ハッピーエンドに向かうには   作:内海空洞

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今回、意図して書いた結果のキャラ崩壊があります。短くも熟成された乙女心をご堪能ください。

シンフォギアXDは最後にちょろっとやったぐらいなので、エンキはアニメ描写でわかる所以外オリジナルが多いです。

03/14、一部サイレント修整しました。


復興の足跡、再会の胸焼け

 

バルベルデでの一連の騒動は、国を裏から荒らしていた大統領および政府高官たちの『電撃逮捕』という、これ以上ないほど劇的な形で終止符を打たれた。

 

今後は国連の厳しい監視下に置かれることになるバルベルデだが、パヴァリア結社という後ろ暗い取引をしていた盾を失い、腐敗の元凶が取り除かれたこの国は、少なくとも以前よりは遥かに平和な道を歩んでいくだろう。

 

そんな折、S.O.N.G.本部から彼女たちにとって最高の朗報が舞い込む。

月面調査に向かっていた優斗たちが、無事に地球へと帰還したという一報だった。

 

「優斗が帰ってきた……っ!」

「やったぁ! これでやっとコモドでゆっくりできるデス!」

「なあ翼、キャロルも無事何だろ?様子は聞いてるか?」

「ええ、怪我一つないみたい…でも聞いたら、疲れているだろうから休ませてほしいって」

「あと、本部に途中参加のパヴァリアの皆さんも一緒みたいですね」

「司令の話とカリオストロの言っていた事から推測すると……多分その人がサンジェルマンかしら?」

「挨拶したほうがいいかな?」

「色々世話になったんだ、しとこうぜ。それに、あのねーちゃんがあんなに情熱的に語ってたんだ、一度あって見たいぜ」

 

帰る場所で会いたい人が待っている。その事実に装者たち全員が顔を見合わせて喜び、賑やかに騒ぐ。話している内に今すぐにでも日本へと飛んで帰りたい衝動に駆られた。

 

だが——周囲を見渡せば、まだまだバルベルデの市街地は空中戦艦の一部の墜落や内戦での激戦の余波でひどく損傷しており、復興のための重機の数も圧倒的に足りていない現状があった。

 

優斗達に早く会いたい。けれど、目の前で困っている人たちを見捨てることなんて、彼女たちにできるはずがない。

 

「……おっさん」

 

インカム越しに、奏が少しだけ真面目な声色で通信を入れる。

 

「優斗が帰ってきたのはすげぇ嬉しいし、今すぐ飛んで帰りたいところなんだけどよ」

「この街の惨状を見過ごして帰るわけにはいかないわ。……司令、我々にもう少しだけ、この地に留まる許可を頂けないだろうか」

 

奏の言葉を引き継ぎ、人を守る防人として切り替えた翼が真っ直ぐな視線で、瓦礫の山を見つめながら進言した。

それに同調するように、クリスもインカムの先の弦十郎に提案した。

 

「重機が足りねぇなら、あたしらの出番だろ。ギアの力があれば、あんな瓦礫の山、あっちゅうまに片付けてやれる。……頼む、手伝わせてくれ」

 

早く帰りたいという本音をぐっと抑え込み、自らの意思で誰かのために力を使うことを選んだ彼女たち。

その優しさと精神的な成長に、通信の向こうにいる弦十郎は、目を細めて深く、温かく頷いた。

 

『……ああ、無論だ。お前たちのその優しい心を、俺が止める理由などない。S.O.N.G.全部隊に対し、バルベルデの復興支援活動を許可する!』

「「「了解!!」」」

『ただし、絶対に無理だけはするなよ!』

 

弦十郎の力強い許可の声を受け、装者たちの表情がパッと明るくなる。

 

「よーし! そうと決まれば、さっさとこの街を綺麗にして、優斗さんの待つ日本に帰るデスよーッ!」

「切ちゃん、気合い入りすぎだよ。でも、私も頑張る」

 

元気よく跳ねる切歌とむん、と力を込める調が真っ先に駆け出し、他のメンバーもそれに続く。

 

常人離れしたシンフォギアのパワーを全開にした彼女たちは、重機以上の働きで瓦礫の撤去や物資の運搬といった復興支援作業を、全力で手伝うのだった。

 

一方、交渉を成立させた後のカリオストロは「あーしは一旦パヴァリアに戻って、お引越しの荷物をまとめてから行くわ!サンジェルマンよろしくっ」と軽くウインクを残し、一足先にいずこかへと姿を消していた。

