雨音の如く静やかな   作:スナエ

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駄作と傑作

《i》ださく

【駄作】

できが悪く価値が乏しい作品。

 

◆◆◆

 

 それを初めて見た時、化野雨音は、「綺麗だ……」と呟いた。

 山姥切国広は、雨音の初期刀である。

 後に、刀剣男士となった彼に「綺麗とか、言うな」と睨まれた。

 

「聴こえてたのか……」

 

 審神者は、頭を掻く。

 仕方なく審神者をやっている雨音と、本科と比べられることを極端に嫌い、自嘲しがちな山姥切は、すこぶる相性が悪い。

 薬研藤四郎を鍛刀するまで、雨音たちは、ほとんど何も話さないでいた。

 

「大将、俺っちが仮の近侍で本当にいいのか?」

「アイツとは、話にならない」

「……そうかい」

 

 それからも、歴史修正主義者たちとの戦いの日々は続く。その戦いには、果てがないように思えた。

 

「はぁ」

 

 雨音は、溜め息をつく。

 そして、自室で気晴らしに琴を鳴らした。

 

兵どもが夢の跡

血筋の終わりが全ての幕引き

英傑の血は水より濃いか?

代わりて呪う子々孫々

末代祟るも意味はなし

末代飾るは能がなし

 

 しんしんと降るような雨音の歌声。

 それを、密かに山姥切国広は聴いていた。

 

「あんたも、自分が嫌いなのか……?」

 

 小さく呟いた声は、誰にも届かずに消える。

 その晩、雨音は真夜中の月を眺めた。隣には、近侍のにっかり青江がいる。

 

「綺麗な月だね」

「ああ。遠くにあるものは、綺麗に見える」

「……そうだね」

「生きてるのって、気持ち悪いんだよな。どうせ死ぬ癖に。俺は、どうして俺なんだ…………」

 

 一人言のような雨音の台詞。自傷のような言葉たち。

 それを聞いたにっかりは、そっと雨音の手を取った。

 

「君が生きていてくれて、よかった。こうして会えたからね」

「……馬鹿なこと言うな」

「本当のことだよ」

「そりゃ、どうも」

 

 握り返しこそしないが、にっかりの手を振りほどきもしない雨音。

 化野家の末裔は、自身を出来損ないだと思っている。

 英雄にはなれない。物にもなれない。きっと、何者にもなれない。

 それでも、美しい物は、この世界にある。

 その愛すべき無機物たちがあるから、化野雨音は生きていた。

 翌朝。いつも通りに、自室で目を覚ます。隣の布団には、にっかり青江。

 朝食を済ませ、刀剣男士たちに命を出した後。

 山姥切国広が、雨音の元を訪れた。

 

「どうかしたか? 山姥切」

「……あんたは、俺と似ている気がする」

「そうか?」

「比べられたくないだろ? 先祖と」

「……そうだな。俺は、俺だ。呪うことしか才能がなくて、権力に弱くて、金が好きな、普通の男だよ」

 

 化野雨音は、素顔を覆う布の下で笑う。

 5月の青葉は、ただ静かに風で揺れていた。

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