほど温かいものだった。
少し離れたテーブルでは、ナスターシャたちが、静かに会話を交わしていた。
「……レセプターチルドレンたちの居場所は、本当だったのね、マム」
マリアが、安堵の息を漏らしながら尋ねる。あの日、彼女たちの元に届いた、差出人不明のメッセージ。そこには、仲間たちの無事と、その居場所が記されていた。
「ええ。すぐに国連を通じて確認を取りました。今では、ジュネーブにある国連の特別保護施設に移送され、専門のカウンセラーによるケアが始まっています。元いた国や故郷が判明している子は、家族の元へ。それでも帰る場所がない子たちは、里親家庭に引き取られたり、成人後は国連職員として働く道も選べるようになっている、とのことです」
「……よかった……本当に……」
セレナが、涙ぐみながら呟く。彼女たちにとって、何よりも気がかりだった仲間たちの未来。それが、確かな形で保証されたのだ。
「マリアー! セレナー! そんなところで何してるデース! 早く食べないと、この絶品ローストビーフが無くなっちゃうデスよー!」
「むぐむぐ……ごくん。……マムも、セレナも、食べないと損だよ。このキッシュ、すごく美味しい」
大声でマリアたちを呼ぶ切歌の横で、調が小さな口いっぱいに頬張りながら、冷静に感想を述べる。その姿は、もうすっかり、年相応の少女のものだった。
マリアは、そんな仲間たちの姿に、自然と笑みを浮かべた。
「そうね。……行きましょう、セレナ、マム。今はとにかく、この時間を楽しまなくちゃ」
「そうですね。それが、よろしいかと」
「マム。今回のお食事も、ちゃんとお野菜が入っているか、私がチェックしますからね?」
「……ッ! せ、セレナ、私はまだ、櫻井博士と話が……!」
セレナの慈愛に満ちた言葉に、ナスターシャはサッと顔を背け、そそくさとその場から離れようとする。優斗の料理のおかげで、少しは食べられるようになったとはいえ、やはり野菜への苦手意識は根強いらしい。
「マム〜?」
「ほら、マリア。切歌と調が呼んでいますよ」
足早に逃げていくナスターシャ。
セレナは「もう……」と、呆れながらも、その表情はとても優しかった。マリアも、このかけがえのない幸せを噛みしめるように、セレナと共に、仲間たちの輪の中へと歩いていった。
パーティの喧騒から少し離れた別のテーブルでは、奏と翼、そして、このパーティの全ての料理を職員と一緒に作り上げた優斗が、三人で一休みしていた。
「そう言えば、奏ちゃんたち、これから海外での活動が増えるんだって?」
優斗が尋ねると、奏は少しだけ、寂しそうな顔をした。
「そうなんだよ〜。世界で活躍するのは、翼と二人で前々から決めてたことだけど……やっぱり、みんなや優斗に会いにくくなるのは、少し、きついぜ」
「でも、私たちの歌を、もっと世界中の人々に広げ、勇気を伝えたい。そう思って決めた道よ。間違いではないと、信じているわ」
S.O.N.G.の設立に伴い、ツヴァイウィングの活動もまた、世界規模へと拡大していくのだろう。
「あ、マリアも一緒に行くんだぜ。あいつも、歌姫として本格的に復帰できそうなんだ。セレナも、マネージャーとして一緒に来るみたいだし」
「そうなんだ。少し、寂しくなるね」
「なんだったら、優斗もマネージャーとして一緒にこいよ! それがいいな。よし! 今すぐおっさんに掛け合って……」
「はいはい、奏は落ち着いて。優斗さんには、大切なコモドがあるじゃない。それに、本気で言っているわけではないのでしょう?」
「結構本気だけど……(ボソッ)……まあ、会えなくなるわけじゃないしな。寂しくなったら、いつでも会いにいくからな!」
「全く、それは一体、どっちが寂しいのかしら?」
「……なあ翼。最近、あたしに当たりが強くないか?」
「ええ。いつぞやのバラエティで、私が早朝にドッキリを仕掛けられた時、それを影から見て指を差して大爆笑していたことなんて、これっぽっちも、気にしてなどいないわ」
慌てて謝る奏と、わざと冷たい雰囲気を醸し出す翼。その、昔から少しも変わらない二人のやり取りに、優斗は思わず笑みをこぼし、話を切り出した。
