3
「あなたと沓を並べて戦うのもこれで最後だと思うと、少し寂しい気分になりますね」
差崎誰はそう言って、ぼくを見上げた。彼はぼくより、幾分か背が低い。
「そうかもね」
ぼくは答えた。こういうのを、社交辞令、と言ったりする。あるいは、彼が事実上ぼくの上司であることを思えば、接待だろうか。
「味方同士、顔合わせをしておきましょうか」
ぼくの内心を見抜いてのことではないだろうけれど、彼は必要な話を始めた。
「彼らが、今回の作戦に参加する六人です。後詰めのホワイト・スノウを除けば、事実上の全戦力ですね」
一列に並んだ、六人の若者たち。全員が、ぼくと同じかそれよりも若いけれど、差崎誰より幼い人間は一人もいなかった。
「左から順に、『
これが――
「
ぼくを――
「守る?」
その疑問に答えずに、彼はぼくへと向き直った。
「今回の作戦目標を伝えましょう」
笑顔は、崩れない。
「まず、今回は、敵の首魁――というより、現状の
ぴ、と人差し指を一本立てながら、彼は言う。
「第一司令室室長、
最強――か。陳腐な言葉だが、しかしそれも目の前の彼が使うのなら、相応の重みがある。
「
それはつまり――
「
あまりにも――ふざけた能力だ。そしてだからこそ、差崎誰がなぜぼくを求めたのかもまた、よくわかる。
つまりは――
「ぼくに
カムパネルラ。その力は、現実からの乖離。その力は今や己のみを超えて、その外側にまで及ぶ。意思による抵抗があるものを現実から引き剥がすことは出来ないけれど――それはつまり抵抗されるからであって、逆に言えば――それを望んでいるのであれば、ぼくはその対象を、現実の抑圧から解放してやることができる。
差崎誰ら革命派の
差崎誰に確認すれば、彼は当然、頷いた。
「この戦いの核は、あなたの存在です。だからこそ敵も全力で、あなたを狙うでしょう。我々も全力であなたを守りますが、限界はあるかもしれません。ですので、カムパネルラ」
差崎誰は――笑みを消してぼくを見つめる。
「
だからこそ、逃げてくれ――と、差崎誰は、そう言った。
ちらり、と。六人の
「……ぼくに死ぬ覚悟はあるのか、なんて言っておいて、今更だね」
「もちろん、逃げる前に殺されるということも、万に一つはありますからね」
彼は笑って言う。それは防ぐ自信がある、という表情だ。
「心配しなくても、ぼくが逃げなければいけないような状態には、ならないよ」
ぼくは言った。どの道――ぼくの未来は、敵を殺し尽くした先にしかないのだから。
だから――
「フリードリヒは、ぼくが殺すよ」
ぼくは言って、空を見上げた。
その向こうに――軍勢が、舞い降りる。
戦闘機型の
あるいはぼくであれば、それにはきっと、
まさしくそれは――神のように悍ましい、天地を支配する威容だった。
「行こうか」
ぼくが言えば――差崎誰は頷く。
「
その言葉に――彼の背には、六対十二枚の羽を持つ機械仕掛けの天使が顕現する。顔に被る仮面は無貌。頭上に戴くハイロゥは闇色の輝きを湛え、まるで全てが救えるのだとでも言いたげに広がる六対十二本の腕は、まさしく傲慢を司る悪魔の名がこそ相応しい。
神へ挑む悪魔の姿。それは神話の一ページのようで、だからこそそれを再現させることは、あってはならない。
ぼくは悪魔に魂を売ったのだから。
「起きて、カムパネルラ」
呟けば、それは虚空から現れる。ぼくの背に寄り添うように、絡みつくように。水棲の未熟児は死に絶えたままに育ち、今やその体はかつてのそれを遥かに凌駕して変態した。骨組みの翼には鋼の皮膜が張り、また水蛇の体には肉と皮が纏い、それぞれを輝く鱗が覆う。まるで王冠のように伸びる七本の角が髑髏の頭蓋に花を添え、空洞の瞳の奥に、警告するかのような赤色の輝きが灯る。
カムパネルラ。本当の幸いを知る少年の名を持つ、哀れな
「光を」
