カムパネルラの傷跡   作:忘旗かんばせ

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第五章 2

 2

 

「奴の裏切りは、我々守護者(プラスティシ)の上層部でも把握していてね」

 

 全く、愚かしい限りだ。味方同士で戦っている暇などないというのに――

 

 なんて、咲窓憂君は嘆くふりをする。

 

「どうやら、君たち破壊者(ダウナ)と手を組もうとしているらしい、というところまでは掴んだのだが、そこから先がわからない」

 

 だからこそ――

 だからこそ、我々は罠を張った、と。

 彼は語る。

 

()()()()()()()()()()()()、ラムバーとアルキメデスを擁立し――それを襲いに来る()()()()()()()()()()。それが我々の計画だった。――まさか釣れたのがカムパネルラという大物とは思わなかったが」

 

 君ほどの人物が差崎誰に協力していたのなら――見つからなくて当然だ。

 なんて、それは、つまり――

 

「つまりお前は、()()()()()()()()()、彼らと組んでいたの?」

 

 血まみれの腹を押さえたまま、喘ぐように声を出す。男は顔を顰めた。

 

「そう言っているだろう。理解力がないのか? それとも血が足りていないのか」

 

 脳虚血は恐ろしいな。

 なんて、男はため息を吐く。

 

「呉越同舟、という奴だ。俺たちは差崎誰を殺したい。破壊者(ダウナ)守護者(プラスティシ)を殺したい。そして差崎誰は曲がりなりにも守護者(プラスティシ)。ほら、協力できる余地はあるだろう? その上――」

 

 彼はチラリと二人の死体を見た、

 

「彼らの担当地域に対する守護者(プラスティシ)派遣数の減少。それを条件に付け加えた」

 

 ああ――なるほど。

 あんなお粗末な戦い方をするわけだ。

 こいつら――馴れ合ってやがったのか。

 

 殺すより生かすを優先したがるなんて――恥晒しも、いいところ。

 いや、そうでもなければ、守護者(プラスティシ)と組むわけがない。

 しかし、いずれにせよ、見誤った。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ぼくは歯噛みした。

 

「だとするなら――ぼくもお前も、踊らされているよ」

 

 ぼくは言った。

 

「ぼくはここには――仲間を取り戻しに来ただけでね。差崎誰を殺したいというのなら、それこそぼくの方がだよ」

 

 その言葉に――憂君は片眉を上げる。

 

「――ならばなぜ、ラムバーとアルキメデスを殺したんだ?」

「だから、仲間を取り戻すために――」

()()()()()()()()()()()?」

 

 その言葉に。

 ぼくは一瞬、思考が空白に襲われる。

 

「言っておくが、我々が誰かを囚えている、ということはない。する意味もない。取り戻されるような仲間の心当たりは全くないし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 小さな音を立てて――彼は銃を構える。

 ああ――そういうことか。

 

「――最後のチャンスだ。()()()()()()()()()。そうすれば、命ばかりは助けてやろう」

 

 その言葉に、ぼくはため息を吐いた。

 全く、どいつもこいつも――

 

「嘘つきばかりだ」

 

 このぼくも。

 ずるり、と。

 虚空から、カムパネルラが姿を現す。

 

「――ッ、なぁ!?」

 

 銃弾が放たれる。が、遅い。カムパネルラの力。透過の権能が働き、ぼくは現実から剥離して、銃弾をすり抜ける。()()()()()()()()()

 

 腹を抑える手のひらの下には――穴の一つも、空いてはいない。

 

 滲む血は全て、食い殺したラムバーのもの。

 獲物がなぜわざわざ仰向けになったのかを、彼はもっとよく考えるべきだった。

 

「カムパネルラ」

 

 光が瞬く。

 

「――っ、ソレイユ!」

 

 それが乖獣(オルターエゴ)の名なのだろう。無数の棘を持つ円盤が、憂君の背後に浮かぶ。そして、放たれた光が全て、そのスーツの表面を()()()

 

 なるほど、そういうタイプか。

 ぼくは次の一手を踏む。

 

「牙を」

 

 カムパネルラが、その口を開いた。

 大顎が、迫る。光を弾く、素晴らしい。ならば、牙はどうだろう。

 

「ソレイユ!」

 

