ハッピーエンドに向かうには   作:内海空洞

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毎日投稿やコンスタントに投稿する人の凄さが身に染みてわかったこの頃。

話を作るために最初のほうを見直しをしたのですが、初め方の文章は今となってはとてもじゃないが見ていられない···今書いているのもそんなにですが。この感覚はきっと、一生つきまとうものですね。

今回の内容は、割とガバです。


月へと向かう力技、からの強制お出迎え

そこから先の月への移動計画は、呆気ないほどトントン拍子に進んでいった。

 

結論から言えば、優斗たち”は”ロケットを使わずに月へ向かうこととなった。

 

本来、了子が最初に想定していた手段は、優斗を月に送り届ける手段は極めて真っ当な物理的ロケットの打ち上げだった。だが、それには莫大な準備時間がかかる上、何より民間人である優斗を宇宙空間へ適応させるための過酷な訓練が不可欠となる。もし今の陣営にキャロルという規格外の協力者がいなければ、優斗は今頃、遠心力訓練機の中で目を回していたはずだ。

 

だが、今の了子には、明確な移動手段を持つ心強い相棒がいる。

 

「距離という概念を無視して空間をゼロ移動する……『テレポートジェム』ですか」

「ああ。かつてオレたちがパヴァリアを強襲した際にも使った技術だ」

『なるほど……。確かにそれなら、宇宙空間への移動プロセスを根底から省略できる。新城優斗を連れて行くには最適解かもしれない』

 

優斗の呟きにキャロルが胸を張り、サンジェルマンが顎に手を当てて深く頷く。

 

脅威であるはずの錬金術の輝きが、今はこれ以上なく頼もしい。冷たい金属壁に囲まれた潜水艦の密室で、異なる分野の叡智が静かに重なり合っていくのを優斗は感じていた。

 

しかし、魔法のように思えるそのジェムも完全無欠ではない。

 

万に一つという低確率ではあるものの、転送の瞬間に空間の位相差へ迷い込み、次元の狭間を永遠に彷徨う危険性を孕んでいるのだ。かつてキャロルたちがジェムを実戦で多用できたのも、オートスコアラーたちが事前の綿密な偵察を行い、寸分の狂いもない座標を特定していたからに他ならない。事故を防ぐため、彼女たちは普段から「完全に座標が固定された場所」でしかこの力を使わないという徹底したルールを敷いている。

 

ましてや今回は、月の遺跡を開く「鍵」である優斗を伴う極秘任務だ。ただの一度の転送ミスも、文字通り致命傷となる。

 

『キャロル。お前の錬金術の腕は認めているが……空間跳躍の不確実性、そのあたりの対策はどうなっているのだ?』

 

空間投影モニターの向こう側から、サンジェルマンが鋭い声音で問いかけた。

微かに混じる通信ノイズ越しでも、その言葉には「新城優斗という絶対に失敗できない存在を伴う以上、博打は打てない」という、確かな気遣いと責任感が滲んでいた。

 

サンジェルマンの側にも、実は月へ到達する「奥の手」は存在していた。それは現在彼女の庇護下にいるヴァネッサたち三人の力を結集した絶対封鎖迷宮。

 

――『ダイダロスエンド』である。

 

自らを「怪物」と定義づけることで、彼女たちのいる場所を迷宮へと因果逆転させる大魔術。三人が揃えば、地球から月までの三十八万キロメートルをも超える長大な閉鎖空間を作り出すことができる。その空間が解ける瞬間の反動を利用し、獲物を目的地へ放り出すという、物理法則を完全に無視した超長距離移動だ。

 

しかし、サンジェルマンはその手段を極力避けたかった。

万全のエネルギーが必要という事情もあるが、最大の理由は、彼女たちに「自分は化け物である」と強く認識させなければ発動できない点にある。

 

人間として生きたいと切に願うヴァネッサたちの心を、これ以上無下に踏みにじる真似はしたくなかったのだ。

 

いつか人間へ戻してやりたいと願うサンジェルマンにとって、代案があるのならそれに越したことはない。

 

