雨音の如く静やかな   作:スナエ

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闇夜を照らす

 視線が星屑を辿る。

 化野雨音は、ひとりで縁側に座り、夜空を見た。

 その瞳もまた、夜のよう。

 

「主殿」

「……山伏か」

「座ってもよいだろうか?」

「……ああ」

 

 山伏国広は、審神者の隣に座った。

 

「どうかしたのか?」

「いや、なに、主殿が何を見ているのか気になっただけであるが」

「そうか。俺は、星を見ている。あの星々は、まだ生きているんだろうか?」

 

 それは、別段答えを求めていない疑問。

 何光年も離れた場所から届く光。過去の明かり。

 

「星が死んでいたとしても、光を遺せたなら、生まれた意味があったな」

「……主殿は、悟った視座を持っているな」

「そうかな……?」

「うむ。先人が遺したものを尊ぶ者の視座である」

 

 雨音は、山伏の真っ直ぐな言葉に、内心で驚いた。

 そんなに褒められるようなことを言ったつもりはないから。

 

「俺も、あんな風に生きられたらな…………」

 

 ぽつりと本音を漏らす雨音。

 

「主殿は、星の集う夜空のようだ」

「はぁ?」

 

 審神者は、怪訝な顔をする。

 

「その瞳に映る刀剣たちが、星なれば」

「……なるほどな」

 

 山伏は、雨音の瞳の夜色を知らない。それなのに、まるで目を合わせたことがあるかのようだ。

 

「俺は、お前たちから逃げない。それだけは約束出来る」

 

 逃げたかったし、逃げ出した過去がある。

 化野という家名も呪わしく、自身が辿るかもしれない運命が恨めしく。

 人が嫌いで、心が嫌いで。人間みたいになった物が嫌いで。

 しかし結局、化野雨音は、刀剣男士たちを心の底からは憎めない。

 だから、逃げはしないのである。

 

「しばらくは俺に付き合ってもらうぞ、山伏国広」

「あい分かった」

 

 拳を作って差し出せば、山伏もそれを返した。雨音の拳に、コツンと当てる。

 夜が更けていく。

 

「そろそろ寝る。おやすみ、山伏」

「おやすみ、主殿」

 

 山伏と別れ、自室へ戻った。

 

「眠るのかい?」

「ああ」

 

 にっかり青江は、いつも通りに主の隣の布団で寝る。

 

「おやすみ、いい夢が見られるといいね」

「ああ、おやすみ」

 

 雨音は、目を閉じて眠りについた。

 その夜、夢を見る。

 化野雨音の両親が健在だった頃の夢。

 

“きっと、雨音も世界を救う時が来る”

“お前は、いつか英雄になれる”

 

 父さん。

 俺も、頑張るよ。負けないよ。

 でも、ひとりじゃ無理だ。

 

“あなたは強い子だけど、英雄としての死を迎えるくらいなら、世界を救うなんてやめなさい”

“ごめんなさいね、雨音。あの人は、あなたが当たり前に宿星を背負うと思っているの”

 

 母さん。

 俺は、平気だよ。大丈夫だよ。

 星々は、俺の味方だから。

 

 翌朝。審神者の閉じた目から降る雨を、にっかり青江が拭った。

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