 円盤が輝き、強烈な斥力を放つ。

 弾かれたカムパネルラごと、ぼくもゴロゴロと背後に転がった。

 

 防いだ――か。なるほど、大体は見えた。斥力の操作がメインの、防御特化型。戦闘力は高くない。そもそも初撃に銃を選択した時点で攻撃力の低さが――いや待て。

 

「弾き飛ばせ」

 

 銃弾が放たれ、()()()()()()()

 距離を空けさせられたのは失敗だった。

 

「カム――」

 

 間に合わない。透過より一瞬早く、銃弾がぼくの肩口を抉る。次の瞬間透過が間に合って、傷は浅く済んだけれど――しかし、まずい。

 

 斥力による、銃弾の加速。その速度はファウストの居合に匹敵、いや、あるいは――凌駕すらしているだろう。

 

 乖獣(オルターエゴ)と火器による物理攻撃を組み合わせた独自の戦闘スタイル。厄介だ。大人は乖獣(オルターエゴ)の強度が低い分、こうした工夫を織り交ぜてくる。節操がない、なんて言っていいのは勝ち誇る時だけのことで、つまり今はただ単純に――厄介だった。

 

「万全の守りと、高速の攻撃」

 

 その二つが()()()()()()というのが、特に。

 

「――死に晒せ、破壊者(ダウナ)

 

 六発の弾丸が、一定の間隔で連続して放たれる。一番嫌な打ち方だ。連続して撃ってくれれば一度の透過でどうとでもなるのだが――

 ぼくはカムパネルラを盾にして、無理やり前へ進む。

 

 が。

 

「甘い」

 

 だん、と一際の銃声が響いた。

 

 いや、よく聞けば、それは銃声の多重奏だったと遅れて気付く。それは複数の弾丸が放たれたという意味ではなく、銃弾が一度空気の壁を突き破った後、再度それに突入し、さらにその壁を突き破ったという意味。

 

「ぐっ――」

 

 複数回の、多段斥力。それによって多重に加速した超速の弾丸が、カムパネルラの肉体ごとぼくの体を貫通した。

 

 加速は破壊力に直結する。複数回の加速がなされたその一撃は、カムパネルラという盾を穿つにも十分すぎるそれになっていた。

 

「そのままくたばれ」

 

 透過対策だろう、まばらな間隔で銃弾を撃つ。カムパネルラを盾にするが――その中に、多重加速弾が含まれる。

 

「――っ、」

 

 都合三度、貫かれる。

 どれも急所は避けているけれど。銃弾の一撃だ。激しい出血と、痛み。このままでは、じわじわと削り殺されてしまうだろう。

 ならば――

 

 賭けに出る。

 

 ぼくはカムパネルラの尻尾を操り、()()()()()()()()()()()()()

 

「悪趣味な――」

 

 視線を切る死体の影。隠れながら、ぼくは突き進む。向こうもそれをわかっているだろう。死体ごと貫くために、連続して加速弾を放つ。

 

「――ボロ雑巾にしてやる」

 

 どう、どう、どう――連続して放たれる銃弾。それがラムバーの死体を貫いて――

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な――」

 

 カムパネルラ。彼の持つ力は世界からの剥離。この世のあらゆる全てに干渉できず、またさせないその力は、つまりあらゆる全てを通り抜ける透過能力として働く。

 

 その対象は当然、

 ()()()()()()()()()

 

「行っておいで、カムパネルラ」

 

 死体の向こうで、ぼくは呟く。ラムバーが陰で見えないけれど――もう、見る必要すらもない。

 

 開かれた顎門が、斥力の結界ごと咲窓憂君の体を噛み砕く。

 

「ぐ、お、あああ―――!!」

 

 叫び声と、銃声。けれどもう、何をしようと間に合わない。カムパネルラは獰猛だ。一度獲物に喰らい付いたが最後、何があろうと、その命を噛み砕く。

 

 だからぼくの仕事は、もうおしまい。

 

 考えるのは、ドクタのこと。これが済んだら、彼を迎えに行かなくてはいけない。あるいは、もう一度の戦いだってあり得るけれど――今は。

 

 倒れ伏す体に従って、目を閉じる。

 

 断末魔の悲鳴が、よく聞こえるように。

 





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