ハッピーエンドに向かうには   作:内海空洞

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色々描写を詳しく書けなかったのですが、もし書いてしまうと水着回の話数が5〜6話になり、流石に助長が過ぎると思って割とあっさりめにしています。

それはそれとしてエンキに「創世のアクエリオン」をフィーネに向かって歌ってほしい。


真夏色のフーガ

夏の陽光が燦々と降り注ぐ、プライベートビーチ。

 

ようやく全員が水着への着替えを終え、優斗へのお披露目も一通り完了した。

砂浜に一同が集まると、そこはまさに圧巻の一言だった。

 

優斗を中心とした、一般人である未来と響。

S.O.N.G.が誇るシンフォギア奏者、翼、奏、クリス、マリア、セレナ、切歌、調の7名。

そして、今日からの共犯者である、キャロルとオートスコアラー、エルフナインを加えた6名。

 

総勢、16名にも及ぶ大所帯だ。

 

これだけの人数が集まってしまえば、遊ぶこと一つ取っても混雑は避けられないだろう。

 

「うお…水着の女が、ここまで集まってみると、すげえ壮観だなぁ」

「そうね。まず、このメンバー全員が、こうして休暇で集まること自体が、滅多にないものね」

 

奏と翼が、目の前の光景に軽い感想を述べる、その言葉通りだった。

世界中を飛び回るアーティストがいれば、日夜、過酷な訓練に励む者もいる。災害救助や、ごく稀に出現するノイズ討伐など、シンフォギアを必要とする任務は後を絶たない。

 

それに加え、日常の業務や学生としての学業もある。

特定のメンバーで集まることはあっても、連絡を取り合うことはあれど、全員が私的な目的で、こうして直に顔を合わせる機会は、極めて稀だった。

 

「これでは、やりたいことがあっても、被ってしまうでしょうね。挙手制で遊びたいことを言ってもらって、その人を中心にある程度チームを作り、何人かに分けましょうか」

「そうですね。中には、のんびりと過ごしたい人もいると思いますし」

 

マリアとセレナが、現実的なチーム分けの提案をする。

 

実際、その提案を待っていたかのように、活発な性格の響や切歌は、先ほどの説教もどこへやら、遊びたくてうずうずと体を揺らしていた。

 

その待ちきれない、という気持ちを爆発させるように、切歌が真っ先に、ぴんと手を挙げた。

 

「はいデース! アタシはスイカ割りがやってみたいデース! せっかくあんなに大きなスイカを持って来たんデスから、やらないと損デス!」

「スイカを割ってなにをするんダ?」

 

ミカが、その純粋な瞳で、不思議そうに首を傾げる。

 

「雑誌によるとね、目隠しをした人が、その場で何回かぐるぐる回った後、少し離れた場所に置かれたスイカに棒を当てて割るゲームみたいだよ」

「おー! 割るのは、ミカの得意分野だゾ!」

 

ミカは、その言葉を聞いた瞬間、その手に、六角形の赤く細長いカーボンロッドを錬成し、ぶん、と振り回した。

 

「…っぶねぇえだろ! やめろ、ミカ!」

危うく、そのロッドが、隣にいたガリィの鼻先を掠める。ガリィは、心底嫌そうな顔で、悪態をついた。

 

「なあなあ、ガリィ。ガリィも一緒にやらないカ? ミカはガリィと一緒にスイカを割りたいゾ」

「はぁ? やるわけねーだろ。なんであたしがそんなガキ臭い遊びを…。そっちのお子ちゃま奏者とでも一緒にやってな」

「お子!?」

「ちゃま?」

 

ガリィの、やる気のない、棘のある発言に、切歌と調が、ぴくりと反応する。

 

しかし、ミカは、どうしてもガリィと一緒に遊びたいようだった。その水着の端を、小さな指で、きゅ、と引っ張り引き止めようとする。

 

「ガリィと、一緒がいいんだゾ。切歌たちと遊ぶのは、すごく楽しいんだゾ。だから、ガリィがいれば、二人対二人でちょうど互角だゾ。……それに、最近、ずっと離れてたからミカ、ちょっと寂しかったんだゾ……ガーリーィー!!」

「わかった! わかったから、その水着を引っ張るのはやめろ!脱げるだろうが!! …あーもう! しょうがなく! しょうがなくだから! ……遊んでやるよ。ったく…」

 

ミカの必死の懇願と、潤んだ瞳の合わせ技。

それに根負けしたガリィは、大きくわざとらしい溜息をつきながらも、切歌たちのグループに入ることを承諾した。

それを聞いたミカは、大喜びでその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 

「そっちは決まったみたいだな。じゃあ、次はあたしだ」

 

一つのグループができたことを確認した奏は、そう言うと、背後に隠し持っていたものを、高々と掲げた。

 

「青い海、白い砂浜、そして吹き抜ける南風! ここまで来たらやることは一つしかねえだろ!…当然、ビーチバレーだ!!」

「そうなの?」

「人によるけれど、こういう場所で人数が揃ったらやる人が多いイメージね」

 

世間の遊びにやや疎いマリアは、隣に立つ翼にこっそりと尋ねた。

 

「翼は、当然として……マリアとセレナは入るだろ? あとは……」

「待ってちょうだい。私は、別にやるとは、一言も言ってない…」

「怖いのか? んー?」

 

奏が、わざとらしく、ニヤニヤとマリアの顔を覗き込む。

 

「…は?」

「いやぁ、日頃の訓練でさ、いっつもあたしたちに負け越してるからな。この晴れ舞台で雌雄を決してもいいけど、その様子じゃあ、無理かなぁ?」

「………ふぅーー…」

「マ、マリア姉さん?」

 

セレナが、不安そうに姉の顔を見上げる。

明らかに見え見えの挑発だった。だが、その言葉は、奏をライバル視しているマリアのプライドを、的確に刺激してしまった。

 

「……上等じゃない!! やってやろうじゃないの! 奏、あなたに今まで訓練で味わわされた屈辱の借りを今、この場所で、利子をつけて返してあげるわ!!」

「さっすがマリア! そーうこなくっちゃ面白くないぜ! ……よし、これで一人ゲット…」

 

マリアは、普段の訓練で奏たちに負け越しているフラストレーションを、ここで一気に晴らすかのごとく闘志を燃え上がらせる。

奏は、マリアに見えないように、しめしめ、とほくそ笑んでいた。

 

「こうなったマリア姉さんは、もう止まりませんから……しょうがありませんね。妹としてここまで言われては流石に引けませんし、勝負と参りましょう」

「ごめんなさいね、セレナ。でも、勝負は勝負。手は抜かないわ」

 

妹のセレナも姉のやる気に引きずられるように、闘志を燃やし始めた。翼も、普段はたおやかな雰囲気だが、こと、勝負事となれば、一切の手を抜く気はないようだ。

 

