ハッピーエンドに向かうには   作:内海空洞

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皆様から評価をつけて頂いた結果なんと!評価バーに色が付きました!やった!

これも皆様がこの作品を貴重な時間を割いて、読んでいただいたからに他なりません。これからもどうか優斗くん達の向かう道を見届けてください。



まあ下世話な話ですけど、評価に色がついただけで読者が増えたような気がします。色の力ってすごい。


私だって特別になりたい

 

昼下がりの喧騒も離れ、暖かな陽光が差し込む『コモド』は、珈琲と甘いケーキの香りに包まれていた。

 

「今日は早めに閉めたほうがいいかな…?」

 

今日は珍しく昼の時間を過ぎたあたりから客足が途絶え、時計の音だけが穏やかに響いている。磨き上げたカップを置いたその時、ドアベルが澄んだ音を鳴らした。

 

「お兄ちゃん、こんにちは! なんだか今日は、すっごくお店が空いてて静かだね」

 

扉の向こうに立っていた響ちゃんは、いつもの太陽のような笑顔を浮かべていた。だが、彼女の隣に親友である未来ちゃんの姿がない。僕は響ちゃんに、わずかな翳りがあるのを見逃さず、努めて穏やかな声で問いかけた。

 

「いらっしゃい、響ちゃん。今日は珍しく一人なんだね。未来ちゃんは、どうしたのかな?」

 

響ちゃんはひどく申し訳なさそうに視線を落とした。彼女は自分のこと以上に他人の痛みに敏感で、誰かの不調を深く悲しむ優しい心を持っている。やがて彼女はため息と共に事情をこぼした。

 

「うん……実は未来、珍しく風邪を引いちゃって。今はリディアンの寮のベッドで、熱を出して一人で寝込んでて……」

 

その言葉を聞いて、僕は反射的に看病に行こうとし、

 

「それは大変!状態はどんな感じ?必要な物を持って行く……」

 

すぐに思い留まった。彼女たちが通うリディアンは全寮制であり、僕が立ち入ることはできない。もどかしさを覚えつつも、今の僕にできる最善の選択――体が温まるレシピを脳内で組み立てながら、僕は提案した。

 

「そうだったんだね。……それなら、消化に良くて身体の芯から温まるお粥かスープをタッパーに詰めるから、少しだけ待っていてくれるかな?」

 

厨房へ向かおうと踵を返した瞬間、立ち上がった響ちゃんに呼び止められた。振り返ると、彼女の瞳にはいつもの天真爛漫な光とは違う、ひたむきで強い意志が灯っていた。

 

いつも手料理を振る舞ってくれる未来ちゃんへ、自分自身の手で感謝を形にしたい彼女の真っ直ぐな願いだった。

 

「待って、お兄ちゃん! ……私、いっつも未来にご飯を作ってもらってばっかりだから。今日はお礼に、私の手で未来にご飯を作ってあげたい!」

 

彼女の叫びにも似た強い思いを受け止め、僕は静かに微笑みをこぼした。響ちゃんのその純粋な気持ちこそが、どんな特効薬よりも未来ちゃんを癒す最高のスパイスになるはずだ。

 

包丁を持たせるには少し危なっかしい彼女の姿がよぎったが、僕は彼女の思いを尊重し、壁に掛けられていた予備のエプロンを手渡した。

 

「そういうことなら……僕と一緒に、未来ちゃんを元気づけるための特製スープを作ってみようか。響ちゃんの気持ち、きっと未来ちゃんに届くよ」

 

その言葉に、響ちゃんの顔にパッと向日葵のような笑顔が咲き誇る。

 

「じゃあ、今日はもうお店は閉めようか。響ちゃんのための特別貸し切り営業だ」

「えっ、いいの!? まだお昼過ぎだよ?」

「ここは個人経営だからね。こういう融通が利くのが、良いところさ」

 

僕は微笑みながら、入り口のドアの看板を『CLOSE』へと裏返した。

カチャリと鍵をかけると、春の陽光が差し込む店内は、完全に僕たちだけのプライベートな空間になる。

 

「よーし、お兄ちゃんとの二人きりのクッキング! 私、すっごく張り切っちゃうよ!」

「ふふ、頼もしいね。それじゃあ、まずはこのニンジンと玉ねぎを切ってもらおうかな」

「任せて! ……ええと、猫の手、だよね。こう、かな……?」

 

