雨音の如く静やかな   作:スナエ

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いずれ来ること

 穂長月の中頃。

 アキアカネが空を飛び出した時期。

 じっと、廊下を歩く自分を見ている主に気が付いた。

 

「主、どうかしましたかな?」

 

 蜻蛉切は立ち止まり、雨音に尋ねる。

 

「いや、お前は灰汁が強くない奴で助かるなと思ってな」

「……そうでしたか」

 

 少々反応に困っている蜻蛉切に、審神者は、ふ、と笑った。

 

「悪い。困らせたな」

「いえ。村正などは、確かに灰汁が強いと言えましょう」

「千子村正、か。そのうち会えるのかねぇ」

 

 雨音は、腕を組んで考える。

 蜻蛉切にこうも言わしめる刀。一体どんな奴なんだろう?

 

「……それまで、この戦いは続くのかね」

「早く平和が訪れるよう尽力いたします」

「そう気負うな」

「しかし、主もそれをお望みでは?」

 

「ん?」と雨音は首を傾げた。

 

「我々が人の真似事をするのは、嫌なのではありませぬか?」

「ああ、そういうことか。今まで駄々を捏ねていて、すまなかったな。正直、お前たちのことを完全に受け止められるかは分からん。だが、物に心があることくらい、ずっと前から知っていたんだよ。もう、目を逸らすことはしないさ」

 

 雨音は、刀剣男士たちの主としての覚悟を固めている。

 

「平和になったら、お前たちと話すこともなくなるんだろうな」

「そうでしょうな」

 

 刀たちは、美術品に戻り、物を語ることはない。

 彼らと会話出来ないことが寂しくなる日が来るのだろうか?

 

「はは」

「主?」

「いつか、今日を懐かしむ時が来るのかもしれないな」

「そうですな。貴方のことは忘れないでしょう」

「……ああ。俺を忘れないでくれ」

 

 忘れられたら、化野雨音の物語は終わるから。

 良い終わりを迎えられるように、精一杯生きたい。

 そして、いつか星を遺せたらいい。

 化野雨音に宿った星が、誰かの導となるように。

 

「さて、そろそろ責務を果たそうか」

「任務に戻ります」

「よろしくな」

 

 廊下で立ち話をしていたふたりは別れ、それぞれ仕事に戻った。

 雨音は、私室で書類に目を通す。

 

「やあ」

「にっかりか」

 

 審神者は、一度、戸を開いたにっかり青江に視線をやり、書類に戻した。

 

「僕の仕事がないようだけれど?」

「今日は休みだ。近侍のままだけどな」

「ふぅん。僕を侍らせていたいってことかい?」

「そうだな。俺の側にいてくれ」

 

 雨音の言葉に、目を見開き、息を呑むにっかり。

 にっかり青江を見ていない雨音は、気付かない。

 彼が、頬を赤く染めていることに。

 

「君という人は…………」

 

 小さく呟いた台詞は、雨音に届かない。

 

「主」

「どうした?」

「愛してるよ」

「それは、やめとけ」

「そう言われてもね。はい、という訳にはいかないよ」

 

 にっかり青江は、目を細めて笑った。

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