オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか 作:JP_JK_Loling
アルフィアとの二度目の戦いは、俺の敗北で終わった。いや、アイツは「勝利ではない」と言っていたが、結局倒れたのは俺だ。事実上の負け犬だ。だが、不思議と心は折れていなかった。むしろ、次に会う時までに、もっともっと強くなってやるという闘志が燃え盛っていた。
そんなある日、俺がタナトス・ファミリアの拠点でぼんやりしていると、あの胡散臭い神、ヘルメスがひょっこり顔を出した。
「やあ、トート。ゼウスのところで戦闘の基礎を学んだんだって? 感心感心。でも、それだけじゃあ、あのアルフィアちゃんには追いつけないんじゃないかな」
「うるせえな。分かってんだよ。で、何の用だ?」
「アッハッハ、そうカッカするなよ。冒険者には、ただ戦うだけじゃなく、もっと泥臭い技術も必要さ。特に、君みたいに一人でダンジョンに潜る無鉄砲な子にはね。というわけで、この旅と伝令の神であるオレが、直々にサバイバル術を教えてあげようじゃないか」
ヘルメスはそう言うと、俺を半ば強引にオラリオから連れ出し、オラリオ近郊の森へと向かった。
「腹が減ったら、そこにいるモンスターぶっ殺してその肉食えばいいだろ」
俺がそう言うと、ヘルメスは心底呆れた顔で俺を見た。
「馬鹿だねぇ、トート。モンスターは倒したら魔石を残して灰になるじゃないか。食べられるわけがないだろ? そんなことも考えずに中層まで潜ってたのかい? 運が良かったね」
言われてみれば、確かにそうだ。俺は今まで、地上から持ってきた干し肉くらいしか食ってなかった。
「いいかい、ダンジョンで生き残るには、まず水と食料、そして火の確保が基本だ。例えば、壁に生えるこの光苔の近くにあるシラタマ茸は食べられる。でも、あっちの赤い傘のベニテングダケは猛毒だ。こういう知識一つが生死を分けるんだよ」
ヘルメスはそう言って、可食植物と有毒植物の見分け方を教え、さらに壁を滴る水を集める方法や、魔石のかけら同士を強く打ち付けて火花を散らし、火口(ほくち)に着火させるダンジョンならではの火起こし術を実演して見せた。
「それから、あれを見てごらん」
ヘルメスが指さしたのは、淡い光を放つ美しい植物だった。
「あれはギンピギンピ。別名『スーサイド・プラント』、自殺植物さ。耐異常のアビリティを持っていればまだマシだけど、持っていない者が触れたら最後、その痛みから逃れるために自ら命を絶つと言われている。君のスキルで傷は治せても、痛みと神経毒そのものは消せないかもしれないよ?」
(俺、耐異常持ってねえ…)
俺はゴクリと喉を鳴らし、あの植物には絶対に近づかないと心に誓った。
サバイバル技術を一通り叩き込まれた後、ヘルメスは満足げに頷いた。
「よし、これで野垂れ死にすることはないだろう。さて、次は君のその得物だね」
ヘルメスは俺を連れて、多くの武具工房が立ち並ぶ職人の街「ダイダロス通り」へと向かった。
「残念ながら、オレのファミリアには斧の専門家がいなくてね。独学で振り回すのもいいけど、そろそろ限界だろう?」
そう言いながら、ヘルメスは一軒の古びた、しかし年季の入った武具工房の前で足を止めた。そこには、店の前で自分の巨大な戦斧を、まるで恋人を撫でるかのように愛おしそうに磨いている、一人の白髪の爺さんがいた。
「ふむ…やはり斧はいいぞぉ…。この重量感、この破壊力…剣なぞには分からんロマンがある…」
爺さんはうっとりと呟いている。
「よう、ジジイ!」
俺は遠慮なく声をかけた。
「俺にその斧の使い方、教えてくれよ!」
爺さんはゆっくりと顔を上げ、俺の汚れた姿と、俺が担ぐ戦斧を一瞥すると、顔を盛大にしかめた。
「やかましいわ! その汚れた手でワシの聖域に足を踏み入れるな! そもそもその構え、なっておらん! 斧が泣いておるわ! 斧への冒涜じゃ! 帰れ!」
「あんだとコラ! 俺の相棒を馬鹿にすんのか!」
