雨音の如く静やかな   作:スナエ

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うつしよ

 化野露時の霊は、雨が降る夜には必ず夢に出てきた。

 何も言わず、ただ雨音を殺そうとしてくる。

 6月の夜夜中。化野雨音は、冷や汗をかいて目覚めた。

 

「はぁ…………」

「大丈夫かい?」

 

 隣で眠っていたにっかり青江が、体を起こす。

 

「ダメだな、梅雨は。どうやら、露時の力が増すらしい」

「名前通りだね」

「そうだな……」

 

 雨音は、にっかりと共に縁側に出た。

 庭には、雨に濡れた紫陽花が美しく咲いている。

 

「この戦いに、俺なんていなくてもいいだろうに。俺が“化野”だから…………」

「君は、やめたい?」

「やめられないよ。ゆるされない」

「僕は、ゆるすけれど」

「……人間に優しくしても得しないぞ」

 

 審神者は、にっかりを睨み付けるように見た。

 小さな雨の音が、彼らの間に落ちていく。

 

「損得で言ってる訳じゃないからね」

「そうかい。俺は、損得勘定でしか動かないがな。つまらない人間だから」

 

 政府の命令に従う方が生きやすい。

 雨音は、長いものには巻かれる主義だ。

 

「今夜は、月は見えるが、星は見えないな。月も星も人間のことなんか、どうでもいいだろうが」

 

 何に祈っても、雨音の願いが叶ったことはない。

 

「寝直すか。戻るぞ、にっかり」

「ああ」

 

 翌朝。いつもと同じように時は過ぎていく。

 一通り命令を出し終えた審神者の元に、山姥切国広がやって来た。

 

「何か用か? 山姥切」

「あんたは、どうして審神者をしてる?」

「命令されたからだ」

 

 顔が白い布で覆われているため、雨音の表情は分からない。

 

「それでいいのか?」

「俺は、そういう者だから。世界のために使われる運命なんだ」

「…………」

 

 山姥切は、雨音の諦念を読み取り、押し黙った。

 

「この心さえ、誰かの物だったならよかったのにな」

「あんたは、心あるものが嫌いだからな」

「ああ。お前は、かなりメンドクサイ奴だよ」

「あんたに言われたくない」

「そりゃあ、そうだろうな」

 

 メンドクサイ男たちは、お互いのことが分からないままでいる。

 心など、醜いからいらない。代替可能な物でいたい。

 そう思っている化野雨音。

 写しだけれど、それは偽物ということではない。本当は認められたい。

 そう思っている山姥切国広。

 雨音と山姥切は、相互不理解のまま共に在った。

 雨音は、山姥切国広を偽物だなんて思っていないし、山姥切は、雨音を代わりの効く存在だとは思っていない。

 鳴神月の曇り空の下。主と刀は、遠雷の音を聴いていた。

 

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