「キャロルもどうだ? バレー、やってみねえか?」

「なぜ、オレがそんな無意味に体を動かさねばならん。…しかし、ただ見ているだけでは飽きてくるのも事実か……ファラ、レイア」

「「はい、マスター」」

「お前たちも、混ざってこい。この場所で、S.O.N.G.の奏者たちに、格の違いというものを見せつけてやるのも一興だろう」

「ご随意に」

「必ずや、マスターに勝利を捧げましょう」

 

奏に誘われたキャロルだったが、本人は全く動く気がないようだ。

そこで、ファラとレイアを、代理として向かわせることにした。

 

奏も、それで納得したようで、ツヴァイウイングチーム、マリア姉妹チーム、オートスコアラーチームの、三つ巴による総当たり戦で進めていくことが決定した。

 

「ええと、まず、切歌ちゃんたち4名がスイカ割り。奏ちゃんたちが6名でビーチバレー。残りのみんなは、どうする?」

 

優斗が、指折り数えて、グループ分けを確認する。

 

残ったのは、キャロル、エルフナイン、響、未来、クリス、そして優斗の6人。

 

「ボクが、事前に調査した知識によりますと、砂浜に来た人は必ず、砂でお城を建てるみたいなんです! せっかくなので、キャロル! 一緒にやりましょう!」

 

エルフナインが、目をキラキラと輝かせ、キャロルを誘う。

 

「断る。オレは、砂にまみれる趣味はない」

「あうぅぅ……」

 

しかし、その誘いは、にべもなく一瞬で断られ、エルフナインは涙目になってしょげてしまった。

 

「じゃあ、エルフナインちゃん! わたしと一緒に砂のお城、作ろうよ! でぇーっかいやつ!」

「…! はい、いいんですか?」

「いいよ、いいよ! わたしは海で泳いでばっかりだったし、砂のお城なんて作ったことなかったからやってみたかったんだー! ね、未来も、もちろん一緒に作るよね?」

「もう、響ったら、いつも急に決めるんだから。…しょうがないわね。響もこう言っているし、私も一緒に作ることにするね」

「あ…! ありがとうございます!! 響さん、未来さん! ……あの、クリスさんはどうしますか?」

 

響が、エルフナインの城作りに、未来を巻き込む形で、参加を表明した。

満面の笑みを浮かべるエルフナイン。

 

「あたしは、パスだな。ちょっと、そこの浮き輪でぷかぷか浮かんでゆっくりさせてもらうぜ」

「オレもそうさせてもらう。ただしオレは、あそこのパラソルの下で優雅に休ませてもらうがな」

 

クリスとキャロル。この場では、割と体力のないインドア派コンビは、あまり体を動かす気がないようだ。

 

堂々と、休むことを宣言する二人に呆れる者もいたが、今日は折角の休暇なのだ。キャロルはともかく、クリスは普段から過酷な任務で動いているのだから、この肉体を休ませる気満々だった。

 

みんなの様子を優斗は、ニコニコと微笑ましい表情で見守っている。

しかし、次の調の素朴な、それでいて核心を突いた質問に凍りつくことになる。

 

「それで、優斗さんは、誰と遊ぶの?」

その瞬間、ビーチの空気が、ぴしり、と止まった気がした。

 

この場にいるのは、程度の差こそあれ優斗に明確な好意を抱く女性たち。できれば、自分と、二人きりでこの夏の特別な時間を満喫したい。その欲求は誰もが、心の奥底に秘めている。

 

15人、全ての女性たちからの視線がまるで、サーチライトのように、あるいはレーザー光線のように、優斗一人に集中する。

その、あまりにも重いプレッシャーに優斗は、思わずたじろいでしまった。

 

「え、ええーっと……。僕も、海の遊びって、あんまりしたことがないから本当は全部体験してみたいんだけど…。だから、その、順番を決めて回るっていうのは、ダメかな?」

 

人によっては、優柔不断とも取れてしまう、あまりにも優しい回答。

だが、それは優斗なりに自分と遊びたい、という、彼女たちの純粋な思いをどれ一つとして無碍にはしたくない、彼の誠意の表れだった。

 

「ただいまの時間が午前11時。では、こうしてはよろしいのでしょうか」

 

その、張り詰めた空気を、破ったのはファラの冷静な声だった。

 

「優斗様は、まず切歌様たちの所で、スイカ割りを体験していただく。その間、バレーをする方々は、コートの準備を。そして手の空いた者で、お昼ご飯の用意を進める。こうすれば、皆様がお昼を取り次第、その後のビーチバレーと、砂場での遊び、もしくは海での遊泳に、即座に切り替えることが、

可能かと存じますわ」

「確かに、そうだね。僕も、一応此処にいるキャロルちゃん達の分も含めた、みんなの分のお弁当を気合を入れて作って来たけど、もしかしたら足りなくなるかもしれないしね」

「ま、そうなったら、その時、買い出しにでも行けばいいだろ」

「そうね。ここに来るまでの道中にスーパーがあるのは確認しているし、そこで買い足せばいいわ」

 

ファラの完璧な助け舟に優斗が乗り、クリスと翼もそれに続いた。

 

朝早くから来たとはいえ、政府御用達の、このプライベートビーチに到着したのはもう、昼に近い時間だ。すっかりお昼ご飯の時間が近づいていたことに、皆、ここで改めて気づいた。

 

優斗が、切歌たちのスイカ割りに参加している間に、他のメンバーはそれぞれの準備を進め、昼食後、全員が、午後の遊びに、全力を出せるようにする。

 

ファラの、スムーズな段取りに、皆が納得し、その通りに行動を開始することになった。

「決まりデース!! 優斗さん! 早速、スイカを取りに行くデス!」

「響さんたちと、大きいのを、用意したんだ。割るのは任せてね」

「割ったり、切ったりするのは、お任せデス!」

「ふふ、斬撃武器持ちの、面目躍如だね」

 

早速、優斗は切歌と調に両手をがっしりと掴まれ、引っ張られるようにしてスイカの元へと、連れて行かれた。

その後ろを、ミカに強制的に手を繋がれた、不機嫌そうなガリィがとぼとぼとついていく。

 

それを合図に、他のメンバーも各自の行動を開始するために離れていった。

奏、翼、マリア、セレナ、ファラ、レイアの6名は、コテージの倉庫にバレーの道具を探しに行った。

 

「私達も、ボールとネットを早く用意しましょう。……しかし、どこにあるのかしら。奏、あなたは、何か聞いていないの?」

 

「その辺のことは、さっぱりしらねぇな。緒川さんなら、何か知っているんじゃねえのか?」

「では、緒川さんに連絡を取って聞いてみましょう」

「わかりました。今、コテージにケータイを取りに戻って聞いてきますね……」

 

ビーチバレーのネットの場所を聞くために、相談する4人。

セレナが、ケータイを取りにコテージへ戻ろうとした、その瞬間。翼が、ふと思いだした。そして、時代劇で殿様が部下の忍者を呼ぶ時のように両手を、頭と同じ高さでパン、と叩き鳴らした。

 

「…緒川さん、緒川さん……なーんて、ね…「お呼びになりましたか?」…うわっ!?」

「ヒェッ!?」

「おわっ!?」

 

その声は全員の真後ろから聞こえた。瞬時に、背後に現れた、マネージャーの緒川慎次。

その、あまりにも気配のない出現に、流石の翼たちも、本気で飛び上がって驚いた。

 

「お、緒川さん! 驚かさないでください!」

「大変申し訳ありません。一度、皆様の様子を見に寄ったところ、聞き覚えのある懐かしい呼び方をされたものですから、つい、昔の癖で」

「す、すごい…! さすがジャパニーズ・ニンジャ…! やっぱりテレビで見た、あのアレは本当にあったんですね!」

 

セレナが、目を輝かせ、興奮気味に慎次に詰め寄る。

 

「セレナ。先に言っとくけど、これは緒川さんだからできることだからな。……ま、忍者なのは、否定できねえけど」

(やはり、忍者なのね……)

(いえ、ただのマネージャーですよ、マリアさん)

(!?)

