雨音の如く静やかな   作:スナエ

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鏡よ鏡

 異界とは、日常に潜んでいる。

 たとえば、水面に映った世界。そこは古くから異界に繋がるとされていた。

 たとえば、山。そこは人の領域ではない。

 たとえば、夢の中。そこは現実とは別の世界だと言う者もいる。

 朝。化野雨音は、鏡の前で、生まれつき灰色の髪を整えていた。

 それを終えてから、白い布で顔を覆い、刀剣男士たちの元へ向かおうとした。

 その時、視界の端で霊を捉える。

 

「うげ…………」

 

 鏡に向き直ると、化野露時が映っていた。

 たとえば、鏡面異界。鏡は異物を映してきた。

 

「いい加減、成仏しろって」

 

 雨音は、露時の霊を振り切り、目的の部屋へ行く。

 食事をして、刀たちに命令を出し、政府からの任務をこなした。

 近侍のにっかり青江を第一部隊の隊長に据え、送り出す。

 仮の近侍は、山姥切国広に任せた。

 

「なあ、山姥切」

「どうかしたか?」

「あそこに、男が見えるか?」

「男?」

 

 雨音の指差す先には、水溜まりがある。そして、その水面には確かに男がいた。

 

「あれは誰だ?」

「俺の先祖。化野の末裔が不甲斐ないから、恨めしいんだろう」

「……斬ればいいって訳じゃなさそうだな」

「ああ。参るよな、まったく」

 

 審神者は、頭をかく。

 

「アイツは、俺への呪い。対価なんだろうよ」

「対価?」

「曰く付きの物を所持している対価だ。俺には手放せない」

「どうして俺に話した?」

「今は、お前が近侍だからな」

 

 山姥切は、雨音が自分に歩み寄ろうとしているのだと気付いた。

 

「俺が必要になったら、いつでも呼べばいい。あんたは、主だからな」

 

 近侍だから。主だから。

 言い訳をするように、雨音と山姥切はお互いを必要だと述べる。

 にっかり青江が、不器用な彼らを見たら笑うだろう。

 

「本物と比べられる俺と、本科と比べられるお前は、似た者同士かもしれない。意識があるうちは、ずっと比較され続けるに違いない。嫌になるな……」

 

 乾いた笑いを漏らす雨音。

 

「でも、お前は“傑作”だから。そんなに卑屈になるなよ」

 

 雨音は、山姥切の肩に手を置いた。

 

「やっぱり綺麗だな、お前は」

「…………」

 

 山姥切国広はうつむき、被っているボロ布で目元を隠す。

 

「あんたは、狡い人間だ……」

「はは。今更気付いたのか?」

 

 化野雨音は、くすりと笑った。

 水溜まりの中の死者は、いつの間にか消えている。

 アマガエルが、小さな水面にいくつもの波紋を作った。

 お前たちは、世界で一番美しい物だったはずなのに。

 雨音は、鋼に人の姿を取らせた業を抱えて生きている。

 

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