「もしそうなったら、僕の方こそ、よろしくね。……ところで、いつ頃になるんだい? 二翼ちゃんは、リディアンを卒業してからになるのかな?」
「はい。来年に卒業した後、各国を巡る大規模なワールドツアーになることでしょう」
「それまでは、みんなと一緒さ」
ニッと、悪戯っぽく笑う二人。その笑顔は、太陽のように眩しかった。
「それじゃあ、僕もコモドで待っているから。いつでも、帰ってきてね」
優斗は、心に決めた。いつか、世界という大きな空へ飛び立つ二つの翼が、疲れた時にいつでも羽を休められる場所として。このコモドを、守り続けていこう、と。
パーティが最高潮に達した頃、誰が言い出したのか、何故か「一発芸大会」が始まっていた。
トップバッターは弦十郎。彼は、テーブルに置かれた空のビール瓶を、真剣な眼差しで見つめると、次の瞬間、掛け声と共に、その屈強な手刀を一閃させた。スパァン!と、乾いた音を立てて、瓶の口が綺麗に切断される。その、人間離れした妙技に、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
次にマイクを握ったのは、翼だった。彼女は、姿勢を正し、一つ息を吸い込むと、なんと、こぶしの効いた見事な演歌を朗々と歌い出し、知らない一同の度肝を抜いた。
いつの間にか、会場には了子が持ち込んだビールが何故か回り始め、パーティは混沌の様相を呈し始めていた。
「優斗ぉ、あたしにもっと構えー!」
「こら、奏先輩! 優斗から離れろ!」
「優斗さん、あーん、してくれますか……?」
「未来!? あなた、何言って……!」
優斗の周りには、間違えて飲んだのか、空になったグラスからお酒の匂いと共に、彼に気がある少女たちが、酔った勢いもあってか、次々と絡んでいく。優斗は照れて何もできず、奏は優斗に抱きつき、クリスがそれを引き剥がそうとし、酒の匂い酔った未来はとんでもないお願いをし始める。マリアでさえ、少し離れた場所から、羨ましそうな、恨めしそうな視線を送っていた。他のメンバーは、そのカオスな光景を、腹を抱えて笑いながら見守っている。
やがて、その場のノリは、さらにエスカレートした。
「一番、優斗のいいところを言えた奴が、勝ちだ!」
誰かのそんな一言で、「優斗の良いところ言い合い大会」が始まった。
「優しくて、カッコいいところ!」
「ご飯が美味いところ!」
「違う、あのふにゃっとした笑顔よ!」
「いつでも話を聞いてくれるところデス!」
「意外とがっしりした体!」
1人セクハラ発言をしているが、少女たちは次々と自分の思う優斗の魅力を叫ぶ。その中心で、優斗は、ただただ顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにそれを聞いていた。
「……じゃあ、逆に、優斗くんから見た、みんなの良いところは、何かな?」
ふと、了子が、面白そうにそう尋ねた。
全員の視線が、一斉に優斗に集まる。彼は、少しだけ逡巡した後、照れくさそうに、しかし、真っ直ぐな瞳で、一人ひとりの顔を見ながら、語り始めた。
「奏ちゃんは、太陽みたいに明るくて、みんなを引っ張ってくれる、強いところ。翼さんは、冷静だけど、誰よりも仲間思いで、優しいところ。クリスちゃんは、ぶっきらぼうだけど、本当はすごく素直で、可愛いところ……」
奏、翼、クリス、響、未来、マリア、セレナ、調、切歌、そして、弦十郎、了子、あおい、朔也、ナスターシャ、ウェルに至るまで。優斗は、このパーティ会場にいる全員の、彼だけが知っている、ささやかで、けれど、かけがえのない「良いところ」を、よどみなく、次々と言い当てていく。
その、あまりにも的確で、愛情に満ちた言葉に、今度は、会場にいる全員が、顔を真っ赤にして照れてしまう番だった。
そして、次の日の朝。
二課の談話室は、屍の山と化していた。酔っ払ったメンバー全員が、壮絶な二日酔いで、テーブルや床に突っ伏している。
その地獄のような光景の中で、ただ一人酒を飲んでいなので、涼しい顔をした優斗と酒気に当てられていない未成年組が、お盆にたくさんの椀を乗せて、現れた。