 

——そして、バルベルデでの激闘から復興支援に従事していき、日付が進み続けて二日後。

 

この戦いは一人の少女の心を長く縛り付けていた呪縛を解き放った。

 

「ソーニャ! ステファン!バルベルデが落ち着いたら、絶対に日本に遊びに来いよな! あたしが美味いもん、腹いっぱい食わせてやるし、色々と遊びに連れて行くからさ!」

「ええ、約束するわ。……ありがとう、クリス」

「クリス!そっちに行ったらサッカー、一緒に出来るかな!」

「任せろっ!アタシ以外、体を動かすのが得意なバカばっかが多いからな。沢山できるさ」

 

過去のトラウマに蹴りをつけ、精神的にも吹っ切れて見違えるほど明るくなったクリスは、その後瓦礫の撤去作業の合間に、ソーニャとステファンと『日本での再会』を固く約束していた。

 

「じゃあな! 絶対に来いよ!」

「来たら、アタシ達の特別ライブでもてなしてやるよ」

 

ここ二日ですっかりソーニャたちと歌ったりして、仲良くなった奏たちも、笑顔で別れを告げてエアキャリアに乗り込み、ようやくバルベルデの地を飛び立った。

 

帰路は緊急時ではないため、魔改造されたスピードではなく、常識的な巡航速度まで落としていた。それでも数時間後には目標の合流地点へと到達する。

 

彼女たちが向かったのは日本の陸地ではなく、太平洋上の指定座標——彼女たちを出迎えるために海面上へと浮上していたS.O.N.G.の移動本部、超弩級潜水艦の広い甲板の上だった。

 

「んぅーっ、バルベルデの気候も心地よかったけど、潮風も悪くはないよな」

 

甲板に降り立ち、大きく伸びをする奏。

七人の装者を無事に送り届けたエアキャリアは、そのまま本来の所属である日本政府の基地へと返却されるべく、再び空へと飛び去っていった。

 

「まずは、おっさんに直接報告だな。行こうぜ」

 

奏の号令で、七人は揃って潜水艦の内部へと降りていき、真っ直ぐに弦十郎の待つ司令室へと向かった。

 

しかし、自動ドアが開いて司令室に足を踏み入れた瞬間。

 

野生の勘とも言える鋭い直感を持つ奏が、ピタリと足を止めて眉をひそめた。

 

「……ん? なんだ、この空気」

 

それは、なんとも言えない奇妙な気まずさだった。

激戦を終えた装者たちを出迎えるにしては、オペレーターの藤尭や友里の視線がどこか虚ろで、弦十郎でさえも微妙に疲れたような、何とも言えない遠い目をしているのだ。

 

例えるなら『触れてはいけない、誰かのイチャイチャをうっかり直視してしまった』ような、重く気まずい空気が司令室全体にどんよりと漂っていた。

 

「司令、ただいま帰還しました。……なにかあったのですか? みなさん、変な顔してますけど」

「お、おお……ご苦労だったな。バルベルデでの君たちの活躍と支援、見事だったぞ。……いや、こっちは気にするな。ちょっと、特大のお土産にあてられただけだ」

 

セレナの訝しげな問いに、弦十郎は誤魔化すように咳払いを一つして、力強く頷いた。

 

「報告は後でゆっくり聞こう。それより、優斗くんだが、キャロルくん達と一緒に家からわざわざ、テレポートジェムで来てもらってな、今はここの艦内の食堂で休んでもらっている」

 

その一言が出た瞬間、司令室の気まずい空気など装者たちには一瞬でどうでもよくなったらしい。

 

「えっ!? 食堂にいるってことは……もしかして、今から優斗さんのご飯が食べられるってことデース!?」

「バルベルデでソーニャさんに食べさせてもらったのに、もうお腹好いてるの?」

「それとこれとは、別腹デス!」

 

切歌の瞳が、まるで希望の星のようにキラッキラと輝き始めた。

 

「ばっ、食い気ばっかじゃねぇかお前は! ……と、とにかく、顔くらいは出してやらねぇと寂しがるかもしれないからな! さっさと行くぞ、ほら!」

 

誰よりもそわそわと落ち着きをなくしたクリスが、真っ赤になった顔を誤魔化すように早口でまくしたてると、心なしか……いや、明らかに小走りのような早足で、食堂へと続く艦内の廊下を先陣切って歩き出した。

