モチベーションが落ちて書けなくなった挙句、虫歯だったり、仕事の事だったり嫌な事が続いた結果こんなズルズルと長引いてしまいました。
それとアンケートで取った、活動報告によるこれから書いてほしいリクエストを募集します。
島の影すら見えない大海原。あたかもそこにあったかの様に、人工の小島に見えるフロンティアがその威容を現していた。吹き付ける潮風には、アルカノイズに対抗する日本とアメリカの合同艦隊の放つ銃撃の火薬の匂いと、初対面と違い、優斗がいないことで更に力を放つニンフルサグによる大気を震わせる神威の圧が混ざり合い、逃げ場のない緊張感が海面を走る。
その中心。黄金の輝きを不遜に放ちながら、ニンフルサグは一切の迷いなく地上へと舞い降りた。
「おい、神さんよ! 改めて聞くが優斗はどうした!!あと、こんな大掛かりな量を引っ張り出して、一体何を企んでやがる!」
真っ先にニンフルサグの元に駆けつけた奏がガングニールの槍先を向け、荒々しく声を張り上げる。彼女の額からは一筋の汗が流れ、その瞳には拭いきれない緊張感を宿していた。
「……お前達に言って何になる?……だが、許す。もうすぐこの世に、優斗にとってもお前達にとっても安らかな安寧が訪れる」
ニンフルサグは冷淡に視線を投げ、目を細めた。今の彼女にとって、優斗とシェム·ハ以外の存在と語らう時間は、ただの無益な浪費でしかない。
その筈の瞳の中に、羨望する様な色が混じっている事に奏たちはともかく、本人すらも気づいてなかった。
「おまたせ!間に合ったかしら?」
「これからって所だな。ナイスタイミングだ」
「遅れてすまない、カリオストロ達に指示を出していた。奴は何を?」
「気にすんな。それを今聞いたが奴さん、話すつもりはないらしい」
ニンフルサグが来たと慌ただしい空気の二課から、マリアはエンキ達の護衛をクリス達に変更するから奏の援護に向かうよう指示され、遺跡の屋根に飛び乗りマントをグライダーのように展開し奏の元に飛んできた。
サンジェルマンも艦隊が広がる海の方向から足のジェットを吹いて空を突っ切り、奏の元にやってくる。
三対一になったにも関わらず、ニンフルサグは表情を崩さず見下ろしたままだ。
「私は、私がが望む結末のためにフロンティアへ来た。そこにお前達が介在する余地などない。……ただ、道を開けるといい」
「話す気はねえってか……! なら、力ずくでその口を開かせるまでだ!行くぞマリア!サンジェルマン!」
「ええ!その口かっぴらいて優斗の居場所を吐いてもらうわ!」
「何を企んでいるかわからないが、それもここまで!」
奏がギアを一段階引き上げ、爆発的な推進力でフロンティアの大地を蹴る。同時にマリアも槍を展開し、ニンフルサグの側面に回り込むようにして鋭い斬撃を繰り出した。
「……私の肌に触れられて良いのはあの二人だけだ」
歴戦の戦士でさえも反応が難しい二人の突撃に、ニンフルサグはゆとりを持って指先を払う。刹那、彼女の背後に展開された空間が万華鏡のように歪み、そこから黄金の光弾が逃げ場のない死の豪雨となって降り注いだ。
「――っ! マリア、奏、そのまま押し込め! 援護は私に任せてもらおう!」
上空から降り注ぐ光の弾幕に対し、サンジェルマンは冷静沈着にファウストローブ『ガーンデーヴァ』を纏った彼女が銃を構える。彼女の手にする銃から放たれた無数の光矢が、精密な弾道計算に基づき、二人に当たる光弾だけをピンポイントに迎撃していった。
「サンジェルマン……! 助かるわ、この物量、真っ向から受けるには分が悪すぎる!」
そう言いながらマリアも、サンジェルマンに流れそうだった光弾をマントを盾にして受け流す。そして激しい爆炎の中をサンジェルマンの援護と共に突き進む。エネルギー弾による焦げた土の匂いが鼻腔を突き、フロンティアの地面が重圧に耐えかねて悲鳴のような轟音と共にひび割れていく。
「数だけは揃えたようだが…」
弾幕を張るニンフルサグは微動だにせず、ただ尊大に、絶対的な強者の佇まいでそこに立っていた。彼女の瞳に映るのは目の前の戦士たちではなく、この地を掌握した先に待つ『誰も傷つかない明日』だけだった。
「その『数』に噛みつかれて、泣きを見るのはどっちだろうな!」