だからこそ、彼女はキャロルたちの転送技術の確実性を問うたのだ。

 

「その空間跳躍の不確実性だが……すでに解決済みだ。いささか、乱暴なやり方だったがな」

「乱暴なやり方?」

『いったい、どうやって?』

 

眉をひそめて怪訝な顔をするサンジェルマンと重なるように、優斗も思わず疑問を口にしていた。

冷たい空気の流れる研究室で、了子が優斗に向き直り、悪戯っぽく唇を吊り上げる。

 

「優斗くん。だいぶ前に、日持ちする食べ物をたくさん作ってほしいって、私から頼んだでしょ?」

「はい。確か一ヶ月くらい前に、乾パンや真空パックの料理なんかを頼まれましたけど……初めてだったんで、上手くはいきませんでしたが」

「あ、気にしないで、味は相変わらず美味しかったから。···それに、最近、ガリィやレイアの姿を見なかったと思わない?」

「そう言えば、キャロルちゃんの側にいるのはファラさんやミカちゃんばっかりだったような……でも、それがどうかしましたか?」

 

質問に答え続ける優斗が首を傾げる。交互に会話が続いていくたびに、緊張感のあった空気がだんだんと萎れていく。

 

隣でキャロルが「頭が痛い」と言わんばかりにこめかみに手を当て、深く顔を顰めた。

 

エルフナインも前にあった出来事を思い出したのか、苦笑いを隠せない。

 

その隣の弦十郎は気まずそうに、大きな手でポリポリと頬を掻いている。

 

モニターの向こうでは、サンジェルマンが「早く続きを言え」と目で促していた。

 

「答えは簡単。……ぶん投げたのよ」

「……ぶん投げる?何処に?何を?」

 

優斗のリアクションが楽しみとばかり、もったいぶる了子。

 

「ガリィ達をね」

「ガリィちゃん達を?」

 

苛立ったキャロルが早く喋れとばかりに、指でテーブルを叩く音が部屋に響く。

 

「月までよん♪」

「はぁ、月まで。······月まで!?」

 

空調の低い駆動音だけが、不自然なほどクリアに室内に響き渡った。優斗は今、了子が口にした単語を理解しようと、必死に脳の歯車を回し続ける。モニター越しのサンジェルマンも、思い至ったのか、まさかすぎる力技の解決策に絶句し、彫像のように固まっていた。

 

今、2人は古いミームでいう、宇宙猫の様な様相をしているだろう。

 

結論から言おう。彼女たちオートスコアラーは、自らの肉体を砲弾とし、文字通りの「物理的な投擲」によって月面へと送り込まれたのだ。

 

深海の冷たい作戦室のモニターには、地球から月へと伸びる一本の無機質な赤い線が引かれていた。

 

計画とも呼べないその力技の全容はこうだ。

 

まず、天体望遠鏡で着地点を定め、S.O.N.G.のコンピューターで正確な導線を計算する。次に、探索物資を持たせたガリィとレイアを、耐熱素材の分厚く頑丈な布で簀巻きにした。

 

次に、投げる第一次投擲者なのだが、実はミカ達以外にオートスコアラーが一体いた。名称はないので、レイアの妹と呼ばれるビルにも匹敵する巨体のオートスコアラーが、二人の入った包みを抱えた風鳴弦十郎ごと、上空へ向けて力任せに投擲する。その初速は、優にマッハ5から10に達していた。

 

ガリィ達と違い、弦十郎は生身なのだが、S.O.N.G.でもとりわけ人間離れした身体能力は、もはやシンフォギア装者すら凌駕する物理法則のバグとして組織内で恐れられているので割と心配はしていない。

 

一定の高度に達した瞬間、第二投擲者の弦十郎は空中で「震脚」を踏んだ。

 

空間そのものが軋み、鼓膜を破るほどの轟音が大気を震わせる。極限まで踏み込まれ、鋼鉄のように圧縮された空中窒素を足場にして、彼は全身のバネを解放し、包みを宇宙へとぶん投げたのだ。その到達速度は第二宇宙速度。

 

