基本的に敵対関係だった、オートスコアラー達の特徴を掴むのに時間が掛かりました。
どうしてもオリジナルの展開が続きそうです。
あれから僕の営む喫茶店コモドに可愛らしいお客さんがよく来るようになった。
キャロルちゃん。陽光を溶かしたみたいな金色の髪をした、まるで人形のように綺麗な顔立ちの女の子。
彼女はいつも、ふらりと現れてはカウンターの隅に座り、僕が淹れた紅茶を静かに飲んでいく。
そして、時折連れてくる彼女の付き添いの女の子たちは、さらに不思議だった。彼女たちは何かを注文するわけでもなく、ただ僕がキッチンで料理をしている間、カウンターに座って店内の喧騒に身を委ねたり、時折僕に話しかけてきたり、あるいはただ静かに、キャロルちゃんの隣でその時間を過ごしていく。
彼女たちが何を考え、何を背負っているのか、僕にはまだ分からない。
ただ、その瞳の奥に、途方もない決意のようなものが揺らめくのを知っている。
それでも彼女たちがこの店に来るのには、きっと何か理由があるんだろう。
張り詰めた糸のような毎日の中で、ほんの少しでも息を抜ける場所を求めているのかもしれない。
だから僕は、今日も美味しいものを作って彼女たちを待つことにした。
僕にできるのは、それくらいだから。
これは、そんな不思議で、どこか放っておけない彼女たちの、ささやかな観察日誌だ。
1日目:ミカと、宿題
からん、とドアベルが軽やかな音を立てた。
柔らかな午後の日差しが差し込む店内に、太陽みたいに明るい女の子が飛び込んでくる。
「ユウト! こんにちはだゾ!」
「いらっしゃませ、こんにちは」
真っ赤なフリルが付いた服をひらひらさせて大きな手袋のを横に振り、元気いっぱいに挨拶してくれたのはミカちゃん。僕も手を振りかえした。その後ろから、やれやれといった表情のキャロルちゃんがゆっくりと入ってくる。
「うるさいぞミカ、はしゃぐな」
「だってマスターと一緒に出かけたのが嬉しいんだゾ!」
「む……」
キャロルちゃんは照れを隠す様に口をへの字に曲げながらも、いつものカウンター席に腰を下ろした。その様子がなんだか微笑ましい。
その時、店の奥のテーブル席から、うーん、と唸り声が聞こえてきた。
「だぁーっ! 全然わかんないデス!」
「切ちゃん、声が大きいよ。でも、わたしもここから先に進めない……」
ついさっき来た、リディアンの制服を着た切歌ちゃんと調ちゃんが、テーブルに広げたノートとにらめっこしていた。どうやら今日も学校の宿題に手こずっているらしい。二人とも眉間に皺が寄っていて、かなり難しそうだ。
その姿を見つけたミカちゃんの目が、きらりと好奇心に輝いた。
「ねーねー! 何してるんだゾ?」
短い足をぱたぱたさせながら、ミカちゃんはあっという間に二人のテーブルに駆け寄る。人懐っこい笑顔は、初対面の相手をも笑顔にさせてしまう不思議な力がある。
「え、あ、お勉強デスけど……」
突然現れたミカちゃんに驚きながらも、切歌ちゃんは素直に答えた。
「おべんきょー?」
ミカちゃんは小さな頭をこてんと傾げ、調ちゃんが広げているノートを覗き込む。そこには、僕にはさっぱり分からない数式や記号がびっしりと並んでいた。
「わかんない! ちんぷんかんぷんだゾ!」
正直な感想に、切歌ちゃんと調ちゃんが苦笑いを浮かべる。
「あたしたちにも、ちんぷんかんぷんデスよ……」
そこでミカちゃんは、何かを閃いたようにぱっと顔を輝かせた。
「そうだ! マスターなら分かるかも!」
「え?」
「おい、ミカ」
ミカちゃんは切歌ちゃんからひょいとノートを奪うと、カウンターに座るキャロルちゃんのもとへ駆け寄っていく。
「マスター! これ、分かる?」