 

マリアは心の中で改めて「やはり、この人は、忍者だ」と確信するも、その心の声が完璧に読まれた上、即座に冷静な返答が来たことで、慎次に対し言葉にできない畏怖の念を抱いた。

その後、このビーチの設備を完璧に把握していた慎次の助けを得て、バレーコートの準備は無事に終わったのだった。

 

残ったメンバーは、キャロル、ファラ、レイア。響、未来、クリス、そして、エルフナイン。

 

お昼ご飯の用意と言っても、その大半は優斗が昨夜から気合を入れて作ってきた、特製のお弁当だ。翼から半ば強引に譲り受けた、見るからに高そうな何段にも重なった立派な重箱。

 

響やミカといった大食漢がいるため、それが複数個用意されている。

バーベキューセットも、このコテージに完備されているらしいので、万が一足りなくなった場合はそれを使う予定である。

コテージに移した荷物の中からずっしりと重いお弁当の重箱を取り出し、パラソルの下まで運ぼうとする、響、未来、クリス、エルフナイン。

 

キャロルは、「オレは、休む」と、早々にパラソルの下で椅子に寝転び、日影の下に逃げ込んでしまった。

ファラとレイアはコテージに、元々用意されている食料と、調理器具の在庫確認を進めている。

 

「準備するっても、この弁当箱を運ぶだけだけどな。…しっかしどんだけ作ってきたんだ優斗は。重いぞ、これ」

「しょうがないよ。響とミカちゃんが大半を食べるだろうけど、みんな普段から体を動かす仕事についているし、この大人数だもの。…それに優斗さん、昨日かなり気合を入れて作るって言ってたけど、本当だったんだね」

「ああ……。下準備に時間がかかったみたいでな。夜、遅くまで一人でキッチンに立ってたみたいだ。早く寝ろってあたしが、あれだけ言ったのによ。あれじゃあほとんど寝ていないんじゃないか」

 

若干の呆れを表情に出しながらも、自分たちのためにそこまで、身を削ってくれた優斗の行動にクリスは喜びを隠しきれないでいた。

それを、横目で見ていた響がふと、何かを思い出すように言った。

 

「お兄ちゃん、意外にこういう、みんなで、わいわいするの好きみたいなんだよね。いつだったかなー? 昔に、未来と、三人で遊園地に遊びに行った時かな。アトラクション全制覇した後に、私もう疲れ果てて『疲れたー!』って、ベンチでぐったりしてたのに、お兄ちゃんたらけろりとした顔で。その横でパンフレット見ながら『次は、どれに乗ろうか』なんて本気で考えていたことがあったんだよね」

「ふふ、そんなこともあったわね。あの時のわくわくしてた優斗さん、すごく可愛かったなあ」

「私はその横でお兄ちゃんと同じくらい、ピンピンしてた未来の姿が忘れられないけどね…」

 

響と未来の楽しそうな過去話。その会話に、ついていけず、エルフナインは、少しだけ、寂しそうに、ぼーっとしながら二人の話を聞いていた。

 

その様子に、未来がすぐに気づき、心配そうに、彼女の体調を尋ねた。

 

「エルフナインちゃん。ぼーっとしちゃって、大丈夫? もしかして、日差しに当てられちゃった?」

「い、いえ。体調はなんともありません。……ただ、皆さんの会話を聞いていると、いつもその中心には優斗さんがいることが多いんだな、と思いまして」

「まあ、あたしら奏者も、こいつらとも、こうして顔を合わせることができるのは、通わせてもらってるリディアン音楽院か、優斗のコモドくらいだからな。自然とそうなるんだろ」

「そうだねぇ。普段みんなはS.O.N.G.の本部にいたり、奏さんや、翼さん、マリアさんたちなんかはアーティストとして世界中を、

飛び回っているし。本来、私たちみたいな一般人は、テレビ越しじゃなきゃ、直にお目にかかることすらできないような、すごい人たちだもんね……。そう考えると私たちって、本当にすごい人たちと知り合ってばっかり、かも」

 

エルフナインの素朴な疑問に、クリスと響が答える。

それに、未来が、言葉を続けた。その表情はとても穏やかで、慈愛に満ちていた。

 

「私に取って優斗さんは、きっと、寄りかかりたくなる大きな、大きな木みたいな人、なのかな。どんな大雨にも、嵐にも負けずに立っていて私たちを守ってくれる。そこに行けばいつでも、木漏れ日がさす春風みたいな暖かさと、心地よさがある。…だからみんなもその安らぎを求めて、自然と集まってきているんだと思うの」

「……少し、わかります。優斗さんと関わっていくとなんだか、ゆったり…というのでしょうか? 不思議と心が落ち着いた、穏やかな雰囲気になります。きっとキャロルも優斗さんの、その全てを受け止めてくれるような、雰囲気に惹かれたのかもしれません」

 

穏やかに、微笑み合う未来とエルフナイン。

その、詩的なやり取りを後ろで、重箱を抱えながら聞いていた響とクリスが顔を見合わせ、コソコソとひそひそ話を始めた。

 

「…なあ、響。あいつってあんなロマンチストで、詩的なやつだったっけか?」

「そうだよ? 未来、昔から結構そういう文学少女みたいなとこ、好きみたいでさ。この前なんて机の上に自分で書いた、ポエムのノートが……」

 

未来の秘密を響が大声でバラそうとした、その瞬間。

 

響の背中に、この世のものとは思えないほど、重く、冷たい、視線が突き刺さった。

その、殺気にも似たプレッシャーに、響の言葉が、ぴたりと止まった。

 

「響。今、何か言ったかしら?」

 

いつの間にか振り返っていた未来が、そこには立っていた。その顔には、完璧な、美しい笑みが浮かべられている。だが、その目は一切笑っていなかった。凄みのある笑みで、ただ静かに響を見つめている。

 

その、見えない絶対零度の圧に、響は口をおもいっきりパクパクと、金魚のように開閉させた後、首が取れるのではないかというほどの勢いで、ぶんぶん、と横に振った。

 

「…!……!!」

(なんでもありませんでした!!)