響ちゃんは、おっかなびっくりといった様子で包丁を握りしめている。

いつもは未来ちゃんと一緒にいることが多い彼女にとって、僕と二人きりで料理をするという状況が少し新鮮で、普段以上にモチベーションが上がっているようだった。

 

「少し力が入っているね。肩の力を抜いて、包丁の重さを利用してスッと引くように……そう、上手だよ」

「あ、本当だ! さっきよりスッと切れた! お兄ちゃん、教えるのすっごく上手!」

「響ちゃんが素直だからだよ。その調子で、ゆっくり進めていこう」

 

トントン、という不器用だけれど弾むような包丁の音と、僕たちの笑い声が厨房に響く。

野菜の青々とした匂いを感じながら、穏やかで温かい時間がゆっくりと過ぎていった。

 

「わぁ……すっごくいい匂い! スープもキラキラ光ってる!」

 

やがて、コトコトと柔らかな音を立てて煮込まれる鍋を覗き込み、響ちゃんがパァッと目を輝かせた。

鶏と野菜の旨味が溶け出した、芳醇で優しい香りが湯気と共に立ち上っている。

 

「これなら、絶対に未来もすぐ元気になるよ!」

「野菜の甘みがしっかり溶け出している証拠だね。……味見をしてみるかい?」

「うんっ! したい!」

 

僕が小皿にスープを少し移して手渡すと、彼女はふーふーと息を吹きかけ、そっと口に含んだ。

 

「んんん〜っ! 美味しい! 優しい味が身体中に染みる〜!」

「よかった。響ちゃんが一生懸命切ってくれた愛情も、たっぷり入っているからね」

 

彼女の満面の笑顔を見て、味にまったく問題がないことを確信した僕は、安心したように目を細めた。

 

「それじゃあ、冷めないうちに保温できるタッパーを用意しようか」

「あ……待って、お兄ちゃん」

 

戸棚へ手を伸ばそうと背を向けた僕を、少しだけ震えるような、小さな声が呼び止めた。

 

「どうしたの? 響ちゃん」

 

振り返った先の彼女を見て、僕はわずかに息を呑んだ。

つい先ほどまで太陽のように笑っていたはずの顔から笑顔が消え、ひどく神妙で、思い詰めたような表情を浮かべていたのだ。

 

(……なるほど、こっちも本命かな?)

 

ぎゅっとエプロンの裾を握りしめる彼女の様子を見て、僕は静かに察した。

 

きっと、彼女の胸の奥にあるのは未来ちゃんの看病のことだけではない。もっと別の、重くて切実な悩み事を抱えているのだと。

 

「少しだけ、火を弱めておくね。じっくり煮込んだ方が美味しくなるから」

 

僕はコンロの火をコトコトと静かに波打つ程度の弱火に落とすと、響ちゃんを厨房からホールのテーブル席へと促した。

 

「こういう時はね、甘いココアがおすすめなんだ。少し座って話そうか」

「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」

 

僕と彼女の二人分。小鍋で丁寧に温めたミルクに上質なココアパウダーを溶かし、ふんわりとマシュマロを浮かべた特製ココアをテーブルに置く。

カチャリ、と陶器の擦れる音が静かな店内に響き、チョコレートの甘く安らぐ香りが僕たちの間を漂った。

 

「ん……ぷは。お兄ちゃんが入れてくれたココア、すっごく甘くて……ホッとする……」

 

「よかった。それで、何か悩み事かな? 僕でよければ、何でも聞くよ」

 

ココアの甘さを堪能した後、店内に少しだけの沈黙が落ちた。

やがて、両手でマグカップを包み込むように持った響ちゃんが、ぽつり、ぽつりと胸の内を切り出したのだ。

 

「あのね……最近、未来がすごく遠くに感じるようになったの」

「遠くに……未来ちゃんが?」

「うん……。私ね、本当にただの普通の女の子でしょ? とっても大好きで仲がいい親友がいて、すごく大好きで、いっつも寄りかかりたくなるお兄ちゃんがいる。ただの、普通の高校生」

 

マグカップの縁を見つめながら、響ちゃんは自嘲するように、けれどひどく優しい声で笑った。

 