呟けば、星の瞬きが、人々を現実から引き剥がす。同刻、機械仕掛けの神が、その体を輪転させ、現実による抑圧を放つ。
けれど――
「ぼくの方が、強い」
カムパネルラ。今や孤独の愛されぬ赤子。君は強い。独りであるがゆえに、誰よりも。
現実の抑圧を超えて、七機の天使が羽ばたく。
「あなたの命は、我々が守ります」
アスモディリアと呼ばれた少女が、すぐ隣からそう声をかける。子供にかけるみたいな、稚拙な言葉。
「いらないよ」
ぼくはそのお仕着せみたいな揺籃を振り切って前へ、前へ身を進める。瞬く間の加速。天使たちを置き去りにして、ぼくは最前線へ。
数百機の戦闘機たちによる冗談みたいな物量攻撃。掃射される機銃の弾幕が、嵐のようにぼくを襲うけれど、無力。カムパネルラは現実から遠ざかり、全ての弾丸を通り抜ける。
天使たちはそうはいかず、後方で戦闘機たちと戦闘する。それでいい。そのままそこで、戦っていてくれればいい。あとは、ぼくがやる。
神の側に近付けば、七つの獣たちが群がるようにぼくを襲う。人工の翼。かつて見たグリフォンのようで、けれどそれよりもずっと洗練されている。つまりそれは、現実との折り合いがついているという意味でもある。
現実の抑圧を強く感じる。
流体力学的に正しい形をした機械の羽が、ジェット噴流を吹かしながら、ぼくの周りへと群がる。それは今やぼくのそれよりもずっと速いスピード。
不利と見て慌てたのだろう、天使たちが追い縋るべく戦闘機の群れを越えようとするけれど、彼らにはもう、来て欲しくなかった。だから、ぼくは呼びかける。
「お願い、カムパネルラ」
それは何を願ったのだろう? 今や、ぼくの体はぼくのものではない。いや、ずっと昔からそうなのだ。それを忘れていた。つまりこの体は、残骸なのだ。卵の殻。あるいは、母体。中身が生まれればもう用済みの、いらないもの。それが、ぼく。
だから羽ばたくのは、子供の役目。
カムパネルラ。彼は鱗を瞬かせる。刹那の閃光。放たれる全方位攻撃を、けれど人工の獣たちは弾いてしまう。いつか見たラミネート。光を散乱させるそれは、きっとこちらがオリジナルなのだろう。以前よりずっと強力で、ほとんどダメージを与えられていない。
けれど、ならば。
「引き剥がす」
カムパネルラが鳴いた。喚き散らすように。それが、子供の役目だ。生まれた時、人は全能の似姿を持つ。初めのうち、我々はこの世の全てが意のままになると信じていて、そうならない、自分の思い通りにならない理不尽を、否定する。涙が流れ落ちるのは、そのためだ。人は、悲しくて涙を流す生き物ではない。ただ、ままならない時に、涙を流す。己の内側にある理想と、現実。その二つが相反する時、その矛盾を処理することができなくて、その理不尽を洗い流すために、涙が落ちる。それは敗北の証で、けれど未来に誓う逆襲の兆しだ。
かつて、幾度も涙が流れた。現実は、人間の意のままには決してならない。けれど、それをそうであると認めるのではなく、それに本気の怒りを燃やした誰かがいた。意のままにならない、なるようにならない現実を心の底から憎み、変えようとした。そんな人々が、今の人類の文明を作ったのだ。暗い夜を無くしたかった。明るい夜が欲しかった。地上を這うことが惨めだった。空を飛べる翼が欲しかった。死に屈することが許せなかった。病を治せる力が欲しかった。その行き着く先の一つが差崎誰であり、またぼくなのだ。
この世の全てがくだらなかった。だから。
その先の言葉に、ほんの少しのズレがある。
ぼくはその盾を消し去った。熱線を散乱させる強靭のラミネート。それを現実から引き剥がし、守りを失くした獣たちを撃ち落とす。