 

足早に食堂へと向かうクリスを先頭に、装者たちは優斗の温かいご飯と労いの言葉を期待して、ウキウキとした足取りで廊下を進んでいく。

 

「よし、着いたっ!……は?」

 

勢いよく食堂の自動ドアを開け、真っ先に中に飛び込もうとしたクリスだったが――その直後、彼女の足はまるで床に縫い付けられたかのようにピタリと止まった。

 

「ぷぎゅっ!?」

 

急停車したクリスの背中に、後ろを歩いていた調が顔面から勢いよく衝突する。

 

「い、痛い……クリスさん、急に止まって、何がありました?」

「ちょっとクリス、どうしたのよ急に。……って、えっ?」

 

鼻を押さえる調の横からひょっこりと顔を出したマリアが、不思議そうにクリスの視線の先を追う。

だが、その光景を目にした瞬間、マリアもまたカッと目を見開き、文字通り石像のように固まってしまった。

 

「おいおい、入り口を塞がれたら入れねぇだろ。何見て……」

 

呆れたように奏が声をかけるが、クリスとマリアは無言のまま。ただプルプルと小刻みに震える手で、食堂の奥にある一つのテーブルを指さした。

その異様な反応に、翼や切歌、セレナも顔を見合わせ、恐る恐る二人の指さす方向へと視線を向ける。

 

そして、全員がその『強烈すぎる光景』に唖然と口を開け、思考を停止させた。

 

「んふふ〜っ♡ はい、エンキ。あーんして? あーーん♡」

「あ、ああ……すまないな、フィーネ。……うん、美味しいよ」

 

食堂のテーブル席。

そこにいたのは、かつて世界を裏から操っていた魔女であり、今はS.O.N.G.の技術主任である櫻井了子の姿のフィーネと、青い髪にカジュアルなスーツを着た見知らぬ青年――エンキだった。

 

かつて戦った名残なのだろう。エンキの片腕は失われて、袖が重力で垂れ下がっていたが、残されたもう片方の腕に了子がこれでもかと言うほどべったりと抱きつき、全体重を預けている。

 

その顔は完全に蕩けきっており、普段の飄々とした大人の女性の面影など微塵もない。鼓膜が溶けそうなほど甘ったるい猫撫で声で、エンキにすり寄っていた。

 

テーブルの上に置かれているのは、優斗が焼いたであろうフワフワのパンケーキ。

 

だが、なぜかフォークは『一つ』しか用意されておらず、了子がそれを器用に使ってエンキの口へと運んでいるのだ。

 

「口の端、クリームついてるわよぉ? もう、しょうがないわねぇ♡」

「あ、いや、自分で拭け……」

「だーめ♡ んっ……ふふっ、甘いわね♡」

 

数千年の孤独と離れ離れだった時間を埋め合わせるかのように、周囲の目など一切気にせずイチャイチャ空間を展開する二人。エンキもタジタジになりながらも、その瞳には深い慈愛が宿っており、結局は彼女の甘えをすべて受け止めてしまっている。

 

そして、厨房のカウンターの奥では、エプロン姿の優斗が「いやぁ、仲が良いって素晴らしいですね」とでも言いたげな、すっかり慣れきった微笑ましい表情で二人を見守っていた。

 

「………………」

「………………」

 

入り口で固まる七人の装者たち。

おちゃらけることはあっても、基本的には『デキる大人の女性』であり、時には冷酷な顔すら見せてきたあの了子が、まるで周囲が見えなくなった中学生のバカップルのような真ん丸なピンク色のオーラを放っている。

 

あまりのギャップに、特に付き合いの長い奏と翼は、顎が床に付きそうなほど口を開けて硬直していた。

 

「あ、あれ……本当に、あの了子さん……か……?」

「幻術だ……これは敵の、精神攻撃に違いない……ッ!」

 

現実逃避を始める翼の横で、誰よりも深刻なダメージを受けていたのは、他でもないクリスだった。

 

かつて両親を失った彼女を拾い、利用するためとはいえ一時期は一緒に暮らし、恐怖と畏敬の対象でもあった保護者的な存在。そんな『母の様な、姉の様な』存在の、致死量の甘さを誇るイチャイチャ劇を真正面から浴びてしまったのだ。

 

「う……うそだろ……」

 