「皆さん、シジミ汁、できましたよ。全く……飲み過ぎです」
その、少し呆れたような、でも、どこまでも優しい声に、誰もが、頭を上げることはできなかったという。
コモドでの日常が、ようやく戻ってきた。
数週間ぶりに店の扉を開けると、そこには、変わらないコーヒーの香りと、木の温もりに満ちた、俺の愛する空間が広がっていた。光一朗の爺ちゃんには、「ちょっと長めの研修旅行に行ってた」とかなんとか、なんとか誤魔化した。信じてくれたかは、分からないけれど。
他の皆も、それぞれの日常へと戻っていった。
未来ちゃんと響ちゃんとクリスちゃんは、リディアンに入学してきた切歌ちゃんと調ちゃんと、すっかり意気投合したらしい。今では5人で行動することが多く、コモドにも、よく5人で遊びに来てくれる。
「うーん……やっぱり、この数学の問題、分かんないデス……!」
「あたしも、この漢字の書き順、全然覚えられないよぉ……!」
ある日の放課後、コモドのテーブル席では、恒例となった勉強会が開かれていた。数学の宿題を前に、響ちゃんが頭を抱えて声を上げる。国語のドリルを前に、切歌ちゃんも、同調するように机に突っ伏して唸っていた。
「二人とも、もう少し集中して。ほら、この公式は、こう使うの」
「切ちゃん、頑張って。これが終わったら、優斗さんに新作のパフェ、作ってもらおう?」
未来ちゃんが、呆れながらも根気よく教え、調ちゃんも、切歌ちゃんを励ましながら、自分の問題を進めている。
助けを求めるように、こちらに潤んだ瞳を向けてくる響ちゃんと切歌ちゃんに、僕は苦笑しながら、未来ちゃんの隣に腰を下ろした。
「どれどれ、どこが分からないんだい?」
僕が教え始めると、未来ちゃんは、少し照れたように頬を染めていた。ねえ未来ちゃん、無意識に僕との距離が近くなってない?
その様子を、調ちゃんが、どこか観察するように見ていて、ぽつりと呟いた。
「……みんなと勉強、案外楽しいかも」
ちなみに、ここに居ないクリスちゃんは、他のクラスメイトと勉強しているみたい。相変わらず、コモドに住み込みで働きながら、切歌ちゃん達に先輩風を吹かしながらリディアンに通っている。
そういえば、S.O.N.G.の新しい基地は、潜水艦になるらしい。この前、夕飯のドリアを口の周りにたくさんつけながら、「本部の場所、今更お前に隠したって、しゃーないだろ」と、あっさり教えてくれた。僕に言って、本当に大丈夫なのだろうか。
S.O.N.G.といえば、旧二課の施設は完全に閉鎖された。でも、弦十郎さんや了子さんは、今でも時々、お弁当や、ウェルさん専用の超弩級甘味(スイーツ)を、取りに来てくれる。ウェルさんやナスターシャさんも、パフェや、ほぼ肉だけで構成された特別メニューを食べに、こっそり訪れるのが、最近の日常になっていた。
マリアさんに、この機会に食生活を改善されそうになっているナスターシャさんは、「嬉しいですが、嫌いなものは嫌いです」と、きっぱり言って、全く改善する気配がない。ウェルさんに至っては、もはや人の話を聞いてすらいない。
しょうがないので、僕の方で、野菜を使ったデザートを開発したり、ハンバーグに微塵切りにした野菜をバレない程度の量に混ぜ込んだりして、なんとか食べさせている。そのことを知ったマリアさんとセレナさんには、ものすごく感謝された。
マリアさんといえば、S.O.N.G.に所属しながら、奏ちゃんたちと同じように、「歌姫」としての活動も再開した。世間の認知度は、もはや、テロリストではなく、完全に「悲劇を乗り越えた歌姫」としての方が上で、復帰を喜ぶ声が、世界中から届いていた。
確か、もうすぐ、ロンドンで、奏ちゃんたちと一緒にチャリティーライブをするはずだ。この前、国際電話で話したけれど、四人とも、少し寂しがっていたな。
『優斗ぉぉ……。もう、あたし、優斗のご飯が食べたくて、力がでない……』
『奏、みっともない。……ですが、優斗さん。こちらの食事も美味しいのですが、やはり、あなたの作る日本食の方が、数段、いえ、数億倍は美味しいですね』