無邪気にノートを突きつけられ、キャロルちゃんは迷惑そうに眉をひそめた。
「オレを誰だと思っている。そんなもの……」
言いかけて、キャロルちゃんはノートに書かれた数式にちらりと目をやった。そして、ふん、と鼻を鳴らす。
「こんな簡単な問題も解けんのか、ここの学生は。レベルが低いな」
そう言いながら、キャロルちゃんはすらりとした指で、問題の一か所をトン、と叩いた。
「ここの前提条件を見落としている。この公式を使えば、残りは暗算でも解けるだろう」
「「えっ!?」」
キャロルちゃんのあっさりとした指摘に、切歌ちゃんと調ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。二人があんなに悩んでいたのが嘘みたいに、キャロルちゃんはいとも容易く解答への道筋を示してみせる。
「うそ……本当だ、デス! なんでここに気づかなかったんだろ!」
「すごい……ありがとうございます!」
感嘆と尊敬の眼差しを一身に受けて、キャロルちゃんは少しだけ気まずそうに、でもどこか誇らしげにそっぽを向いた。そんな主人の姿を見て、ミカちゃんは自分のことのように胸を張っている。
「えっへん! マスターはすごいんだゾ!」
「うん、すごいデス! 天才じゃないデスか!?」
「うん、本当に……」
純粋な賞賛の声に、キャロルの頬がほんのり赤く染まったように見えた。
そのやり取りがなんだかとても温かくて、僕はキッチンで自然と笑みを浮かべていた。
頭を使った後には、糖分と水分補給が必要だ。
「はい、おまたせ。みんなの分ね」
僕は特製のスポーツドリンクを淹れて、四人の前にそっと置いた。蜂蜜とレモンをベースにした、身体にすっと染み込むような優しい味。疲れた身体を癒してほしい、そんなささやかな願い―――疲労回復の概念を、僕なりに込めてみた。
「わー! ありがとう優斗さん!」
「ありがとうデス!」
切歌ちゃんと調ちゃんが早速グラスを手に取って、こくこくと喉を鳴らす。
「……ん、美味しい」
「身体に染みる感じがする、デス」
二人がドリンクを飲むと、その身体からふわりと温かな気が立ち上るのを感じた。気のせいかもしれないけれど、いつもよりずっと力強く、生命力に満ちたオーラがキラキラと輝いて見えた。
オートスコアラーであるミカちゃんは、ドリンクを飲むことができない。でも、彼女は切歌ちゃんたちの隣で、その輝くオーラを全身に浴びて、ぱあっと顔を輝かせた。
「わー! キラキラしてるゾ! マスターもあったかくなったゾ!」
そう言って、ミカちゃんはきゃっきゃと嬉しそうにはしゃいでいる。彼女には、僕には見えない何かが、はっきりと見えているのかもしれない。
優斗の日記
『ミカちゃんと切歌ちゃんと調ちゃんが話している姿は、なんだか微笑ましかった。まるで昔からの友達みたいに、自然に笑い合っていた。
僕のドリンクを飲んだ二人の周りの空気が、いつもより温かくなった気がしたけど、気のせいかな。でも、ミカちゃんはその空気がとても心地よかったみたいだ。
キャロルちゃんは、そんな三人を、少し呆れたような、でも、どこか優しげな顔で見ていた。彼女の周りにも、いつかこんな風に、温かくて優しい空気が満ちるといいな、と心から思った。』
3日目:ファラと、憧れの「剣ちゃん」
しとしとと雨が降る、静かな昼下がり。
ドアベルの音と共に現れたのは、いつものキャロルちゃんと、緑色の落ち着いたドレスを着た女性だった。腰まである長い髪を綺麗に結い上げた、物静かな佇まいの彼女の名前は、ファラさんというらしい。
「いらっしゃい、キャロルちゃん、ファラさん」
「ああ」
「お邪魔します、優斗さん」