 

その、声にならない、叫び。

初めて、未来のその、もう一つの顔を目の当たりにしたクリスと、エルフナインはただただ、その絶対的な力関係に圧倒されるしかなかったのだった。

 

 

 

砂浜の海に近い開けた場所。そこには綺麗なレジャーシートが敷かれ、その中央に立派な、食べごろの大玉スイカが鎮座している。

 

青いタオルで、目隠しをされた切歌が、夏の暑さで、弾んだ声で

 

「任せてくださいデス! この一番手! アタシが、必ずや成功させてみせるデス!」

 

高らかに勝利を宣言した。

お昼前の太陽はすでに高く、容赦なく砂浜を照りつけている。

優斗は、切歌の目隠しがずれていないか、最終確認をしながら穏やかな口調で声をかけた。

 

「切歌ちゃん、ミカちゃんに用意してもらった、そのカーボンロッド?は、結構重くて危ないから、しっかり両手で握っててね。焦らなくて大丈夫だからね」

「了解デース!」

 

鼻息も荒く、切歌は、やる気満々だ。

 

「いい? カーボンロッドは危ないんだから、あんまり思いっきり、振り回さないようにしなさいよ。ただでさえ、その、鎌を扱うみたいな、変な持ち方しててすっぽ抜けそうなんだから」

 

ガリィがその口元に意地の悪そうな、からかうような、笑みを浮かべて忠告する。

スタートの立ち位置で、優斗に両肩を掴まれ、ぐるぐる、と五回、回される。

 

「おっとと」

 

少しよろける切歌。

 

だが、すぐに体勢を立て直し、自信満々に一歩を踏み出した。

 

「まっすぐデス! まっすぐ、進むデス!」

 

切歌は、確かな足取りで砂浜を踏みしめて歩く。

 

「ちょっと待って、切ちゃん」

「およ?」

 

その時、切歌といつも行動を共にしている、調が静かに声をかけた。

調は、普段の冷静沈着な表情とは裏腹に、今回ばかりは隣に立つ、ガリィとこっそり顔を見合わせ、楽しそうな悪ノリの笑みを

浮かべている。

 

「切ちゃん、太陽の方向にまっすぐ進むの。そしたら、絶対にスイカに当たるから」

 

調は普段の静かなトーンで、しかし妙な確信に満ちた声で、そう、指示を出した。

 

「え、太陽デスか? 太陽は……あっちデスね!」

 

切歌は目隠し越しに肌で感じる太陽の、熱の方向に向かって、一切の迷いなく、歩みを進めていく。

 

「あ! 切歌、そっちは海だゾ! スイカは、こっちで…むぐっ!」

 

ミカが慌てて、正しい方向を叫ぼうとする。

しかし、その小さな口はガリィの両手によって素早く、しかし優しく防がれてしまった。

 

「ミカ〜。あのお気楽、天然おめでた娘はね、今文字通り、太陽の光を浴びてスイカに辿り着こうとしてるの。面白いから、

静かに見てましょうよぉ」

 

ガリィが本当に愉快そうにくつくつと、笑う。

 

優斗も「あ、切歌ちゃん、ちょっと、待って、そっちは…」と、止めに入ろうとするが最近、どうやらイタズラ心が芽生えつつあるらしい調が、その優斗の服の袖をくい、と、引っ張り小さな声で

 

「大丈夫です優斗さん。きっと切ちゃん、面白いことになりますから」と囁いた。

 

その悪戯っぽい、笑顔に優斗も毒気を抜かれてしまう。

 

切歌は、「太陽サンサン! スイカ割りウォーリアー! デス!」と、もはや訳の分からないオリジナルの掛け声を発しながら、どんどん、どんどんと、海の方へと歩いていく。

 

そして、彼女が力強く振り下ろした、カーボンロッドは、当然スイカには当たらず。

波打ち際の、ちょうど海水が引いたばかりの、濡れた砂を空振りして叩きつけた。

 

「ズババッ! ……どうデスか!? 成功デスか!?」

「ざんねーん! スイカはそこじゃないんだゾー!」

 

切歌の見事なまでの空振りっぷりに、ミカがお腹を抱えて、崩れ落ちて大爆笑している。

切歌は何が起こったのか分からず、目隠しを取る。

そこには、ただ広大な海が広がっていた。

振り返ると、遥か遠く綺麗なレジャーシートの上でスイカが、何事もなかったかのように鎮座している。

調とガリィは、クスクスと、肩を震わせ、顔を見合わせて笑っていた。

 

「調! ガリィ! アタシを騙したデスね!」

「ごめんなさい、切ちゃん。つい、面白そうだったから」

 

調は、すぐにいつもの静かな表情に戻りながらも、楽しかったようで、その、口元は僅かに緩んでいる。

 

「自業自得よ、バカ正直。こんな海の間際に、スイカが置いてあるわけないでしょ」

 

ガリィがいつものように、毒を吐く。

だが、切歌は皆がこんなに楽しそうに、

笑っているのを見て、すぐに怒るのをやめた。

 

「もう一回デス! 次こそは!」

「ダメだゾ! 次はミカの番だ!」

「むー……。順番と、いうならば仕方ないデスね…」

 

スイカは、もう少し安全な内陸側に移動された。

 

「では、改めて。第二走者、ミカちゃん!」

 

優斗が、笑顔で仕切り直す。

 

今度は、ミカに目隠しが巻かれた。

 

「ミカちゃん、目隠しはちゃんとできてる? 棒は、危ないからしっかり握っててね」

 

優斗が優しく声をかける。

 

「優斗! 任せるんだゾ! カーボンロッドの扱いなら、お手のものダゾ!」

 

ミカは元気よく返事をした。

 

「まっすぐ、まっすぐデス!」

 

先程騙された、切歌が今度は自分が誘導する番だと、大きな声で指示を出す。

 

「ミカちゃん。左、斜め七十度を十歩

だよ」

 

調もわざと精密すぎる、細かい指示を出して撹乱する。

 

ミカは棒を構え、砂を踏みしめて一歩、また一歩と進んでいく。意外なことに、ミカは的確にスイカの方向へと近づいていく。

 

「あら、面白くないわね…。もっと右よ、ミカ。ちょーっとだけ、右」

 

ガリィが、口元に意地の悪そうな笑みを浮かべながら、わざと少しだけ異なる方向を指示する。

 

「えー、でも、切歌は、まっすぐって言ったゾ……」

 

ミカが素直に戸惑う。

 

「ガリィ。イジワルはダメ、デス! スイカが逃げちゃうデス!」

 

切歌が、プウ、と、頬を膨らませて抗議する。

 

「ガリィちゃんの言う通りちょっとだけ右だよミカちゃん。ガリィちゃんは少し良くない言い方だったけど、嘘は言ってないからね」

 

優斗が微笑みながら、優しく仲裁に入った。

 

「ガリィと優斗が、そう言うなら!」

 

ミカは、とくにマスターが信頼を寄せる、優斗の言葉に素直に従い、右へと数歩進んだ。

その時、調が聞こえる程度に小さな声でミカに向かって、ささやいた。

 