海風を引き裂くような奏の叫びと共に、人知を超えた神の弾幕の中を少女たちの歌う命の輝きが真っ直ぐに突き進んでいく。絶望的な戦力差を、不屈の意志で埋めるための死闘がここに幕を開けた。
「マリア! 右に回れるか!?」
「まかせて!」
奏が気炎を纏ったガングニールの槍を大ぶりに振り抜き、ニンフルサグの目前へと肉薄する。だが、女神は指先一つで分厚い障壁を展開し、その衝撃を鼻で笑うように弾き飛ばした。
空中で体勢を崩した奏の横から、マリアが弾丸のような速度で突っ込む。狙いすました一撃だったが、それもニンフルサグには見透かされていた。戦闘職とは思えない、しなやかな回し蹴りがマリアの脇腹を捉え、彼女もまた彼方へと叩きつけられる。
「いってー!頭打ったぜ……うわっと!?」
吹き飛ばされ地面へと激突し、砂埃が舞う中。起き上がった奏の目の前に、吹っ飛ばされたマリアが放物線を描いて飛んできた。奏はとっさに身を翻し、慣性を殺すように彼女を抱き留める。
そのまま一気にジャンプで高度を稼いだ直後、ニンフルサグが放った極光が足元を焼き尽くし、轟音と共に大地が抉れた。
「ありがとう奏!」
「いいってことよ。……それよりもマリア、前に受け止めた時より重いぞ。お前太ったか? 」
「そんなわけないじゃない!! ていうか、今言うことじゃないわよっ!!」
マリアの感謝をよそに、奏のデリカシーのない発言が、マリアの顔を羞恥でカッと赤く染まらせる。殺伐とした戦場に、二人の騒がしい声が響いた。
「起き上がったらさっさと戻れ!」
追撃をさせまいと、ニンフルサグの注意を一人で引き受けていたサンジェルマンが声を荒らげる。
サンジェルマンはガーンデーヴァの銃弾を遅延爆破させていた。ニンフルサグの背後や上空を通り過ぎた後で銃弾を爆破させ、擬似的な全面攻撃を実地していたのだ。それも防がれている為あまり聞いていないが、それでもニンフルサグはうっとおしそうしている。舌打ちを一つして、地上にいるサンジェルマンに肉薄して直接叩こうと高速で近づく。
サンジェルマンの行動もあってか、奏達にとって不利な空中にいたニンフルサグを引きずり落とし、戦いの場がいつの間にか地上に移動していた。
瓦礫が撒き散らされるほどの衝撃を持った着地をしたニンフルサグ。飛んできた瓦礫に思わず手で防御してしまったサンジェルマン。その隙を突くようにニンフルサグが肉薄し、サンジェルマンの手首を掴んだ。合気道のようになめらかな所作で彼女の体はコマのように回転させられ、硬質な大地へと叩きつけられる。
「がっっ!!」
「やろうっ!」
地面に伏したサンジェルマンにニンフルサグがエネルギーを凝縮した掌を向ける。焦った奏が叫びと共に飛び出すが、ニンフルサグの視線は奏へと切り替わる。サンジェルマンを囮に奏を誘い込む算段だったらしく、地面に倒れたサンジェルマンに放たれる筈だったエネルギーを奏に向ける。
狙いすまされ、今からでも放たれる光線に気づいた奏は槍を強引に地面へ突き立てて機動を変え、横に移動しようと試みる。だが、計算し尽くされた女神の予測能力は、その策すらも見透かし、狙いを外さない。ニンフルサグは奏を掌の上で弄んでいた。
光量が一層強くなり、絶体絶命の光が奏の胸元を射抜こうとした、その時。
「……っ!させるかっ!」
「ぐっ!」
倒れ伏したままのサンジェルマンがニンフルサグに掴まれたままの手首に銃口を向け、自身もろともを覚悟してのゼロ距離射撃。衝撃による閃光が弾け、火薬の焦げた匂いが二人の周囲を満たす。
至近距離での爆発を受け、女神の体勢がわずかに崩れる。
「流石よサンジェルマン!!」
そこへ、マリアが渾身の力を込めてガングニールを投擲した。女神が回避しようと身をよじったその隙を逃さず、サンジェルマンは倒れたまま、女神の手首を砕かんばかりの強さで掴み、その動きを完全に縛り上げた。
「……思い上がるか、されど無駄ッ!」
ニンフルサグの叫びに呼応し、その全身から怒涛の黄金エネルギーが爆散した。至近距離から浴びせられた衝撃波は、特に手首を固定していたサンジェルマンへと集中し、拘束を力任せに弾き飛ばす。
衝撃による風が渦巻く中、空気を鋭く引き裂いて迫るマリアの投擲槍をニンフルサグは紙一重の差で身を捩って回避した。そのまま、流れるようなバックステップを重ねて距離を取る。遠くから響く金属と大地が擦れ合うようなアームドギアの音が、潮風が吹くフロンティアの冷たい静寂に響き渡った。