『ちょっと、二人とも! プロでしょ、しゃんとしなさい! ……でも、優斗。私も、その……早く、あなたに会いたい、わ……』
『――というわけで、優斗さん。ご覧の通り、三人とも、ホームシックならぬ、ユウトシックです』
世間のクールでカリスマ的なイメージとは、かけ離れた四人の様子を思い出して、俺は思わず、くすりと笑ってしまった。
カラン、コロン。
その時、店のドアベルが、軽やかな音を立てた。お客様が来たと、俺はドアの方へ視線を向ける。
そこには、最近、常連になりつつある、一人の少女が立っていた。
「――キャロルちゃん。いらっしゃい」
おまけ「身バレ、もとい能力バレ」
S.O.N.G.が正式に発足して数日後。
その日、旧二課本部、現潜水艇内S.O.N.G.極東本部の最大ブリーフィング室に、主要メンバー全員が招集された。机を囲むのは、奏、翼、クリス、マリア、セレナ、調、切歌の7人の装者たち。そして、響と未来。少し離れた場所には、ナスターシャと、司法取引を終え、今はS.O.N.G.の特別研究員という立場になったウェルと了子も席に着いている
。
そして弦十郎の隣に、優斗も座っていた。
「今後のS.O.N.G.の活動において、非常に重要な情報を共有する」とだけ告げられ、彼もまた、何が始まるのか分からずに、少しだけ緊張した面持ちでいた。
「――集まってもらったのは他でもない。我々の仲間であり、S.O.N.G.にとって最重要保護対象である、新城優斗くんについて、全員に正確な情報を共有するためだ」
弦十郎の重々しい口上が、室内の空気を引き締める。
メインモニターに、優斗の顔写真と、解析不能なエネルギーパターンを示すグラフが表示された。
「先日、ナスターシャ教授からもたらされた情報、そして、了子くんとウェル博士の解析により、我々は優斗くんの持つ特異な能力の、その一端をようやく理解するに至った」
弦十郎の言葉に、装者たちの視線が優斗に集まる。優斗本人は、自分のことが議題に上がっていることに、ただ戸惑うばかりだった。
「単刀直入に言おう。優斗くんが作る料理は、単なる食事ではない」
ゴクリ、と誰かが息を呑む。
モニターの表示が切り替わり、そこに映し出されたのは、ナスターシャとウェルが共同で作成したという、生体物理学的な観点からのレポートだった。
「彼の調理プロセスは、我々の理解を超えた、極めて特異な物理現象を伴う。我々はこれを**『特異促進食(Anomalous Promotion Food)』**とコードネームで呼称する」
その、どこか特撮ヒーローの必殺技のような名前に、切歌が「かっこいいデス!」と小さな声で呟き、調に肘でつつかれている。
「レポートによれば、彼の料理を食べた者は、例外なく身体能力が飛躍的に向上する。損傷した細胞は最適な状態へと修復され、老化したいわゆる『休眠細胞』でさえも活性化する。シンフォギア装者においては、聖遺物との適合係数が、後天的に、しかも安全に上昇するという、前代未聞の現象が確認されている」
弦十郎は、そこで一度言葉を切り、ナスターシャに視線を送った。
ナスターシャは、静かに頷くと、自らの足で、ゆっくりと立ち上がった。その姿に、マリアたちは改めて息を呑む。
「私のこの身体が、何よりの証拠です。長年、あらゆる治療法を試しても治らなかった病気とこの足が、彼の料理を数日食べただけで、こうして再び大地を踏みしめることができるようになった。これは、私の身体の細胞が、最も健康だった頃の状態へと『回帰』していることを示唆しています」
その言葉に、ウェルが、待ってましたとばかりに興奮気味に付け加える。
「その通り! まさしく、奇跡! 彼の料理は、生体組織におけるエントロピーを逆転させる、夢のような効果を持っているのです! これを応用すれば、人類は不老長寿さえも……!」
「ドクター、少し黙っていてください」
暴走しかけたウェルを、ナスターシャが冷たい一瞥で黙らせる。
「……は?」