――脅威のマッハ33である。

 

ちなみに、遙か上空から自由落下してきた弦十郎は、何事もなかったかのように両足で地上に着地し、作戦を見守っていたメンバー全員をドン引きさせている。

 

常識的に考えれば、並の人間より頑丈な自動人形であっても粉微塵に吹き飛ぶ衝撃だ。

 

それを防いだのが、虎の子の聖遺物『アイアスの盾』の欠片を利用した特殊装備『A.I.A.S.(Advanced Impact Absorbing System)』である。これは了子、キャロル、エルフナイン、ナスターシャ、さらにはドクター・ウェルまで加わった天才たちの合作ショックアブソーバーであり、かつてキャロルたちがパヴァリア光明結社からこっそり徴収してきた代物だった。これによって、ガリィたちにかかる致死の負担や周囲に広がる被害を大幅に軽減された。

 

弦十郎による投擲直後、レイアが前面に円錐状の金属を展開し、ガリィがその周囲を分厚い氷で覆い尽くして大気摩擦を相殺する。

 

かくして速度を維持したまま大気圏を突破した彼女たちは、一直線に月へと向かった。宇宙に向かって逆流する謎の流星が、地上でちょっとしたニュースを騒がせたのは言うまでもない。

 

衝撃をアイアスで受けながら月に激突同然で降り立った二人は、すぐさま現在地の座標を固定。これにより、テレポートジェムを用いた地球との安全な空間跳躍の道が確立された。

 

その後、偶に地球に帰還する以外は月で探索。その結果、とあるクレーターの地下に大型建造施設があることを突き止めた彼女たちは、付近に座標を打ち込んでから無事に帰還したのである。

 

 

 

色々あったが、ひととおり話しきった最後に、神妙な面持ちのサンジェルマンが切り出したのは、自らの誇りと引き換えにした重い『取引』の提案だった。

 

「……新城優斗。先程、私を喫茶店に誘ってくれたな。だがその前に、お前に一つ頼みたいことがある。いや……取引をさせてほしい」

 

冷たい空調音が低く唸る研究室。通信モニターの向こう側で、サンジェルマンは深く居住まいを正した。電子ノイズ越しでも伝わるその眼差しは、数百年を生きる錬金術師としての威厳と、切実な親心が入り交じった悲痛な熱を帯びている。

 

彼女の口から語られたのは、異端の技術によって肉体と魂を歪められ、怪物として生きることを強いられた三人の少女――ヴァネッサたちの治療依頼だった。

 

実はこの場において、彼女たちを人間に戻すための手段が全くないわけではなかった。

 

「オレの錬金術……記憶と経験を転写するホムンクルスの技術を使えば、あいつらの人間の部分のDNAから新たな肉体を創り出すことは可能だ」

「ですがキャロル、それだと……」

「ああ。今の、あいつら自身の身体を完全に捨てることになる。聞いた所、中々いじられているらしいじゃないか。もしそうなら、100%完全な肉体にはならないだろう。それが最大のデメリットだ」

 

錬金術による魂の定着はキャロル自身が証明しているが、生まれ持った肉体を破棄する上、完全で、普通の人間の体ならないかもしれないという、人間に戻って生きたいと願う彼女たちにとって残酷な二者択一だった。

 

冷たい作戦室に、キャロルの感情を押し殺した声が落ちる。それに続くように、背もたれに体重をかけた了子も白衣のポケットに手を入れたまま、別の視点から言葉を紡いだ。

 

「S.O.N.G.の頭脳を結集する手もあるわ。私の先史文明の知識、ナスターシャやエルフナインの解析力。そして一部の生命工学やリンカーの技術においては私をも凌ぐ、あのドクター・ウェルを使えば、理論上は治療への道筋は立つはずよ」

「なら、皆の力で治せるんじゃ……」

「問題は時間と確実性よ、優斗くん。完全に人間に戻せる保証はどこにもないし、何年、何十年かかるかも分からないわ」

 

聞こえない筈の潜水艦内に響く低いエンジン音が、重苦しい現実を強調する。科学と錬金術の最高峰をもってしても、彼女たちに刻まれた呪縛を解き放つのは決して容易ではないのだ。