「くっ……ごめんサンジェルマン。仕留めきれなかったわ」
駆け寄ったマリアが、悔しそうに唇を噛み締めながら手を貸す。せっかくの好機を活かせなかった自責の念が彼女の瞳を曇らせた。
「……いや、そうでもないな。今の一撃、無駄ではなかったようだ」
だが、頬に付いた煤を拭いながら立ち上がったサンジェルマンは鋭い眼光を逸らさない。彼女の視線が射抜く先――着地し、無感情で装者たちを見るニンフルサグの頬には、一筋の赤い線が刻まれていた。
「……傷が。……ガングニールの哲学兵装か。やはり長年培われた法則はこの世のルールに食い込む…」
ニンフルサグが怪訝そうに、白磁のような指先で自身の頬をなぞる。指先に付着した紅い雫を見て、彼女の瞳が確信しつつも動揺に揺れた。
アヌンナキの特性で、武器などでその体を傷つけても、ダメージを平行世界に逃せば元通りになる。だが、ガングニールの『神殺し』の理は、確かにその不磨の法則を食い破り、彼女の頬を赤く染めていた。
「さっすが神殺しの槍……エンキと一緒で、そっちの理屈は通じないみたいだな」
槍を担ぎ直し、奏が混じったような不敵な笑みを浮かべる。
周囲の火薬が風に乗って漂う中、頬から零れ落ちた一滴の血が、その絶対的な神に僅かな決着の予感を与えていた。
一方、フロンティアのまた別の区画。
クリスのイチイバルの猛烈なガトリングとミサイルによる銃撃と、切歌のイガリマの大鎌による鮮烈な緑の斬撃が、大量のアルカノイズを絶え間なく削り続けていた。
「ここまでくれりゃあ、後は大技で!」
クリスがガトリングの銃身から立ち上る硝煙の熱を逃がしながら、フロンティアの斜面に急停止する。背後からは、キチキチと不気味な音を立てる大量のアルカノイズが、艦隊から引き離されて波のように押し寄せていた。
「やってやるデス!」
切歌がイガリマの大鎌を激しく一閃し、大気に鮮やかな残光を刻みつける。引き連れてきた敵の密度が最高潮に達した瞬間、二人は背中合わせになり、互いの得物の最大出力を一気に解放した。
「「せーのっ!」」
クリスの背後から、身の丈を超える大型ミサイル4発が強烈な白煙を噴き上げて放たれる。その直後、切歌が全力で振りかぶった複数の鎌の刃が、まるで吸い込まれるようにミサイルの側面へと突き刺さった。
ガキィン、と硬質な金属音が響く。しかし予測された大爆発は起きず、緑色の刃はミサイルの両翼となって美しく装着された。敵の肉塊を容赦なく切り刻みながら、死の鳥と化した巨弾が群れの中心へと突き進んでいく。
クリスは不敵に笑うと、人差し指を突き出し、悪戯っぽく引き金を引く仕草をした。
「ばぁーん!」
彼女の短い掛け声と同時に、ノイズのド真ん中で大爆発が巻き起こる。激しい火薬の匂いと熱風が渦巻く中、衝撃によってさらに小型へと分裂した緑の刃が、爆発範囲外のノイズをも瞬時に塵へと変えていった。
「これで粗方倒したデス! 早く皆の元に!」
焼け焦げた残骸が炭化して消え去る中、切歌は額の汗を拭いながらフロンティアの奥へと視線を向けた。だが、クリスはその細い肩を軽く掴み、引きつった苦笑いを浮かべて首を横に振る。
「まあ、待て待て。おっさんからの連絡があったのを忘れたか? あたしらはこのままエンキたちと合流だ、それに……」
クリスは視線を少し離れた別の交戦区画へと移した。そこは、ビームのような鮮やかなピンク色の糸と蒼い大剣の軌跡が、縦横無尽に空中を舞い、まるで巨大な台風のように荒れ狂う完全な不可侵領域と化している。
「あん中に混ざりたいか?」
「……それはちょっとごめんこうむるデス」
切歌はひゅっと息を呑み、轟音の降り注ぐデスゾーンから慌てて顔を背けた。あの普段は理性的に見える調が、見たこともないほどの激情で鋸刃を踊らせ、丘の地形ごとノイズを細切れに粉砕しているのだ。
(あの二人、一見クールで済ました感じに見えるけど……一度火がつくと止まらねえんだよなあ)
クリスは遠く響く凄まじい斬撃の風を感じながら、翼と調の胸中に渦巻くフラストレーションを思っていた。優斗を攫われ、理不尽な法で縛られ、自分以上に傷ついた仲間を間近で見続けてきた二人の怒りは、すでに限界だったのだ。
「ほら行くぞ。ここにいても巻き込まれちまう」