落ち着いた声で挨拶を返してくれるファラさんに、僕は会釈を返す。
今日は珍しく、カウンター席に先客がいた。
「このケーキ、新作か? なかなか美味いな、翼」
「ええ、優斗さんの作るものはいつも絶品ですから」
ワールドツアーから一時帰国していた奏ちゃんと翼さんだ。二人は仲良くお茶をしながら、僕が試作したチーズケーキを味わってくれていた。
その二人の姿を認めた瞬間だった。
それまで冷静沈着そのものだったファラさんの雰囲気が、一変した。
彼女の普段は凪いだ湖面のような瞳が、驚きと、そして信じられないほどの熱を帯びて、大きく見開かれた。その視線は、まっすぐに一点―――風鳴翼さんに注がれている。
「……っ!」
息を呑む音さえ聞こえそうなほど、ファラさんはその場に立ち尽くした。そして、まるで聖地に足を踏み入れる巡礼者のように、緊張した面持ちで、ゆっくりと翼さんたちの方へ近づいていく。
「おい、ファラ?」
主人の呼びかけも耳に入らない様子で、ファラさんは翼さんの前に立つと、深々と、そして優雅にお辞儀をした。
「あの……風鳴翼さん、……いえ、『剣ちゃん』とお呼びしてもよろしいでしょうか? 私、貴女のファンになりましたの」
「…………へ?」
突然「剣ちゃん」という、あまりにも意外な愛称で呼ばれた翼さんは、目をぱちくりさせて固まってしまった。手に持っていたフォークが、カラン、と音を立ててお皿の上に落ちる。
その隣で、事態を面白そうに眺めていた奏ちゃんが、ニヤァ、と口の端を吊り上げた。これは面白いことになった、と顔に書いてある。
キャロルちゃんはというと、盛大にため息をついて、さっさといつものカウンター席に座ってしまった。
ファラさんは、固まっている翼さんを前に、うっとりとした表情で語り始める。
「ライブでの貴女の戦いを拝見いたしました。その姿、なんと美しく気高いことか……まるで月の光の下で舞う鶴のよう。そして、何よりも貴女の歌! 私の胸の奥深くまで響き、魂を震わせましたわ!」
「は、はぁ……」
一方的に、しかし熱烈に語られる賞賛の言葉に、翼さんは戸惑いを隠せないでいる。
普段はクールな令嬢なのに、こういうことには以外に耐性がないのかもしれない。耳まで真っ赤になっている。
それを見ていた奏ちゃんが、楽しそうに口を挟んだ。
「へぇ、翼のファンねぇ。じゃあ、あたしの歌はどうだったんだ?」
自分を指さして得意げに尋ねる奏ちゃんに、ファラさんは先程までの興奮がすっと引いたような、冷静な視線を向けた。
「天羽奏さん、でしたわね。貴女の歌も、力強く悪くはありませんでしたけれど……剣ちゃんに比べると、とてもとても……」
そう言って、ファラさんはやれやれと肩をすくめてみせた。その仕草には、微塵の悪気も感じられない。純粋な比較の結果なのだろう。
「…………」
予想外の、というよりあまりにも手厳しい評価に、今度は奏ちゃんが固まる番だった。あんぐりと開いた口が塞がらないでいる。
それを見た翼さんが、こらえきれずに「ぷっ」と吹き出した。
「つ、翼ッ! お前、笑ったな!?」
「いえ、そんなことは……くくっ」
そんな三人の様子を横目に、キャロルちゃんは僕が淹れたアールグレイの香りを楽しみながら、雑談を始めた。
「マスター、ここの紅茶は香りがいいな」
「ありがとうございます。気に入ってもらえて嬉しいです」
「……あいつのこと、止めなくていいのか?」
キャロルちゃんが視線でファラさんを示す。
「いいんですか?」と聞き返すと、「放っておけ。オレにも何故あんなことになっているのか分からん」と、心底面倒くさそうに吐き捨てた。どうやらファラさんのあの状態は、キャロルちゃんにとっても想定外らしい。
「この前のライブの時の剣ちゃんも最高でしたわ!」
