ちなみに水着はXDの画像をGeminiで読み込んで描写してもらいました。イメージとしてはアーマーと装飾がなくなった物と思ってください。
ちなみに水着回は3話構成予定です。
「海だぁー!!」
目の前に広がる、どこまでも青い大海原。
キラキラと乱反射する太陽の光が、まるで宝石を撒き散らしたかのように、紺碧の海を一層美しく輝かせている。
その雄大な景色に向かって、満面の笑みで大声を上げたのは、水着に着替えたばかりの立花響だった。
太陽の熱を帯びたオレンジと白のビキニトップは、彼女の健康的な身体を、軽やかに包み込んでいる。腰に穿いたデニムショートパンツは、活動的な彼女によく似合う短い丈で、そこからわずかに覗くビキニの縁が、夏の解放的な遊び心を感じさせた。
「海デェース!!」
続いて、響の隣に並んだ暁切歌が、両手を大きく天に突き上げ、負けじと叫ぶ。
上衣は、黒に近い濃緑の布地で作られた、ワンピース型の水着のような大胆なデザイン。胸元から腹部にかけて、ライムグリーンの紐が交差する編み上げが施され、健康的な肌を覗かせながらも、衣装に立体感とアクセントを与えている。
下半身は、白のシンプルなショーツの上に、フリルがたっぷりとあしらわれたスカートが重ねられていた。薄いミントグリーンのシースルー素材が幾重にも重なり、彼女が動くたびに、軽快に、楽しそうに揺れる。露出度の高いそのデザインは、夏の強い陽射しと、彼女の活発な性格によく似合っていた。
「海だゾォー!!」
そして、切歌の反対側。
ニコニコとした人懐っこい笑顔で、オートスコアラーのミカが、同じように叫んだ。
彼女の水着は、ピンクと赤、そしてビターなチョコレートのような茶色が組み合わされた、遊び心に溢れたデザインだった。
胸元は、淡いピンクのフリルがたっぷりあしらわれた、小さなビスチェ風のトップス。中央には白地に赤のストライプが入ったリボンが結ばれており、全体に可愛らしい甘さを加えている。
腰周りのフリルもまた、幾重にも重なった柔らかな布地で作られていた。上層は赤と白、下層からは濃い茶色のフリルが覗き、まるでベリーとチョコレートで飾られたデザートのようだ。この二重構造のフリルスカートは、軽やかに揺れ、彼女の天真爛漫な動きによく似合っている。
注目すべきは、その手だった。普段の彼女の象徴でもある鉤爪はなく、今はごく普通の、人間の少女の手になっている。
これは、ミカだけでなく、オートスコアラー全員に言えることだった。キャロルによる改良で、人形特有の関節部分は、極めて巧妙に作られた人工皮膚によって完全に覆い隠されており、ぱっと見ただけでは、彼女たちが人間ではないと見抜くことは、もはや不可能だろう。
仲良く三人で海に向かって叫ぶ、その微笑ましい光景を、少し離れた場所から、ラッシュガードを羽織った優斗と、同じく水着姿のキャロルが見守っていた。
キャロルは、まるで夏の夜の魔女を思わせる、大胆でミステリアスな衣装を纏っていた。
上半身は、白と濃紺の布地で構成されたビキニトップ。胸元にはフリルがあしらわれ、首元はハイネック風のデザインで、小さな赤い星のモチーフが、きらりと光っていた。
腰には、短く、ひらひらとしたスカート状のフリルが巻かれている。背中からは、同じ濃紺の生地で作られた短いマントが、潮風にたなびいていた。
「三人共ー!! 準備運動しないと、足が攣っちゃうよー!!」
優斗が、楽しそうにはしゃぐ三人に向かって、少しだけ心配そうに声をかける。
「はーい!」
「わかってるデース!」
「ミカもやった方がいいカー!?」
それぞれが、個性豊かな返事を返す。その様子に、優斗は思わず苦笑した。
しかし、隣にいるキャロルは、何かを必死に我慢するように、わなわなと肩を震わせている。
「なぜ…! オレは、こんな所にいるのだ……?」
話は、数日前に遡る。
【数日前・喫茶コモド】
その日、喫茶コモドは貸し切りとなっていた。
司令室ではない、この場所にS.O.N.G.の主要メンバーが集められたのは、他でもない、櫻井了子のわがままによるものだった。
長期出張扱いとなっていた、キャロルとの「パヴァリア光明結社潰し」という名の、過激な旅行から帰ってきた彼女は、その報告をS.O.N.G.本部ではなく、このコモドで行うと主張して聞かなかったのだ。
本来なら有り得ないことだが、この場に響や未来がいることが、その理由を物語っていた。
彼女たちは、S.O.N.G.の外部協力者であり、何より、重要人物である新城優斗に、最も近い場所にいる存在だ。故に、今回の複雑な状況を、正確に把握してもらう必要があった。
……というのは建前で、本当は、了子がそろそろアンチエイジング効果もある、優斗の料理が食べたくなった、というのが本音の何割かを占めていることを、ここにいる誰もが薄々感づいていた。恋する女性は、自分磨きに余念がないのだ。
いつものコモドならば、この面子が揃えば、たちまち賑やかになるはずだった。
しかし、今日ばかりは、誰もが固唾を飲んで、了子の隣に並ぶ、見慣れない、それでいてどこか見覚えのある顔ぶれに、視線を集中させていた。
「と、いうわけで〜! 私たちの新しい協力者になった、稀代の錬金術師、キャロルよ! ちょっとぶっきらぼうなところがあるけれど、根はとっても優しい子だから、みんな、仲良く構ってあげてちょうだいね」
了子が、芝居がかった口調で、隣に立つ少女を紹介する。
「なんだその紹介は……。不本意だが、貴様らの協力者となった、キャロル・マールス・ディーンハイムだ。見覚えのある顔もいるだろうが、別によろしくしなくてもいい。それより、お前たちも、改めて名乗っておけ」
キャロルに促され、その後ろに控えていた四体の自動人形――オートスコアラーたちが、一歩前に出る。
「ガリィ・トゥーマーンで〜す。あたしたちのことに、ぜーんぜん気づかなかった、ポンコツ奏者た・ち・も〜、これからは、よろしくお願いしま〜す♪」
