ハッピーエンドに向かうには   作:内海空洞

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長らくお待たせしました。遅くなってしまいましたが、なんとか投稿できました。

正直、他の作品も魅力的なのでアイデアがそっちに吸い寄せられてしまい、話を考えるのが難しい現状です。

例えば

呪術廻戦の甚壱になって百式観音や真数千手したり。
転生してバスターマシン8号になってやり遂げた後なんやかんやでゼンゼロに行って色々したり。
零号ホロウにいたその世界の麻生勝が仮面ライダーZOになってドラスからアキラとリンを守ったり。
原神の世界にマジンカイザーなって、鉄の魔神を自称して鍾離と暴れ回ったあと、自ら封印して、オセル復活の際に玉京台の後ろの山を真っ二つに割って登場したり。
ダンまちの初代団長になって、ロキ・ファミリアが黒竜と戦った3大ファミリアと呼ばれたあと、隠居して見守ったり。

そんな妄想をしています。いつか書きたい。


番外編2

 

『あなたを思うあの日から、アタシの心は秋の空』

 

 窓の外を流れる風が、少しずつ冷たさを帯びてきた秋の夜。

 S.O.N.G.……ではなく、今は自分与えられたマンションの一室で、アタシ、暁切歌はテーブルに突っ伏して唸り声を上げていた。

 

「う~……。今日もまた、上手く話せなかったデース……」

 

 自分の腕を枕にして、情けない声を漏らす。

 視界の端には、読みかけのファッション誌と、冷めかけたミルクティー。

 部屋の静けさが、胸の奥にあるモヤモヤとした感情を余計に際立たせてくるような気がした。

 原因は分かっている。夏にあった、あの一幕だ。

 

 S.O.N.G.の慰安旅行で行った海。そこで行われたスイカ割り。

 目隠しをしてふらつくアタシを、優斗さんが抱き止めてくれた時のこと。

 あの時、触れた体温。鼻を掠めた優しい匂い。

 そして何より、心配そうにアタシを覗き込んだ彼の瞳から、どうしても目が離せなかったこと。

 

(……思い出すだけで、心臓がうるさいデス……)

 

 それが「恋」だとは、気恥ずかしくて認めたくない自分が何処かにいる。

 けれど、一度開いてしまった感情の蓋はもう閉まらない。優斗さんのことをふと考えるだけで、胸の奥がギュッとなる。

 そして、彼が他の女性と楽しそうに話しているのを見ると、胸に黒い煙が詰まったみたいに、グルグルとした気持ち悪さが湧き上がってくるのデス。

 

 この悩みは、親友である調には話してある。

 

 でも、調ときたら。

 

『……ふふっ。それは切ちゃんが自分で分からないと、ダメなやつだよ』

 

 なんて、どこか楽しむような、生暖かい目で微笑むだけだった。

 調も意地悪デス。あんな全てを見透かしたような顔をされたら、余計に焦ってしまうじゃないデスカ。

 アタシはため息をつきながら、天井をぼんやり見つめる。

 一体いつから、アタシは優斗さんから目を離せなくなってしまったんだろう。

 その根拠を探すように、アタシは記憶の糸を、今よりもずっと寒くて暗い場所へと手繰り寄せていった。

     

 

 

 かつてアタシたちがいたF.I.S.という組織は、自由のない鳥籠……いや、もっと無機質で冷たい「牢獄」と言っても過言じゃなかった。

 拉致によってあそこに連れてこられた時、アタシには自分の名前以外の記憶が一切なかった。

 おぼろげな記憶の中ある研究員の話では、ショックで過去を忘れてしまったらしい。

 

 自分という人間が何者かも分からず、周りにはアタシたちを「実験材料(サンプル)」としか見ない大人たちばかり。

 消毒液の匂いと、機械の駆動音だけが響く廊下で、アタシは震えることしかできなかった。

 そんな恐怖と絶望の中で差し伸べられた手が、マリアたちだった。

 献身的とも言えるほど優しく接してくれるマリア。

 明るくも、柔らかく受け止めてくれたセレナ。

 言葉は少ないけれど、いつも隣に寄り添ってくれた調。

 そして最初は怖いと思っていたけれど、本当は誰よりもアタシたちを愛してくれた、母のようなナスターシャ教授。何時からかマムと呼ぶようになったけど、何時からだっけ?