その、あまりに現実離れした話に、クリスの口から、素っ頓狂な声が漏れた。他のメンバーも、弦十郎たちが何を言っているのか、まるでSF映画でも見ているかのような顔をしている。
その中で、了子が、あくまで「科学的な見地からの補足」という体で、優雅に言葉を続けた。
「つまり、彼の料理は、食べた人間の肉体を、その個人の『全盛期』の状態へと近づけていく、ということよ。怪我は治り、病は消え、身体は常に最高のコンディションを維持する。まるで、一人ひとりに合わせて効果が変わる、オーダーメイドの万能薬。……まあ、概念的には、ドラえもんの『お医者さんカバン』と『テキオー灯』を混ぜたものが近いものかしらね」
その、絶妙に分かりやすい例えに、ブリーフィング室の緊張が、少しだけ緩んだ。
「……僕の料理が……?」
当事者である優斗本人は、皆の反応を受け止めきれず、顔面蒼白になっていた。万能薬? 細胞の活性化? そんな大それたことをしている自覚など、彼には微塵もなかったからだ。
「僕はただ……みんなに美味しく食べてほしくて……元気になってくれたら、嬉しいなって……」
その、全く身に覚えのないチカラに心底困惑した優斗の呟きに、最初に反応したのは、やはり奏だった。
彼女は、難しい顔で腕を組んでいたかと思うと、次の瞬間には、何か全てを理解したように、ポン、と手を叩いた。
「あー! なるほどな! だからか!」
「何がです、奏さん?」
未来の問いに、奏はニカッと笑って答える。
「あたし、優斗の飯を食うと、いっつも体の調子がめちゃくちゃ良くなるんだよ! どんなに激しい訓練した後でも、次の日には疲れ一つ残ってねえし、歌声だって、前よりずっと遠くまで届く気がしてたんだ! あれ、気のせいじゃなかったんだな!」
彼女にとって、優斗の力は、難しい理屈などどうでもいい、ただシンプルに「すげー!」と納得できる、ポジティブな驚きでしかなかった。恐怖も、畏怖もない。むしろ、その力の恩恵を誰よりも受けてきたという事実に、誇らしげですらあった。
「……なるほど。奏の精神的な安定は、結果的に、その肉体の健全化が大きく作用していた、ということかしら」
隣で、翼が冷静に分析しながらも、その声には確かな感嘆の色が滲んでいた。親友が、心身ともに健やかでいられる理由の一つが、目の前の青年の、無自覚な優しさによってもたらされていた。その事実に、彼女は、改めて深い感謝の念を抱いた。
対照的に、クリスは、少しだけ複雑な表情をしていた。
「……じゃあ、なんだよ。あたしが、二課に来たばっかの頃、ギアの調子が悪かったのが、あんたの飯を食ってるうちに、いつの間にか良くなってたのも……その、『力』のせいだってのかよ……」
その声は、怒っているというよりは、どこか照れくさいような、むず痒いような響きを持っていた。自分の好調の理由が、自分の努力だけでなく、毎日当たり前のように口にしていた食事にあった。その事実が、素直に感謝できない彼女の心を、くすぐっていた。
「あたしが本調子でいられたのは、優斗のおかげだったってわけか……ちっ、なんか、調子狂うな……けど、あんがとよ」
そんなクリスの様子を見て、マリアとセレナは、静かに顔を見合わせて微笑んだ。
「私たちは、最初から感じていたわ。あなたの力が、ただの料理人のものではないと。……セレナの命を救った、あの奇跡。それが、こういう形で証明されるなんてね」
「はい、マリア姉さん。でも、あの時のクッキーが、ただ温かくて、美味しかったことも、本当です」
彼女たちにとって、優斗の力は、感謝と尊敬の対象であり、その力の根源にある彼の優しさを、誰よりも理解していた。
その隣で、調と切歌は、もっと単純な結論に達していた。
「つまり、優斗さんのご飯を食べれば食べるほど、アタシたちはもっと強くなれるってことデスか!?」
「……すごい。それなら、もっと難しい合体技も、できるようになるかも」
二人の瞳は、純粋な期待にキラキラと輝いている。彼女たちにとって、この事実は、自分たちの可能性を無限に広げてくれる、最高の吉報だった。
「お兄ちゃんの料理が、万能薬……?」