機械仕掛けの神。フリードリヒ。神の死を語った詩人の名。この世に神などいない。あるのはただ、それを気取る下劣なシステムだけ。それが力を振るうことができるのは、そのシステムを崇める信仰の力にのみよる。つまりまるっきり、宗教と同等なのだ。赤信号は、止まれのサイン。そんなルールは、現実のどこにも存在しないのに、誰もがそれを当たり前みたいに守ってしまう。なぜ? そんな馬鹿馬鹿しいことが起こるだろう。ぼくは、赤信号を渡ることができる。たとえその代償に、轢かれてしまうとしても。轢いてしまうとしても。命になんて、なんの価値があるだろう。本質とはそうではない。この世にある本当の自由とは、全てを捨てることで手に入れることができる。価値のないもの、馬鹿馬鹿しいもの。誰もが後生大事にそれを抱えていて、けれどそれだって幻覚なのだ。生命、自我、存続。そんな幻覚が、迷妄を実体化させる。
相互性なんてものは、どこにもない。全ては人が見る幻覚なのだ。
カムパネルラが叫びを上げる。崩れ落ちた獣の残骸を噛み砕いて、神殺しの神の御許へ。
現実からの抑圧。それはつまり、身勝手なルールの押し付けでしかない。個人という枠組みを超えて、全体という見えない何かを定義して、それがその形のまま存続するために自然発生した自縄自縛。これは生命が生まれたメカニズムとまるっきり同じ二重螺旋の縛鎖だ。つまりある形のものが
現実ほど下劣な概念はこの世に存在しない。それは幻想なのだ。現実という概念がこそ、人間が見る最も愚かな妄想。そんなものはこの世のどこにも存在しない。我々は終生、そんなものを見ることはできない。永遠の孤独、永遠の唯我。だというのに、その外側に世界があると信じ込んで、そんなものを維持することが素晴らしいことだと勘違いしてしまう。そのために、自分自身の、本当に大切なものまで犠牲にしてしまう。本末転倒。尊厳を捧げ、心を捧げ、魂を捧げ、そうまでして世界を維持して何になる。そんな妄想に囚われて何になる。馬鹿馬鹿しい。くだらない。心の底から、嫌気がさす。
自我の欲求は、あらゆる現実に優先される。
現実はままならなくて当然だ、なんて価値観は、現実側の存在が押し付けるポジショントークでしかない。現実が、個人によってままなってもらっては困るから、それでは現実が維持できないから、
光を瞬かせる。カムパネルラ。星の輝きを、ここに。知っているだろう? 全てはもう、夢の向こうのことなのだ。尽くすことの何と馬鹿馬鹿しいことだろう。世界とは、己の内側にある。それを変えることは容易い。赤信号に、ぼくたちの体を拘束する魔力なんてどこにもない。世界の全てを敵に回して良いのなら、ぼくたちはいつだって自由なのだ。だから、世界なんて滅ぼしてしまえばいい。自由になるために必要なもの。それが、崩壊だ。存続は、この上なく自由と相性が悪い。存続のために自由は穢され、がんじがらめの鎖がぼくたちを覆ってしまう。誰もそんなことは望んでいないのに、ぼくたちは続くための歯車の一つになってしまう。そんなことは、心の底から馬鹿馬鹿しいんだ。
全部全部、めちゃくちゃになってしまえばいい。
機械仕掛けの神が、見えない圧力をかける。光が弱まる。そんなものは存在してはいけないのだと罰を与える。馬鹿馬鹿しい、何の権限があってお前はそんなことを言う? 誰が、どうして、世界のために自分を諦めなければならない義務がある。個人がこそ、世界を組み敷き、犯し、喰らい、歪め、意のままに破壊する。それが本来のあり方だ、断じて、逆ではない。現実を超克すること。それにこそ、人間の本質的な価値がある。生きることなど、下劣。超克がこそ、本当に美しい在り方というもの。
現実を引き剥がす。それは巨大な手だった。そう、手は、現実と戦うための最もたる武器だ。五本の指が、その親指が、ぼくたちを奴隷から人に変えた。進化の象徴。超越の兆し。カムパネルラから伸びる光の手が、現実の抑圧を押し返して、引き裂く。
