雨音の如く静やかな   作:スナエ

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 西暦2205年1月14日。

 (のろ)い屋の男は、面倒ごとに巻き込まれてしまった。

 

「陸軍に協力……ですか……」

「君には、陸軍補佐としてその能力を奮ってほしい」

「はぁ……俺が軍属に……」

 

 化野雨音は、一役人の相談役である。

 呪いや占いを得意としており、一般的にいかがわしいとされることを生業としていた。

 

「それで、具体的に何をすれば?」

 

 顧客である政府高官に訊ねる。

 

「前に歴史修正主義者のことは話したろう? あれと戦ってほしい」

「はい……?」

 

 歴史修正主義者の件は国の歴史の危機である。

 それは、自分には話が大き過ぎる。

 

「俺には荷が重いですよ」

「ひとりで戦えとは言わない。君にはある物を貸し与える」

「物……?」

「ああ、重要文化財だ」

 

 男は妙な笑顔を浮かべて言う。

 それを見た雨音は、断れないことを持ち掛けられているのだと察した。

 山姥切国広。それが雨音に最初に貸し与えられた刀だった。

 それを雨音が降霊の要領で顕現させ、刀剣男士と成る。

 雨音は山姥切国広と会話を試みたのだが、これがすこぶる相性が悪い。

 隙あらば自己卑下をする彼、そもそもこの仕事に乗り気ではない雨音。

 

「め、めんどくさ……」

 

 自室にて愚痴を吐露する。

 翌日からは一日で複数の刀剣男士を顕現させる。

 とにかく、あれ(山姥切国広)とふたりきりは御免だった。

 しかし、刀共ときたら、どいつもこいつも面倒な性格をしている。

 

「帰りたい」

 

 政府に用意された日本家屋から飛び出したい衝動と闘う日々。

 それとは無関係だ(と思いたい)が、毎夜悪夢にうなされる。

 見知らぬ男の霊が自分を嘲笑うのだ。

 毎朝、嫌な汗をかいて目覚める。

 次第に寝付きが悪くなり、不眠症になり果てた。

 

「薬研、一発で眠れる睡眠薬とかないのか?」

「大将、隈がひどいな。眠れないのか?」

「昨夜は一睡もしてない」

「いっそ今寝てもいいんじゃないか?」

「あー。そうするか。膝貸して」

「いいぜ」

 

 現在、仮の近侍である少年の膝枕は、全てを放り出して昼に寝ることの甘美さも相まって、中々心地好い。

 だが、やはりその日の夜には悪夢を見た。

 

「勘弁してくれ……」

 

 見知らぬ男に首を絞められて飛び起きてしまった雨音。

 顔を洗いたいと思い、寝室を出る。

 すると、縁側に人影が見えた。

 月明かりに照らされた彼は、大層綺麗だった。

 

「何をしているんだ?」

「君こそどうしたんだい?」

 

 にっかり青江は飄々としている。

 

「夢見が悪くてな」

「ふぅん。君って人間なんだよね?」

「そうだけど」

「じゃあ、君は何かに憑かれてるのかな?」

「は……?」

「斬ってあげたいところだけど、その人は悪霊なのかな?」

「……着物を着た男か?」

「そうだよ」

「斬る必要はない」

「そう? 悪夢にうなされるのに?」

「そうだな。せめて魔除けになってくれるとありがたいな」

 

 こうして雨音は、にっかり青江を近侍として側に置くことにした。

 朝の目覚めは、悪くないものになる。

 起きて隣を見ると男がいるのにも、次第に慣れた。

 雨音が素顔を晒すのは、にっかり青江にだけである。

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