響は、きょとんとした顔で、優斗を見つめている。彼女にとって、優斗の料理は、幼い頃から慣れ親しんだ「世界で一番美味しいごはん」だ。それが奇跡の万能薬だろうとそうでなかろうと、その事実は、彼女の中では何も変わらない。
「でも、美味しいのは本当だし、お兄ちゃんがお兄ちゃんなのも、本当だよ!」
その、あまりにも真っ直ぐで、本質を突いた言葉に、ブリーフィング室の空気が、ふっと和んだ。
だが、その中で一人、未来だけは、違う次元でこの事態を捉えていた。彼女は、優斗を、そして彼の持つ力を、強い決意を秘めた瞳で見つめていた。
(……すごい力。でも、だからこそ、優斗さんは一人で抱え込んでしまう。私が、響が、みんなが、そばにいて支えてあげなくちゃ。こんなに大きな力を持ちながら、誰よりも優しいあなたの、その心の重荷を、少しでも軽くしてあげたい)
彼女にとって、この事実は、優斗を神格化するものではなかった。むしろ、彼がどれだけ特別な存在で、どれだけ守られるべき存在であるかを再確認させるものだった。
(この力ごと、優斗さんを丸ごと、私が守りたい。そして、私もあなたに守られたい。これからもずっと、隣で一緒に生きていきたい……)
彼女の、すでに重い好意は、この瞬間、「彼と共に生きる」という、揺るぎない覚悟へと、さらに深く、静かに昇華されていた。
皆の様々な反応の中心で、優斗は、ただただ、混乱していた。
「え……? あの……僕の料理がそんなすごいことに……?そうかなぁ…」
彼は、自分の知らないところで、自分の作ったハンバーグやオムライスが、仲間たちの身体を細胞レベルで作り変えていたという事実に、全く実感が追いついていなかった。
「僕は、ただ、みんなに美味しく食べてもらいたくて、お腹いっぱいになって元気になってくれたら嬉しいなって……それだけなんだ……」
その、心底困惑した、純粋すぎる反応に、奏が、たまらずといった様子で噴き出した。
「ぶはっ! あはははは! なんだよ、その顔! ま、あんたらしいっちゃ、あんたらしいけどな!」
奏の豪快な笑い声が、伝染していく。翼が、クリスが、マリアたちが、次々と笑みをこぼす。
そうだ、と誰もが思った。
彼の力が、どんなに規格外で、どんなに奇跡的でも、この男の本質は、何も変わらない。
ただ、ひたすらに優しくて、温かくて、少しだけ鈍感で、そして、誰かの笑顔のために、一生懸命になれる。そんな、ただの心優しい料理人。
それが、新城優斗なのだ。
「まあ、なんだ! 難しいことはよく分かんねえけど、要するに、優斗の飯は、すげーってことだろ!」
奏が、バン!とテーブルを叩いて、話をまとめる。
「だったら、話は早え! おい、優斗! この『特異促進食』の効果、早速、優斗の家で試させてくれ! 今日のあたしの晩飯は、特大のハンバーグ定食だ! ご飯大盛りでな!」
「あ、ずるいデス! アタシは、あの時の旗の立った大人様ランチがいいデス!」
「私は、静かに味わえるものがいい……。優斗さんの淹れた、紅茶と、スコーンを」
「私は、あの時のパフェをもう一度……!」
奏の言葉を皮切りに、ブリーフィング室は、一瞬にして、賑やかな食堂へと姿を変えた。装者たちが、次々と、自分の食べたいものをリクエストし始める。
その光景に、弦十郎は、やれやれ、と額に手を当てて、深いため息をついた。
彼の力が何であろうと、その運命がどうであろうと、彼を想う仲間たちの気持ちは、決して揺らがない。
囲まれながらも嬉しそうにリクエストを聞く優斗を見て、そう思った。
キャロル周りのエミュが難しい、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A
Q、弦十郎が未成年飲酒を許すか?
A、未来は酒の匂いと場酔いでああなりました。ちょっぴり背伸びしたいお年頃
Q、翼がドッキリをくらったバラエティって?
A、旅館に泊まる系のグルメリポートで起きました。バズーカドッキリ。発案者:奏
Q、クリスも酒を飲んだの?
A、間違って飲んだ一杯で酔いました。隣の了子さんは後日、弦十郎と手合わせを強制されました
Q、キャロルがどうしてここに
A、自分にもわからん