クリスの顔から、スーッと血の気が引いていく。

 

「あんなの……あんなの、あたしの知ってるフィーネじゃねぇええええええッ!?」

 

食堂中に響き渡ったクリスの悲鳴めいたツッコミが、バルベルデから帰還したS.O.N.G.本部に、平和すぎる日常の始まりを告げたのだった。

 

 

 

数分前まで胸に抱いていた「優斗に早く会いたい!」という健気な喜びなど、あまりにも衝撃的な光景の前では宇宙の彼方へ吹き飛んでしまった。

 

「お、おい優斗! 一体どうなってんだよアレ!!」

 

クリスはズンズンと足音を立てて厨房のカウンターに歩み寄ると、バンッ!と身を乗り出して優斗に詰め寄った。

 

「月で何があったら、あんなポンコツ甘々バカップルに成り下がるんだよ!? 幻覚か!? それとも洗脳でもされてんのか!?ああいうことは家でやれよ!!」

 

顔を真っ赤にして(半分は共感性羞恥、半分は混乱で)必死に抗議するクリス。だが、カウンターの奥に立つ優斗は、フライパンを動かす手を止めることなく、どこまでもマイペースで穏やかだった。

 

「おかえり、クリスちゃん。それに奏ちゃんたちも。バルベルデでの任務と復興支援、本当にお疲れ様。すごく活躍したらしいね」

「っ……た、ただいま…じゃなくて! 誤魔化すな!」

 

いつものエプロン姿でふんわりと微笑む優斗に、クリスは一瞬で調子を狂わされ、ついついただいまと返しそうになってしまう。

 

「あはは、ごめんごめん。詳しい事情は、もう少しだけ待っててくれるかな」

 

優斗は火を止め、パンケーキをひっくり返したヘラを置きながらチラリと食堂の入り口に視線をやった。

 

「今、キャロルちゃんがエルフナインちゃんを呼びに行ってるんだ。あの二人が戻ってきたら、ちゃんと最初から説明するって約束するからさ」

 

それを聞いて、呆れ果てた顔の奏や翼たちも「……ま、おやっさんも『報告は後で』って言ってたしな」と、ようやくため息をついて肩の力を抜いた。

 

「とりあえず、みんなお腹空いてるでしょ? パンケーキの生地がまだあるし、何かサッと作ろうか?」

 

優斗が気遣わしげに尋ねる。

いつもなら、その言葉を聞いた瞬間に「食べるデスーッ!」と目を輝かせて飛びつくはずの切歌。しかし、彼女はスッと遠い目をしながら、チラリと後ろのテーブル席――いまだに『ねぇもっと食べてぇ♡』『ああ。……フィーネもどうだ?』『ええ♡』と続けている、致死量の砂糖空間――へと視線をやった。

 

「……切ちゃん?」

 

心配そうに覗き込む調に対し、切歌はどこか悟りを開いたような、虚無の表情でフルフルと首を横に振った。

 

「……いや、さっきまではお腹ペコペコだったはずなんデスけど。なんだかアレを見てたら、胸焼けというか……謎の『お腹いっぱい感』が凄いので、今は遠慮しておくデス……」

「わかる。胃もたれしそう」

 

マリアやセレナも、切歌の言葉に深く、深く頷いている。

 

「あはは……。まあ、確かに見ているだけで『ごちそうさま』って感じだよね」

 

切歌の正直すぎるリアクションに、優斗も苦笑いを浮かべて頬を掻くしかなかった。

 

マリアはふと、先ほど司令室で聞いたばかりの通信内容を思い出し、厨房にいる優斗に尋ねた。

 

「そういえば、ここにサンジェルマンという人物も来ているのよね? 姿が見えないけれど……」

「うん。あっちの奥の席にいるよ。でも……今は少し、そっとしておいてあげた方が良いかもしれない」

 

優斗は焼き上がったばかりのフワフワのパンケーキに、四角いバターとたっぷりのメープルシロップをとろりと垂らしながら、食堂の隅のテーブルを静かに顎で示した。

 

マリアたちがそちらへ視線を向けると、確かにそこには、S.O.N.G.の職員ではない見慣れない二人の姿があった。

 

一人は、長髪を優雅な縦ロールで揃えた、凛々しくも美しい男装の麗人。そしてもう一人は、小柄で黒髪のメガネをかけた少女だ。手元には可愛らしいカエルのぬいぐるみがある。