 

 彼女たちと関わるうちに、アタシの心に温かい色が戻ってきた。

 

 元来の明るさを取り戻し、研究員たちの口調を真似て「~デス」なんて変な敬語を使ってみたりして、アタシという人格(カタチ)を作り上げていった。

 全ては、この居場所を守るため。

 仲間がいたから、きつい訓練も、身体を蝕む投薬実験も耐え抜くことができたんデス。

 だからこそ、アタシは「失うこと」を極端に恐れている。

 過去の実験でネフィリムが暴走し、それを止めるためにセレナが絶唱を使ったと聞いた時。

 胃の中から熱い鉛がこみ上げてくるような、強烈な吐き気に襲われた。

 同じシンフォギアを纏う者だからこそ分かる。絶唱のバックファイアが、どれだけ残酷に奏者の命を削り取るかを。

 けれど、結果は奇跡だった。

 セレナは無傷で生還した。その理由が、優斗さんの作ったクッキーだったと知った時の衝撃は忘れられない。

 

(……あのクッキー、本当に美味しかった)

 

 マリアがつかの間の休暇から持ち帰ってくれたクッキー。

 外部からの持ち込みもあってF.I.S.で何度も検査されたけれど異常はなく、ただただ美味しくて、不思議な力が湧いてくるお菓子。

 

 あまりの美味しさに調の分までちょっと食べてしまって、ジト目で睨まれたのも今ではいい思い出デス。

 その時はまだ、「お菓子を美味しく作れるすごい人」くらいの認識だったけれど。

 顔も知らないその人に、アタシは確かに深い感謝を抱いていた。

 

 そして時は流れ、日本でフィーネの野望が潰えた頃。

 日本のシンフォギア奏者に遅れを取るわけにはいかないと、政府主導でマリアを新たなスター。いや、英雄としてデビューさせる計画が進む中、アタシたちの耳に信じられない命令が下った。

 

『ターゲットの確保。対象は新城優斗の家族』

 

 その指令を聞いた時の、ナスターシャ教授の苦渋に満ちた声を覚えている。

 マリアは信じられないと目を見開き、セレナも困惑を隠せなかった。

 

 もちろん、アタシたちも。

 恩人の家族を拉致しろだなんて。

 

 アメリカ政府の欲望が暴走し、ただ平和に生きる一般人を、ましてやセレナの命の恩人を狙うなんて暴挙、許せるはずがなかった。

 

 だからアタシたちは、反逆を選んだ。

 ライブ当日を決起日とし、優斗さんのご両親を確保という名目で保護し、F.I.S.から匿う計画を立てたのデス。

 

 そして実行された作戦。

 世界への宣戦布告と共に、アタシたちは優斗さんを拉致に近い形で保護した。

 罪悪感もあってすました顔で連れ出したけれど、内心は心臓が早鐘を打っていた。

 ご両親から聞いていた話や写真よりも、実物の優斗サンはずっと……かっこよかったから。

 

(……あの時、調と一緒にキャーキャーはしゃいじゃったんデスよね)

 

 優斗さんは、敵であるはずのアタシたちにも優しくて。

 美味しいご飯まで振る舞ってくれて。

 アタシたちの中での好感度は、ジェットコースターみたいにうなぎ上りだった。

 まあ、その直後に助けに来た日本のシンフォギア奏者たちに、コテンパンにやられてしまったわけデスが……。

 

 そこから色々あって、今のアタシたちはS.O.N.G.という組織に身を置いている。

 棚ぼたで手に入れた、諦めていた憧れの平和な日常。

 

 無茶な人体実験もない、痛かった訓練もない、温かいご飯と、新鮮で楽しい学校生活がある毎日。

 そこで出会った人たちが、アタシの世界をさらに鮮やかに変えてくれた。

 

 響さんは、まるで夏の日差しそのものみたいな人だ。

 アタシたちが何をしてしまっても、過去に何があったとしても、「ご飯食べに行こう!」って手を取ってくれる。その掌の温かさと眩しさに、F.I.S.で凍りついていた心がじゅわっと溶かされていくのを何度も感じた。彼女がいるだけで、場がパッと明るくなる太陽みたいな。

 