「ガリィ、地味な挑発はそのくらいにしておけ。私は、レイア・ダラーヒムだ」
「マスターの忠実なる従者件、つるぎちゃんファンクラブ名誉会員、ファラ・スユーフですわ」
「ミカ・ジャウカーンだゾ! 切歌! 調! 元気にしてたカ!?」
そして、キャロルの隣から、少しだけ緊張した面持ちで、小さな少女が顔を覗かせた。
「エルフナインです。キャロルの…ホムンクルスで、チフォージュ・シャトーの整備と調整を担当していました。また、コモドに来ることができて…嬉しいです!」
自己紹介が終わると、店内は、驚きと、納得と、そして少しの困惑が入り混じった、不思議な沈黙に包まれた。
この中で、オートスコアラーたちと面識があるのは、ガリィとマリア、セレナ。ファラと翼、奏。レイアとクリス。そしてミカと切歌、調。エルフナインと響、未来。
それ以外のメンバーにとっては、彼女たちはほぼ初対面。そして、何より、その正体はあまりにも衝撃的だった。
「キャロルちゃんが錬金術師だったんだね…」
「驚き桃の木、デスね……ミカちゃんたちが、お人形だったなんて全然、気づかなかったデス」
調と切歌が、静かに驚きの言葉を漏らす。
最近は見る機会が減っていたとはいえ、一時期は常連と呼べるほど、毎日顔を合わせていた相手だ。ある程度勘づいていた者以外は、その意外な正体に、ただただ驚くしかなかった。
「キャロルちゃんが、そんなにすごい人だったんだね……。さん付けで呼んだ方が、良かったかな?」
優斗が、少しだけ戸惑ったように、キャロルに尋ねる。
「いや…優斗は、そのままで良い。お前だけには、ありのままのオレを見て欲しいからな」
「…そっか。わかったよ。どんなにすごい人でも、キャロルちゃんは、キャルルちゃんだからね。…これからも、キャロルちゃんがお店に来てくれるなら、僕は、とても嬉しいよ」
「……そうか」
自分の正体を知っても、なお、変わらずに「キャロル」として見てくれる優斗。その真っ直ぐな言葉に、キャロルの口元に、自然と柔らかな笑みが浮かんだ。
「はいはーい! 一個、質問がありまーす! 了子さんは、キャロルちゃんたちと、どうやって知り合ったんですか?」
優斗とキャロルの間に流れ始めた、甘い雰囲気を切り裂くように。
いつの間にか、エルフナインを未来と挟む形で隣に座っていた響が、元気よく手を上げて質問した。
その空気を読んだのか、読んでいないのか分からない行動に、優斗に気がある者たちは、表には出さなかったが、心の中で「響、よくやった」と、親指を立てていた。
「そうそう、優斗くんにも、深ーく関係ある話だから、ちゃんと言っておかないとね。実はね……」
そこから、了子の口によって、これまでの経緯が、キャロルの詳細な補足と共に語られた。
キャロルが、父の復讐のために世界を敵に回そうとしていたこと。その過程で、優斗と出会い、心境に変化が生まれたこと。ここ最近パヴァリア光明結社が、優斗を狙っていることを知り、彼を守るために、了子と手を組んだこと。
そして、世界中に点在するパヴァリアのアジトを、二人とオートスコアラーたちだけで、壊滅させて回ったという、あまりにも壮絶な戦いの記録。
その全てを聞き終えた時、店内は再び、深い沈黙に包まれていた。
骨を折り、危険を顧みず、自分たちのために戦ってくれた、目の前の少女たち。その事実が、S.O.N.G.の装者たちの胸を、強く打った。
そして、誰よりも、優斗自身が。
「そうだったんですか……僕を狙って、そんな大変なことが…。キャロルちゃん、僕を守ってくれて、本当にありがとう。すごく苦労をかけてしまったみたいだけど…何か、お礼をさせてくれないかな」
「心配するな、優斗。もう、話がついたことだ。それでも、どうしても礼をしないと気が済まないというのなら…また、オレに、あのシチューを作ってくれないか」
「え…? そんなことで、いいのかな?」
「それくらいが、オレにはちょうどいいのさ。優斗のシチューが、今のオレには…」
「じゃあ、好きな時にいつでも来てくれていいよ。腕によりをかけて、とびっきりのを作るから。いつでも待ってるからね」
「……ああ」
再び、ガヤガヤと騒がしくなり始めたコモド。まだ話は終わっていない。ここで話を切り替えるため、了子がパン、と手を叩き、全員の注目を集めた。
「積もる話も、たくさんあると思うけど、それは、後日行く旅行でするように! ね?」
そして、彼女は、とんでもない爆弾を投下した。
「それで、相談なんだけど、キャロルちゃんたちも、その旅行に連れて行ってあげていいかしら?」
その言葉に、キャロルは、今初めてその事実を知った、という驚愕の表情を、了子に向けた。
「そういや、明後日にバカンスに行くんだったな。キャロルたちも行くのか? あたしは構わねえぜ」
「そうね。奏の言う通り、新しい仲間になったとはいえ、まだお互いに知らないことばかりだもの。これを機に、親睦を深めていくのも、悪くないと思うわ」
いつの間にかファラに絡まれていた翼と、奏が、あっさりと賛成の意を唱える。
「私も賛成よ。優斗を、知らないところで守ってくれたキャロルたちに感謝こそすれ、排斥する理由など、どこにもないわ」
「マリア姉さんと同じく、私も賛成です。ガリィさんともまたゆっくりお話ししたかったですし。キャロルちゃんのことも、もっと聞いてみたいんです」
セレナの発言を聞いて、うげ、と心底嫌そうな顔をするガリィを横目に、マリアとセレナも賛成の声を上げた。
「あたしも、構わねえぜ。ここまで来たら、何人増えようがもう関係ねえしな」
テーブルに肘をついた姿勢で、ジュースをストローで飲んでいるクリス。なぜか、ストローで飲んでいるはずなのに、テーブルにジュースがこぼれているのを、隣に座っていたレイアが、ペーパーナプキンで丁寧に拭き取っていた。
「大賛成デース!! ミカたちと一緒に、海で遊びたいデース!」
「うん。スイカ割りに、ビーチバレー。雑誌をいっぱい見て、たくさん勉強したからみんなでいっぱい遊べるよ」