「でもさ、お兄ちゃんの周りって全然『普通』じゃないじゃない! 憧れのツヴァイウィングの奏さんと翼さんがいたり、ノイズを退治したり超常現象を解決するすごい組織があったと思ったら、月を破壊しようとしたり、アメリカに宣戦布告したり、何百年も生きてる錬金術師さんが来たり……もう、色々ぶっ飛んでて!」

「……確かに、客観的に見ると否定はできないね」

「でしょ!? でもね……私にとって、どんなに周りがぶっ飛んでても、お兄ちゃんと未来だけは絶対に変わらない『一番、一緒の普通』なの」

 

彼女はそこで言葉を区切り、少しだけ照れくさそうに、ほんのりと頬を染めた。

 

「私、未来がお兄ちゃんに特別な想いを向けてるの、ずっと前から知ってたんだよ?」

「……えっ?」

「もう、お兄ちゃんは本当にそういうとこ鈍感なんだ! だから私、二人のことすっごく応援してたんだ。……覚えてる? 夏のS.O.N.G.の慰安旅行に連れて行ってもらった時」

 

思い返せば、あの夏の旅行。響ちゃんが僕と未来ちゃんが二人きりになるようにしてくれたのか。

 

「あの時もね、私なりに未来の背中を思いっきり押したんだよ。だって、私にとって大好きな二人が一緒になってくれることは、すっごく、すっごく嬉しいことだから!」

「響ちゃん……」

「……まあ、正直言うとね。等のお兄ちゃんが色んな人にすっごくモテてるのには、ちょっぴり不満なんだけど!」

 

むーっ、と唇を尖らせて僕をジト目で睨んでくる響ちゃんに、僕は苦笑して肩をすくめるしかなかった。

 

「でも、皆のことも大好きなんだけど、 結局は本人同士が決めることだから、私からは何も言わないでおこうって決めてたんだけどね。……でも」

 

そこで再び、響ちゃんの顔から笑顔が消えた。

マグカップの中のココアが微かに波打ち、彼女の落とした視線の先で、溶けかけたマシュマロが静かに揺れていた。

 

「でもね……最近、二人が遠くに行っちゃうような気がして……」

 

ぽつりと落とされたその声は、ひどく心細げに震えていた。

僕は何も言わず、ただ静かに彼女の言葉を待つ。響ちゃんはココアの水面を見つめたまま、ゆっくりと胸の内を言葉にしていった。

 

「気のせいだ、って最初は思ってたんだよ? だけど……未来、お兄ちゃんに想いを伝えてから、すっごく頑張ってるでしょ。奏さんにメイクを教えてもらったり、料理の腕を上げるんだって色んなレシピに挑戦したり」

「……うん。本当に努力家だからね、未来ちゃん、…綺麗になったと思うよ」

「日に日に努力する未来の姿が、すごく綺麗で。なんだか私の知らない『特別』な女の子になっちゃったみたいで……」

 

響ちゃんの抱える不安の正体が、少しずつ見えてきた。

日常そのものが劇的に変わったわけではない。ただ、明確な想いと目標に向かって輝き始めた親友と、将来の明確な『夢』をまだ持っていない自分とを比べてしまっていたのだ。

 

「それに、お兄ちゃんもだよ! キャロルちゃん以外の錬金術師に狙われたって聞いてすっごく心配したのに、気づいたらそのサンジェルマンさんたちとすっかり仲良くなってるし!」

「あはは……色々と事情があってね」

「なんでか急に月に行っちゃうし! 初めて聞いた時、驚きすぎて未来のことガクガク揺らしまくっちゃったんだから! 挙句の果てには、カミサマまで連れて帰ってくるし……! あの時ほど頭が真っ白になったことはなかったかも!」

 

ぷんすかと怒るように頬を膨らませる響ちゃんに、僕はただ申し訳なさから苦笑いを浮かべるしかない。

普通の女の子である彼女からすれば、僕の周囲で起きている出来事は、あまりにも現実離れしすぎていて、住む世界が違うと感じてしまっても無理はなかった。

 

「でもね……」

 

響ちゃんはふっと表情を和らげ、優しく、温かな眼差しで僕を見つめ返した。

 

「お兄ちゃんは、まったく変わってない。昔みたいに優しくて、美味しいご飯を食べさせてくれて。嫌なことがあっても全部受け止めてくれて、楽しいことも、嬉しいことも一緒に喜んでくれる」