どちらの選択肢も、すぐにでも人間として生きたいと願う彼女たちには残酷すぎる。

 

「……新城優斗。キャロルの技術も、S.O.N.G.の叡智も、今の彼女たちには代償や時間が重すぎるのだ」

 

痛切な響きを孕んだサンジェルマンの声が、金属の壁に囲まれた部屋に落ちる。

 

「お前のその奇跡の料理で、彼女たちを本来の姿に近づけてはくれないだろうか。……むろん、停戦中の合同作戦とはいえ、タダ働きをさせる気はない。結社の幹部として、いや、私個人としても、望む対価を必ず支払おう」

 

生真面目で誇り高いサンジェルマンにとって、優斗の善意に無条件で甘えることは良しとできなかった。それは、対等な関係を築くための彼女なりの誠意でもあった。

 

「当然だ。優斗の力は安売りするもんじゃない。相応の対価はきっちり払ってもらうぞ、サンジェルマン」

「ええ。私たちの大切な優斗くんだもの。これ以上、彼自身をすり減らすような無償の奉仕なんてさせないわ」

 

即座に反応したのは、隣に立つキャロルと了子だった。

 

キャロルは不満げに腕を強く組み、了子も白衣を揺らしてサンジェルマンを鋭く見据える。二人は異なる思いを持っていてたとしても、優斗を誰よりも大切に想っている。だからこそ、彼が都合よく利用されることを絶対に許さなかった。

 

「……苦しむ者を救いたいのは山々だが、これはS.O.N.G.の力ではなく、優斗くん個人の力だ。彼自身の意思を尊重するべきだろうな」

「はい。優斗さんがどう決断しても、私たちはそれを全力でサポートします」

 

一方で、弦十郎とエルフナインは静かに一歩引いた。

 

持ち前の深い善性から、本心では見返りなど求めずに少女たちを救ってやりたいと願っている。しかし、奇跡を起こすのはあくまで優斗であり、その重荷を他人が勝手に背負わせることはできないという、大人としての思慮深さがそこにはあった。

 

全員の視線が、優斗一人に集まる。

 

張り詰めた空気の中、優斗は微かにコーヒーの香りが残る自分の手のひらを見つめ、それから柔らかく微笑んでモニターの向こうのサンジェルマンへと向き直った。

 

「サンジェルマンさん。対価の件ですが……もう、さっきもらいましたよ」

『……何?』

「月への任務が無事に終わったら、皆で一緒にうちの『コモド』へ来てくれるって約束しましたよね。それが、僕の望む対価です」

 

優斗の料理の力は、人を笑顔にするために神様から頂いたもの。金銀財宝や錬金術の秘宝など必要ない。ただ、美味しいご飯を食べて、笑ってくれればそれでいい。

 

「とびきり美味しいご飯を用意して待ってますから、その時に、彼女たち三人も連れてきてください」

「……っ! ああ、感謝する。必ず連れて行こう」

 

優斗の淀みない決断に、キャロルは「お前というやつは……」と呆れたようにため息をつきつつも、その口元はどこか誇らしげに緩んでいた。

 

画面越しのサンジェルマンは、ふっと肩の力を抜き、この日一番の穏やかな微笑みを浮かべた。かつて敵対した彼女の安堵の表情を見て、弦十郎やエルフナインも、温かい眼差しで優斗を見守っていたのである。

 

この温かな約束の成立をもって、会合の最も困難な議題は幕を閉じた。

 

 

 

何事もなく終わった会合の後日。あまりにもスケールの大きな力技を聞かされた優斗は、二人を労うためにコモドの厨房に立っていた。

 

コーヒーの芳醇な焙煎香と、木目調の家具が放つ温もり。つい数日前まで宇宙空間を飛んでいた彼女たちを迎えるには、あまりにも穏やかな日常の匂いだ。

 

優斗が「何かお礼をさせてほしい」と申し出ると、水のオートスコアラーであるガリィは、口元を人差し指で軽く押しながらこう答えた。

 

