刹那の永遠   作:千里亭希遊

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第二話:星の磐座

「まだ話してなかったの?」

 

 アゼムの『もう一人の妹』──ミトロンは、呆れ返った声で言った。

 

「こっちは、三人が仲いいって聞いて、紹介に来るのを今か今かと待ってたんだけど」

「えっ」

 

 アゼムはしどろもどろしながら、きょろきょろとこの場の全員の顔を見る。

 アログリフ、ヒュトロダエウス、ハーデスはそれぞれ肩をすくめたり苦笑したりしている。

 

 アゼムは肩を落とした。

 

「……いや、でも……ここって、普段……あまり、人を入れて、いい場所じゃ……」

「それはそうだけど、アゼムの場合、都合よく言い訳にしてるだけでしょう」

「えっ」

 

 アゼムは身を縮めた。

 

「世界を渡り歩くことにばかり興味が行って、この首都でのことなんてすぐ忘れてしまうんだから。

 まあ? お人好しでもあるから? 頼みごとなんかされた日には、まっしぐらだものね?」

「え、うぅ……そ、そんなことは……」

「フフッミトロン様、すっごく的を射てます、さすがは妹君」

「ヒュ、ヒュトロダエウス……」

 

 友人を恨みがましそうに見るアゼムに、ハーデスは小さく溜め息をついた。

 

「私には……ミトロン様からも、仰って下されば良かったでしょう」

「あら」

 

 にこっとミトロンは笑った。

 

「私たちを妹だって言い張って(・・・・・)るのはアゼムなんだから、彼の方から紹介するのが筋じゃないかしら」

「え」

 

 思わずハーデスはアゼムに顔を向ける。

 しかしどこかで、やはりそっち(・・・)かと納得している自身がいた。

 

 アゼムは少し凹んだ様子ながら苦笑していた。

 

「酷いなあ……だって俺の養父(ちち)は、デュダルフォンなんだよ……?」

「そう言えば、それって何でなの?」

 

 当代デュダルフォンがミトロンの実父だというのは、ハーデスにも聞き覚えがあった。

 そしてミトロンが『私たち』と言ったことから、フィンもデュダルフォンの実の娘なのだろう。

 ちなみにそのフィンは、今は学び舎(ガーデン)に行っているらしい。

 

「どう考えてもアゼムより父の方が若いわよね」

「うぅ……それは……」

 

 アゼムはとうとう背中を丸めた。ハーデスは多少憐れみを憶えた。

 

「君たちは俺の、父方の親戚……子孫、なんだ。あと俺の実父も、デュダルフォンの座に、就いていたんだ。その縁だよ」

「……初耳ね。父も問い詰めないと」

 

 ミトロンは腕組みしながらアゼムを見る。

 

「うっ……やめてあげてくれ……」

「だいたい、その縁だとして、普通アゼムが養父になるんじゃない?」

「……ううっ。ちょっと、そこは……話していいのか、分からない」

「もう、本当になんなのよ。まあ、話せないことまで突付く気はないわ。安心して? 『兄さん』」

 

 ミトロンのニコッと笑った仕草は、どこか意味ありげだった。

 

「……安心できない、雰囲気……」

「なあに?」

「な、な、何でもない……」

 

 ミトロンがふふっと笑った。

 多分この一連の流れは、半分本気で残りは弄りだったのだろう。

 

「でもこれでちょっとスッキリしたわ。いきなり超人が『兄です』ってニコニコ現れたら、驚くどころじゃなかったのよ? 父もアナタも説明の重要さを、キッッッチリ学んでほしいわ!」

「ちょ、ちょう、じん……?」

 

 アゼムはたじたじとしてばかりだ。

 

「アゼムの座と言えば、嘘か真か、当代しか存在しない。それだけ並外れた心身を持ち、あのラハブレアの助手すらこなしてみせる。ってね」

「そんなの、さすがに、嘘だから……それにラハブレアがすごいだけで、俺が助手なのは、そんなに大したことじゃ……」

「「大したことだからね?」」

「うっ」

 

 ミトロンばかりかヒュトロダエウスまで、真剣な顔で言い募る。

 

「……何故、あなたはそんなに長く『還らない』の?」

 