「響ちゃん……」

「クリスちゃんや、切歌ちゃん、調ちゃんっていう友達も増えた。お兄ちゃんを通して、キャロルちゃんやサンジェルマンさんたちとも仲良くなれた。……周りがどんなにぶっ飛んでても、私にとってここは変わらない居場所なんだよね」

 

そう言って笑う彼女の瞳から、ポロリと大粒の涙が零れ落ちた。

 

「だから……私、気づいちゃった。未来もお兄ちゃんも、どんどん私の知らないすごい場所に行っちゃうみたいで……ただ、寂しかったんだ」

 

自分の心を誤魔化すのをやめた響ちゃんは、完全に自覚した本音をこぼした。

大好きで大切な二人が、自分とは違う世界へと踏み出していくような、置いてきぼりになることへの恐怖と孤独。

 

温かいココアの水面に落ちた涙が、小さな波紋を静かに広げていく。

 

けれど。

 

「大丈夫だよ、響ちゃん」

 

僕はいつの間にか彼女の隣の席へと移り、ふわりと、その小さな頭に手を乗せていた。

ぽろぽろと涙をこぼす彼女の髪を、ただ安心させるように、ゆっくりと優しく撫でる。

 

「響ちゃんから見たら、僕や未来ちゃんが遠くに行ってしまうように見えたのかもしれないね。……でもね、僕にとっても、響ちゃんや未来ちゃんは、かけがえのない『特別』なんだよ?」

「えっ……?」

 

響ちゃんはしゃくり上げながら、ばっ、と勢いよく顔を上げて僕を見た。

涙に濡れた大きな瞳が、驚きと共に僕を真っ直ぐに映している。

 

「僕が初めて、自分の意思だけで、自分一人の力で用意して誰かに振る舞った料理。……それを食べてくれたのが、立花家の皆と一緒に来ていた未来ちゃんと、響ちゃんだったんだ」

「あ……」

「あの時、二人が見せてくれた無邪気な笑顔。そして、『すっごく美味しい!』って言ってくれたあの声。……あれがね、僕にとって、今もこうして厨房に立ち、腕を振り続けている原点で、宝物なんだよ」

 

遠い昔の、けれど決して色褪せない記憶。

もしあの時、二人の笑顔に出会っていなかったら。僕は料理の道へは進んでいたかもしれないけれど、誰かのために作り続ける喜びに気づけず、きっと長続きはしなかったはずだ。

 

「今の僕がここにいるのは、僕の胸の中に、いつでも響ちゃんと未来ちゃんの笑顔が宿っているからなんだ。僕の料理や思いが二人を作ったと言ってくれるなら……二人の長く続いた真っ直ぐな思いもまた、今の僕を作り上げてくれたんだよ」

「お兄、ちゃん……っ」

「だから、大丈夫。響ちゃんも、確かに僕の中にいるよ。ずっと」

 

超常現象や神様が関わるような激動の日々の中でも、僕が決して自分を見失わずにいられるのは、帰るべきこの日常が、彼女たちの笑顔があるからに他ならない。

僕はフッと息を吐き、彼女の不安をすべて吹き飛ばすような笑みを浮かべてみせた。

 

「それに……響ちゃんが居てくれないと、僕、一番得意なオムライスの作りがいがなくなっちゃうからね」

 

オムライスは、響ちゃんが初めて食べてくれた僕の手料理だ。

その言葉の意味を理解した瞬間、響ちゃんの瞳からせき止められていたように大粒の涙が溢れ出した。

 

「お兄ちゃん……っ、お兄ちゃぁぁん……っ!!」

 

感極まった響ちゃんは、わあっと声を上げて僕の胸に勢いよく飛び込んできた。

力いっぱい抱きついてくる彼女の温もりと、シャツを濡らす涙の熱さをしっかりと受け止めながら。僕はもう片方の手で、子供のように泣きじゃくる彼女の小さな背中を、いつまでも優しく撫で続けたのだった。

 

 

 

 

 

ひとしきり涙を流し終え、ようやく落ち着きを取り戻した響ちゃんだったが……今は真っ赤になった顔を両手で覆い隠し、テーブルに突っ伏してしまっていた。

 

無理もない。僕の胸で思いっきり泣きじゃくった今の状況を冷静に振り返れば、まるで帰りが遅くなった親に泣きつく幼い子供と何ら変わらなかったと気づいてしまったからだ。

 