「では、今度マスターをお連れしますので、私の目の前で『あーん』などをしていただけると、と·て·も、助かりますねぇ」

「えっ、あーん……ですか?」

 

言葉自体は主人の思いを応援する、忠実な従者のそれだ。しかし、ガリィの瞳の奥に宿る色と声のトーンは、純粋な思いやりなどではなく、どう見ても歪んだ喜悦と愉悦に満ち溢れていた。

 

結果として、喫茶コモドの片隅では奇妙な撮影会が開かれることになった。

 

「ほ、ほら優斗。さっさと口を開けろ……っ」

「あ、はい。あーん……」

「クスクス……マスター、とってもいい表情ですよぉ!アッハハ!!もっと赤面してくださいねぇ!」

「ガリィ···ッ!!」

 

危険な作戦を完遂してくれた功労者に怒るに怒れず、羞恥に頬を真っ赤に染めながらも、どこか嬉しそうに優斗に食べさせあうキャロル。その横で、スマートフォンを構えて無慈悲にシャッターを切り続けるガリィ。

 

一体彼女が主のどんな顔を見たいのか、その時の優斗には到底理解できなかった。

 

一方、もう一人の功労者であるレイアからの要望は、極めて簡潔だった。

 

「では、味と見た目が派手な料理をお願いします」

 

淡々としたリクエストに応え、優斗がカウンターに差し出したのは、黄色をベースとしたエキゾチックなスパイスカレーのランチセットだった。

クミンとコリアンダーの刺激的な香りが鼻腔をくすぐり、色鮮やかに素揚げされた夏野菜がSNS映えしそうな艶を放っている。

 

初めて経験するスパイシーな刺激と、彼女の好みである辛味が前面に出たその味を、レイアは無表情ながらもたいそう気に入った様子で平らげていった。

 

そして彼女の隣では、お付き合いで席に座ったキャロルが、辛さに耐えきれず子供向けの甘口カレーを小さなスプーンで一生懸命に頬張っていたのだった。

 

 

 

そして決行日、日本海の上。どんよりとした雲が立ち込める空の下、冷たい荒波がS.O.N.G.潜水艦の白い看板に打ち付けていた。

 

地球から出発するためのテレポートジェムの光に包まれる直前、優斗はもう一つの予期せぬ謝罪を受けていた。

 

今作戦に動向するために、甲板へ姿を見せていたパヴァリア光明結社のプレラーティが、サンジェルマンの後ろから気まずそうに優斗の前に進み出たのだ。

 

「その……新城優斗。以前はお前の身柄を狙って、その···すまなかったワケダ」

「えっと、頭を上げてください、プレラーティちゃん。サンジェルマンさんにも言いましたけど、僕は全然気にしてませんから」

 

潮風に服の裾を揺らす彼女に対し、既に過去の物と飲み込んでいた優斗はあっさりと、そして純粋な笑顔で許しの言葉を紡いだ

 

しかし、問題はその後の呼び方だった。

 

「……プレラーティ、ちゃん?」

「はい。キャロルちゃんと同じくらいの見た目の可愛らしい方ですから、ちゃん付けの方がいいかと思って」

「ぶっ···あはははは! 傑作だなぁ?プレラーティ! 外見相応に子供扱いされているぞ!」

 

無意識のうちに見た目で判断し、パヴァリアどころかカリオストロでもあまり呼ばない呼び方。その、親しみを込めて呼んだ優斗の言葉に、プレラーティは目を丸くして戸惑う。

その横で、キャロルが腹を抱えて盛大に吹き出した。長く生きた錬金術師としての威厳など微塵もない、無邪気な笑い声が波音に混じる。

 

「う、うるさいワケダ! キャロルだって同じ穴のムジナだろうが! 一時期監視していたから知っているぞ!いつも新城優斗に甘やかされて、頭を撫でられてデレデレしているくせに!」

「なっ……!? だ、誰がデレデレしていると! オレはその、優斗の撫で方が悪くないから許容しているだけで……!」

「二人とも本当は仲がいいんじゃないか?」

「「よくない!!」」

 