「うー、触らぬ二人は何とやらデス……」
遠くの爆風がここまで頬を打つ衝撃に、切歌は鳥肌を抑えるように自分の腕を寒そうにさすった。クリスもまた、ニンフルサグへぶつけるはずだった怒りがどこかへ霧散していくのを感じ、呆れたように長いため息を吐いた。
翼と調が担当する戦域は、もはや戦場というよりは破壊の円舞曲と化していた。
「せあっ!」
「やあっ!」
二人の気合が重なる瞬間、周囲のアルカノイズは、自分が斬られたことにすら気づけぬまま、きめ細かな灰へと変貌を遂げていく。彼女たちが振るう武器が、夕闇を切り裂く軌跡を描き出していた。
「調、行くぞ!」
「はいっ!」
調に向かって翼が跳躍し、空中で完璧な連係態勢をとる。翼は身を翻して逆さになり、伸ばされた調の両手を強く握りしめた。フィギュアスケーターのような優美な姿勢のまま、調が脚部のローラーを最大回転させ、翼は両足を開脚して身長を優に超える長大なブレードを展開する。
「行きます!」
調のスカートもまた、鋭利な円盤状の回転ノコギリへと姿を変えた。
二人はそのまま激しく回転しながら、独楽のように敵の群れへと突っ込んでいく。竜巻のように切り刻まれるアルカノイズの声なき悲鳴が、斬撃削られる大地の金属的な耳鳴りと混ざり合い、戦場に異様な調べを奏でる。
勢いは衰えるどころか、重力を無視して加速の一途を辿っていた。
「そのまま回します!」
調が握り合った手の中からヨーヨーを放ち、それを翼が握りしめる。そのまま調は砲丸投げの様な態勢で翼を回す。凄まじい遠心力に身を任せ、翼は回転の勢いを殺さずに外側へ外れる。
勢いが頂点に達した瞬間。翼が手を離すと、残った大型アルカノイズが目立つ、最後の群れに向かって猛スピードで飛んでいく。
炎を纏った刀身を両手に生成した翼は、回転する火の竜巻となって、アルカノイズを根こそぎ焼き尽くしていった。
地面を焼き焦がし、ようやく静寂が戻る。翼は一息つくと、周囲を冷徹な眼差しで確認した。
「翼さん。……もうここにはアルカノイズはいません。他の皆の応援に行きましょうか?」
「いや、その必要はないらしい。……丁度、クリスたちの交戦が終わったようだ。だが、ニンフルサグの反応は依然として健在。今は奏たちが必死に足止めをしている」
「じゃあ、なおさら行かないと!」
「心配するな調。奏たちが『足止め程度』で終わると思うか?それに、今はセレナたちのカバーに回った方が懸命だろう。いくらカリオストロたちがいるとはいえ、あの艦隊を守り抜くのは難しいはず……」
翼が次の行動指針を簡潔に語っていた、その時だった。
セレナたちが防衛にあたっていた艦隊の方角で、目も眩むような閃光が迸り、遠くで確認できていたアルカノイズの群れの影が、一瞬にして消失した。
その光は数度明滅した後、流星のような長い尾を引き、彼方へと消えていく。
「……はぁ。あの二人が黙って待機しているわけにはいかなかったか。調、方針を変更する。私達はクリスたちと合流し、櫻井女史達を優先させるぞ。奏の方はあの二人に任せよう……」
翼は額に手を当て、呆れ混じりの笑みを零した。
「……しかし、始末書どころか『反省文』の書き方を教えないといけなくなったな。あの二人には」
ため息を吐き出す翼の言葉に、調はくすり、と笑った。
「反省文ですか? 私が教えますよ。切りちゃん相手に教えていましたから、もう慣れていますし」
「私から見れば、調も大概だと思うのだがな……。まあいい、そこは装者の先輩として、厳しく教えてやってくれ」
「……? はい」
翼の言葉に調は、時には切歌以上に起こす自身のやらかしに全く自覚がない様子で、どこかきょとんとした表情のまま小さく頷く。
翼は、やらかしたことが分かりやすい切歌と違って、同レベルの危うさを持っていることに気づかない調を見て、呆れながらも頼もしく感じていた。
「とりあえず……行こう。クリス達に合流するぞ!」
「はい!」
翼が力強く踏み出す。これから始まるであろう更なる混戦を予感しながら、二人は次なる戦場へと疾駆していった。
翼たちがアルカノイズの大群を追い詰める、ほんの少し前のこと。
連合艦隊の防衛ラインでは、押し寄せる異形の波を食い止めるべく、セレナ、プレラーティ、カリオストロの三人が激しい迎撃戦を展開していた。