新たな友達と旅行に行ける、という事実に、切歌と調が、子供のようにはしゃぐ。ミカも、初めて聞く単語に興味津々で、目をキラキラと輝かせていた。
「そうなったら、みんなで水着、一緒に買いに行こうよ! キャロルちゃんたちの水着姿、絶対!とっても似合うと思うし!」
「響。そう言ってるけど、一昨年から水着、新しいのを買ってないでしょ、もう」
「いやー、最近、お腹がすいてすいて! 優斗さんにも割引してもらってたから、ついつい食べすぎちゃって! もう、お財布の中身があんまり…あはは、あは…は……」
「………」
「ごめんなさい」
「よろしい。………もう、しょうがない。私の水着を選ぶのも、手伝ってほしいから、新しいの、一緒に買いに行こう?」
「みぃくぅぅ! ありがとー!! …まっかせて! お兄ちゃんが、思わず釘付けになるような、すっごいのを選ぶからね!!」
「くぎっ……!? ……ふ、普通のでいいから! 普通ので!」
そこからは、エルフナインも巻き込んで、女子たちの、賑やかな水着の買い物談義が始まってしまった。
もはや、キャロルたちが旅行に同行することは、既定路線のようだ。
その流れに、キャロルだけが、焦りを隠せずにいた。
「お、おい! オレは、まだ行くと一言も言っていないぞ!」
「もう、諦めたらどうかしら? ところで弦十郎くんは、旅行に行くの?」
「いや、俺は待機する。だが了子くん、今回は待機してもらうぞ」
「えー!? …ど、どういうことなの、弦十郎くぅん?」
「出張扱いだった君の報告書が、まだ完全ではないからな。それに、長期間職場を離れていた分、仕事が山のように溜まっている。それを全て捌いてもらわないと、こちらとしても困るんだ」
「とほほだわ…」
「……それに、例の『アレ』も、完成したそうだ。あとは、了子くんと、相手の出方次第、ということになる」
「…わかったわ。はぁーあ、今回は諦めるしかないようね。ま、あの方と再会してから、またゆっくり行けばいいか」
弦十郎と了子の会話に、キャロルの意見は、あっさりと一刀両断され、彼女は呆然と固まってしまう。そこへ、新しい紅茶を持ってきた優斗が、そっとキャロルに近づいた。
「キャロルちゃんは、行かないの?」
「なぜ、オレが海になどと! ……興味がない。ミカたちが行きたいというのなら、行けばいいだろう。オレは行かな……待て、優斗。お前も、こいつらと一緒に行くのか?」
「うん、そのつもりだよ。久しぶりに海に行くから、結構、楽しみにしてるんだ。せっかくだから、キャロルちゃんも一緒に楽しんでほしいんだけどな。でも、無理強いはしないよ。キャロルちゃんの意思を、尊重するから」
キャロルは、完全に見当違いをしていた。
この旅行は、S.O.N.G.が主導するもの。喫茶店の店主という立場から、優斗は当然、ここに残るものだと思っていたのだ。
他の連中がいない、その間に、優斗と二人きりの、甘い蜜月の日々を過ごそうと、ついさっき画策していた。
しかし、優斗自身が海に行くというのなら、話は別だ。その計画は、全て破綻してしまった。内心で、キャロルは激しく焦っていた。
「……ど、どうしても、と、言うのなら、行ってやらんことも、ないが?」
「ええと…うん。どうしても、キャロルちゃんと一緒に、海に行きたいな?」
そわそわと、落ち着きなくし始めたキャロルの様子に、優斗は「素直になれないのかな?」と感じ、とりあえず、ストレートに誘ってみた。
「…ふ、ふふふ。仕方ないな。優斗が、そこまでオレと一緒にいたいと言うのなら、仕方なく、あくまで仕方なくだぞ? 行ってやらんことも、ないが?」
「本当かい? そうなったら、僕もすごく嬉しいよ」
「あいつらが、行きたそうにしているから、仕方なくだ! ……こうしてはおれん。急いで、水着を設計せねばならんな」
真剣な表情で、オートスコアラーたちの分も含めた水着のデザインを考え始めるキャロル。
だが、優斗に誘われた喜びが、どうしても口元から溢れ出てしまい、ニマニマと緩みきっている。
その様子は、傍から見れば、どう見ても、意中の人に誘われて心の底から喜んでいるようにしか、見えなかった。
(マスター、チョロいですねぇ)
(甘いですね)
(地味に合わせて、チョロ甘だな)
(マスターは甘いのカ? 今度、味見してみたいゾ)
なお、その内心は、ガリィたちには、普通に察せられていた模様。
そんな経緯もあり、数日前の、浮かれきっていた自分を客観的に思い出し、キャロルは、これも惚れた弱みか、と早々に諦めて、この状況を楽しむことにした。
「まあいい。優斗、喉が渇いた。何か飲み物はあるか?」
「水筒に麦茶があるけれど、それでいいかい?」
「構わん。……ふむ、麦茶とやらも、悪くはないな」
砂浜で、キャロルは優斗から水筒を受け取り、初めて口にするであろう麦茶を、美味しそうに飲んでいく。夏の暑さが、その味を一層引き立てているようだ。
「マスター、このままでは、地味に肌を痛めてしまいます。この派手な日傘の中に、お入りください」
水着姿のレイアが、レースで彩られた大きな日傘を差し出し、キャロルを強い紫外線から守ろうとする。
彼女の装いは、落ち着いた色合いの中に、夏の遊び心を秘めた、シックなビキニスタイルだった。
メインとなる肌着は、ビターな茶色と、落ち着いた黄緑色のコントラストが美しい。トップスは、胸元で大きな茶色のリボンが結ばれ、ショーツにはフリルがあしらわれている。その上に、透け感のある白い薄地のガウンを羽織り、ビキニの露出を抑えつつも、夏の軽やかさを感じさせていた。
「ところで、だな…その……おい、優斗。何か、言うことがあるだろうが」
突然、キャロルがもじもじとし始めた。その切り込みに、優斗もはっと気づき、慌てて彼女の水着姿を褒めた。
「うん、すごく、似合っているよ。いつもの服も、大人っぽくて素敵だけど、今の格好は、とても華やかで、すごく可愛いね」