「ちょ、奏! ひっつかないで!」
「いいじゃんか翼ぁ! ファラとやら! 翼はな、寝る時にうさぎのぬいぐるみがないと眠れないんだぜ!」
「かなでぇぇぇぇ!!」
ファラさんにマウントを取ろうと、奏ちゃんが大人気ない暴露を始め、翼さんの悲鳴が店内に響く。
これは、そろそろ助け船を出した方がよさそうだ。
僕は新しい紅茶を淹れて、三人のもとへ運んだ。ベルガモットの爽やかな香りが、ヒートアップした彼女たちの興奮を、少しだけ落ち着かせてくれることを願って。
優斗の日記
『ファラさんは、ツヴァイウィング、それも翼さんの大ファンだったみたいだ。
おっとりとしていながらも、どこか凛としたファラさんの、まるで恋する乙女のような一面が見られて、なんだかこちらまで嬉しくなった。
翼さんは最初、すごく驚いていたけれど、自分の歌う姿を真っ直ぐに褒められて、まんざらでもない様子だったのが可愛らしかった。
奏ちゃんはぞんざいに扱われたのが少し不満だったみたいだけど、自分しか知らない翼さんの情報でファラさんを悔しがらせていたのは、ちょっと大人気なかったと思う。でも、それも奏ちゃんらしいか。
キャロルちゃんは、そんなファラさんの様子を、呆れながらも少し面白そうに、そしてやっぱりどこか優しく見守っていた。』
6日目:レイアと、店の在り方
その日、キャロルちゃんが連れてきたのは、黄色がアクセントになったタイトな服を着こなす、カジノのディーラーのような雰囲気の女性だった。レイアさんという彼女は、背筋をぴんと伸ばし、品定めするような視線で店内をゆっくりと見渡した。
「ふむ。マスターが気に入るにしては地味な店だが、まあ、雰囲気は悪くない」
少し上から目線の、しかし的確な評価だった。
その言葉に、ぴくりと反応した人物がいた。
「てめぇ、今なんつった?」
カウンターの中でグラスを拭いていたクリスちゃんが、低い声でレイアさんを睨みつけた。今日は学校が半日で、コモドの仕事を手伝ってくれていたのだ。
「ク、クリスちゃん?」
「なんだ?事実を述べたまでだが」
レイアさんは少しも臆することなく、クリスちゃんを見返す。
「地味って言っただろ! ここは優斗の大事な場所で、あたしにとっても……大切な居場所なんだ! それを……!」
今にも掴みかかりそうな勢いのクリスちゃんの肩を、僕はそっと後ろから肩を宥める。
「クリスちゃん、ありがとう。でも、大丈夫だから」
「でも、優斗!」
「僕のために怒ってくれて、すごく嬉しいよ」
僕がそう言って頭を撫でると、クリスちゃんは少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。ふい、と顔を背けてしまったけど、その耳は真っ赤だ。
すると、レイアさんがすっと頭を下げた。
「すまなかった。お前の言う通りだ。大切な場所を貶すような言い方は、地味に褒められたものじゃなかった」
その潔い謝罪に、今度はクリスちゃんの方が毒気を抜かれてしまったようだった。
「……別に、分かってくれればいいんだよ」
ぶっきらぼうにそう返すクリスちゃんに、キャロルちゃんが挑発的な笑みを向けた。
「ほう? 店員がそんな態度で務まるのか? 雪音クリス」
「なっ……! てめぇに関係ねぇだろ!」
「関係なくはない。ユウトの店の評判に関わるからな」
「んだとコラ!」
落ち着いたはずのクリスちゃんの沸点が、また一気に上昇する。キャロルちゃんに食って掛かるその姿は、まるで喧嘩っ早い猫同士のじゃれ合いのようだ。二人とも、どこか似ているのかもしれない。
本気の喧嘩じゃなさそうだと判断して、僕はレイアさんに向き直った。
「お騒がせしてすみません」