「ほら、響ちゃん。未来ちゃん用のスープが入ったタッパーとココアだよ」

「あ、う、うん……っ。あ、ありがとう、お兄ちゃん……」

「ココアは魔法瓶に入れてあるから温かいままだよ。でも、長持ちしないから今日中に飲んでね」

「わ、わがっだ……きょうじゅうに、のむ……っ」

 

恥ずかしさのあまり、手で顔を隠したまま指の隙間からタッパーと魔法瓶を受け取る響ちゃん。その返事は完全にカタコトになっていて、見ていて少し微笑ましかった。

 

ふと窓の外を見ると、いつの間にか陽は大きく傾き、ガラス越しにオレンジ色の夕日が店内に長く伸びた影を落としていた。意外と時間が経ち、もう夕方が近い。

 

「ああっ、もうこんな時間!? 早く未来のところに帰らなきゃ!」

「気をつけて帰るんだよ。未来ちゃんに、お大事にって伝えてね」

 

慌てて荷物を抱え込み、バタバタと出口へ向かう響ちゃん。僕は入り口の重厚なドアを開け、彼女の背中を見送ろうとした。

だが、外に出ようとしたその足がピタリと止まり、彼女はくるりと僕の方へ振り返った。

 

「……ねえ、お兄ちゃん」

「ん? 忘れ物かい?」

「お兄ちゃんは……未来のこと、どう思っているの?」

 

夕暮れの逆光の中、彼女の瞳はひどく真剣だった。

それは決して、ただの妹分や家族としてどう思っているかという質問ではない。一人の『異性』としてどう見ているのかを問うているのだと、僕にもすぐに察せられた。

 

かつて、僕に好意を向けてくれる皆からの真っ直ぐな気持ちを前に、自らの想いを自覚させられた経緯がある。だからこそ、僕は誤魔化さずに答える義務があった。

 

「……恥ずかしいけど」

 

僕は少し照れくさくなって、ポリポリと頬を掻きながら正直な気持ちを口にする。

 

「側にいたら、すごく落ち着く……温かい陽だまり様な女の子、かな」

 

その答えを聞いた響ちゃんは、まるで自分のことのように嬉しそうに、満足げに深く頷いた。

 

そして。

 

「……え?」

 

彼女は唐突に一歩踏み込み、僕のパーソナルスペースへと入り込んできた。

 

春の夕暮れの匂いと、微かに甘い香りが鼻先をかすめる。そのまま、彼女は僕の耳元に唇を寄せ、内緒話をするように悪戯っぽく囁いたのだ。

 

 

 

『――未来がいいって言うなら、私も貰ってくれる?』

 

 

 

「なっ……!?」

 

予想だにしていなかった爆弾発言に、僕は心臓が跳ね上がり、勢いよく頭を動かして彼女を凝視してしまった。

 

「えへへっ! じゃーねっ、お兄ちゃん!」

 

しかし響ちゃんは、僕の動揺など気にも留めないような元気な声で笑うと、クルッと背を向けて『コモド』を出て、寮へと走り出していった。

夕暮れの街へと駆け出していく、その天真爛漫な背中。

 

けれど、耳元で囁いて離れた瞬間に、僕が最後に見た彼女の表情は――。

 

耳の先まで真っ赤に染めながらも、今までで一番とびっきりに可愛い、一人の『女の子』の笑顔だった。

 




最近の風邪ってしつこいと思う、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A

Q、奏がメイク?
A、実は女子力が割とあったりする。一人暮らしで家事洗濯料理は人並みにできるため、翼の部屋での事で慎次からの掃除応援という名のヘルプコールに呼ばれたりすることも。

Q、響は優斗と2人きりって少ないの?
A、このコーナー道理本編で書けていないだけで、3人セットで基本います。優斗に対するボディタッチは多めです、抱きつくこともあれば、頭を撫でてほしそうに傾けたりします。響が人懐っこい犬なら、未来はいつの間にか寄り添ってる猫です

Q、未来への好感度が高いね
A、作者の好みもありますが…長年一緒いた少女が綺麗になるために努力をしていて、それが自分のためで、更に情熱的な告白を貰ったのに、過剰な鈍感でもない限り気にしない男はいないはず。今はまだ性対象として見れませんが、いつか変わるかもしれないですね。

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