「そっ、そうか!! …恥を忍んだ、甲斐があったというものか…」
ストレートな褒め言葉に、キャロルは顔を真っ赤にして照れる。
そんな二人の元へ、近くで休憩スペースの設置作業を終えた、セレナと翼が近づいてきた。まず目に飛び込んできたのは、セレナの姿。
その装いは、清純な白を基調としたビキニスタイルだった。胸元を飾るビキニトップは、対照的な黒い紐がバストの上で大胆に交差しする計算された挑発的なデザイン。それは彼女の持つ、姉のマリアとはまた違う、少しだけ快活で小悪魔的な魅力を際立たせていた。
ショーツのウエストからは、何本もの細い紐がアクセサリーのように垂れ下がり、その先で小さな貝殻やターコイズブルーのビーズがきらきらと揺れている。
その姿は、まるで海から生まれた妖精のようでありながら、どこか掴みどころのない、ミステリアスな色香も漂わせていた。
そして、その隣を歩く翼の姿は、また別の意味で圧倒的だった。
普段、彼女がその身に纏うのは、国を守る「防人」としての、鎧のごときシンフォギア。しかし今、彼女が着ているのは、夏の空とどこまでも続く海の色をそのまま映したかのような、爽やかな水色と白のビキニスタイルだった。
柔らかな布地で作られたビキニトップは、涼しげな水色をベースに、純白のラインがアクセントとして入っている。日々の鍛錬で磨き上げられた、しなやかな身体の曲線を惜しげもなく晒していた。首元には、衣装と同じ生地で作られたチョーカーが巻かれており、その中央で小さな銀のチャームが光っている。
普段の彼女の凛々しさを残しつつも、どこかプライベートな無防備さを感じさせた。
腰元を覆うのは、軽やかで透け感のある、薄い水色のシースルー素材でできたフリルスカート。幾重にも重なった繊細なフリルは、彼女が歩くたびに、まるで風に舞う波しぶきのように、ふわり、ふわりと揺らめく。その動きは、彼女の戦場の代名詞である「剣」の鋭さとは真逆の、「風」や「水」のような、柔らかな優雅さを表現していた。
それは、トップアイドル「風鳴翼」でも、S.O.N.G.の装者でもない、ただの一人の女性としての、夏の日の、眩しい姿だった。
「あっ、優斗さん。パラソルの設置、終わりましたよ。ところで、このクーラーボックスは、どこに置いておきましょうか?」
「重たいのにごめんね、セレナさん。それは、パラソルの下でいいと思うよ」
「優斗さん。スイカなどの大きめのものは、まだ車の中に置いてあります。一応、バケツの水につけてはいますが、早めに食べた方がいいかもしれません」
「そうだね。じゃあ、スイカ割りは、少し早めにした方がいいかな?」
優斗は、来る前から、やったことのないスイカ割りを、心待ちにしていた切歌たちの姿を思い出す。同じことを考えていたらしいセレナと目が合い、二人は思わず、くすりと笑った。
「優斗さんも、そのラッシュガード、お似合いですよ。爽やかで、素敵です」
「そういう翼ちゃんこそ、すごく似合ってる。その…なんて言うか、いつもと雰囲気が違って、ドキッとするくらい綺麗だよ。やっぱり、奏ちゃんと一緒に選んだの?」
異性からの、それも優斗からのストレートな褒め言葉に、翼の頬が、わずかに朱に染まる。グラビア撮影などで水着を着る機会は多い。だが、こうしてプライベートな空間で、特に意識している相手から直接褒められるのは、全く違う感情を呼び起こす。
「ええ…。奏が、どうしてもこれがいいと聞かなくて。だけど、まあ…自分で選んだものを、こうして着るのは、また違うものですね」
「マリア姉さんは、結構情熱的なデザインで売っていますが、こういう清純派なのも、アリ、ですね」
セレナの目が、悪戯っぽく、怪しくきらめいた。その清楚な見た目からは想像もつかないが、彼女は意外と、悪巧みが好きなのだ。
「あまり、マリアをからかってやるないようにね…」
翼が、やれやれといった風に、苦笑を浮かべる。
「はーい、考えるだけにしときまーす♪ …ところで優斗さん、改めて、私の水着、似合ってます?」
「うん、とっても。なんていうか、セレナさんの可愛らしさと、少し大人っぽい魅力が、両方出てて、すごく素敵だと思う」
「うふふ、ありがとうございます。優斗さんにそう言ってもらえるのが、一番嬉しいです」
和やかに、そしてどこか甘い空気が、三人の間に流れていた。和やかに話す3人。そこに、サングラスをかけ、その抜群のスタイルが水着姿になることで、より一層際立つマリアが、日焼け止めを手に近づいてきた。
彼女の長い桃色の髪を飾り立てるのは、南国の太陽を思わせる鮮やかなハイビスカス。
その可憐な姿に呼応するように、彼女が纏うのは純白を基調とした、気品あふれるビキニスタイルだった。
ホルターネックのデザインは、彼女のしなやかな首筋から肩にかけてのラインをこの上なく美しく見せ、トップスの中心で控えめに煌めく小さな宝石のような飾りが、普段の華やかなステージ衣装を彷彿とさせた。
清純な白地に、甘さを加えるピンクと、全体を引き締める黒の差し色が絶妙なバランスで配置され、彼女が持つ気高さと、内に秘めた情熱の両方を巧みに表現している。
腰元を彩るのは、淡いミントグリーンの、幾重にも重なったシースルー素材のフリル。潮風を受けるたびに、波のように優雅に揺らめき、夏の陽光を透かして、まるで透き通るような透明感を放っていた。
それは、世界の歌姫「マリア・カデンツァヴナ・イヴ」の気品と、一人の少女としての可憐さが、奇跡的なバランスで融合した姿だった。
「ほら、二人とも日焼け止めを忘れているわよ。優斗、貴方にもあとで私が塗ってあげるから、少し時間を頂戴ね?」
そう言って微笑む彼女の声は、いつも通り自信に満ちている。
しかし、優斗が自分を見つめていることに気づくと、彼女は少しだけ視線を彷徨わせた。
「所で…その…私の水着。どう、かしら」
普段の彼女からは想像もつかない、少しだけ不安げな、上目遣い。そのギャップに、優斗の心臓が大きく跳ねた。