 彼がどれ程を生きているのかを、知る者は誰もいない。

 対して、彼が年々精神的に摩耗していっているのは、誰の目にも明らかだった。

 

 たじたじしていたアゼムが、すっと直立し真剣な顔をする。

 

「俺ほど、頑丈な奴には、会った事がない……『外』では、予測不能な事態も、多くある、から……普通の、ヒトは、すぐに……死んでしまう、よ」

 

 あの日突然、エーテル乱流に巻き込まれたように。

 

「……」

 

 全員が押し黙った。

 アゼムの言には一理あった。

 全ての人々が纏うローブは、凡そ旅には向かない。それで済んでいるのは、日常で激しい運動をしないからだ。

 それでも、今後鍛えればある程度は『頑丈』になりはするだろうが……。

 

「『あなたほど』は、少し欲張りすぎよ」

 

 そう言ったミトロンは、少し寂しそうに見えた。

 

『母が、強く在れと願った』

 

 それは強力な祝福であり、呪い。

 しかも、生来成人済不老、などにさせたような、余程のものである。

 

「……そうかな」

 

 アゼムは少し目を逸した。

 しかしすぐに彼は、ふわりと笑った。

 

「それに、俺は……もっと、もっと、世界を、見て回りたい……知りたいことが、まだまだ、たくさんあるんだ」

 

 そんな彼に、小さく眉間にシワを寄せたり、溜め息をついたりする一同。

 

「まあひとまず、せっかく来てくれたことだし、わたしとアログリフの研究でも見ていかない?」

「!」

 

 好奇心旺盛な三人は、それまでの雰囲気を忘れたかのように、きらきらと目を輝かせた。

 

 ミトロンは水棲生物の権威であり、アログリフは陸棲生物の権威だ。

 そんな彼女たちの研究を、本人たちの解説つきで見て回れるかもしれない──知的好奇心をくすぐられない訳がない。

 

「決まりね。前に『兄さん』が見た時に比べたら、どれだけ進んだか分からないのよ?」

「うっ」

 

 遠回しに再び、全然帰らないことを責められて、アゼムは身を縮める。

 しかし。

 

「たまにはゆっくり休みなさいよね」

 

 ぽつりと呟かれたそれが、彼女の本心なのかもしれなかった。

 アゼムはきょとんと硬直を解き、そして苦笑した。

 

 五人は、ぞろぞろと『星の磐座』を後にする。

 あまり人を入れてはいけない、というこの場所は、星の声を聞くための、地下へと伸びた岩窟の深くだった。

 

 陸棲生物を導くアログリフは巫女として、水棲生物を贈るミトロンはその騎士として、普段は『星の磐座』に留まっている。

 表の顔である創造と研究の専門家を務める時には──

 

 ある程度登って行くと、一同は突然眩しい光の中に放り出された。

 転移の術式が設置されていたのだろう。

 眩しさに目が慣れると既にそこは、アカデミアの中にある転移部屋だった。

 

「さ、わたしたちが所属する研究室に案内するわ」

 

 にこっと笑うミトロンと、ふわりと微笑むアログリフの先導で、三人は研究室に向かう。

 さまざまな資料や創造生物を案内してもらいながら、じっくりと話を聴く。

 

 どうやら、ミトロンはゆくゆく、己の研究院を持つ予定らしい。

 

「すごく、楽しみだな」

 

 ふわっとアゼムは微笑むが。

 

「どうせ『兄さん』が来るのは、できて何年も……ううん、何十年も先かもしれないわ」

「さ、さすがに、そこまでは……!」

「どうかしら?」

 

 べ、と小さく舌を出したミトロンには、どこか揶揄っている雰囲気がある。

 

「うっ」

 

 しかし真に受けたらしきアゼムは、また身を縮めていた。







書き下ろし話

✦星の磐座
 エデンで巫女と騎士とあったため安易に作った場所。
 ちょっとした設定は今後出てくる可能性アリ?
 陸棲生物と水棲生物へのこじつけは暁月以降の後付け。

✦血縁関係等
 ギリシャ神話にきれいに沿っている訳ではありません。
 参照元が他にあったり、勝手にしたりです。
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