 未来さんは、そんな太陽を優しく見守る陽だまりのような人だ。

 一歩引いているようで、実は誰よりも芯が強くて、優斗さんと響さんのことを一番に考えている。その穏やかな強さに、アタシは何度も救われた。部屋に遊びに行った時、彼女が偶に入れるお茶の香りは、ざわつく心を不思議と落ち着かせてくれる魔法みたいだと思う。

優斗さんに最も近いのは誰かと言われたら、未来さんが一番。あの距離感の調整は誰にも真似できない。

 

翼さんは、たおやかで凛とした先輩。

 ライブで対面した時は剣のように鋭くて近寄りがたい雰囲気だったけれど、実はすごく女性的でで、完璧に見えて部屋の片付けが壊滅的だったりするギャップが可愛い。奏さんと背中合わせで戦う姿は本当にかっこよくて、アタシもいつか調とあんな風になりたいって、密かに憧れている。

 

 奏さんは、太陽みたいに暑いけど、瞬間速度が台風みたいな人。

 豪快で、明るくて、悩んでいるのが馬鹿らしくなるくらい背中をバンッて叩いて励ましてくれる。ゲームセンターで色々と遊び方を教えてくれたり、日常での影響は奏さんが一番大きいかもしれないデス。

 でも、優斗サンのことになると独占欲全開で、「優斗はあたしのもんだ!」って公言して憚らないところは、正直すごすぎて参考にならないというか……ライバルとして強敵すぎるんデスよね。

 

 風鳴司令は、まさに「頼れるお父さん」って感じの大きさデス。

 F.I.S.にいた頃の大人たちは、アタシたちを道具としてしか見ていなかったけれど、司令官の視線はいつだって温かくて、厳しい。けど、決して見捨てない意思を持った暖かい目。

 映画の話になると止まらなくなるのは困りものデスが、あの大きな背中を見ると、どんな敵が来ても大丈夫だって思える安心感がある。

 

 そして、櫻井了子さん……フィーネの魂を宿す人。

 最初は、アタシたちの運命を狂わせた元凶として複雑な思いもあった。でも、今の彼女はS.O.N.G.の頼れる技術顧問として、飄々とアタシたちを支えてくれている。

 時々見せる、全てを見透かしたような大人の余裕はちょっと悔しいけれど、優斗サンの料理を食べて喜んでいる姿や、悪ノリして司令に叱られてしょんぼりする姿を見ると、やっぱり悪い人じゃないんだなって安心するんデス。

 

 最後に、キャロルたち錬金術師の一行。

 世界を解剖しようなんて物騒なことを言っていたけれど、今ではすっかり優斗サンの料理の虜になってるのが面白いデス。

 特にキャロルは、偉そうにしてるけど優斗サンの前だと借りてきた猫みたいになるのがバレバレで。見た目はアタシより小さいのに中身はお婆ちゃん……いや、大先輩な彼女が、不器用に優斗サンを慕っているのを見ると、なんだか仲間意識が芽生えてしまうのデス

 

 そして、優斗さん。

 彼こそが、アタシたちの「平和」の中心にいる人。

 美味しいご飯を作ってくれて、どんな悩みも「うんうん」って聞いてくれて。彼の周りには、いつもふんわりとした柔らかい空気が流れている。

 

 F.I.S.の時のような、成果を求められる冷たい視線なんて一つもない。ただそこにいるだけで、アタシという存在を丸ごと肯定してくれるような、そんな安心感の塊みたいな人。

 

 そんな幸せな日々の記憶を反芻していると、また心がグルグルし始めた。

 

 優斗さんの優しさは、誰にでも平等だ。

 それが嬉しい反面、どうしようもなく切なくなる。

 

「……ズルいデス。アタシだって、もっと構ってほしいのに」

 

 ベッドに体を投げ出し、手元に引き寄せたクッションに顔を埋めて、くぐもった声で文句を言ってみる。

 

 未来先輩の用に女の子らしくないし、奏先輩のようにぐいぐい行けるわけでもないし、クリス先輩みたいに素直に甘えられないし、マリアみたいに大人の魅力もない。

 

 優斗さんが他の女の子を見ていると、胸の奥がチクリとして、モヤモヤとした黒い煙が視界を覆う。

 