「似合いすぎて、褒め言葉が見つからない、かな。…ごめん、変なこと、言っちゃったかも」
「そんなことないわ!……優斗も、その、すごく、かっこいい、のだから……」
優斗の素直な言葉に、マリアの頬が、ハイビスカスの花びらのように、鮮やかに染め上がった。
ふと、優斗は、マリアの背後に、音もなく忍び寄る奏の姿を視界に捉えた。
奏は、優斗に向かって、人差し指を口の前に立てる、「内緒にしてくれ」というジェスチャーを送る。
その悪戯っぽい表情に、優斗は苦笑しながら、黙っておくことにしたようだ。
そして、次の瞬間。奏は、勢いよくマリアの背後から抱きついた。その衝撃で、目の前で大きく形を変えるマリアの胸の形に、優斗は思わず、顔を逸らすしかなかった。
その様子を見ていた、麦茶を飲み終えたキャロルの目が、急に鋭くなる。レイアに、ダブルダウラを持って来させようかと、一瞬本気で悩んだ。
「マ・リ・ア! …当然、この私にも、日焼け止めを塗ってくれるよな〜? それに、優斗を独り占めしようなんて、狡いじゃないか、このたやマめ!」
「きゃっ!? …ちょっと奏! いきなり背後から抱き付かないでちょうだい! …それに、たやマって、一体何よ!?」
「ただの、やらしい、マリア、の略だけど?」
「人を変態扱いしないでくれるかしら!?」
「でも、隅から隅まで、優斗の体に触れるとしたら?」
「ぜひ、触らせていただきたいわ。……待って、これは違うの、そういう意味じゃなくて…」
優斗に弁明するマリアに後ろから抱きついた奏。
その姿は、夏の太陽そのものを切り取って身に纏ったかのような灼熱のオレンジと、全ての色を飲み込むような漆黒を組み合わせた、情熱的なビキニスタイル。
引き締まったアスリートの肉体を包むビキニトップは、無駄な装飾を一切削ぎ落とした潔いデザイン。その漆黒の布地は、胸のラインをなぞる炎のようなオレンジ色の縁取りを、より一層際立たせるためだけの背景となった。それは、彼女自身の真っ直ぐで、何物にも屈しない強靭な意志を映し出す鏡のようだった。
しかし、彼女のスタイルを決定づけていたのは、腰に結ばれた半透明のパレオ。
縁取りと同じ燃えるようなオレンジ色をしたその布は、夏の陽炎のように軽やかで、彼女の悪戯っぽい一挙手一投足に合わせ、まるで意志を持っているかのように舞い踊る。
それは、天羽奏という存在そのもの。
揺るぎない強さと情熱という核を、誰も捕らえることのできない、遊び心に満ちた風で包み込んでいるかのようだった。
「優斗く・ん〜? このあたしに、何か言うことがあるんじゃないかな〜?」
悪戯っぽく笑いながら、奏は優斗に視線を送る。その瞳は、真夏の太陽よりも眩しく、そして熱く燃えていた。
「うん、とっても綺麗だよ。やっぱり、その色は、奏ちゃんにすごく映えるね」
「だよなー! 優斗はやっぱり、分かってる! 了子さんが勧めてきた水着なんて、全体的に古くさくってさー!」
謎の風評被害が、今ここにいない了子を襲った。ちなみに、彼女が選んだ水着は、なぜか昭和の香りがした、とか。
「そういえば、弦十郎さんたちは、本当に良かったの? 名目は社員旅行だけど、その割には、藤尭さんや友里さんもいないし、ナスターシャさんやウェルさんも、来ていないけど」
空気を切り替えるように、優斗が素朴な疑問を口にする。
「ええ。司令は、そもそも来る気があまりなかったみたい。『俺は、立場的にも行きにくいからな。普段頑張ってくれている君たちへのご褒美だ。上司の俺がいては、心から楽しめないだろう?』ですって。了子さんに至っては、この前の件で、今頃S.O.N.G.に拘束されて、泣きべそをかいている頃よ」
「まったく、おっさんも考えすぎなんだよな。ナスターシャたちも『自身の研究で忙しいのです。それに、歩けるとはいえ、この歳ですから。ここは、マリアたちに任せます』だってよ。ウェルの奴に至っては、興味ない、の一点張りだからな」
「はぁ、マムったら、ああ見えて、結構めんどくさがりなのよ。友里さんたちも、アラートがいつ鳴るか分からないからって、休みをずらしたらしいし」
(藤尭さんは、気まずいからって、来なかったしね…)
ここにいないS.O.N.G.メンバーの現状を、それぞれが語る。
しかし優斗は、数少ない男性スタッフである藤尭が、この女所帯に飛び込むのが嫌で来なかったことを、この前、一人でコモドに来た時に、こっそり聞いていた。
「ま、ここにいない奴らの分まで、あたしたちが楽しめばいいのさ! とっとと泳ぎに行こうぜ! 優斗は、どうすんだ?」
「僕は、もう少しここにいるよ。みんなが揃ってから、動こうと思ってるんだ」
「そっか。じゃあ、マリア! セレナ! 翼! このあたしに、ついてこーい!!」
「ああ、もう! …優斗、この日焼け止めを預けるから、調たちにも、ちゃんと塗っておくように、言っておいてくれないかしら!」
「優斗さんも、後から来てくださいね」
先行して走り出した奏を追いかけるため、持っていた日焼け止めを優斗に託し、マリアと翼も、その後を追っていった。
残されたのは、キョトンとした優斗と、仕方ないな、と微笑むセレナだった。
「奏さんにかかったら、マリア姉さんも形無しですね。…でも、優斗さん?」
「なんだい?」
どこか、色気のある表情を浮かべたセレナが、上目遣いで、優斗の顔を覗き込むように、距離を詰める。
「私も、優斗さんになら……塗られても、いいですよ?」
「…えっ!?」
優斗の、素直すぎるリアクションに、セレナはくすくすと笑うと、マリアたちの名前を呼びながら、海の方向へと、早足で去っていった。
「鼻の下を、伸ばすな、バカっ…」
「キャロルちゃん?」
「なんでもない! …レイア、作戦変更だ。あの水着を、取ってこい」
「イエス、マスター」
キャロルは、優斗に聞こえないくらいの小さな声で、乙女心からの悪態をついた。
そして、レイアに何かを命じると、彼女はテレポートジェムを使い、一瞬でその場から姿を消した。
