雨音の如く静やかな   作:スナエ

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いつか向日葵になるまで

 主である化野雨音を拐ってしまいたかった。

 役目も戦も忌まわしい刀も、全部取り払いたいと。

 へし切長谷部の想いは、雨音には届かない。

 

「主」

「なんだ?」

「いえ、なんでもありません」

「そうか」

 

 俺の手を取ってくれませんか?

 そう言っても、彼が手を取ることはない。

 すでに一度、長谷部は断られている。

 本来の近侍であるにっかり青江が戻り、雨音の“一番”は、また遠退いてしまったように思う。

 

「どうして俺を選んでくれないんですか? 主…………」

 

 雨音と近侍を遠巻きに見つめながら、小さく呟いた。

 前に審神者が言っていた、「晴天の下でずぶ濡れ」になっているような心地がする。

 鋼が激情に身を焦がすことを、雨音は良しとしないだろう。彼は、人が嫌いだから。

 しかし、物であるが故に、へし切長谷部は苦しんでいるのだ。

 この心さえなかったら、愛してくれたのだろうか?

 心がなければ、雨音を慕うこともなかった。矛盾だらけの恋は、長谷部の胸に棘を刺す。

 

「長谷部くん」

 

 燭台切光忠が長谷部を呼んだ。

 

「なんだ?」

「顔が怖いよ」

「うるさい」

「何かあったのかい?」

「貴様には関係のないことだ」

 

 踵を返し、長谷部は燭台切の前から去る。

 燭台切が長谷部が見ていた方に目をやると、そこは、雨音の自室で。

 溜め息をつき、燭台切は与えられた仕事に戻ることにした。

 一方その頃。雨音は、琴を弾いていた。

「相変わらず、綺麗な音だね」と、にっかり青江が率直に言う。

 

「子供の頃からやってるからな」

「ずっと、その琴を使っているのかい?」

「ああ。これも、化野の由緒ある物なんだ」

「へぇ」

 

 七夜月の夕暮れに、雨音たちの会話は静かに続いた。

 

「本当に“物”が好きなんだね」

「そうだ。間違っても人間みたいに喋る物なんか好きじゃない」

「つれないなぁ」

「はぁ。少し庭へ出る」

 

 にっかりと共に外へ行く雨音。

 一緒に、向日葵を見ながら話した。

 へし切長谷部は、その様をひっそりと見ている。

 向日葵を掻き分けたら、その中へ消えてしまいそうな主。自分には出来ないこと。

 いっそのこと、ただの刀に戻ってしまえば。主は愛してくれるだろうか?

 だが、もう物言わぬ存在には戻れない。

 へし切長谷部の渇望は、満たされない。

 ただ、化野雨音を救いたかった頃から、長谷部の想いは別物に変質している。

 彼を救いたい気持ちは、独占欲になっていた。

 主を、世界から隠してしまいたい、と。

 

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