サンジェルマンに指摘され、反論したあと、顔を真っ赤にして子供のように言い合う二人の少女(中身は数百歳)を、優斗は微笑ましく見守っていた。

 

緊張感の欠片もない、けれど確かに心が通い合った温かい時間。そんな濃密な記憶の数々は――

 

 

   

――現在。無音の真空と、灰色の荒野が広がる月面へと至る。

 

「おい優斗、ぼーっとするな。足元に気をつけろ」

「あ、ごめんねキャロルちゃん。……ちょっと、ここに来るまでのことを思い出していて」

 

地球での濃密な記憶の波から意識を引き戻すと、優斗は宇宙服の分厚い手袋越しに、キャロルに手を引かれながらフワフワと低重力の大地を進んでいた。

周囲には風の音すらなく、ただ自分自身の静かな呼吸音と、通信機越しに聞こえる仲間たちの声だけが存在している。

 

やがて、先頭を進んでいた了子とサンジェルマンの足取りがゆっくりと減速し、それに合わせてキャロルも速度を緩めて、停止。

 

4人の視界の先に広がるのは、無数のクレーターの影に隠されるようにして沈む、巨大で無機質な人工物の輪郭。星の歴史の裏側に隠され続けた、先史文明の遺産だ。

 

「ここに、月の遺跡が……」

 

ヘルメットのバイザー越しに見上げる巨大な金属の扉を前に、優斗は思わず感嘆の息を漏らした。

 

長い準備期間と、数々の力技、そして仲間たちとの絆を経て、優斗たちはついに目的地へと到着したのである。

 

 

 

転生時、ナガルサガクによって優斗に示唆されていたが、月の遺跡には、本来の歴史ならばとうの昔に命を落としているはずの存在が眠っている。

 

かつて人類に言語の混乱をもたらした『バラルの呪詛』の発動者であり、先史文明期のアヌンナキの1人――エンキである。

 

本来の歴史において、彼は同胞であるシェム・ハに致命傷を負わされ、なんとかたどり着いた月でバラルを放った直後に力尽きたとされている。だが、この世界線では違った。

 

彼に回復薬を持たせ、命を辛くも繋ぎ止めさせたアヌンナキがいたのだ。優斗をこの世界へ導いた神、『ナガルサガク』――本名、ニンフルサグである。

 

薬によって致命傷を免れたエンキは、月遺跡内部で治療後、バラルを起動し続けるため、自らの肉体を遺跡の巨大な動力源として捧げ、深い眠りについた。

 

しかしその意識だけは制御コンピューターの一部として、数千年の間ずっと覚醒し続け、氷のように冷たい月面から、愛する人類の歩みを孤独に見守り続けていたのである。

 

そして今。永きにわたる沈黙の中で、エンキの意識が遺跡に近づく小さな影たちを感知した。

正確には、その内の一人――新城優斗の魂に宿る、同胞ナガルサガクの懐かしく強大な力の残滓に反応したのだ。

 

「……? な、なんだこれ」

 

静寂の月面で、不意に優斗が足元を見下ろして声を上げた。

 

月の砂の上に、突如として淡い翠色の光が浮かび上がったからだ。それは優斗の宇宙服の分厚いブーツを中心に広がり、瞬く間に幾何学的な紋様を描く巨大な円陣へと変貌していく。

 

「優斗ッ! 動くな、それはおそらく空間転移の陣だ!」

「間違いない! 遺跡の内部から強制アクセスがかかったワケダ!」

「優斗くんを中心に出たということは···やはり、私の仮説は正しかったみたいね!」

 

危険を察知したキャロルが鋭く叫び、プレラーティと了子が一瞬でその現象の正体を看破する。

 

「やっと、やっと会えるのね······エンキ」

 

先史文明の巫女としての記憶を持つ了子の声には、数千年の時を経てついに『彼』の手がかりに触れたという、隠しきれない歓喜と焦燥が入り混じっていた。

 

「えっ!? ちょっと、みんな……!」

「新城優斗だけを連れ去らせるものか! 行くぞ!」

 