急に不機嫌になったキャロルに、優斗がどうしていいか分からず、あたふたしていると。
「マスター。そんなに不貞腐れていると、子供みたいに見えますよぉ? そんなんじゃ、店主さんも、大人の態度をとって、相手にしてくれなくなっちゃいますよ?」
「マスター、ただいま戻りました…おや? レイアの姿が見えませんが」
キャロルと優斗が話している元へ、対照的な魅力を持つ二体のオートスコアラーが、砂浜を歩いてやってきた。
まず、ガリィの姿は、まるで精巧に作られたビスクドールが、そのまま夏の陽光の下に飛び出してきたかのようだった。
彼女が纏うのは、マリンブルーとオフホワイトのコントラストが爽やかな、計算し尽くされた愛らしさを持つ衣装。
胸元はフリル付きの丸い布地がビスチェのように覆い、小さなピンクリボンが、まるでプレゼントの包装のように結ばれている。肩を飾るパフスリーブ、幾重にも重なった砂糖菓子のようなフリルスカート。
しかしそれは、ただ可愛いだけの装いではない。
その徹底された「作られた可愛らしさ」は、彼女の本質である高度な戦闘能力を覆い隠す、完璧な擬態。その笑顔の下に、どんな悪戯や企みを隠しているのか、誰にも窺い知ることはできなかった。
一方、その隣を歩くファラの姿は、まるで南国のリゾート地に舞い降りた女神のような、気品とエキゾチックな魅力に満ちていた。
陶器の様な肌に映えるのは、黒と深いグリーンを組み合わせた、落ち着きがありながらも大胆な夏の装い。
胸元は黒を基調としたビスチェ風のトップス。その中央で一際目を引くのは、大きな金の輪。それはまるで、彼女の揺るぎない忠誠心そのものを象徴しているかのようだった。
純白の薄いシースルー素材の上衣が、腹部を優しく覆い、風を受けるたびに軽やかに揺れる。腰に巻かれたラップスカートからは、金色の鎖や小さなビーズが垂れ下がり、彼女が歩くたびに、シャラリ、と微かな音を立てた。
それは、単なる水着ではない。主であるキャロルに付き従う、忠実な騎士である彼女にこそ相応しい、気高く、そしてどこか神秘的な雰囲気を漂わせる、夏の戦闘服とも言うべき出で立ちだった。
キャロルの様子を見たガリィは、暗に「子供っぽい態度では、女性として見られない」と、キャロルに耳打ちする。
「レイアちゃんがいないということは、マスター? …私が用意した、とっておきの水着を着るつもりですけど、今は、やめておいた方がいいですよぉ〜?」
「なんだと?」
キャロルとガリィが、内緒話を始めている横で、優斗はファラと話していた。
「ファラさんも、その水着、すごく似合っていますね。ガリィさんもですけれど、全部、キャロルちゃんが作ったんですか?」
「お褒めに預かり、光栄ですわ。ええ、今回の水着は全て、マスターが、我々のために、お手を煩わせてまで、お作りいただけたのです。優斗様が、我々をお褒めになるということは、マスターを褒めていただくのと、同義ですわ」
「そうか。じゃあ、あとでキャロルちゃんにも、ちゃんと思いを伝えておくね」
「はい。そうしていただけると、マスターも、きっとお喜びになります…あの、優斗様?」
「どうしました?」
一旦、会話が途切れる。ファラは、何かを言いたそうに、もじもじとしていた。
「噂によれば、優斗様の喫茶店に、ツヴァイウィングのお二人、いや、つるぎちゃんが、初めて書いたというサインが、あると聞いたのですが…」
「うん? そうだね。確かに、家にあるけれど…!?」
その言葉を聞いた瞬間、ファラの目が、カッと見開かれた。
彼女は、勢いよく優斗の両手を握りしめ、詰め寄った。
「で、では! あなた様が、ツヴァイウィング、いえ、剣ちゃんの名誉ファンクラブ、第一号様なのですねぇ!!」
「え? …ええ!?」
優斗には、あまり寝耳に水の話だった。
だが、以前、ツヴァイウィングのラジオ番組で「初めてサインを書いたファンは誰?」という質問に対し、二人が「今でも、その人が大事に飾ってくれている」と、名前をぼかして答えたことがあった。
そのため、ネット上では、その人物は「名誉ツヴァイウィング裏の会長」として、一部のファンの間で、密かに崇められていたのだ。
「是非! 是非とも、そのサイン、この私にも、見させていただいても、よろしいでしょうか!? 当然、お礼は何でも致しますわ!! なんなら、マスターも抱き込みますのでっ…! どうか! どうか!!」
「わ、わかりました!! わかりましたから、どうか、落ち着いてください!」
人間では、到底敵わないであろう腕力で、ぐいぐいと迫られている優斗を横目に、キャロルとガリィのヒートアップも、最高潮に達していた。
「ですから、店主さんの周りには、おっきくなったマスターに負けず劣らずの、スタイルのいい連中ばっかりなんですよぉ。そんな中で、まともに競ったって、埋もれるだけですしぃ。……だったらぁ、二人っきりになった、と・き・に、ベッドの上で、こっそりおっきくなって、あーんなことや、こーんな事を…」
「ば、ばばば、馬鹿っ! そんなこと、できるわけがないだろうがっ!!?」
「あはははっ! さすがマスター、純情乙女ですねぇ」
「ええい! その捻じ曲がった性根、今すぐ叩き直してくれようかっ!?」
「いやんっ、マスターってば、こわぁい」
「待てっ! ガリィ!」
からかいすぎたと判断したガリィが、きゃっきゃと笑いながら逃げ出す。それを、本気で怒ったキャロルが追いかけていった。
宥められて、ようやく正気に戻ったファラも、さすがにあの二人の様子が心配になったのか、優斗に一言断りを入れると、追いかけっこを始めたキャロルたちを、慌てて追いかけていった。
突然、一人きりになってしまった優斗は、とりあえず気持ちを切り替えて、設置してもらったパラソルの下へと向かった。
「あ、未来ちゃん、調ちゃん、クリスちゃん。それにエルフナインちゃんも」
パラソルの下には、四つの人影。
優斗に気づいた未来と調が、笑顔でパタパタと小走りで近づいてくる。