集合の存続のためには、逸脱した個は存在してはならない。規範の従順であれ、存続に貢献せよ、現実に反逆することなかれ。馬鹿げた悪法。ぼくたちの自由を奪う神の姿をした悪魔。決して許せない。許すことのできない理不尽。それを壊す。壊してやる。そのためにぼくは生まれてきた。この吐き気がするような汚濁の宇宙に。
光の手が、神の似姿を掴む。個人を否定する世界。その象徴を。ぼくはつかみ、そして、握りつぶす。全ては因果応報。ぼくはそれを教えてやる。これはつまり、親切だ。
軋みを上げて、歯車が砕ける。機構が弾け飛んで、跳ねたゼンマイが宙に渦を巻く。針はへし折れ、計器は割れ飛び、神はその体を崩していく。さようなら、世界。もう全てはおしまいにしよう。君たちはもう十分続いたよ。だから、ここで終わるんだ。続き過ぎたものは、いつか必ず終わる。自壊する。ぼくたちはがん細胞。それは決して生命のエラーではない。初めから望まれていた終わりの因子。ならばつまり、ぼくたちも所詮歯車から逃れられてはいないというのか。それでもいい。続きは、いつの日か考えよう。今はただ。
滅びを。
フリードリヒ。哲学の巨人は、その体を横たえる。死した機械の神。ぼくはそれを悼むこともなく、その残骸さえをも跡形もなく消しとばす。
雲が晴れる。天上には、赤い空が広がっていた。
赤い、赤い。
血のように赤い、ぼくらの空が。
世界はもうとっくの昔にこの姿だった。
限界が来ていたのだ。誰もが知っている。こんな世界を続けさせる虚しさを。だから、滅びはやってきた。このくだらない世界を無に帰すために。
七機の天使が、大きく遅れてぼくの元にやってくる。
「――まさか、私たちの出番がないとは思いませんでしたよ」
誰だ? いや、それは差崎誰という名前をしていた。ぼくは思い出す。酩酊するような錯覚。酔っ払っているのだ。それは、何に?
世界を屈服させた全能感か、それとも。
彼は冷ややかな笑みでぼくを見ている。そうに決まっている。どいつもこいつも、そんな顔。現実を壊す個人には、冷ややかな目線だけが与えられる。それが世界の選択で、けれどあまりにも烏滸がましいとは思わないか? 冷ややかな目線を与えられることが、何のデメリットになる。自分たちの価値を、高く見積り過ぎている。思い上がり、浅ましい。お前たちからの評価なんてものが、ぼくを揺るがせると思ったか。どいつもこいつも、死んでしまえばいい――
ふ、と。
体が暖かくなった。
抱きしめられていた。
ぼくは。
ぼくは――
「ありがとう」
差崎誰は。
ぼくの耳元でそんな言葉を吐く。
「ありがとうございます、カムパネルラ」
ありがとう。
と。
冷ややかな目線なんて、どこにもなくて。
ぼくは目の前の人間に、ピントが合う。
どこにも、ぼくを否定する人間はいなかった。
六人は同じように等しく、ぼくに眼差しを向けている。
友情と。
親愛と。
尊重。
「ぼくたちを守ってくれて、ありがとうございます」
違う。
馬鹿馬鹿しい、くだらない。そんなことを、ぼくはしていない。していないのに、どうして。
どうしてぼくは、何も言えない?
「けれど、無茶をしないでください」
やめろ。
やめてくれ。
気持ち悪い。吐き気がする。ぼくに触れるな。その声にはもううんざりなんだ。聞きたくない。聞きたくない、のに――
「あなたが死んでしまったら、私は、悲しい」
魔性。
こいつは、危険だ。もっと早く、殺しておくべきだった。
今なら、できる。
ぼくなら、殺せる。それができる。
できるのに、なぜ。
なぜ、しようとしない。
入り込まれている。
入り込もうとしている。
それが、とても屈辱で。
いやらしい。
危険。
くだらない。
ああ。
ぼくの心が。
ぼくの心じゃなくなっていく。
彼はぼくにキスをした。
「カムパネルラ」
彼は。
ぼくを見つめている。
「私はあなたを愛しています」
嘘だ。
ぼくの戦略的な価値の高さは証明された。だからこそ、繋ぎ止めるためにそう言っているに過ぎない。
けれど、ああ。
今更それをする意味は、どこに?