「ミカちゃん、あともう少し…。そこで一歩、大きく踏み込んで」

 

ミカは言われた通りに、一歩、力強く踏み込んだ。

 

そして――

 

「えいっ!」

 

振り下ろされたカーボンロッドは、ドン!という重く、鈍い音を立てて、見事にスイカのど真ん中を叩き割った。

ぱっくりと綺麗に二つに割れたスイカ。

その瑞々しい鮮やかな赤色が、顔を出し甘い独特の香りが潮風に乗って漂った。

 

「やったー! 成功デース!」

「すごい、ミカちゃん!」

 

切歌と調、そして優斗が一斉に歓声を上げる。

 

「あら、たまたま、当たっただけよ」

 

ガリィは、そう、ぶっきらぼうに言いながらも綺麗に割れたスイカを見て、ほんの少しだけその口角を上げていた。

 

優斗は、笑いながらコテージから持ってきていた、包丁で手際よくスイカを食べやすい、大きさに切り分け始めた。

 

皆で、その甘く、冷たい、夏の味覚を堪能する。

 

優斗以外の四人にとっては、これが生まれて初めて食べるスイカだった。

切歌とミカは子供のように、その頬をリスのように膨らませ口の周りを果汁だらけにしながらかぶりついている。

 

調は、そんな切歌の口元を呆れたように、ハンカチで拭き取りながら自分も静かにその、甘さを堪能した。

 

ガリィもその、想像以上のスイカの甘みに、内心、驚き喜んでいたが、口の周りを真っ赤にしたミカに、犬のようにじゃれつかれ、飛びかかられてそれどころではなかった。

 

「調ちゃんも、どうぞ。はい、あーん」

「え?」

 

切歌の世話を焼いていて自分の手が塞がってしまっている調の姿。優斗は、その光景にふと、昔まだ小さかった響と未来の姿を重ねていた。

あの頃も響が、いつも何かをこぼして未来がこうして世話を焼いていた。そんな、懐かしさからの親切心。

優斗は、自分が食べるために切り分けた、一切れをごく自然に、調の口元へと差し出した。

 

「あ、あの…優斗さん、自分で食べられます、から…」

 

調は戸惑い、顔を赤らめる。

 

「いいから、いいから。切歌ちゃんを見てあげてて。ほら、口開けて?」

 

優斗の屈託のない、笑顔に調は観念したように小さく、口を開いた。

シャリ、という食感と共に優しい甘さが、口の中に広がる。

それは、スイカの甘さなのか、それとも別の何かなのか。

調の胸がきゅ、と甘く締め付けられた。

 

「よし、今度こそ、今度こそデス!」

 

ミカが成功させたスイカを食べ終え、再び元気と闘志を取り戻した切歌が改めてスイカ割りの再々挑戦を申し出た。

 

「切歌ちゃん、無理しないでいいからね。本当に熱中症にならないように気をつけて」

 

優斗が本気で心配そうに、声をかける。

 

「大丈夫、デス! 今度は絶対に当てるデス!」

 

優斗は切歌に、再び目隠してやりながらそっと耳元で言った。

 

「今度は僕がずっと声をかけてるから。僕の声だけを信じて、聞いてみる?」

「! はい、優斗さん! 信頼してるデス!」

 

切歌は優斗の声だけを頼りに一歩、また一歩と、慎重に進み始めた。

今度こそ切歌に、成功させてあげたい。

その優斗の思いを汲み取り、調たち三人も、今度は騒がず静かにその成り行きを見守っている。

 

「あと三歩だよ。そのまま、まっすぐ、まっすぐ」

優斗の優しい声が海辺に響く。切歌は、言われた通りに踏み出した。

 

「うん、上手。次で最後だよ。そこにスイカがあるから。思い切り真下に向かって振り下ろしてごらん」

 

切歌はカーボンロッドを、高々と構え、全身の力を込める。

その時切歌が、踏み出した最後の一歩が偶然にも、砂の窪みにはまってしまった。

 

「うわっ!?うわわわ!!」

 

完全にバランスを崩した切歌。その体は勢いよくスイカとは全く逆の方向つまり、近くで声をかけていた優斗の方向へと前のめりに倒れ込んだ。

 

「あ、危ない!」

 

優斗は咄嗟に振り下ろされかけたロッドを避けると両手を広げて倒れ込んでくる、切歌の体を優しく受け止めた。

 

トスン、という軽い衝撃。

 

切歌の顔は、そのまま優斗の胸元に深く埋まった。目隠しをしているため切歌からは何も見えない。

しかし自分のすぐ傍でトクトク、トクトクと規則正しく鳴っている優斗の心臓の音が、切歌の耳に、そして全身に直接響いてきた。

 

(あれ……? 今、優斗さんの胸の中に……)

 

普段の底抜けに明るい切歌からは、想像もできないほど彼女の心臓がドクン、ドクンと警鐘のように早鐘を打ち始めた。いつも触れ合っているマリアや、調のような柔らかい体の感触とは全く違う。適度に引き締まった固めの弾力がある体。日差しよりもずっと熱い、体温。潮風とは違う、優斗の少し汗ばんだ清潔な匂いが鼻腔をくすぐる。

 

「ごめん、切歌ちゃん! あんな所の窪みがあるなんて。大丈夫だった!?怪我はない?」

 

優斗が慌てた声で、そう言いながら彼女の目隠しをそっと外す。

そこに現れた切歌の、顔はまるで茹で蛸のように真っ赤になっていた。

 

「き、切歌、顔が真っ赤だゾ!? 大丈夫か!?」

 

ミカが心配そうに駆け寄ってくる。

 

「だ、だだ、大丈夫、デス……! す、スイカより優斗さんの、胸の方が、なんかドッキドキ、するデス……!」

 

調はその光景を見てそっと静かに微笑み、ガリィは「あらあら、まあ」と、皮肉っぽく呟きながらもすぐに興味が失せたようにその場からぷい、と、目を逸らした。

 

優斗は、切歌のあまりにも真っ直ぐすぎる、言葉に照れくさくなり

 

「ははは……砂に、足を取られただけだよ、切歌ちゃん」

 

と、笑いながら優しく、切歌を立たせた。

 

スイカはまだ、無事に残っている。

しかしこの瞬間、切歌の心の中で何かがパカッ、と、音を立てて割れて今まで知らなかった新しい感情が顔を出したのだった。

 

五人の夏は甘く騒がしく、そして、優しく続いていく。

 

 

 

スイカ割りがひと段落し時計が昼を回った、頃。

ファラの提案通り、全員で昼食の時間になった。優斗が昨夜、寝る間も惜しんで作り上げた愛情たっぷりのお弁当。

 

何段にも重なった豪華な重箱が開けられると、そこには彩り豊かな料理が宝石のように、ぎっしりと詰め込まれていた。

 

「うおおお! 美味そうだゾ!」

「すごいデース! まるで、お正月に食べたおせち料理みたいデース!」

 

ミカと切歌が、目を輝かせる。唐揚げ、卵焼き、タコさんウインナーといった定番の、おかずからローストビーフ手の込んだ野菜のテリーヌ、そしてデザートのフルーツポンチまで。