クリスだけは、自分の水着姿を見られるのが照れくさいのか、おずおずと、少しだけ遅れてやってきた。初めて海に来たエルフナインは、そんなクリスの手に引かれながら、興味津々といった様子で、キョロキョロと周りを見渡している。
「水着、似合ってますよ、優斗さん。それと、なんですけど、切ちゃんを見ませんでしたか? 一緒に泳ごうって、約束をしてたんですが」
「響の姿も見えないんです」
「ったく、あのバカどもは、一体何してやがんだ?」
「ええと、その二人なら…」
優斗が答えようとした、その時。海の方から、大きな声が聞こえてきた。
「あははは! この勝負、私の勝ちだよー! これで一番乗りっっ……ったぁああー!! 足、攣ったー!!」
「ふふふ! 油断大敵デスね、響さん! この勝負、アタシの勝ちっっーーー……痛いデース!! 足が! アシガッ!!」
「響も切歌も、マヌケだゾ! 勝つのは、このミカだゾッ!」
準備体操を怠った結果、ゴール直前で、足を攣って動けなくなってしまう二人。
しかし、人形であるが故に、足が攣ることのないミカは、二人の間を悠々とすり抜けていく。だが、なぜか、その勢いが、少しずつ落ちていった。
「………お腹、すいたゾー。……力が〜、抜けて〜、いくゾ〜…」
ミカは、エネルギーが尽き、空腹で動けなくなり、そのまま海に沈んでいった。
遊泳競争をしていた三人は、もう少しで陸地というところで、それぞれ、あまりにも情けない理由で、脱落していったのだった。
幸いにも、近くまで来ていた奏たちに、すぐに助けられたので、命に別状はなかったらしい。しかし、それぞれに心配と呆れから、こってりと厳しく怒られていた。
「はぁああ。何やってんだか、あいつらは」
「もう、準備運動は、絶対に忘れないでって、あれだけ言ったのに」
「でも、あんなに楽しそうな切ちゃんは、初めて見たかも。…それはそれとして、心配かけたお説教は、後でちゃんとするけどね」
「ミカさんは、いつ泳げるようになったんでしょうか。やはり、水着に着替えることで、水中適性が上がるのでしょうか…?」
「いや、ある意味では上がるけど、多分、ちょっと意味合いが違うような…」
ため息をつき、呆れ果てるクリスと未来。
切歌の様子を見て、微笑ましいと思いつつも、少しだけ怒っている調。
三人の泳ぎっぷりを見て、水着に何か特別な効果があると、本気で勘違いしているエルフナイン。
とりあえず、響たちの、あまりにも締まらない競争結果に、クリスたちは、揃ってため息をついた。
気持ちを切り替えたクリスはそっと優斗側に近寄った。視線を彼に向けたまま、もじもじと、何か言いたそうにしている。
普段の彼女からは考えられない、そのじれったい仕草に、優斗は思わず視線を奪われた。
「なあ、この水着……その、だな…」
真っ赤な顔で、潤んだ瞳が上目遣いに優斗を見つめる。
その姿は、あまりにも魅力的で、そしてどこか儚げだった。
彼女がその身に纏うのは、まるで彼女の魂の色そのものを映したかのような、情熱的な緋色を基調としたビキニスタイル。
胸元は、柔らかな布地が複雑に交差し、肌を覆いつつも、日々の鍛錬で磨かれたしなやかな身体の曲線美を、これ以上なく強調するビスチェ風のデザイン。それは、彼女が内に秘める、誰にも譲れない誇りと、優斗の前でだけ見せる、脆く、守られたいと願う少女の心が複雑に絡み合っているかのようだった。
下半身を飾る、幾重にも重なったフリル付きのミニスカートは、風を受けるたびに楽しげに揺れ、強気な彼女の奥底に隠された、純粋な可愛らしさを垣間見せる。
それは、「雪音クリス」の強さと、ただ一人の少女としての弱さ、その全てを内包した、彼女だけの夏の戦闘服だった。
「優斗さん。この水着、どうかな? 切ちゃんと一緒に、選んだんだ」
クリスに続き、調もまた、少しだけ頬を染めながら、自分の水着の感想を求めてきた。
弾けるような笑顔の彼女は、まるで夏休みの楽しさそのものを、ぎゅっと凝縮して形にしたかのような、眩しい輝きを放っていた。
彼女が選んだのは、白いセーラー服風のトップス。紺色の襟に、胸元で結ばれた赤いリボンが、快活で清純なマリンテイストを演出している。それは、彼女がようやく手に入れた「普通の学生生活」という、かけがえのない日常の象徴。この楽しい時間も、響や切歌たちと過ごす、何気ない日々の延長線上にあるのだと、そのデザインが物語っていた。
手には、白と鮮やかなピンクのストライプ柄をした、大きなドーナツ型の浮き輪。それはまるで、この夏休みが、甘くて、特別な思い出になることを約束しているかのようだった。
優斗に「どうかな?」と問いかけるその表情には、ほんの少しだけ背伸びをして、一人の女の子として見てもらいたい、という無意識の心が、夏の陽光に透けて見えた。
「あの、私の水着……似合っていますか…?」
この機を逃すまいと、未来もまた、優斗に、淡く、甘い期待を込めた視線を向ける。
陽炎のように揺らめく光の中で、彼女はまるで、夜明け前の淡い夢から抜け出してきたかのような、幻想的でミステリアスな夏の装いを纏っていた。
肩から腕にかけては、極めて薄いシースルーの生地が、羽衣のようにふわりと広がり、彼女の奥ゆかしさと、どんな時も優斗を優しく包み込もうとする、母性的な愛情を象徴しているかのよう。
しかし、その軽やかなガウンの下には、純白のビキニが、確かにその存在を主張している。透けて見える肌は、彼女が内に秘めた、決して誰にも譲れない、一人の女性としての、強く、そして熱い想いを、静かに暗示していた。
それは、ただ優しいだけではない、小日向未来という少女の、本当の覚悟の形だった。
「3人共、すごく、すごく似合っているよ。可愛くて、眩しくて、見ていられないくらいだよ」」
優斗の、心からの褒め言葉。
それに、未来と調は嬉しそうに頬を染め、クリスは脳内でその言葉を何度も反芻し、幸せに浸っている。
そんな中、エルフナインが、純粋な好奇心に満ちた瞳で、優斗の前に立った。