優斗の焦る声を掻き消すように、円陣の光が急激に高度と輝きを増していく。

 

事態を即座に理解したサンジェルマンが地を蹴り、続いてキャロル達も躊躇うことなく、光の柱に包まれかけた優斗の周囲へと飛び込んだ。彼女たちが優斗の腕や肩を強く掴み、離すまいと抱き寄せた瞬間、視界が強烈な翠の閃光に完全に飲み込まれた。

 

重力がふっと消失し、三半規管がぐらりと揺れるような強烈な浮遊感。

 

鼓膜の奥でキーンという高い耳鳴りが響き、次の瞬間には、宇宙服を隔てていても分かるほど、周囲の空気が「真空」から「酸素のある密閉空間」へと劇的に変わっていた。

 

「うわっ……!?」

「……どうやら、皆、無事に着いたようだな」

 

眩い光が収まり、優斗が恐る恐る目を開ける。

サンジェルマンの冷静な声が、ヘルメットの通信機越しではなく、肉声として直接空気を震わせて耳に届いた。

 

彼らが立っていたのは、もはやクレーターの広がる荒涼とした宇宙空間ではない。

 

肺を満たすのは、数千年ぶりに循環を取り戻した清浄な空気の匂い。周囲を見渡せば、冷たい金属の壁面と、淡く明滅する無数の光が血液の様に流れているに壁に囲まれた巨大なドーム状の空間が広がっている。

 

そこは間違いなく、エンキが眠る月の遺跡の内部であった。

 

 

 




実際マッハ33で投げると最低でも上空100キロ以上でないと災害が出る、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A

Q、サンジェルマンが優斗にヴァネッサ達の治療を依頼したこと、当のヴァネッサ達本人は知っているのでしょうか?
A、彼女たちには一切秘密にしています。万が一、治せなかった場合、ぬか喜びさせた彼女たちが深く傷ついてしまうことをサンジェルマンが恐れたからです

Q、この作戦は誰の発案?
A、強いて言えば弦十郎本人。了子達があれこれ発案を練っていた時に、案外投げて届くかもしれない的な発言をしてしまい、冗談で耐熱素材を投げてみた所、軽い投擲で初っ端からオゾン層まで簡単に届いてしまったため、決定された。あの時言わなければよかったと弦十郎はコメントしている。

Q、A.I.A.S.(Advanced Impact Absorbing System)って何?
A、Geminiが無理なくガリィ達を月送るため考えたオリジナル聖遺物を使った特殊装備。ガリィ達のエネルギーで機動する。エネルギーは優斗の料理を食べて確保。その効果は多層空間装甲を展開することであらゆる物理法則から身を守る絶対防御。

そのシステムは、背後に7つの「事象の地平線」を擬似的に展開する。

第1〜3層(外殻部):高周波空間偏析
第2投擲者の震脚による物理的な熱と音、そして「空間の歪み」そのものをバラバラの位相に分解します。ここでは、大気がプラズマ化し、青白い放電現象が起こります。

第4〜6層(中間部):質量等価変換層
分解された衝撃エネルギーを、一時的に「仮想質量」へと変換。投擲の反動を、ガリィたちを押し出すための「重力波」へと書き換えます。

第7層(最終防壁):『テラモンの誓い』
聖遺物の真名を解放する層。この層だけは科学で制御不能な「絶対不可侵領域」であり、ヘクトールの槍(=宇宙速度への加速衝撃)を無効化し、ガリィ達を優しく、しかし強烈に月へと押し出します。

とのこと。


この作品で一番扱いに困っているアダムの扱いですが、3つ程案があって悩んでいます。なのでここでアンケートを取ります。1つは消えてしまったプロットに元々あった物。2つ目は今の流れが続いた物。ナレーション裏でアダムが負けます。3つ目は完全悪乗り、でも作者が苦手なギャグになる、かも。

  • ハンサムのアダムは裏切りに気づく
  • またしても何も知らないアダムさん
  • お兄ちゃんだよ、僕は、どきたまえ
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