「あーもぅ! あーしの『カエストス』は、こんな大量の相手には向いていないっていうのに!」
激しくうねる波に船体が大きく傾くが、カリオストロは微動だにせず愚痴をこぼす。その手元では、両手にはめられたガントレットが重々しい魔力を放っていた。
「それは選んだ聖遺物が悪い! 結局はお前の自業自得なワケダ!」
すぐ横で、プレラーティが小柄な体躯を躍らせながらフラガラッハの鉄球を打ち出す。金属が激しくぶつかり合う轟音が、潮騒を圧して響き渡った。
「これが一番あーしと相性が良かったの!」
カリオストロは迫り来るアルカノイズの顔面に、容赦のない鉄拳を叩き込んで塵へと変える。拳に付着した赤い炭素の汚れを、忌々しげに振り払った。
近接戦闘に特化したファウストローブ、しかもメインウェポンが「拳」であるカエストスは、本来なら広範囲の乱戦には不向きだ。だが、彼女は持ち前の錬金術を応用し、遠距離の敵をも強引にねじ伏せていく。
「交互に、調子を上げて……ほらッ!」
カエストスには、左右の連撃を重ねることで破壊力を倍加させる特性がある。カリオストロは両手から交互に錬金術のエネルギー弾を撃ち出すことで、はるか洋上のアルカノイズをも難なく粉砕してみせた。
一方のプレラーティは、自律駆動もできるフラガラッハの鉄球を投げ放ち、縦横無尽な軌道で敵を圧殺している。位置取りの自由さでは、彼女の方が一枚上手だった。
「ふむ……。今、とても素晴らしい閃きを得たワケダ」
手元に戻ってきた鉄球をけん玉でいう「けん」部分で受け止めた瞬間、プレラーティの瞳が怪しく輝く。彼女は邪悪な笑みを浮かべる。もう一度鉄球をアルカノイズに放つと、戦闘中にもかかわらずカリオストロの背後へと回り込んだ。
「なになに? どうしてこっちに来たのよ、プレラーティ」
不穏な気配を察してカリオストロが綺麗な眉をしかめる。しかし、戦場のただ中でじゃれ合うような心の余裕は、昔よりも絆が深まっている証拠でもあった。
「ちょっとした実験なワケダ。ほら、前方注意なワケダ」
「は? 前って……って、おわーーー!?」
素直に視線を前に向けたカリオストロの顔が、驚愕に引きつる。先ほどプレラーティがアルカノイズへ放り投げたはずの巨大な鉄球が、恐ろしい質量と速度で、自分を目がけて真っ直ぐ逆流してきたのだ。
「フラガラッハは必ず持ち主の元に戻る。このままだと衝突するワケダ。さあ、弾くワケダ!」
「ちょっと、もう! 何を考えているのよ……っ、おらあああッ!」
迫り来る死の質量を前に、カリオストロは思考を放棄して腰を落とした。「プレラーティの聖遺物だし、最悪ぶっ壊れてもいっか」という雑な正当性を胸に、渾身の右拳を突き出す。
ズガァンッ!! と、鼓膜を激しく震わせる爆音。カエストスの衝撃を上乗せされた鉄球は、さらに凄まじい勢いで反転し、前方のアルカノイズを文字通り一列に轢き潰していった。
「なるほど! 完璧な相乗効果を発揮したワケダ! カリオストロ、もう一発いくワケダ。次は左拳!」
「何を探ってんのか知らないけど……後で絶対に美味いもん奢ってよ、ねっ!」
戻ってきた鉄球を、今度は左拳でタイミングよく殴りつける。カエストスの連撃補正が加わった鉄球は、空気をベリベリと押し潰すような衝撃波を纏い、もはや触れていない敵まで塵に変えていく。
何度も往復する金属の巨塊が、周囲の海面をドーム状に凹ませ、防衛艦を大きく揺らすほどの狂風を巻き起こし始めた。乗組員達はその揺れに対して必死に船体にしがみついている。
「実証完了なワケダ! フラガラッハの帰還特性に、カエストスの連撃増幅が完全に上書きされているワケダ。このエネルギー伝達効率なら、あの理論も……ブツブツ」
「はいはい、こんな時まで研究の虫を出さなくていいから。……で、これどうやって止めるの?」
「え?」
夢中で呟いていたプレラーティが、ぴたりと動きを止める。輝いていた奥の目が、泳ぐように左右に揺れた。
「『え?』じゃなくてさ。あーしが打ち込んで、バカみたいに威力が跳ね上がってるんだけど」
じわりと、プレラーティの額から冷たい汗が流れ落ちる。それを見たカリオストロの額に、青筋がピキリと浮かび上がった。
「もしかしてだけど……止める計算、してない?」
「す……」
「す?」