 

その完璧な、ラインナップに誰もが歓声を上げた。

 

「優斗さん、すごいです! これ全部一人で!?」

「優斗、あなた、本当に一晩で…?」

「ふん。まあ、オレの錬金術同様、優斗の作る料理に間違いはない。ありがたく頂こう」

 

エルフナインが尊敬の眼差しを送り、マリアが呆れと感嘆の溜息をつき、キャロルが腕を組みながら上から目線で評価する。

 

「さあさあみんな、たくさん食べてね! まだまだいっぱいあるから!」

 

優斗の言葉を合図に、十六人の賑やかな、昼食が始まった。

 

「んー! この唐揚げ、冷めてもジューシーで最高だぜ!」

「こっちの卵焼きも絶妙な甘さです…!」

「この、ローストビーフ、柔らかいな…! 一体どういう仕込みを使ったんだ…?」

 

奏、セレナ、最近料理の興味を持ち始めたクリスがそれぞれお気に入りの一品に舌鼓を打つ。

 

「優斗さんの料理、やっぱり美味しいね、響」

「うん! いくらでも食べられちゃうよ!」

 

未来と響も幸せそうに、頬張っている。

 

その和やかな雰囲気の中、奏たちバレーボールチームの試合が始まる時間が近づいていた。突き抜けるようなどこまでも澄み渡った青空の下。白い砂浜に設置されたコートが、太陽の熱を浴びて輝いている。

寄せては返す波音が、これからの熱戦を盛り上げるBGMを奏でていた。

 

「おし、お前ら!」

 

腹も満たされ準備万端といった様子の奏が、豪快に笑いながら声を張った。

その手にはコテージの倉庫から見つけてきた、ビーチバレーのボールが握られている。

 

「やっと、ネットも組み立てたことだしな。でも、ただの試合じゃつまらねえ。ここは、ひとつ、トーナメントと行こうぜ!」

 

その言葉にパラソルの下で優雅に食後の紅茶を楽しんでいたマリアが待っていました、とばかりに不敵な笑みを向けた。

 

「トーナメントですって…? ふふ、望むところだわ。…でも、私はともかくセレナはそんなに、体力があるわけではないから手加減してちょうだいね?」

「楽しそうですね。それにマリア姉さん。私も日々のS.O.N.G.の訓練で体力は随分と増えたんですよ」

 

しかしマリアの謙遜とも挑発とも取れる、言葉を遮るように妹のセレナが楽しそうに微笑んだ。

 

「私、やってみたいです。ね?」

 

小悪魔的な、上目遣いで姉の顔を覗き込む。

その純粋な、闘志にマリアも満足そうに頷いた。

 

「トーナメントとは、派手で悪くない。だがチーム分けが、地味では面白くないな」

 

レイアが冷静に分析する。

 

「まぁ! どなたと組ませていただいても光栄ですができれば、わたくしはつるぎちゃんと…」

 

ファラが頬を染めながら、隣に座っている、翼に熱烈な視線を送る。

 

「チームは、とっくに、決まってんだろ!」

 

奏がそんなファラのファン心をビシッ、と、指差して無慈悲に粉砕した。

 

「まず、あたしと翼! 最強にして最高のツヴァイウイングチームだ!」

「お手柔らかにお願いするわ」

 

翼はその隣でたおやかに微笑んでいる。だが、その瞳の奥にはすでに青い闘志の炎が、灯っていた。

 

「それから、マリアとセレナ! 姉妹チームだ!」

「仕方ないわね。セレナ! こうなったら、やるからには勝ちましょう!」

「はい、マリア姉さん! 全力で頑張りましょうね!」

 

燃えるマリアの、手をセレナが嬉しそうに握り返す。

 

「んで、残ったのが、ファラとレイアだ!」

「地味ではない、派手な組み合わせだ。悪くない」

「あら、レイアさんと。マスターに勝利を、捧げるためよろしくお願いしますわ」

 

こうして灼熱のビーチコートを舞台にした、六人の美しき戦士たちによる真剣勝負(という名の、遊び)の幕が今、切って落とされた。

 

抜群のスタイルを惜しげもなく彩る、色とりどりの水着が太陽の光を浴びて砂の上で躍動する。

試合の様子は、パラソルの下で、寛ぐギャラリーたちによって観戦されることになった。

 

「ああ、そうだ! ただじゃ面白くねえ。負けたチームは優勝したチームに今度、優斗の店で、一番高いメニューか、勝った奴が好きなメニューを好きなだけ奢りにさせるってことでどうだ!」

 

奏の追加された提案に、全員の目の色が変わった。

 

「なんですって!?」

「それは派手に、負けられないな…。マスターの分も入れてもらおうか」

「つるぎちゃんの、サインを見ながら、優斗様の料理を食べるチャンスが…!?」

「負けたチームの財布がどうなるのか、見ものだな」

「みんな、頑張ってー!」

 

キャロルと優斗の、声援(?)も飛び交い、それぞれの思惑が夏の熱気の中で激しく交錯する。

総当たり戦形式で行われた試合は、各チームの個性が爆発する、予測不能の展開となった。

 

第一試合は、マリア・セレナチーム対ファラ・レイアチーム。

 

「行きますわよ、レイアさん!」

 

ファラの、まるで、バレエのように優雅な、トスが上がる。ボールは風が導くかのように、完璧な位置へと運ばれた。

 

「派手さが足りない。もっと高く!」

 

レイアがそう要求しながらも、クールにそして、正確無比に相手コートの僅かな隙間を、狙い澄ます。

 

「きゃっ!?」

「マリア姉さん、こちらです!」

 

運動神経は良いものの、慣れない球技に翻弄される、マリアをセレナが必死にカバーする。その動きはS.O.N.G.の訓練の、賜物か。驚くほど、俊敏だ。

 

「くっ…あの二人、動きが読みにくいわね…!」

 

マリアも、負けじと強気なレシーブを返す。

 

結果は僅差でマリア・セレナチームの勝利。

 

面倒見の良い姉と、それを的確に支える妹の、姉妹の絆が勝った形だ。

 

「はぁ…はぁ…な、なんとか、勝ったわね…」

「お見事ですわ、マリアさん、セレナさん。わたくしたちの完敗です」

 

ファラは負けてもなお、その優雅さを崩さない。

 

「フン。地味な負け方だ。納得がいかん」

 

レイアは不満そうに、小さく砂を蹴った。マスターであるキャロルに勝利を捧げると言った手前、自身のこの結果に納得がいかなかった。

 

第二試合は奏・翼チーム対ファラ・レイアチーム。

 

「いくぜ、翼!」

「ええ!」

 

アーティスト活動『ツヴァイウイング』で、何年もかけて培われてきた二人の連携は、ビーチバレーという全く異なる舞台でも完璧に機能していた。

奏のパワー溢れるジャンプサーブが、ファラのコートを襲う。

 

「つるぎちゃん! あなたのパートナーに、わたくしは負けませんわ!」

 