「優斗さん。僕のこの水着、キャロルと一緒に考えて、作ったんです。どうですか? 似合いますか? 初めて着る水着なので、よかったら、データ収集のために意見を聞かせてください」
彼女が着用しているのは、競技用水着のような、機能美に溢れたシンプルなワンピース型の水着。淡い水色を基調とし、肩や脇腹のラインにはアクセントとして明るいピンク色のパイピングが施されている。
余計な装飾を一切排したそのデザインは、彼女の合理主義で、知的好奇心に満ちた内面をそのまま反映しているかのようだった。
しかし、その無機質なデザインの中に彩りを添える、水色とピンクという配色は、まだ「色」を知らない彼女が、これから様々な感情――友情や、あるいは恋心といった、解析不能なデータを経験していく未来を、静かに予感させていた。
「エルフナインちゃんも似合っているよ。初めて海だけど、体調とか大丈夫?」
「大丈夫です!こんな事もあろうかと塩分補給用グッズ教えてもらって、持ってきました!」
胸を張るエルフナインに優斗と未来、調は微笑ましく思い、顔を見合わせてくすくすと笑ってしまった。
しかし、その和やかなやり取りが繰り広げられている間、クリスの世界は、完全に停止していた。
彼女の聴覚は、優斗が放った「可愛い」という単語だけを執拗に拾い上げ、脳内で無限にリフレインさせている。
(可愛いって…優斗が、あたしのこと、可愛いって…へへ…似合ってるって…可愛いって……えへへへへ)
その言葉は、まるで温かい蜂蜜のように、彼女の思考をゆっくりと溶かし、全身の血管を駆け巡り、脳の機能を完全に麻痺させていた。
口元は緩み、心なしか、キラキラとしたピンク色のオーラまで見え隠れしているようだった。
「ほら、みんなもあっちに集まっているみたいだね。僕たちも、そろそろ行こうか」
優斗が、波打ち際で手招きしている響たちの姿を指さして言った。
「はい、そうですね、優斗さん」
「うん。…クリス先輩、行こう? ……どうしたんですか?」
未来が優しく声をかけ、調がその肩を軽く揺する。
しかし、クリスからの反応はない。彼女は、幸せな夢の世界から、まだ帰ってきていないようだ。
「…そ、そんなに褒めるなよ、バカ…えへへ……へ…………今の、忘れろ…」
完全に自分の世界に入り込み、うわごとを呟き始めるクリス。しかし2人がこちらを見ていることに気づいた。
しかし、今まで静かに観察していたエルフナインが、すっと目を細めた。
「待ってください!」
彼女はクリスの前に回り込むと、まるで精密機械を診断するかのように、その顔をじっと覗き込んだ。
「体温の上昇を示す、皮膚の紅潮。支離滅裂な発話パターン。そして、外界からの刺激に反応しない、散漫な瞳孔。これらの症状から導き出される、最も可能性の高い診断は……」
エルフナインは、そこで一度言葉を切ると、断定的な口調で、高らかに宣言した。
「熱中症です! これは、典型的な高体温症の初期症状です!」
「ねっちゅうしょう…?」
頭上から、バケツ一杯の氷水を、勢いよくぶっかけられたかのような。
顔が、羞恥心で、先程までの比ではないほど、真っ赤に染め上がる。
「クリスさん! 大変です、急いで水分を補給し、体を冷やさなければ! このままでは、重篤な状態に陥る危険性があります!」
本気で心配し、持ってきた対策グッズを持ってこようとするエルフナイン。
その、あまりにも純粋な善意が、クリスの羞恥心を、さらに、さらに加速させていく。
(ちがう!違う!そうじゃない! あたしはただ、優斗の言葉が嬉しくて、ちょっと、ほんのちょっとだけ、頭が茹だっちまっただけで…!)
心の中で、絶叫する。
だが、その声は、喉の奥で詰まって出てこない。
未来と調が「あちゃー」という顔で、そっと視線を逸らしているのが、視界の端に見えて、さらに羞恥心が燃え上がった。
もう、限界だった。
「忘れろぉぉおおおおっ!!」
クリスの、魂からの叫びが、夏の青空に響き渡った。
「今、あたしが見せた姿も! 聞いたことも! 全部、忘れろぉぉおおお!!」
ああ、もう、いっそ、この砂浜が割れて、あたしを飲み込んでくれればいいのに。
恋心に悶える姿を、見られた挙句、熱中症と勘違いされたクリスは、この夏の、あまりにも恥ずかしい思い出を、今すぐ記憶から消し去ってほしいと、心の底から願うしかなかった。
UVERworldさんの「D-tecnoLife」が原作響にマッチしていると思う、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A
Q、なぜ裏の話なのにひびみくが一緒なの?
A、一つに特異点になりつつある優斗に近い存在である。もう一つは、作中では出ていませんが未来は聖遺物「神獣鏡」が、響は「ガングニール」が強く反応しています。その適応係数はほぼ100%です。それ以外の聖遺物も90%位あります。将来の進路にシンフォギア装者をおすすめされるレベル。さらに、優斗の食事を食べた装者全てに言えるのですが、人が聖遺物に適応するのではなく、その逆の、聖遺物が人に適応しようとするくらいに影響が出ています。なのでクリスがガングニールを纏う事もできれば、調がアマノハバキリを纏う事も出来ます。
Q、緒川さんは?
A、今回のイベントの運転手として一応来ています。流石に混ざる気はない様で、ここ一帯の周囲の安全確保のための探索をやった後、ホテルの一室で久しぶりのお休みを満喫してます。
Q、優斗の口が軽くない?
A、優斗の対人のスタイルは、受容的でありながらも、嫌なことは「まあ、いいかな?」と受け止めて「よそはよそ、うちはうち」と割り切り、自分がされたり、言われたりしたら嬉しいと思う事を、相手の意思や思いを尊重しつつ返していくスタンスです。さらに祖父の光一朗の、女の子はまず褒めるのが第一である。さらに、褒められて嫌な思いをする奴はあんまりいない。という教えを少しだけ守っています。