カリオストロの声色に、男性時代を思い出す程に低く冷酷なドスが混ざる。戦場に漂う硝煙よりも冷たい殺気が、プレラーティの背筋を駆け抜けた。
「すまんかったなワケダァ!」
「ちょっとおぉー!? どーすんのよこれー!! アレだけしこたま打ち込んだのが直撃したらあーしたちが消し飛ぶわよ!?」
「おお、うまいじゃないか。まさに玉だけになワケダ!」
「ぶっ殺すわよ」
二人が醜い言い合いをしている間にも、空間を歪めるほどの超重質量と化した鉄球が、猛烈な速度でこちらへと戻ってくる。
「プレラーティ! あんたの聖遺物なんだから、あんたが前に出て受け止めなさいよ! ちょっと、離して!」
「嫌なワケダ! 頼んだのはワタシだが、調子に乗って殴りまくったのはお前も同じなワケダ!」
あまりの恐怖に逃げ出そうとしたカリオストロだったが、小柄なプレラーティが背中にクモのように必死に抱きついて離れない。どこにそんな力があるのか、火事場の怪力で完全にロックされていた。
「はーなーしーなーさーいー!」
「いーやーなーワーケーダー!」
迫り来る破滅の鉄球を前に、子供じみた泥仕合を繰り広げる二人。だが、無情にも漆黒の軌跡を描く質量は、彼女たちの鼻先へと迫りきて――。
キィィィンッ! と、鼓膜を貫くような高音の障壁音が響いた。
空中に展開された三本の白銀の短剣。それが描く三角形の光る結界が、寸前のところで鉄球を真正面から受け止めた。セレナのアガートラームだ。それを複数展開した結界を意図的に傾け、何重にも配置することで、爆発的な運動エネルギーを強引に上方へと受け流した。
「何をしているんですか! 真面目に戦ってください、二人とも!」
間一髪で頭上を通り過ぎていった風圧に、カリオストロたちの髪が激しく乱れる。上空を見上げると、アガートラームの白い翼を広げたセレナが、頬を膨らませてカンカンに怒っていた。
「「ごめんなさーい……」」
「もう! あんまりふざけていると、本当にサンジェルマンさんに言いつけますからね!」
「それだけは!」
「勘弁なワケダァ!」
かつて、姉の背中を追うことしかできなかった少女は、今やパヴァリアの不届き者を一喝する立派な戦士になっていた。その剣幕に縮み上がった二人は、大慌てで別々の船へと散っていった。
「ふぅ……。本当に、手がかかるんだから。サンジェルマンさんも苦労してそうです」
セレナは小さく溜息を吐くと、すぐに凛とした表情に戻り、再び無数の短剣を周囲に躍らせる。
背後から音もなく忍び寄ってきた飛行型のアルカノイズに対し、彼女は振り返ることもなく短剣を正確に誘導し、短剣から発射される眩いレーザーでその身を焼き尽くした。
周囲では、パヴァリアの他の錬金術師や、日米の軍人たちが必死に火器を狂わせている。セレナもアガートラームの機動力を活かして広域をカバーしていたが、敵の物量はそれを遥かに凌駕していた。
「このままじゃ、防衛線が……!」
焦りから、大気のわずかな震えを見落とす。
数匹のアルカノイズが、海面を滑るような超高速で防衛網の隙間へと滑り込んできた。
気づいた時には、すでに遅い。セレナは身を翻して直撃を避けたものの、その異形たちが向かう先には、無防備な兵が乗る輸送船があった。
「いけないっ……!」
とっさにアガートラームの短剣を放つが、距離が離れすぎていて間に合わない。
船上の兵士たちが絶望に目を見開き、火器を乱射するが、アルカノイズは嘲笑うように弾幕をすり抜けていく。
あと数秒で、血の惨劇が始まる。誰もがそう確信し、それでもセレナが悲痛に対応しようとした、その刹那だった。
天を割るように、上空から純白の極光が垂直に降り注いだ。
光の濁流に呑み込まれたアルカノイズたちは行動を起こす暇さえなく、塵となって消滅していく。
ピンポイントで異形だけを消し去ったその光の軌跡。それは明らかに、意思を持った何者かの仕業だった。
「え……?」
呆然とセレナが見上げた先。荒れ狂う雲の隙間から差し込む陽光を背に受けて、白と紫の輝きを纏った少女が、ゆっくりと舞い降りてくる。
その周りには、すべての不浄を照らし出す鏡の輝きを引き連れた――『神獣鏡』のギアを纏った未来の姿があった。
「未来ちゃん……!? どうしてここに……司令から、絶対に出るなと待機命令が出ていたはずじゃ!」