ファラが常人離れした驚異的な反応で、その重いボールを拾う。ただのボールの一撃で、受けた腕が軋みを上げたことに戦慄しながら。

 

しかし、翼への強すぎるファン故の対抗心が、彼女の身体能力をさらに引き上げていた。

 

「その、太刀筋、見切った!」

 

レイアの放った「派手な」スパイクを翼が古武術の受け流しのような、流麗な、動きで、完璧にレシーブした。ゲームが、白熱し、彼女の「防人」としてのもう一つの顔が覗く。

 

「奏ッ!」

「おう!」

 

阿吽の呼吸。翼が上げたボールは奏が空中で待ち構える、絶好の位置へと吸い込まれる。

渾身の一撃で放たれたボールが、コートに、叩き落とされた。

 

勝負は、奏・翼チームの圧勝に終わった。そして、事実上の決勝戦。

 

奏・翼チーム対マリア・セレナチーム。

 

「うぅ…体力なんてもう、残ってないわ…」

 

シンフォギアを纏っていない状態の身体能力は奏たちとは違い、ギリギリ常人の域を出ないマリア。ファラたちとの激戦で体力はほぼ完全に削られており、すでに肩で息をしている。

 

そんな姉を、セレナが懸命に励ます。

 

「マリア姉さん、弱気は禁物です。わたしたちも全力で行きましょう」

「よし! 翼。手加減はなし!容赦しねえぞ!」

「当然! 手加減は防人の流儀に非ず!」

 

試合開始のホイッスルと同時に奏と翼の、嵐のような猛攻が始まった。

 

奏の弾丸スパイクが、マリアのすぐ横の砂をえぐる。

 

「ひぃっ!?」

「甘いぜ、マリア!」

「姉さん!次は絶対受け止めます!だから!」

「セレナ……ええ!次はコンビネーションで!」

 

マリアが悲鳴を上げ、次のサーブをなんとか受け止めたセレナが、マリアと共に意表を、突いたツーアタックを仕掛ける。

 

しかし奏が砂を蹴って獣のように飛びつき、無理やりな体勢からトスへと変えた。

 

「これで終わり、なりッ!」

 

翼が天高く、美しく舞う。しなやかな身体が満月を描く弓のようにしなり、そこから放たれた最後の一撃はマリアとセレナのちょうど真ん中に音を立てて、突き刺さった。

 

「よっしゃあああ! あたしたちの完全勝利だ!」

 

両手を高々と突き上げ、奏が勝利の雄叫びを上げた。

 

「ふぅ…つい、熱くなってしまったわ」

 

翼も額の汗を拭い、いつものたおやかな表情に戻っていた。

 

砂浜に大の字に倒れ込んだマリアが、心の底から恨めしそうに二人を見上げた。

 

「もう…一歩も動けない…なんなのよ、あなたたち…バケモノ…?」

「お疲れ様です、マリア姉さん。でも、2位ですよ。頑張りましたね」

 

実は歌手として働いてもいるマリアよりも、マネージャーから護衛に訓練。色々動かす体力があるセレナが、甲斐甲斐しくマリアに、優斗から受け取ったタオルとドリンクを差し出す。その表情はどこか清々しい。

 

結果は、優勝:奏・翼チーム

準優勝:マリア・セレナチーム

3位:ファラ・レイアチーム

 

「お見事ですわ、奏さん、つるぎちゃん。次はわたくしたちも負けませんから」

「フン。地味な結果に終わった。次はもっと、派手な試合で活躍するさ」

「おう! いつでもかかってこい! …さーて、あたしは、コモドで何を奢ってもらおうかなー!」

「奏、少しはしたないわ。……私は、鯖の味噌煮定食を頼もうかしら」

「マリア姉さん。私たち、奏さんたちに、リベンジできませんでしたね」

「セレナ…そうね。でも、次は必ず勝つわ…」

 

真夏のビーチに、六人の健康的な笑い声と勝っても、負けても、楽しんだ晴れやかな声が海に向かって響き渡った。

 

 

 

ビーチバレーの熱戦が繰り広げられている、そのすぐ傍ら。パラソルの、日陰が作る涼やかなエリアでは、もう一つの創造的な活動が進められていた。

 

「ええと、僕が事前に調査した知識によりますと、まず強固な土台を作るため砂に海水を、含ませて固めることが、重要みたいです!」

 

エルフナインがどこから取り出したのか、防水加工された、タブレットを片手に真剣な、表情で砂の城作りの基礎理論を解説している。

 

「よーっし! じゃあ、私、海水を汲んでくる! 未来はそこで待ってて!」

 

響がバケツを手に、元気よく海へと駆け出していく。

 

「もう、響ったら……本当に楽しそうなんだから。…クリスも無理に手伝わなくても、休んでいいよ?」

 

未来が苦笑しながら、響の後ろ姿を見送る。

その、隣では日陰で休むと宣言したはずのクリスが、どこか居心地悪そうに座り込み、手持ち無沙汰に砂をいじっていた。

 

「…いや、まあ、見てるだけってのもなんだか、落ち着かなくてな。それに優斗もあっちで、応援してるしよ」

 

クリスの、視線の先には優斗がバレーの試合を、楽しそうに観戦しながら、時折こちらにも笑顔で手を振っている姿があった。

 

「浮き輪で浮いてるのも飽きたしな。少し、付き合ってやるよ」

「ありがとうございます、クリスさん! では、まず、この設計図通りに基礎を…!」

 

エルフナインがタブレットに表示された、非常に、精密な西洋の城の設計図を指差す。

しかし砂という、あまりにも不安定な素材は、彼女の緻密な計算通りには動いてくれない。

 

「あ! また、崩れました…! おかしいな、理論上はこの角度で砂を積めば安定する、はずなのに…!」

「うーん、エルフナインちゃん。なんか、その、設計図って難しすぎない? もっとこう、バケツでポン!って、感じで作ればいいんじゃないかな!」

 

響が海水を汲んで、戻ってくるとバケツを逆さまにして、砂の塊を作り始める。

 

「ですが、それでは、僕の求める建築が…!」

「ふふ、エルフナインちゃん。響の言う通りかもしれないよ。知識や設計図も大事だけど、今は教科書じゃなくて砂浜で遊んでるんだもの。もっと自分らしく自由に作ってみたら、いいんじゃないかしら」

 

未来が、優しく微笑みかける。

 

「自分らしく…?」

「ああ。ガチガチに調べた知識通りにやろうとするから、緊張して失敗するんだろ。もっと肩の力、抜けよ。どうせ作るなら、自分だけの城を作った方が楽しいだろ? 失敗したって誰も笑わねえよ」

 

クリスがぶっきらぼうな、口調ながらもそっとアドバイスを、送る。

響の自由な発想。未来の優しさ。そして、クリスの不器用な励まし。三人の言葉にエルフナインははっと、したように顔を上げた。

 

「自分だけの、お城…。そうですね! 知識はあくまで道具! それを持って僕がどう表現するかですね!」

 