 

優斗は出来立てのパンケーキが乗った皿を二枚お盆に乗せると、厨房を出てそのテーブルへと歩いていく。

 

「お待たせ。甘いものでも食べて、少し休んでね」

「おおっ、サンキュなワケダ! すっごくいい匂い!」

 

目の前に置かれたパンケーキを見て、メガネの少女――プレラーティがパッと顔を輝かせて礼を言う。

 

しかし、その対面に座る男装の麗人――サンジェルマンは、まるでこの世の終わりのような、背中にどす黒いオーラが見えそうなくらいの激しい落ち込みようを見せていた。

 

「……すまない」

 

優斗の気遣いに対し、サンジェルマンは消え入りそうな声でなんとか返事をするのが精一杯だった。

 

そんな彼女を元気づけようと、プレラーティは早速フォークでパンケーキを切り分け、パクリと口に運ぶ。

 

「んんっ、美味い! ほら、サンジェルマン。これ食べて元気を出すワケダ! カリオストロも、お前がそんなに落ち込んでたら悲しむぞ?」

「ああ…」

 

励ますように声をかけるプレラーティを背に、優斗は空いたお盆を持ってクリスたちの前へと戻ってきた。

 

「あ、あの人……なんであんなに落ち込んでるの?」

 

見るからに只事ではない様子のサンジェルマンに、マリアが思わずヒソヒソ声で優斗に問いかける。

 

ちょうどその時だった。食堂の自動ドアが開き、エルフナインを連れたキャロルが足早に入ってきた。

 

「ようやく帰って来たか。思っていたより遅かったが…まあいい、こいつらの事については、今から私が順を追って説明してやる。全員、適当な席に座って集まれ」

 

キャロルがパンッと一つ手を叩き、全員の注目を集める。

マリアやクリスたちが素直に移動する中、優斗は困ったように頬を掻きながら、未だにピンク色のオーラを放ち続けている『あのテーブル』を指さした。

 

「えっと……あの二人は、どうする?」

「放っておきたいのは山々だが、あんなポンコツでも今回の事態の当事者だからな」

 

キャロルは深々と重いため息を吐くと、ズカズカと遠慮のない足取りで、エンキにべったりと張り付いている了子の背後へと近づいていく。

 

「んふふ〜♡ ねえエンキ、次は私があーんしてあげるから、お口あけて?」

「いい加減にしろ、この色ボケッ!!」

 

了子の無防備な後ろ姿に、キャロルが腰にひねりが入った蹴りを繰り出した。

 

「あべぼぁっ!?」

 

情け容赦のないキャロルの蹴りが、了子の無防備なお尻にクリーンヒット。

 

数千年ぶりの愛に浸りきっていた了子は、カエルのような無様な悲鳴を上げて真上に吹っ飛び、テーブルに突っ伏す。

 

「い、痛ぁっ!? な、なによ急に! 邪魔しないでちょうだい!」

「さっさと現実に帰ってこい! お前らがイチャついてる間に、こっちはS.O.N.G.の連中に月での報告をしなきゃならんのだ! お前も甘やかしてないでこっちに座らせろ!」

「す、すまない」

 

涙目で抗議する了子の首根っこを掴み、キャロルが強引に引きずっていく。エンキも苦笑いしながら立ち上がり、ぞろぞろと全員が一つの中央テーブルへと集まった。

 

 

 

キャロルの勇ましい号令の後、集まった者はそれぞれの席に座ろうとした。借りたキッチンの片付けを終えて、こちらに歩いてきた優斗の隣の席を、キャロルが誰よりも早くちゃっかりと陣取った。

 

するとすかさず、持ち前の圧倒的な反射神経を活かし、奏が目にも止まらぬ速さで優斗の反対側の隣席へと滑り込む。

 

「よっしゃ、確保」

「くっ、不覚……ッ! 出遅れたわ!」

 

なぜかギリッとハンカチを噛むような顔で悔しがるマリア。その様子を猫のような表情で、にまり。と笑う奏。

 

そんな謎の敗北感に打ちひしがれる姉を尻目に、今度は優斗の真正面という特等席に、スルリとセレナが腰を下ろした。ニコニコと満面の笑みを浮かべている。

 

「えっ……セ、セレナ……?」

「ふふっ。……マリア姉さん。こういう席取りは、早い者勝ちですよ?」

 