 でも、その時。

 枕元に放り投げていたスマートフォンが、ブブッ、と短く震えた。

 ビクッとして顔を上げ、画面を覗き込む。

 通知欄に表示された名前を見た瞬間、さっきまでの鬱屈としたモヤモヤが、強烈な光で吹き飛ばされた。

 

『新城 優斗:今日はお店に来てくれてありがとう。切歌ちゃんが美味しそうに食べてくれる顔を見ると、僕も元気が出るよ。また明日、学校頑張ってね』

 

 たったそれだけの、短いメール。

 でも、そこには確かに優斗サンの優しさが詰まっていて。

 

 アタシの今日一日の笑顔を、彼が見ていてくれたという事実が、何よりも嬉しかった。

 

「……んふふっ、単純デスね、アタシ」

 

 画面を見つめる自分の顔が、自然と緩んでいくのが分かる。

 窓ガラスに映ったアタシは、さっきまでの悩みなんて嘘みたいに、だらしなくニヘラと笑っていた。

 やっぱり、この感情の名前は完全には「恋」だと分かりきっていない。

 今はただ、このメールをお守りにして、明日また彼に会えることを楽しみにするだけで十分デス。

 

 アタシは大切な宝物を抱きしめるようにスマホを胸に押し当て、秋の夜長に幸せなため息を一つ吐いた。

 

 

 

 

 

 

『一方その頃、パヴァリアでは』

 

「ふんふふ〜ん、ふふ〜ん♪」

 

スキップでもしそうなほどに歩く、カリオストロの足取りは軽やかだった。

 

その手には、プライベートで目を付けていたお目当ての新作服。首尾よく手に入れることができた喜びで、彼女の頬は「ほくほく」という擬音が聞こえてきそうなほど緩みきっている。

 

戦いと陰謀の拠点であるはずのパヴァリア本部の城内。しかし今の彼女にとっては、お気に入りの戦利品を抱えて歩く、最高にご機嫌なランウェイに過ぎなかった。

そんな彼女の視界に、向かいから歩いてくる人影が映る。

 

「あ、サンジェルマン! 見て見て、これ——」

 

早速戦利品を自慢しようと駆け寄ろうとしたカリオストロだったが、その足はすぐに止まった。

近づくにつれ、表情が尋常ではないことに気づいたからだ。

サンジェルマンは、まるで世界の全ての重荷を背負わされたかのような、深く沈んだ顔をしていた。その眉間には、刻まれたまま戻らなくなったような深いシワが寄っている。

 

「……どったの〜? サンジェルマン。そんな顔してたら、せっかくの美人が台無しよ?」

「……。ああ、カリオストロ。ごめんなさい、少し考え事をしていて」

 

カリオストロの声に、サンジェルマンはようやく現世に意識を引き戻されたように瞬きをした。

 

「考え事って? あーしに言えないようなヤバいこと〜?」

「…………あの子たちのことで、ね」

「ああ……。そっち、か」

 

その一言だけで、カリオストロの陽気な空気も僅かに影を潜めた。納得したように打たれた相槌は、少しだけ重い。

 

事の起こりは、少し前に遡る。

 

キャロル・マールス・ディーンハイムがパヴァリア光明結社へと宣戦布告し、テレポートジェムを駆使した電撃的な強襲が、世界各地のアジトを次々と崩壊させていた時のことだ。

 

それらのアジトの多くは、本来ならば結社の構成員が潜伏するための場所に過ぎない。だが、中にはサンジェルマンたちの目すら届かない「奈落」が存在していた。

 

世界中に張り巡らされたアジトの全てを、たった3人しかいない幹部である彼女たちが把握しきれるわけではない。特に総帥アダムの放任主義もあり、末端のメンバーの中には、自らの歪んだ欲望のままに禁忌の研究や人体実験を繰り返す者たちがいたのだ。

 

本来の歴史であれば、彼らの暴走が露見するのはアダムが斃れ、唯一の「重石」であったサンジェルマンたちが表舞台から消え、結社が瓦解した後の話だったはずだ。ストッパーを失った残党たちが、野に放たれた獣のように凶行を加速させた未来。

 

しかし、この世界では「優斗の為に動いたキャロル」という異分子がその時間を強引に引き寄せた。

 

キャロルは証拠隠滅を兼ねてアジトを外側から焼き払っていたが、同行していた了子——フィーネの機転が、運命を変えた。

 