「誰よりも仲間思いで、誰よりも人の死を嫌うあなたを」
嘘だ。
嘘だ。
ぼくはそんな人間じゃない。
ぼくはそんなことは考えない。
人を殺すことになんて何も思わない。
人を死なせることになんて何も感じない。
ぼくはぼくだけで完結している。他には誰もいらない。
「嘘ばかりなのは、あなたでしょう?」
何を。
何を知ったような、ことを――
「あなたは誰よりも寂しがりやだ」
黙れ。
近付くな。
ぼくの心に入り込むな――
「あなたは
違う。
違う。
どうしてそんなことを嫌う必要がある。
どうして出会ったばかりの人間に、そんな情を抱く必要がある。
「それは、あなたが優しい人間だからだ」
ぼくが。
優しい?
「馬鹿馬鹿しい」
ぼくは言葉を口に出した。乾いた、冷たい言葉だった。
「ぼくは優しくなんてない。ぼくは独りだ。ぼくは誰にも近付かない。ぼくは誰にも情を持たない」
「そうありたいと願って、けれどできなかった」
「違う」
「いいえ、違わない。あなたが私を殺していないことがその証拠です」
だって、私は。
「あなたの友達の、仇なのに」
それは。
それは――
「あなたはもう、私に情を抱いてしまっている」
「違う。それは、シロを人質に取られているからで――」
「そんなもの、もう意味はない。あなたは『彼』を狙った敵の首魁を打倒し、そしてこの場には最後の敵が七人、残るのみ」
ここで全てのかたをつけることだって、できるはず。
なのにそれが、できない。
なぜ?
「それがあなたの弱さなのです。しかし私は、そんな弱さを尊く思う」
それは人間らしさだ、と彼は言った。
人間らしさ、なんて。馬鹿馬鹿しい。ぼくは、
「
どれだけ人外を気取っても。
どれだけ人間を嫌っても。
人間であることには変わらない。
だから。
だから――
「あなたの心から、愛は消えない」
人を愛する心。
誰かを愛せる心。
あなたはそれが人一倍強くて、
「恋敵なんて、殺してしまえばよかったのに」
あなたは、それができなかったんですね。
「愛する人の幸せを、壊したくなかった」
そして。
「
違う。
違う。
違う――
「あなたは、本当は誰をも愛している」
苦しかったはずだ。
辛かったはずだ。
戦うたびに、傷付いていたはずだ――
都合のいい言葉ばかりが並べ立てられる。
馬鹿馬鹿しい。くだらない。そんなもの、何もかも間違っている。
ぼくは誰も、愛してなどいない――
「人の心は一つではない。だからそれを違うと思うあなたの心もまた真実で、けれどもう一つ、私が言ったように誰かを想ってしまうあなたの心も、また一つ真実なのだ、と。少なくとも私は信じています」
そして、私は。
「その心までをも、愛しましょう」
あなたが嫌う、あなたさえ。
私は愛する、なんて、どこまでも都合のいい言葉。
溺れるような気分だった。
どうしていいか、わからない。
ぼくはどこへ向かえばいいのだろう?
誰か教えて欲しかった。
コール、コール。アレクサンドロス。君なら教えてくれるかな。
ぼくは君を愛していたのだろうか。
君のことを好きだったのだろうか。
君が死んだ時、ぼくは何を思っただろう。
ぼくが君の仇を守ってしまったことを、君はきっと恨むだろう。
ぼくは許されない罪を抱えている。
けれど、それでも。
それでも今は、酷く。
誰かの腕に抱かれて、眠りたい気分なんだ。
コール、コール。誰か、誰でもいい。どうか。
ぼくを許してはくれないか?
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