小首を傾げ、悪戯っぽくウィンクを添えて微笑む妹。

普段は誰よりも優しく控えめな妹が見せた、まさかのちゃっかり下克上に、マリアは雷に打たれたように目を見開いた。

 

「セレナァッ!?」

 

妹の成長と抜け駆けにショックを受けて崩れ落ちるマリア。その周囲でクリスは冷やかす。

 

「マリアの奴も変わらずポンコツだなぁ」

「クリスさんも人のこと言えないデス」

「うんうん」

「何だと、コラッ!?」

 

賑やかな騒ぎの横を、プレラーティに手を引かれたサンジェルマンがゆっくりと近づいてきた。

 

「まったく、S.O.N.G.の連中はどこもかしこも賑やかしなワケダ。……サンジェルマン、無理なようなら紹介くらい私がしておくが?」

 

プレラーティが、心配そうに見上げながら声をかける。

 

これから話す月での出来事と、カリオストロたちが自分を護るために危険を犯してまで、裏切りという泥を被った事実。

 

ただでさえ理想に殉し、自身が憎むべき犠牲を黙認してまでやり続けた仕事に加え、生来から来る真面目さ故に、気に休まらない生き方をし続けたあげく、恩も多少あるがめんどくさい上司アダム長年付き合い続けて溜まっていたフラストレーション。

 

今のサンジェルマンは、まるで燃え尽き症候群にかかったようにひどく無気力なオーラを漂わせていた。

 

「……いや、大丈夫だ」

 

それでも、サンジェルマンは小さく首を横に振る。

目の前のテーブルで繰り広げられる騒がしくも温かい日常の光景を見つめながら、彼女はギュッと拳を握り直した。

 

「カリオストロたちにここまでお膳立てされた挙句、ただの紹介程度で甘えるわけにはいかないわ。……私が、やらなければ」

「サンジェルマン……」

 

痛ましそうに眉を下げるプレラーティ。

 

己の不甲斐なさに打ちひしがれながらも、生真面目で誇り高い錬金術師は、仲間たちの想いに対してただ『おんぶに抱っこ』で甘え腐る気は毛頭なかった。プレラーティとしては、どんどん甘えてほしいのだが。

 

彼女は一つ深く深呼吸をすると、居住まいを正してテーブルの一角へと歩み寄る。

 

「さて……席についたな。…いい加減にそのだらしない顔を引っ込めろ!」

「はいはい、わかってるわよぉ……痛いわねぇ、もう」

 

キャロルに鋭く睨まれ、了子が渋々、本当に渋々といった様子でエンキから腕を離し、咳払いを一つしてS.O.N.G.の技術主任としての顔を取り繕う。

 

全員が席につき、ようやく食堂に少しだけ真面目な空気が戻った。

席取りのドタバタが少し落ち着き、全員の視線が自然と見慣れない顔ぶれへと集まった。

 

先日のカリオストロとの交渉で「特大の手土産」と共に投降を申し出てきた、パヴァリア光明結社の錬金術師たち。そして、S.O.N.G.の技術主任である了子を完全に骨抜きにしている謎の青年。

 

キャロルが促すまでもなく、サンジェルマンはゆっくりと居住まいを正した。

 

その顔には深い疲労と、どこか虚無にも似た燃え尽きたような影が落ちていたが、それでも彼女は仲間の想いを無駄にすまいと、気力を振り絞って静かに口を開く。

 

「……まずは、素性を明かすべきだな。私はサンジェルマン。パヴァリア光明結社で錬金術師をしていた者だ。もっとも、今は組織を離反し、己の愚かさを知った……ただの敗残兵に過ぎないが」

 

自嘲気味に目を伏せる彼女の痛々しい姿に、翼や奏は僅かに眉をひそめた。カリオストロが口にしていた時から予想していた『愛されるリーダー』という言葉からは想像もつかないほど、今の彼女の背中は小さく、そして脆く見えたからだ。

 

そんなサンジェルマンを庇うように、隣に座る小柄な少女が勢いよく身を乗り出した。

 

「私の名はプレラーティ。 サンジェルマンと同じ錬金術師だったワケダ。……まあ、今は局長のアダムに見切りをつけて、カリオストロと一緒にこっちに寝返った身だから、とりあえずよろしく頼むワケダ」

 

優しくサンジェルマンの肩を叩きながらするプレラーティの自己紹介に、奏が「なるほどな」と腕を組んで頷く。

 