「相棒じゃと!? お主のような若造に斧を語る資格などないわ! 出直してこい!」
俺と爺さんが一触即発の空気になったのを見て、ヘルメスがやれやれと割って入った。
「まあまあ、お爺さん。彼の斧への愛は本物だよ。ほら、トート。言葉だけじゃダメさ。君の斧への愛を見せてみなよ」
言われるがままに、俺は愛用の戦斧を構え、近くにあった廃材の塊に向かって、ありったけの力と、アルフィアへの苛立ちを込めて振り下ろした。凄まじい破壊音と共に、廃材が木っ端微塵に砕け散る。
その瞬間、爺さんの動きが止まった。
「(ゴクリ…)」
爺さんは俺の斧ではなく、俺自身を、まるで極上の肉塊を見るかのような、ねっとりとした目で見つめてきた。
「なんじゃ…その荒削りすぎる原石は…! 無駄な力み、無駄な動き、無駄な闘志! 無駄無駄無駄ァ! だが、その芯にあるのは紛れもない『斧』の才能…! 磨けば…磨けばワシの理想の、『至高の斧使い』に…! ジュルリ…」
「(うわっ! なんかヤベェ目で見られてるんですけど!?)」
「面白い! 実に面白いぞ小僧! お主のような無茶苦茶な才能なら、斧は最高の相棒になるやもしれん! いいだろう、このワシが、斧の本当の恐ろしさと楽しさ、そして斧と一体になることの素晴らしさを、その体にミッチリと叩き込んでやろう!」
爺さんはニヤリと笑い、自分の戦斧を軽々と持ち上げた。その日から、俺の地獄の斧術洗脳訓練が始まった。
「馬鹿者! 斧というのはぶん回して戦うイメージを持つだろうが、決してそうではない! 自分の体術と遠心力、斧の重みを利用して動くことで、重さをカバーしてなお、有り余る攻撃力、防御力を生み出せるんじゃ!」
「違う! 腰の回転が3度甘い! そんなスイングでは斧の神は微笑まんぞ!」
「斧の神なんていねーだろ!」
「おるわ! ワシがそうじゃ!」
「(頭おかしいんじゃねえかこのジジイ…!)」
爺さんの教えは、具体的かつ理論的だったが、その端々に狂信的な「斧愛」が滲み出ていた。
「いいか! 斧とは対話するんじゃ!『今からお前の力を借りるぜ、相棒』と心で語りかけ、斧と一つになる! お主が斧になるのじゃ!」
「(恥ずかしすぎるだろ…)」
「斧を信じるんじゃ! さすれば斧は応える! 斧が最強! 斧はいいぞぉ~!」
「(また始まった…)」
爺さんの指導は厳しかったが、その言葉には確かな重み?があった。これまでただの鉄の塊だと思っていた戦斧が、まるで自分の体の一部のように馴染んでくる。
数日後。ヘルメスが様子を見に来ると、訓練場では奇妙な光景が繰り広げられていた。
「いいかトート! 斧とは宇宙じゃ! 振り下ろす刃は流星! 敵を砕く衝撃は超新星爆発じゃ!」
「おう! 俺の斧は星を砕く!」
「斧はいいぞぉ~!」
「斧はいいぞぉ~!」
(うわぁ…。なんかヤバい宗教みたいになってる…)
物陰で見ていたヘルメスはドン引きしていた。
数日間の指導で、俺の斧の腕は、自分でも驚くほど上達した。
「よし! これでまた一歩、アルフィアに近づいたぜ!」
サバイバル技術と、専門的な斧の技術。新たな武器を手に入れた俺は、ふつふつと湧き上がる自信を感じていた。
さらに数日後。ヘルメスは、トートがどれくらい上達したか気になり、ダイダロス通りの工房をこっそり覗きに来ていた。すると、工房の前でトートが一人、愛用の戦斧を実に愛おしそうに布で磨いている。そして、どこかで聞いたような口調で、恍惚の表情を浮かべて呟いていた。
「ふむ…この曲線美…この重量バランス…やはり斧はいいぞぉ…」
その姿を見たヘルメスは、物陰で肩を震わせ、必死に笑いをこらえた。
「アッハッハ…こりゃ傑作だ。すっかり染まっちゃってるじゃないか。まあ、強くなるなら何よりだけどね」
ヘルメスが知らないところで、トートは新たな決意を固めていた。
(この最強の斧があれば、次こそダンジョンでアイツを…いや、アルフィアをぶっ飛ばしてやる!)
斧が近接最強!って言いたかったけど不壊あったら強みが微妙になるんじゃ・・・
地球で最強なのは斧だよなぁ!?