「いや。お前の周りは、随分と派手な奴らで溢れているんだな」
レイアさんは呆れたように言って、カウンターの椅子に腰を下ろした。
僕はそんな彼女のために、一杯の水を差し出す。
ただの水だ。でも、今の僕にできる、最高のもてなしの心を込めて。
指紋一つなく磨き上げた薄いグラス。その中に、まるで水晶を溶かしたかのような清冽な輝きを放つ天然水を注ぐ。氷がカラン、と立てる音は、教会の鐘のように静かで澄んでいる。そして、吸水性の良いコースターの上に、音を立てずに、そっと置く。
一連の動作に、僕は全神経を集中させた。
レイアさんは、僕の差し出した水を見て、一瞬、目を細めた。そして何も言わずに、そのグラスを指先でそっとなぞる。
口喧嘩を続けていたキャロルちゃんとクリスちゃんも、いつの間にか静かになって、その光景を見ていた。
優斗の日記
『レイアさんは最初、僕のお店が気に入らなかったみたいで、少し悲しかった。
でも、クリスちゃんが僕のために本気で怒ってくれて、それはすごく嬉しかったな。僕にとってコモドが大切なように、クリスちゃんにとっても、ここがかけがえのない場所になってくれているんだと感じられたから。
僕が心を込めてお出ししたお水に、レイアさんは最後まで何も言わなかったけど、帰るまで、ずっとそのグラスを宝石みたいに大切そうに眺めていたのが印象的だった。
喧嘩を売ったはずのキャロルちゃんは、なんだかバツが悪そうな顔をしていて、クリスちゃんも少しだけ気まずそうだった。
後日、お店のポストに小さな包みが入っていた。
中には、ピカピカのコインで見事に作られた、精巧な花のオブジェが入っていた。添えられたカードには、ただ一言、「悪くなかった」とだけ。
黄金に輝くその花は、派手だけど、不思議とお店の雰囲気に溶け込むような柔らかさがあった。
レイアさん、また来てくれるといいな。』
8日目:ガリィと、賑やかな一日
「お久しぶりねぇ!店主さん⭐︎」
ドアを開けるなり、甘い声と共に僕に抱きついてきたのは、青い豪奢なドレスを身にまとった少女、ガリィちゃんだった。その後ろで、キャロルちゃんが「おいっ、ガリィ!」と呆れた声を上げている。
ハグをやめたガリィちゃんは、僕の顔を下からじっと覗き込む。彼女の瞳は、好奇心と、少しの悪戯っぽさでキラキラと輝いていた。
「 なるほどなるほど、改めて見ると中々良いお顔立ちですねぇ。そうするとマスターはか・な・り、面食いなんですねぇ」
「ガリィ!」
「あらあら、マスターが顔を赤くしています? やっぱり、この方のことを……くふふっ」
「ええい! ガリィ、いい加減にしろっ!」
ニヤニヤと意地の悪い表情のガリィちゃん。明らかな揶揄うための当てつけにキャロルちゃんの怒声が飛ぶが、ガリィちゃんは全く意に介していない。むしろ、二人の仲を囃し立てるのを楽しんでいるようだ。
僕はただニコニコとその光景を眺めていた。
「店主さんはぁ、何もおっしゃらないのですか~?」
ガリィちゃんが、きしし、と口に手を当てて笑う。流し目で僕に意地悪な笑みを向けて言った。
「うーん。でも、ガリィちゃんがキャロルちゃんのことをそれだけ言えるのは、いつも彼女のことをよく見ているからなんだね。仲がいいんだね」
僕が素直な感想を述べると、ガリィちゃんは一瞬きょとんとした顔をして、それから「……ちぇっ」とつまらなそうに唇を尖らせた。
「コイツ、ガリィちゃんの苦手な天然かよ……」
そんな小声が聞こえた気がした。
その時、からん、と再びドアベルが鳴った。
「優斗、久しぶりね!」
「優斗さん、お元気でしたか?」
入ってきたのは、翼さんたちと同時に帰国していた、マリアさんとセレナさんだった。他の用事を済ませていたとかで、顔を出すのが今日になったらしい。
