2
「奴の裏切りは、我々
全く、愚かしい限りだ。味方同士で戦っている暇などないというのに――
なんて、咲窓憂君は嘆くふりをする。
「どうやら、君たち
だからこそ――
だからこそ、我々は罠を張った、と。
彼は語る。
「
君ほどの人物が差崎誰に協力していたのなら――見つからなくて当然だ。
なんて、それは、つまり――
「つまりお前は、
血まみれの腹を押さえたまま、喘ぐように声を出す。男は顔を顰めた。
「そう言っているだろう。理解力がないのか? それとも血が足りていないのか」
脳虚血は恐ろしいな。
なんて、男はため息を吐く。
「呉越同舟、という奴だ。俺たちは差崎誰を殺したい。
彼はチラリと二人の死体を見た、
「彼らの担当地域に対する
ああ――なるほど。
あんなお粗末な戦い方をするわけだ。
こいつら――馴れ合ってやがったのか。
殺すより生かすを優先したがるなんて――恥晒しも、いいところ。
いや、そうでもなければ、
しかし、いずれにせよ、見誤った。
ぼくは歯噛みした。
「だとするなら――ぼくもお前も、踊らされているよ」
ぼくは言った。
「ぼくはここには――仲間を取り戻しに来ただけでね。差崎誰を殺したいというのなら、それこそぼくの方がだよ」
その言葉に――憂君は片眉を上げる。
「――ならばなぜ、ラムバーとアルキメデスを殺したんだ?」
「だから、仲間を取り戻すために――」
「
その言葉に。
ぼくは一瞬、思考が空白に襲われる。
「言っておくが、我々が誰かを囚えている、ということはない。する意味もない。取り戻されるような仲間の心当たりは全くないし、
小さな音を立てて――彼は銃を構える。
ああ――そういうことか。
「――最後のチャンスだ。
その言葉に、ぼくはため息を吐いた。
全く、どいつもこいつも――
「嘘つきばかりだ」
このぼくも。
ずるり、と。
虚空から、カムパネルラが姿を現す。
「――ッ、なぁ!?」
銃弾が放たれる。が、遅い。カムパネルラの力。透過の権能が働き、ぼくは現実から剥離して、銃弾をすり抜ける。
腹を抑える手のひらの下には――穴の一つも、空いてはいない。
滲む血は全て、食い殺したラムバーのもの。
獲物がなぜわざわざ仰向けになったのかを、彼はもっとよく考えるべきだった。
「カムパネルラ」
光が瞬く。
「――っ、ソレイユ!」
それが
なるほど、そういうタイプか。
ぼくは次の一手を踏む。
「牙を」
カムパネルラが、その口を開いた。
大顎が、迫る。光を弾く、素晴らしい。ならば、牙はどうだろう。
「ソレイユ!」
円盤が輝き、強烈な斥力を放つ。
弾かれたカムパネルラごと、ぼくもゴロゴロと背後に転がった。
防いだ――か。なるほど、大体は見えた。斥力の操作がメインの、防御特化型。戦闘力は高くない。そもそも初撃に銃を選択した時点で攻撃力の低さが――いや待て。
「弾き飛ばせ」
銃弾が放たれ、
距離を空けさせられたのは失敗だった。
「カム――」
間に合わない。透過より一瞬早く、銃弾がぼくの肩口を抉る。次の瞬間透過が間に合って、傷は浅く済んだけれど――しかし、まずい。
斥力による、銃弾の加速。その速度はファウストの居合に匹敵、いや、あるいは――凌駕すらしているだろう。
「万全の守りと、高速の攻撃」
その二つが
「――死に晒せ、
六発の弾丸が、一定の間隔で連続して放たれる。一番嫌な打ち方だ。連続して撃ってくれれば一度の透過でどうとでもなるのだが――
ぼくはカムパネルラを盾にして、無理やり前へ進む。
が。
「甘い」
だん、と一際の銃声が響いた。
いや、よく聞けば、それは銃声の多重奏だったと遅れて気付く。それは複数の弾丸が放たれたという意味ではなく、銃弾が一度空気の壁を突き破った後、再度それに突入し、さらにその壁を突き破ったという意味。
「ぐっ――」
複数回の、多段斥力。それによって多重に加速した超速の弾丸が、カムパネルラの肉体ごとぼくの体を貫通した。
加速は破壊力に直結する。複数回の加速がなされたその一撃は、カムパネルラという盾を穿つにも十分すぎるそれになっていた。
「そのままくたばれ」
透過対策だろう、まばらな間隔で銃弾を撃つ。カムパネルラを盾にするが――その中に、多重加速弾が含まれる。
「――っ、」
都合三度、貫かれる。
どれも急所は避けているけれど。銃弾の一撃だ。激しい出血と、痛み。このままでは、じわじわと削り殺されてしまうだろう。
ならば――
賭けに出る。
ぼくはカムパネルラの尻尾を操り、
「悪趣味な――」
視線を切る死体の影。隠れながら、ぼくは突き進む。向こうもそれをわかっているだろう。死体ごと貫くために、連続して加速弾を放つ。
「――ボロ雑巾にしてやる」
どう、どう、どう――連続して放たれる銃弾。それがラムバーの死体を貫いて――
「な――」
カムパネルラ。彼の持つ力は世界からの剥離。この世のあらゆる全てに干渉できず、またさせないその力は、つまりあらゆる全てを通り抜ける透過能力として働く。
その対象は当然、
「行っておいで、カムパネルラ」
死体の向こうで、ぼくは呟く。ラムバーが陰で見えないけれど――もう、見る必要すらもない。
開かれた顎門が、斥力の結界ごと咲窓憂君の体を噛み砕く。
「ぐ、お、あああ―――!!」
叫び声と、銃声。けれどもう、何をしようと間に合わない。カムパネルラは獰猛だ。一度獲物に喰らい付いたが最後、何があろうと、その命を噛み砕く。
だからぼくの仕事は、もうおしまい。
考えるのは、ドクタのこと。これが済んだら、彼を迎えに行かなくてはいけない。あるいは、もう一度の戦いだってあり得るけれど――今は。
倒れ伏す体に従って、目を閉じる。
断末魔の悲鳴が、よく聞こえるように。
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