「悪党を殺すのは構わないけれど、関係のない人間まで灰にするのは、これからのキャロルにとっては毒になる」

 

そんな了子の、皮肉混じりながらも鋭い気遣い。

結果として、実験の「材料」にされていた者や、拉致されてきた人々は、灰になる直前で回収されることとなった。

 

もちろん、了子とキャロルは中にあった聖遺物や特異技術をちゃっかりと略奪し、面倒な生存者の保護だけをサンジェルマンの元へと放り投げていったのだが。

 

その救出された人々の中に、彼女たちがいた。

別の未来では「ノーブルレッド」という名で呼ばれることになる、ヴァネッサ、ミラアルク、エルザの三人である。

 

彼女たちとキャロルの間にどのような対話があったのかは分からない。だが、サンジェルマンは彼女たちの惨状を目の当たりにし、事実上の「被害者」として彼女たちを受け入れた。

 

そして、その決断こそが、今まさにサンジェルマンを苦悩の泥沼へと引きずり込んでいる原因そのものだった。

 

 

 

 

 

「……化け物にするだけじゃ飽き足らず、今度は同情の道具にするつもり?」

 

過去のサンジェルマンの脳内に響き、病室の静寂を切り裂いたのは、ヴァネッサの低く刺々しい拒絶の言葉だった。

 

実験途中に救出されたからであるのか、ベッドに横たわる彼女の腕は、ひび割れた装甲から剥き出しの真鍮色をした歯車が覗き、呼吸のたびに不快な機械音を立てている。その隣で、包帯を所々巻いたミラアルクとエルザもまた、親の仇を見るような眼差しをサンジェルマンへと向けていた。

 

サンジェルマンは、その視線から逃げるように拳を握りしめた。

かつて理想を語り、正義を標榜していた自分。しかし、その足下——自分の管理が行き届かぬアジトの暗がり——では、これほどまでに残酷な「命対しての冒涜」が行われていた。

 

(……私は、世界を、善き生き方する人々を救うと言いながら、足元の少女たちすら救えていなかったというのか)

 

サンジェルマンの胸を焼くのは、愚かな行いをしたメンバーへの憤り以上に、自身の盲目さに対する強烈な自責だった。

 

彼女たちの肉体は、錬金術によりヴァネッサはファウストローブの実験のためか機械に、エルザは獣のDNAをインプラントされ、ミラアルクはヴァンパイアの再現を目指す実験により、肉体をデタラメに繋ぎ合わされ、因果の糸が複雑に絡まり合っている。サンジェルマン達の持つ技術を持ってしても、もはや「痛みと症状の緩和」が限界だった。

 

「……すまない。本当に、かける言葉も見つからない」

 

パヴァリア光明結社の誇り高きリーダーとして、常に毅然としていたサンジェルマンが、今は幽霊のように青ざめた顔で頭を下げていた。その姿には、かつて世界を導こうとした気づかぬ傲慢さは微塵もない。

 

ベッドの上でその謝罪を受け止めるヴァネッサの心境は、複雑だった。

彼女はもともと結社の一員として、その思想に共鳴していた時期があったからだ。だからこそ、心の片隅に、自分の今の無惨な姿は「任務の果ての結果」として、どこか諦めに似た納得をしてしまっている部分があった。

 

だが——隣で震える二人は違う。

 

「サンジェルマン。私はいいわ……元は結社の端くれ。自業自得だと言われればそれまでよ」

 

ヴァネッサは、軋む機械の指先で、現況の幹部に保護されている現状に悔しくて泣きじゃくるエルザの頭を引き寄せ優しく撫でた。

その瞳には、かつての錬金術師としての冷徹さではなく、年下の少女たちを守ろうとする、深い慈愛と母性が宿っている。

 

「けれど、エルザとミラアルクは……もともとと言えば、この子たちは何も知らない一般人。私たちの『理想』なんてものに、巻き込まれていい命じゃなかったはずだわ」

 

ヴァネッサはサンジェルマンを真っ直ぐに見据えた。その視線には、命を賭した「取引」の覚悟が宿っている。

 

「お願い、サンジェルマン。私はどうなっても構わない。どんな実験体になっても、どんな汚れ仕事を命じられても受け入れる。だから……この子たちだけは、元の身体に戻してやってほしいの」

