男は、物を愛でている。特に、骨董品が好きだった。
化野雨音は、人間の醜悪さが嫌いである。
明星に乞い願う哀れなる者
然れど、物には成れない、ならず者
鳴り物入りで現れる
人の振りした一振りの鋼
物を語るは人か物か
最後を飾るは雨の音
値打ち物の琴を弾きながら、即興で歌を唄う雨音。
「寂しい歌だね」
「にっかり……」
近侍であるにっかり青江が、困り笑いのような顔で言う。
「俺は、ただの呪うものでいたかったんだよ」
「君が、呪いの機構になるのは嫌だなぁ」
「そうかい」
雨音は、口を尖らせた。正座していた足を崩し、胡座をかく。
「一丁前に心があるみたいだな」
「ふふ。胸でも開いて見てみるかい?」
「その体の中には、内臓すらないだろ」
審神者は、彼らをそのように顕現させていない。
「さて、嫌々働くか。行くぞ、にっかり」
「ああ」
着流し姿の雨音は、顔を白い布で覆い、近侍と共に自室を出た。
「よう、お前たち。主様が来たぞー」
「主様」
「主」
「主さん」
刀剣男士たちは、雨音を見て、嬉しそうに声を上げる。
その様子を見ると、雨音は未だに憂鬱になった。
向いていない。こんな役目は。
それでも、もう審神者になってから一月が経つから。彼は、押し付けられた役目をそれなりにこなしていた。
「大将、調子は?」
薬研藤四郎が訊く。
「いいよ。心配はいらない」
「そうか。よかった」
薬研は、安堵の笑みを浮かべた。
「主、本日の予定は?」
へし切長谷部は、雨音からの命令を心待ちにしている。
「あー、はいはい」
雨音は、遠征や内番の指示を出してから、江戸への出陣の手筈を整えた。
「じゃあ、よろしくな」
「はい」
部隊を送り出してから、審神者は溜め息をつく。
「にっかり」
「なんだい?」
「少し眠る」
「了解」
すぐに自室に戻り、雨音は眠りについた。
その傍に、近侍が控えて見守っている。そうしているだけで、雨音への霊的な存在からの障りは抑えられた。
幽霊を斬った刀である彼は、いつも雨音の安眠を守っている。
にっかりの手が、雨音の頭を優しく撫でた。
「いい夢を見られてるといいけど」
小さく呟く。
化野雨音は、とある者に呪われていた。そのことを知っているのは、にっかり青江だけである。
二時間後。目覚めた雨音に、「おはよう」と言った。
「ああ。ありがとうな、いつも」
「僕は、そういう刀だからね」
笑顔のにっかりを見た雨音は、“物”らしいと思う。
彼のことが、羨ましかった。
西暦2205年2月。庭では、寒椿が咲いている。
化野雨音は、まだ恋をしたことがない。