セレナは驚愕に目を見開いた。戦いという一線を越えさせたくないという、弦十郎たちの痛切な願いを知っているからこそ、その声には強い心配が混ざる。
「ごめんなさい、セレナさん。命令違反だってことは、ちゃんと分かっています。でも……」
小日向未来は申し訳なさそうに視線を落としたが、すぐに顔を上げ、セレナの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。その瞳には、戦場を恐れる色など微塵もない。ただ、燃え盛るような一途な決意だけが灯っていた。
「目の前で伸ばされている手を無視して、自分だけ安全な場所にいるなんて……私たちには、どうしても出来ませんでした」
「未来ちゃん……」
「それに……」
未来はそっと目を閉じ、胸元に手を当てた。脳裏に浮かぶのは、いつだって自分たちを見もってくれる、温かいご飯を作ってくれた、優斗のあの優しい笑顔。
「優斗さんなら、きっと……どんなに傷ついても、迷わず手を差し伸べに行くと思うんです。誰かの痛みに寄り添って、思いやる。その温かさが、私に前を向く勇気をくれたから。今度は、私がその手を離さない番なんです」
再び開かれた未来の瞳には、悲しみも恐怖も包み込むような、春の陽だまりに似た優しい、けれど決して折れない『愛』の光が満ち満ちていた。
「……わかりました。ここまで来て引き返せと言うのは、あまりに無粋ですね。頼りにさせてもらいますよ、未来ちゃん」
雲間から差し込む光に照らされて、セレナは慈雨のような優しい微笑みを浮かべた。その言葉に、未来は引き締まった表情のまま、深く力強く頷いて応える。
「まさか、勝手に飛び出してきたのは未来ちゃんだけじゃないですよね? 響ちゃんも……」
「はい。響は奏さんたちのいる前線へ向かいました。戦う前に、どうしても先にニンフルサグさんと話をしたいって……だから、私がこちらの防衛に回ったんです」
遠くで響く重低音の波。未来の言葉に、セレナは響のどこまでも真っ直ぐで不器用な優しさを思い描き、小さく息を吐いた。命令を破ってでも、誰かのために手を伸ばすことができる。
――それが小日向未来が知っている立花響という少女の本質だからだ。
「じゃあ、早くここのアルカノイズを片付けないとね。……でも、未来ちゃん。あなたもどこか、あの女神のことが気にかかっているのでしょう?」
「はい……。初めて会った時は頭が真っ白で、うまく受け止められなかったんです。でも、自分の気持ちが定まってから思い返してみて……どうしても、ニンフルサグさんの行動に違和感があるんです。優斗さんから聞いた、優しい人物像から離れすぎている気がして」
「それは……本人が言っていた通り、気の遠くなるような孤独の時間が、彼女の精神を歪めてしまったからではないでしょうか?」
セレナの疑問に答える代わりに、未来はすれ違いざまに視線を走らせた。眼下の死角から跳躍してきた数匹のアルカノイズに対し、彼女は背後に浮かぶ、アームドギアである白銀の鏡を滑らかに射出する。
清冽な閃光。未来は片手間とも思える無駄のない動作で向かってくるアルカノイズを消滅させてみせた。その末恐ろしさを感じるほどの戦闘適応力に、セレナは驚きで喉を鳴らしながら、彼女の次の言葉を待った。
「もし、本当に優斗さん以外はどうでもいいと考えているなら、優斗さんの誕生日の時にあんなに大がかりに現れる必要はなかったはずです。一人の時を狙って、こっそり連れ去ればよかったのに」
潮風が未来の短い髪を激しく揺らす。その瞳は、冷徹な分析というよりは、相手の痛みを懸命に汲み取ろうとする慈愛に満ちていた。
「なのに、わざわざ大勢を引き連れて現れて……結果的に、私たちに誰一人として大きな怪我をさせなかった。ただ、囲い込むように動きを封じただけだったんです」
「言われてみれば、確かに……。私が一度相対した時も、純粋な戦闘力はそれこそ弦十郎司令クラスだと感じました。もし、最初からなりふり構わず破壊の限りを尽くしていたら、私たちは今頃全滅していましたね」
「だから、思ったんです。ニンフルサグさんは、本当はまだ、私たち人間に期待してくれているんじゃないかって」
「期待、ですか……? どうしてそう思えるのですか?」
セレナは驚きに目を見開きながらも、未来の言葉の裏にある確信めいた温度を感じ取り、声を低めた。