「マリアさん、セレナさん! お久しぶりです!」
「やっと、まとまった休みが貰えたの。暫くは日本にいると思うわ」
「マリア姉さん、優斗さんに早く会いたかったみたいで、此処に着くまでずっと早歩きだったの」
「セ、セレナ!?」
久しぶりに会う二人の姿に、僕は思わず笑顔になる。
その様子を見ていたキャロルちゃんの表情が、ほんの少しだけ、むっと曇ったのを僕は見逃さなかった。
それを見つけたガリィちゃんは、にやりと何かを閃いたような表情をすると、談笑している僕たちの間に割って入った。
「まあ! 店主さんったら、こんなにお美しいお姉様方に構っておいて、うちのマスターを寂しがらせるなんて、罪なお方ですねぇ!」
そう言って、ガリィちゃんは僕の腕をぐいと引き、キャロルちゃんの隣に連れて行く。
「ガリィちゃん?」
「いいから、マスターの側に居てやってくださいな。さあさあ」
戸惑う僕の背中をぐいぐいと押していくガリィちゃん。どうやら、ガリィちゃんの新しいからかいのターゲットは、マリアさんたちになったらしい。うちのマスターが優斗さんといる方が面白いから、という彼女なりの配慮、なのかもしれない。
「…ちょっと、貴女! いきなり何をするのよ! せっかく優斗と久しぶりに会えたっていうのに!」
マリアがむっとした表情でガリィを睨みつけた。
「あらあら、そんなにむくれなくてもいいじゃないですか、お嬢さん。店主さんが、マスターと一緒の方がきっと楽しいって言ってましたよ? 貴女たちより、マスターの方がお似合いですもの」
ガリィはにこやかに、しかし挑発的に言い放った。
「なんですって!? そんなの貴女が勝手に言ってるだけでしょ! 第一、貴女は優斗のなに!?」
マリアの語気が強くなる。
「さ〜あ、なんでしょうねえ? それは秘密、ということで。それより、マスターのところに早く行きましょうよぉ。きっとマスターも早く店主さんと話した〜い!って思ってるはずですよ?」
ガリィはくるりと身を翻し、優斗をキャロルの座っている席に促す。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! はぐらかさないで! 貴女と優斗は一体…!」
マリアさんは詰め寄るようにガリィとの距離を詰めた。
しかしガリィは飄々とした態度で躱していく。まんまとガリィちゃんの挑発に乗ってしまうマリアさん。しかし、その妹は一枚上手だった。
セレナさんは比較的冷静に状況を見ていて、僕と話すキャロルちゃんがどこか楽しげなこと、そして目の前のガリィちゃんの目的をすぐに察知したようだ。
そして、自分の主人のために健気に立ち回るガリィちゃんの姿に、セレナさんの中の何かが疼いたらしい。
「ええと…ガリィさんでした?よかったマリア姉さんと一緒に話をしませんか?ほら、マリア姉さん。少なくとも私達はまだまだ時間はいっぱいあるよ。だから、ね」
「セレナ!?」
そう言って、セレナさんはノリノリでガリィちゃんの思惑に乗っかるついでに仲良くしようとガリィの隣に座り始めた。ガリィちゃんは小さく「うげっ」と苦手なタイプがまた増えたことに表情を歪ませた。
こうして、コモドの店内は、四人の女性たちの華やかで賑やかなおしゃべりの舞台となったのだった。
優斗の日記
『今日は、ガリィちゃんという、とても賑やかで小悪魔な子が来てくれた。
彼女がいると、キャロルちゃんも、いつもの難しい顔じゃなくて、まるで妹の世話を焼くお姉さんのような、からかわれて怒りながらも、時折とても優しい顔になっている気がする。
マリアちゃんたちも久しぶりに来てくれて、いつにも増して、コモドが笑い声でいっぱいになった一日だった。
