雨音の如く静やかな   作:スナエ

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人間みたい

 へし切長谷部は、ずっと主の忠臣のように振る舞っている。

 審神者である化野雨音は、そんな長谷部に危うさを感じていた。

 7月。庭に咲いた向日葵が、太陽に向かって立っている。

 雨音は、仮の近侍を命じた長谷部とそれを眺めた。

 

「長谷部」

「はい」

「お前は、あんまり俺を大切に想うな」

「それは出来ません。俺は、主の物ですから」

 

 雨音の溜め息が、顔を覆う白布を揺らす。

 

「参ったな…………」

「ご迷惑ですか?」

「人間なんて、ろくでもない。中でも俺は、なり損ないで、しょうもない。本当なら、お前たちが支えるに値しないよ」

 

 自虐的な雨音の台詞。

 

「いいえ。主は、聡明な方です。俺は、主のことが一番大切です」

「そうかい。何度話しても平行線だな、俺たちは」

 

 雨音は、肩をすくめた。

 

「主は、季節の移ろいを尊ぶ方だ。向日葵もお好きなんですか?」

 

 話を変えるように長谷部が切り出す。

 

「ああ。俺は、枯れてる向日葵が好きなんだよ。あの生き切った姿が、一等好きだ」

「なるほど」

 

 長谷部は、向日葵のように生きたいと思った。自分が向日葵ならば、主は太陽である。

 

「向日葵が羨ましいです」

「お前は、晴天の下でずぶ濡れになってるのが似合う奴だよ」

「それは、どのような……」

「口が滑った。忘れてくれ」

「はい」

 

 主の命ならば、従う。

「どうも、長谷部といると調子が狂うな……」と、雨音は小さく呟いた。

 その晩。長谷部は、雨音の部屋を訪れる。

 にっかり青江が不在の今、主を“あの刀”から守れるのは、自分しかいない、と。

 

「主。入ってもよろしいですか?」

「ああ。いいぞ」

「失礼します」

 

 襖を開けると、素顔の雨音がいた。

 灰色の髪に、夜のような瞳。どこか気怠そうな表情。

 現状、にっかり青江とへし切長谷部しか知らない姿。

 

「主。にっかり青江の代わりに、俺をお使いください」

「アイツを使った覚えはないぞ。隣に置いてるだけだ」

 

 妬ましいと思った。寝所に在ることを許されていることが。

 

「……俺では、ダメなんですか?」

 

 長谷部は、無意識のうちに自分の服の胸元を握り締めている。

 

「そんなことはないだろうが。アイツは、幽霊切りの刀だからなぁ」

「はは、へし切ではダメということですか?」

「長谷部」

「はい…………!?」

 

 長谷部は、雨音に壁際に追い詰められ、眼前まで顔を近付けられた。

 

「主……?」

「お前でもいいんだぞ、俺はな」

 

 雨音は、長谷部の頬に片手を添える。

 長谷部は、雨音の意図することが少しずつ分かってきた。

 

「にっかり青江と、こんなことを?」

「さぁ、どうかな」

「主……」

 

 長谷部は、雨音の手に手を重ねる。

 

「……主命とあらば、お相手します」

「はぁ。全く、しょうがない奴だな。閨の相手なんて頼まねぇよ」

「冗談でしたか?」

「まあな」

 

 それでも、にっかり青江と主が艶事に及んでいたらと思うと、漆黒の感情が表れそうになった。

 こんな刀を、主は望まないだろう。

 へし切長谷部は、その想いに蓋をした。

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