元気を取り戻したエルフナイン。

そこからは、四人の共同作業が始まった。

エルフナインが、基礎技術を提供し、響が、ダイナミックな造形を担当。未来が貝殻や、流木で繊細な飾り付けを施し、クリスが意外な器用さで城壁のラインを整えていく。

 

そして1時間が、経過した頃。

 

砂浜には小柄なエルフナインの、背丈と同じくらいの、立派な西洋風の砂の城が完成していた。

 

「「「「できたー!!」」」」

 

四人が同時に歓声を上げる。

それを見た他のメンバーたちも、集まってきた。

 

「うおー! すげえ! なんだこれ! プロの仕業か!?」

「すごいデース! お城デース!」

「ふふ、なかなかの出来栄えじゃない、エルフナイン。あなた建築の才能もあったのね」

 

奏、切歌、マリアが口々にその完成度を褒め称える。

 

「いえ、これは、僕一人の力じゃなくて…。響さんと、未来さんが、自由に作る楽しさを教えてくれて、クリスさんが自分のペースでいいって言ってくれたから…! みんなで、作ったお城です!」

 

誇らしげに胸を張る、エルフナイン。

その満面の笑みは今日の青空よりもずっと、輝いて見えた。

 

パラソルの下。椅子に持たれながらも、喜びを分かち合うエルフナインを眺めるキャロル目は、どことなく優しい目をしていた。

 

 

 

日がゆっくりと水平線に近づき始め、空が、オレンジ色に染まり始めた。

遊び疲れた一同は、器具やゴミを全て片付け、癒しを求めて今日宿泊するコテージへとぞろぞろと向かう。

 

「さあ、みんな! 晩御飯はお待ちかねのバーベキューにしよう!」

 

コテージのテラスで優斗がそう提案すると、疲れていたはずの響達の目が再び輝きを取り戻した。

 

「でも、食材が少し足りないかもしれないから、歩いて行ける距離にあるスーパーまで、買い出しに行こうと思うんだ。誰か一緒に、行ってくれるかな?」

 

この大人数だ。買い出しは優斗を含め最低でも、五人は必要だろう。

このメンバーで優斗の次に料理ができる未来は、ここで自動的に決まり。残りは、荷物持ちだ。

 

「よし、此処は例のアレで、決めるしかねえな」

 

奏が、ニヤリと、笑いが似合うキメ顔で言い放つ。

 

「例のアレ、デスか?」

 

切歌が不思議そうに聞き返した。

 

「あれと言ったら……決まってんだろ! せーのっ!」

 

奏が右拳を横後ろに、添えるように構える。

その独特の投球、フォームのような構えに勘づいた者たちが、思い思いに拳を差し出しやすいポーズを取った。

 

「「「買い出し、ジャンケン! ジャンケン……ポン!!」」」

 

一斉に夕焼け空の下、突き出された手。

 

奏、翼、切歌、調、マリア、セレナがチョキ。

クリス、響、そして、なんとなくノリで参加した、ミカが、グー。

 

キャロルはこの数百年分の休息を取り戻すかのように、今度はコテージで寛いでおり、不参加。直感で参加したミカ以外のオートスコアラーとエルフナインはこういう日本の文化に馴染みがなく、出遅れてしまった。

 

「あっちゃー! まさかの一発で決まっちゃった! まあ、しょうがないか。お兄ちゃん、未来、一緒についていくからリクエスト、出してもいい?」

「じゃあ、アタシはハマグリがあったら、買ってくれよ。この前見たテレビですげえ美味そうだったんだ」

「おおっ! それなら、ミカはでっかい、魚が食べたいゾ!!」

 

荷物持ちに決まった、響、クリス、ミカの、三人はここぞとばかりにリクエストをしていく。

 

「ズルいデス! それなら、アタシもグーを、出せばよかったデス…!」

「仕方ないよ、切ちゃん。チョキを出すのはきっと私たちの宿命、みたいなものだから」

 

好きなものを買ってもらえるチャンスを逃し、本気で落ち込む切歌に調が、少しズレた独特の励ましをした。

 

「くっ…! この、チョキを持ってして、ジャンケンに勝ったのに、この、言いようのない敗北感は一体……?」

「そう言えば、翼? その…随分と変わった、チョキの形、なのね?」

 

人差し指と親指だけで作った独特のチョキを、目の前で震えさせながら落ち込む翼に、マリアが不思議そうに尋ねた。

 

「翼のそれ『かっこいい、チョキ』だっけ? 親父さんの真似らしいぜ。……意外だよなぁ」

「えっ!? あの、凄く厳格で固そうなお父様からあれを…!?」

 

奏の補足に横にいたセレナが素で驚きの声を上げる。

 

一応、S.O.N.G.に所属している身として映像越しに顔合わせはしている。あの厳格そのものといった翼のお父さんからあんな独特なチョキを教えてもらっているとは、想像もつかず衝撃を受けていた。

 

目の前で勝手に決まっていく、買い出しメンバー。少し惚けていたミカ以外のオートスコアラーとエルフナインも流石に手伝うと言い出したがそれは翼が優しく制した。

 

「仲間になったとは言え、まだあなたたちは新参者。だからここは先輩の顔を立てて、歓迎を受けてほしい」

「そうそう。それに今回の費用は全部、S.O.N.G.の経費で落としてくれるらしいしな。ここは、パーっと使っちまおうぜ!」

 

続いた奏の補足に、話は落ち着いた。

ミカに関しては本人がすごく行きたそうに、していたので、特例として参加が認められたらしい。こうして、五人の買い出し部隊が夕焼けに染まるスーパーへと向かうのだった。




複数人が出るとどうしても三人称になってしまう、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A

Q、オートスコアラーの味覚ってどうなっているの?
A、キャロルの味覚データ参考に、それぞれ食べて見たい味を好みにしています。
ミカとガリィは甘み。ファラは酸味。レイアは特別に辛味を感じる様にしています。理由は辛い料理は派手らしいとのこと。
でも、元ととなったデータは最近のキャロルの好みなので、甘いものや、優斗の作る料理が無意識に美味しいと感じる様になっています。

Q、マリアは挑発に弱いの?
A、マリアにとって実は、奏が一番接しやすい人物。共通点があり、快活で姉御気質の奏とドツボにハマってしまうが母性の強いマリアは基本相性が良いです。が、ファーストコンタクトがあれだったと、つっかかるマリアに面白がった奏がちょっかいかけるので、普段から訓練で激しくぶつかっています。
今のところ友達以上親友ギリギリ、と言った感じ。でもちゃんと、心の中ではお互い認めあってます。

Q、ところで切歌と調は優斗にどんな感情を抱いているの?
A、新天地へ引っ越した先にいる、気になる近所のお兄さん。みたいな感じ。明確に好意を向けているマリアがいるので、自身が抱いた好意を無意識に蓋をしています。まあ、優斗が無意識にその蓋を開けてしまいそうになったりするのですが。

Q、かっこいいチョキ…?
A、もちろんオリジナル設定。あの訃堂すらこのチョキだとか。
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