彼女たちは、やっぱり不思議な関係だけど、見ていて飽きない、とても素敵な「家族」なんだな、と改めて思った。』
9日目:エルフナインと、陽だまり
今日のキャロルちゃんは、エルフナインちゃんを連れてきてくれた。
以前会った時よりもずっと顔色も良く、すっかり元気になった様子のエルフナインちゃんは、興味深そうにきょろきょろと店内を見回している。どうやら、キャロルちゃんが連れてきてくれるこのコモドを、すっかり気に入ってくれたみたいだ。
「優斗さん。今日はボクも何か食べたてみたいんです。おすすめは何がありますか?」
「むっ」
食事を摂るというエルフナインちゃんの言葉に、キャロルちゃんが少し驚いた顔をする。
「オレは紅茶だけでいい」
「だめだよ、キャロル。細いんだからちゃんと食べなきゃ」
「エルフナイン。お前もオレと同じ体型だろうが」
エルフナインちゃんに窘められ、キャロルちゃんはむっと口を尖らせる。その光景は、まるで本当の姉妹のようだ。
「うん、エルフナインちゃんの言う通りだよ。しっかり食べて、もっと大きくなってほしいな。今日のおすすめは、特製のエビフライランチかな」
「エビフライ……?」
知らない単語だったらしく、エルフナインちゃんは小首を傾げる。
「美味しくて、食べると元気が出る洋食だよ」
「それにする! キャロルもそれでいいね?」
「……ああ」
キャロルちゃんは小声で「ダブルダウラを使えばすぐに大きくなれるんだが」と愚痴っていたけど、結局エルフナインちゃんと同じものを注文してくれた。
僕がキッチンで調理を始めようとした時、またドアベルが鳴った。
「こんにちはーッ! お兄ちゃん!」
「こんにちは、優斗さん」
元気いっぱいの響ちゃんと、その隣で控えめに微笑む未来ちゃんだった。今日は学校が祝日で休みらしい。
「やあ! 響ちゃん、未来ちゃん。いらっしゃい」
カウンターに座るキャロルちゃんとエルフナインちゃんに気づいた響ちゃんは、目を輝かせた。
「あ! お兄ちゃんのお友達? こんにちはッ!」
「……!」
戸惑うエルフナインちゃんの隣に、響ちゃんはずかずかと座って話しかける。その太陽みたいな明るさと距離感の近さに、エルフナインちゃんはたじたじだ。
「こら、響、急に近づいたらびっくりするでしょ」
未来ちゃんが苦笑しながら響ちゃんを抑えるが、エルフナインちゃんもまんざらではない様子だった。
キャロルちゃんだけが、「……厄介なのが来た」と顔に書いてあるような、嫌そうな表情をしていたけど。
「はい、おまたせ。特製エビフライランチだよ」
揚げたての大きなエビフライが三本乗ったお皿とパンを二つとスープを二人の前に置く。サクサクの衣の香ばしい匂いが漂う。
「「わぁ……!」」
さっきまで不機嫌だったキャロルちゃんもエルフナインちゃんも、目を輝かせてエビフライを見つめている。
「お腹すいたー! お兄ちゃん、私オムライスの大盛り!」
「私は……このエビフライ、美味しそう。…じゃあ、私はエビフライサンドをお願いします」
響ちゃんはと未来ちゃんも注文し、僕は再びキッチンに戻る。
エビフライを一口食べたエルフナインちゃんの顔が、ぱあっと輝いた。
「おいしい……! なにこれ、すごく美味しいよキャロル!」
「……そうだな」
キャロルちゃんも、顔には出さないけれど、エビフライを食べるたびに、その青い瞳が嬉しそうにきらめいているのが分かった。味覚が同じだから、きっと同じくらい感動してくれているんだろう。
少し遅れて、響ちゃんのオムライスと未来ちゃんのエビフライサンドが完成する。
「いっただっきまーす!」