未来は、カリオストロとプレラーティが放つ錬金術の激しい爆炎の光に染まる洋上へと視線を固定したまま、ポツリと、心の奥底に大切にしまっていた記憶の断片をこぼし始める。
「ニンフルサグさんは優斗さんを連れ去るあの瞬間、最後に……私と響に向かって、『感謝する』って言ったんです」
「……え? それだけ、ですか?」
あまりにも戦場に不似合いな言葉に、セレナはきょとんとして言葉を失ってしまう。
「大好きなヒト達が自分のせいで破滅の道へ向かうのを、あの人は誰よりも悲しんだんだと思います。けれど、それでも私たち人間を信じて、地球から離れても生きていける道を選んだ。……一緒についてきてほしかった、大切な親友のシェム・ハさんと、致命的に袂を分かってまで」
悲しげに長い睫毛を伏せる未来の胸には、ニンフルサグが背負い続けた数千年の孤独の重みが、痛いほど伝わっていた。
「私にとっての響のような大切な存在と喧嘩別れをして、宇宙の果てで、たった一人ぼっち。擦り切れた傷は癒えることなく、寂しさに蝕まれる日々だったはずです。……そんな果てしない絶望を、優斗さんとの出会いが、私と同じように全て変えてくれたんだと思います」
感傷を切り裂くように、飛行型のアルカノイズが上空から二人に突撃してきた。だが、未来は怯むことなく、両手に扇子のような形へと変形させた鏡の刃を構える。
流れるような演舞の軌跡。未来は突進してくる異形のわずかな隙間を縫うようにステップを踏みえ、まるで美しく舞うかのようにその身を鮮やかに切り裂いた。衣服の擦れる衣擦れの音だけを遺す。未来のセンスをダイレクトフィードバックシステムによって潜在能力を引き出した、一寸の無駄もない洗練された武の体現。
その背後をカバーするように、セレナもまたアガートラームの短剣を逆手に握り直し、回転の勢いを乗せて刀身の光を極大まで引き延ばす。残った敵の胴体を容赦なく一刀両断にせしめた。
「一見すると、今のニンフルサグさんは優斗さんだけに固執して、他の人類には全く興味がないように見える。けれど……きっと、本人すらも気づいていない心の奥底では、今でも、私たち人類のことを深く愛してくれているんだと思います」
炭化して崩れ去るノイズの塵が、未来の横顔を淡く照らす。かつて人類の可能性を信じて親友と袂を分かった女神の、根底にある無償の愛。
「同じ人を愛したから、なんとなく分かっちゃうのかな……。私にはニンフルサグさんが、優斗さんの生きていく世界のすべてを欲しがっているように見えるんです」
未来は愛おしそうに胸元のギアに触れ、確かな決意を言葉に乗せる。
「だけど、自分一人だけじゃ寂しいから。私にとっての響のように、大好きな友達のシェム・ハさんも、ありのままの世界も、全部一緒に連れていきたかった。だから、あの人は取りに来たんです。自分と、一番大切な人が……誰も傷つかずに笑い合える、本当の居場所を」
キャラクターの心情が読み取りづらく感じたので恥ずかしいけど全話読み直そうかと考える、本話にぶち込む技量がない作者のQ&A
Q、ニンフルサグがなんか弱い?
A、実はニンフルサグ、シェム·ハを優斗に定着させるために力使っています。例え精神的生命となった同族だとしても、それなりにリソースをわかないと人間一人はあっという間に乗っ取られます。これがない場合、優斗は2,30話位抗ったあと乗っ取られます。
Q、クリス達のやっていることはユニゾンなの?
A、ユニゾンに近い何かです。どっちかというとスパロボの合体攻撃的な認識です。
Q、未来が圧倒的なんですけど
A、大切な人を取り戻すために決めた頑強な覚悟と決意、原作にもあった戦闘ポテンシャル、ダウンロードされたダイレクトフィードバックシステムの圧倒的な数、戦闘における戦達の教鞭の多さ、優斗の料理による神獣鏡のありえないくらいの適合率も相まって、訓練次第では原作の敵を一人で完封できます。
近距離はメインに弦十郎とエンキ。他にカリオストロや翼、奏。中距離はマリアとフィーネ、サンジェルマン。遠距離はクリスやセレナなど。他にもキャロルの錬金術における発動する動きの立ち回りやオートスコアラー達の動き等。取り敢えずS.O.N.G.の全職員のデータを選別し、組み合わせたものが入っています。