「ヴァネッサ、何を……! 嫌だぜ!一人だけ犠牲になるなんて!」

「そうであります! 私たちだって、ヴァネッサを置いていくなんて絶対しないであります!」

 

ミラアルクとエルザが驚き、叫ぶ。彼女たちはボロボロの身体を寄せ合い、自分たちを盾にしてでもヴァネッサを守ろうとした。その光景は、地獄のような実験場で培われた、血よりも濃い絆の証明だった。

 

それを見たサンジェルマンの胸に、鋭いナイフが突き立てられたような痛みが走る。

 

「(……なぜだ。なぜ、これほどまでに奪われ、踏みにじられた者たちが、互いを思いやれるのに、必死に生きようとするのに......何故、自由を、平和を奪われるのだ)」

 

彼女たちが守ろうとしているものは、サンジェルマンが求めた大仰な「誰もが支配されず、わかり合える世界の平和が来るであろういつか」などではなく、目の前の「自分の大切な家族の明日」だった。

 

そして、そのささやかな願いを冷酷に否定し、彼女たちの「明日」を奪ったのは、他ならぬ自分たちが所属しているパヴァリア光明結社のシステムそのものだ。

 

(私は……理想の名の下に、この純粋な輝きを、この手で潰してきたというのか……!)

 

3人の思いやりにあふれる姿が、犠牲を受け入れたはずの自責の念が、サンジェルマンを底なしの苦悩の海へと沈めていく。

 

(これが私の選んだ道。分かっていたはずだ......!なのに何故、心がこんなにも騒ぎ立てる!?こんなにも......)

 

 

 

 

 

「サンジェルマン。そんな暗い顔してたら、可愛い顔が台無しよ?」

 

再び意識が苦悩の奥底に眠ろうとするサンジェルマンの前で、場にそぐわない軽快な声が響く。カリオストロの気遣い混じり言葉がサンジェルマンの意識を起き上がらせる。

 

彼女はサンジェルマンの何処か怯えの見える視線を柳に風と受け流しながら、事も無げに続けた。

 

「あの子たちを治したいんでしょ? だったらさ、いっそフィーネやキャロルたちに丸投げしちゃえばいいじゃない」

「……何を? カリオストロ、一体何を言っているの?」

 

事もなげにカリオストロが告げた言葉に、サンジェルマンが驚愕に目を見開く。一度は宣戦布告し、今もなお停戦中とはいえ油断できない相手である者にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

 

「まあ、管理もできないとあーし達の汚点とはいえ、元はといえばキャロルが丸投げしたせいでもあるし、ここでうだうだ考えていてもあの子たちの身体も治らないわよ。いい? あーしたちが束になっても解けなかった答えを、キャロル達なら持ってる。それに……」

 

カリオストロは以前プレラーティから聞いた情報を脳内で吟味して、サンジェルマンに伝える。

 

「キャロルはホムンクルスによる体での理解度は当然上、更に新城優斗の作る料理。あれ、錬金術の法則をガン無視して『治る』って結果を押し付けてくるじゃない。正直、あーしたちの理屈じゃ勝てないわよ」

「それは……そう、だけど……」

 

サンジェルマンは反論を試みた。自身の成し遂げる使命の自責、錬金術師としての意地、そして自分たちがしでかした罪は自分たちで購うべきだという罪悪感。

 

しかし、脳裏に写るで苦痛に顔を歪めるヴァネッサたちを見れば、言葉は虚しく空を切り、飲み込まれる。

 

現代で最も理論の極致を備えたキャロルの技術。先史文明の力と知識を持ち、転生によって知識をかき集めたフィーネ。そして、運命そのものを書き換える優斗の「食」

 

自分たちが何年かけても辿り着けない「救済」の答えを、彼らは日常の延長線上に持っている。

 

「……ぐ、う……」

 

サンジェルマンの喉から、絞り出すような呻きが漏れた。呪いをなくし、救う為に磨いた自尊心が、現実という名の正論によって完膚なきまでに叩き潰された瞬間だった。

 

「それに交渉のあれ、そろそろ何でしょ?」

「......ええ、フィーネから連絡があったわ」

 

キャロル達と停戦協定の条件に組み込まれた、月の遺跡への切符。その時間が決まったのだ。

 