大きな口でオムライスを頬張る響ちゃんの姿を、エルフナインちゃんがじーっと見つめている。
その視線に気づいた響ちゃんは、にぱっと笑った。
「よかったら食べる? これから仲良くなる記念に、一口あげるよ!」
「え、いいの?」
「もっちろん!」
響ちゃんがスプーンでオムライスをすくって、エルフナインちゃんの口元へ運ぶ。エルフナインちゃんは、お返しに、と自分のお皿からエビフライを一尾、響ちゃんのお皿に乗せてあげた。
「んー! 美味しいです!」
「このエビフライも、すっごく美味しい!」
二人して唸りながら、お互いの料理を絶賛している。
キャロルちゃんは呆れたようにため息をつき、未来ちゃんは「響らしいね」と優しく微笑んでいた。
お腹も落ち着き、四人はすっかり打ち解けて談笑を始めた。
響ちゃんが、最近コモドから離れた、お父さんの洸さんが新しい職場に就職したことや、未来ちゃんがこの前の調理実習で高得点を取ったこと、カラオケでクリスちゃんや友達と歌いまくったことなんかを、楽しそうに話している。
エルフナインちゃんは、聞くこと全てが初めてらしく、興味津々で相槌を打っていた。我関せずといった態度のキャロルちゃんも、よく見ればその話に耳を傾けているのが分かった。
「この前の肉じゃがも美味しかったし、未来ちゃんの料理、また食べてみたいな」
「えっ!? い、いつでも……優斗さんのためだけに、作りますから……!」
僕の言葉に、未来ちゃんが顔を真っ赤にして俯いてしまう。
それを見ていたキャロルちゃんが、得意気にふん、と鼻を鳴らした。
「料理くらい、オレにだって出来る」
その言葉に、僕は思わず笑ってしまった。
「へぇ、そうなんだ。それは是非食べてみたいな。キャロルちゃんの手料理も」
「……っ!?」
僕の返答は予想外だったのか、キャロルちゃんの顔が、さっきの未来ちゃんみたいにカッと赤くなった。
「……せいぜい、楽しみにしておくんだな!」
ぷいっとそっぽを向いてしまったキャロルちゃんの姿を見て、隣の未来ちゃんが、きりっとした表情で彼女を見つめていた。どうやら、新しい乙女の火花が散った瞬間だったらしい。
優斗の日記
『今日はエルフナインちゃんを連れて来てくれた。目元の黒子と髪の色以外は、本当にそっくりな二人だ。
キャロルちゃんはエルフナインちゃんにツンとした態度が多いけど、頬についた食べかすを拭ってあげたり、さりげない仕草に深い優しさが滲んでいた。
途中から響と未来ちゃんも来て、さらに賑やかになった。
初対面のエルフナインちゃんとすぐに仲良くなった響は、流石のコミュニケーション能力だね、と感心していたら、未来ちゃんから「それは優斗さんもですよ」と笑いながら言われてしまった。僕も、そうなのかな。これからも温かくていい一日になったらいいな。』
ガリィの話す相手キャラクターによって口調が変わるのに苦戦した、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A
Q、オートスコアラー達が人形ってことはバレてないの?
A、キャロルが色々やってます。優斗も事情があると思ってスルーしているとこもありますが
Q、ファラ、いつからファンに?
A、稼働したあと、役割が明確に決まるまで確実自由行動が許可されています。ファラは相手取った時を考え、翼達を調べた時にハマってしまった感じです。あと、昔読んだ他のシンフォギア小説からのオマージュです。今でも更新待ってます
Q、キャロルが頻繁に来ているけど
A、本当は毎日来たいと思ってます
最近中島みゆきさんの「空と君のあいだに」を聞いてブルーアーカイブのミカがヒロインの、ゲヘナ生徒オリ主の小説を考えてしまいました。書けるかわかりませんが