雨音の如く静やかな   作:スナエ

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否定出来ない

 首を刎ねられる夢を見た。

 相手は、誰か分からない。

 

「露時じゃなさそうだな」

「どうかしたのかい?」

 

 雨音の隣の布団で寝ていたにっかり青江が起きた。

 

「俺を呪ってる奴がいる」

「それは物騒だね」

 

 雨音は、溜め息をつく。

 

「心当たりは?」

「あり過ぎる。人を呪うってのは、自分も呪われるってことだからな」

 

 再び、溜め息。頭を掻き、面倒に思った。

 

「近々、呪い返しをすることになるかもしれない」

 

 それから、審神者としての責務を果たし、蜩の鳴く夕方になる。

 雨音は、蜩の声に合わせるように縁側で琴を弾いた。

 

人を呪わば穴ふたつ

人を恨めば釘を打つ

人を想えば情が立つ

隠す感情 沙汰の勘定

川を渡る金はない

沈む舟が着くのは水底

 

 雨音の、経を唱えるような寂しい歌声。

 

「主」

「長谷部」

「そちらの琴より、俺の方が役に立ちますよ」

「……爪を切るのに刀は使わないだろう」

 

 白布の下で、呆れた顔をする雨音。

 琴を持ち上げ、自室に戻ろうとしたところで、長谷部に袖を掴まれる。

 

「なんだ?」

「どうしたら、主の特別になれますか?」

「特別?」

「にっかり青江は、近侍で、懐刀です。山姥切国広は、最初の一振りです。薬研藤四郎は、主の悩み事を聞いています。歌仙兼定は————」

「待て待て」

 

 雨音は、琴を置き、長谷部の手首を掴む。

「俺は、どうすれば…………」と、俯く長谷部。

 

「別に、そのままでいい。俺は、お前には————」

「そのままでは、俺が駄目なんですよ。主…………」

 

 長谷部は、両手で雨音の手を握り、祈るようにして言った。

 その目が、その声が、雨音に懇願している。

 

「人間みたいなことを言うな」

 

 雨音は、長谷部の手を振りほどき、自室に戻った。

 残された長谷部は、夕日に照らされて影を濃くする。

 庭を見れば、向日葵が静かに佇んでいた。

 やはり、あれになるしかない。

 へし切長谷部は、“主を隠す物”になりたかった。

 太陽に向かって咲き、その太陽を覆い隠せるような向日葵に。

 

「…………」

 

 長谷部は、ゆっくりと主の部屋の前から去る。

 雨音の方は、自室で文机に向かい、頭を抱えて自己嫌悪していた。

 自分で人の姿を与えておいて。

 気持ち悪い。俺を見るな。

 気持ち悪い。俺が悪いのに。

 気持ち悪い。全部、俺のせいだ。

 そりゃあ、呪いもするよなぁ。

 化野雨音を呪っているのは、へし切長谷部である。というのが、雨音の出した結論だった。

 こんな苦しみばかりの人生が、運命だというのだろうか?

 いっそ、お前を刀解してしまおうか?

 ああ、でもそれじゃ、あまりにも。

 

「……人間ってのは勝手だな」

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