「オペラハウスにいたカリオストロの姉ちゃんが言ってた『共犯者』ってのは、アンタのことか。……しかし、敵対していた幹部のお出ましにしては、随分と大人しいもんだな」

「……まあ、色々あったワケダ」

 

プレラーティが苦い表情をしながら言葉を濁すと、今度はテーブルの奥――未だに少しピンク色のオーラを放ち続けている二人組へと全員の視線が移った。

 

「その、初めましてになるな」

 

了子に腕をガッチリとホールドされたまま、青髪の青年が少し困ったように、けれどひどく穏やかな微笑みを浮かべて軽く会釈をした。

 

「僕の名はエンキ。かつて君たちが『カストディアン』、あるいは『アヌンナキ』と呼んでいる者の……生き残り、のようなものだ。優斗たちの尽力で、こうして再び地球の土を踏むことができた」

「んふふ〜っ、 私の愛しのエンキよぉ! 月の遺跡でずぅっと私を待っていてくれたの! 素敵でしょ? かっこいいでしょ!?」

「あ、ああ、フィーネ。済まないが少し落ち着いてほしいのだが…」

「生き残りとはどういうことですか?了子さん、彼は一体何者なんです?」

 

翼も訝しげに眉をひそめて尋ねる。

 

「知らないのも仕方ないわ。エンキはね……この地球上の人類を設計して創り出した、正真正銘の『神様』の内の一人なのよ」

「「「…………は?」」」

 

アヌンナキ――それは、遥か数千年以上も昔、先史文明期に地球へと飛来し、人類という種を創造したとされる高次存在。

 

かつてフィーネが心から愛し、彼を追うために『バラルの呪詛』に抗い、月の破壊という狂気にまで手を染めた原因そのものである。

 

彼らはいわゆる人類の『創造主』であり、エンキはそのアヌンナキの一員でありながら、叛逆した同胞から人類とフィーネを護ろうとした、文字通りの神のごとき存在だった。

 

「よく考えたら、アヌンナキとかの言葉は聞いていたけど、その意味までは詳しく知らなかったっけ」

「つまり……私たちのご先祖様を作った、とんでもなく凄い人ってこと?」

「ええっ、神様デスか!?見た目はふつーの人にしか見えないデス!」

「っつーか、フィーネをなんとかしろ! いーからかんな事ばっかりで見てるこっちの胃がもたれる!!」

 

エンキの衝撃的な正体への驚きよりも、またデレデレとすり寄る了子の破壊力があまりにも強すぎて、クリスが再び顔を引きつらせて絶叫する。

 

「……とまあ、これが今回月から連れ帰ってきたメンバーだ。こいつの色ボケ具合はともかく、信じられないだろうがエンキの正体については事実だ」

 

頭を抱える装者たちを前に、キャロルがやれやれとため息をつきながら話を初めた。

 

 




本話にぶち込む技量がない作者のQ&A


Q、シンフォギアを復興で使っても良かったの?
A、原作よりシンフォギアは戦闘よりかは、こうした災害や人為的被害鎮圧や復興での行動が多く、国際的にもシンフォギアのオーバースペックな戦闘力は、世間的に知られていない所もあって危険視される事はほぼないです。見た目も相まって、ギアを纏った活動は好意的に見られています。
ちなみにスペックを知りたかったら、放映中の「戦姫絶唱シンフォギアGX(特撮、一部ノンフィクション)」を見たほうが早いです。キャロルから聞いた獅子機をモチーフした怪人(弦十郎in)の戦闘は必見です。

Q、二日経っているのに、弦十郎達は慣れないの?
A、実は日に日にいちゃつきがパワーアップしていました。

Q、エンキはフィーネを咎めなかったの?
A、月の遺跡からエンキは今までのフィーネをずっと見ていた、とだけ。向ける感情はフィーネだけではないのです。

アダムについてにアンケートを打ち切りました。本編はかっこよくないアダムルートに移行しました。むしろこの状況で裏切りに気づいたら、それはアダムじゃないな。

最初期プロットの、仲良くなった優斗がティキへと手料理を教えて、ティキの味付けを好むようになったり、色々あって成長したティキの無償の愛を感じ始めた時に、ピンチのアダムを庇って傷ついたティキ。最後に恋じゃなく、ティキの愛の言葉に覚醒するアダムは何処にいったのだろう

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