「じゃあ、アダムのことはあーしに任せて。護衛代わりにプレラーティでも連れて行ってきなさいな。あいつらだって流石に助けた人の現状を、無下にはしないくらいの善性はあるでしょ?」

「カリオストロ...あなたはいいの?」

「まあ、口が達者じゃないプレラーティが残っても、上手く回せないでしょ?アダムだって底なしの馬鹿じゃないわ。もしかしたらフィーネの予測通りに裏で動いているかもしれないし」

 

カリオストロはここには居ないプレラーティの予定を勝手に決めつつ、少しでもサンジェルマンの重荷をを減らそうと、貧乏くじを自ら引いた。

 

「カリオストロ......ありがとう」

「いいわよそれくらい。......そ·の·代·わ·り·に〜」

 

カリオストロの思いやりにサンジェルマンも察したのか、表情が少し明るくなり、素直な気持ちで感謝を告げる。

 

しかしカリオストロはいたずらっぽく目を細め、肉食獣が獲物を見つけたような勝ち誇った笑みを浮かべる。片方の口角を上げ、相手の逃げ道を塞ぐように顔をグイッと近づける。

 

「サンジェルマンの今日の残り時間、アタシに全ベタでくれない?」

「……え? 全ベタって何?……というか、まだ今日の仕事が……」

「お堅いこと言わなーい! ほら、その地味〜なスーツ脱ぎ捨てて、あーしが選んだ服でランウェイ歩いてもらうかしら〜。鏡の前の自分に『可愛い』って言わせてあげる。……感謝してるなら〜、拒否権ナシね?」

 

カリオストロはサンジェルマの後ろに周り、ぐいぐいと背中を押していく。サンジェルマンは戸惑うも、カリオストロのわがままに負けたのか、諦めてカリオストロの部屋に向かう。

 

「プレラーティも呼んじゃおうかしら?チフォージュ·シャトーが触れなくなったからって、最近メソメソして鬱陶しいのよ、まったく」

「ふふ、そうね。いっそ巻き込みましょう。ついでに予定も言っておきたいわ」

「もう、サンジェルマン。今この瞬間だけは、ムズカしい話はぜんーぶ!なしなーし! あーしたちが可愛くしてあげるんだから、ちゃーんと楽しんでよね?」

 

その足取りは、悩みという呪縛から解き放たれたかのように、どこまでも軽やかだった。

 

 

 




内容が多くなったのに、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A


Q、乙女心まっしぐらな切歌に対し、現時点の調は優斗をどう思っている?
A、大雑把に例えるとLikeが6、Loveが4くらい。あの時、優斗が受け止めたのが調だった場合、4:6に逆転します。まあ、お互いに離れる気がないようなので、同棲はしますが、その場合優斗をシェア(意味深)が始まります。

Q、あんまりデスデス言ってないね?
A、流石に脳内での回想でデスデス言わないよね?もしそうなら、ごめんなさい。作者の力量不足デス。

Q、サンジェルマンのメンタルが弱くない?
A、これ以上犠牲を出さない為に、犠牲を前提に動いていたのに、ある日いきなりポンと出された目標に、サンジェルマンが犠牲をこれ以上出さなくていいのでは?と心の何処かで安堵していました。そこにいきなり、自分の組織が非道な実験で被害を出していて、それに対し自分さえ気づいていればと自責し、復讐に走っても当然の被害者が、我が身を犠牲にしてまでも仲間を思いやる姿に更に自分を責めました。そもそも道標のアダムを信じれなくなり、今回の件もあって自分がしたのは過去の父親と同じことでは?と脳裏に走ってしまい、メンタルが底に落ちました。

まあ、絶対変わるはずのないと思っていたキャロルが未来を見て、生き始めた姿を見たのが一番の原因でもあります。ほら、どっかに似た所がありますから、この2人。

Q、プレラーティはどうしている?
A、最近見たアニメのフリーレンの泣き姿並に泣いた後、べそ書きながら聖遺物を忘れるかのようにいじっています。

Q、もう、ノーブルレッドが登場するの?というか、逃げてもおかしくない?
A、このタイミングに救われていなければ、出番が無いのです。逃げない理由は、実力が違いすぎる、サンジェルマンの態度に戸惑っている、治療法がいくつかある事を聞かされたからなど。
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