オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか 作:JP_JK_Loling
なんやかんやあり、月日は流れた。
俺――トートは16歳になり、背も少し伸びて、ステイタスはLv.4に到達していた。あのアルフィアとの再戦と約束から、実に二年の歳月が経過していた。
この二年間、俺は死に物狂いでダンジョンに潜り続けた。サバイバル技術と叩き込まれた斧の技術、そして何より【臨死臨界】のスキルをフル活用し、傷を負っては強くなり、また傷を負うという無茶な成長を繰り返した。何度かダンジョンでアルフィアと遭遇し、その度に激しい戦闘を繰り広げたが、結果はいつも引き分けか、邪魔が入っての中断。彼女も今やLv.5となり、その差は未だに埋まっていなかったが、少なくとも以前のように手も足も出ない相手ではなくなっていた。俺たちの奇妙なライバル関係は、中層から深層を探る冒険者たちの間では、一種の名物詩のようになっていた。
そんなある日、オラリオの街では、ある噂がまことしやかに囁かれ始めていた。
「おい、聞いたか? そろそろギルドが動くんじゃないかって話だ」
「ああ、三大クエストのことだろ? 黒竜、リヴァイアサン、ベヒーモス…」
「ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアが、ついにそのどれかに挑むんじゃないかってな」
三大災厄の討伐。その言葉を聞いた時、俺の頭の中で、ずっと引っかかっていた最後のピースがカチリとはまった。
(そうか…そういうことか。俺が知ってるアニメの時代、なんでゼウス・ファミリアもヘラ・ファミリアもオラリオの主役じゃなかったのか…。こいつら、三大災厄を討伐し終わって、それでオラリオからいなくなったんじゃねえか…?)
俺が知る未来と、この過去の世界が、ついに一本の線で繋がった瞬間だった。だが、そんな歴史の大きなうねりなど、今の俺の腹の足しにもならねえ。
「ま、俺には関係ねえ話だな」
そう呟きながら街を歩いていると、路地の物陰からひょっこりと顔を出した男に手招きされた。その男の顔には見覚えがあった。
「よう、トート。久しぶり。ちょっと付き合えよ」
その男――ヘルメスに言われるがままについていくと、一見ではただの壁にしか見えないような、隠れ家的な酒場の扉の前にたどり着いた。どうやら、ゼウスのジジイも中にいるらしい。面倒なことこの上ないが、何か面白い話が聞けるかもしれねえ。
重い扉を開けると、カラン、と乾いたベルの音が鳴った。店内は薄暗く、埃っぽい匂いと、年代物の酒の香りが混じり合っている。壁には作者不明の陰鬱な絵画が飾られ、カウンターの奥には、ラベルの文字が掠れた無数の酒瓶が並んでいた。客は俺たちの他に誰もおらず、まさに神々が密談に使うにはうってつけの場所らしかった。そのカウンター席で、既に上機嫌で酒を飲んでいるゼウスの姿があった。ヘルメスは俺をテーブル席に促し、向かいに座ってニヤリと笑う。
「いやあ、久しぶりだね、トート君。オレも色々と野暮用でオラリオを留守にしててね。東の果てから西の山脈まで、古い伝承を調べ回るのは骨が折れるよ」
ヘルメスはそう言って軽く肩をすくめたが、その目には、ただの旅行者のそれとは違う、何かを探求するような光が宿っていた。三大災厄の噂が流れ始めたこのタイミングで帰ってきたのも、偶然じゃねえだろう。
「ふん。で、こんなとこに呼んで、用件はなんだよ」
俺がそう言うと、ゼウスが待ってましたとばかりに、大げさに咳払いをした。
「うむ! よくぞ聞いてくれた、トート! 儂らがここにお主を呼んだのは他でもない! ある偉大な計画のためじゃ!」
「偉大な計画だぁ? 俺も最近はステイタス上げで忙しいんだ。下らねえ話なら、さっさと帰らせてもらうぜ」
俺の素っ気ない態度に、ゼウスは少しも臆することなく、その目を少年のように輝かせた。
「まあ聞け。お主も『神聖浴場』のことは知っておろう?」
「ああ? 神様しか入れねえ、クソでけえ風呂のことだろ」
「その通り! 我々は今宵、その女神たちが集う楽園、女湯への
「……話を聞こうじゃねえか」
俺の覚悟は、またしても数秒で崩れ去った。
ゼウスは俺の変わり身の速さに満足げに頷くと、熱っぽく語り始めた。
「神聖浴場は、その名の通り、神のみが入浴を許されたまさに聖域じゃ。ギルドが管理し、入浴する女神の眷属たちも警備に加わるなど、その守りは鉄壁。男神である我々が、女神たちの湯場に近づくことなど、本来許されぬこと…!」
「おぉ…!」
俺はゴクリと喉を鳴らした。
「じゃが、しかし! その幾多の障壁を乗り越えてこそ、楽園は楽園たりえるのではないかと、儂は思うのじゃ! 困難な冒険の果てにこそ、真の宝はある! 今こそ、我々がその聖域に挑むべき時なんじゃ!」
ゼウスの瞳は、本気で英雄譚を語る吟遊詩人のようにキラキラしていた。やってることは、ただの覗き魔だが。
「いや、待てよジジイ。そんな簡単に言うけどよ、ギルドが管理してんだろ? しかも、入ってる女神のファミリアの連中、それも第一級冒険者とかが警備してるって話じゃねえか。見つかったら殺されるじゃ済まねえぞ」
俺が現実的なツッコミを入れると、ゼウスは「ふむ…」と少しだけ黙り込んだ。
「…それに、なんだかんだ言っても、ただ女の裸を覗くだけだろ? へっ、くだらねえ。そんな最低な行為に命賭ける気は、俺にはねえね」
俺は腕を組んでそっぽを向いた。(アルフィアと何度も死闘を繰り広げるようになってから、ただ一方的に女の裸を見るだけの行為が、なんだかひどく下らなく、張り合いのないものに思えてきていた。アイツと渡り合うには、もっと高尚な…いや、俺がそんなタマじゃねえのは分かってる。でも、なんか違うんだよな、こういうのは…)
そんな俺の葛藤を見透かしたように、ヘルメスが口を開いた。
「フッ。まあ、ゼウスの言うことにも一理あるかな」
ヘルメスが、どこからか取り出した羊皮紙を広げながら言った。
「オレのデータによれば、三日後の夜、ゼウスの狙っている運命の三女神(モイライ)が揃って神聖浴場を利用することが分かっている。それに、他の女神たちの入浴スケジュールもバッチリさ。ちなみに、トート君的には、豊穣の女神デメテルあたりはどうだい? 君も街で一度は見かけたことがあるだろ? あの、一目見て分かるようになかなかのものを持っている女神様だよ」
デメテル…あの、豊満という言葉を具現化したような、歩くたびに地面が揺れるんじゃないかと思うほどの爆乳の女神か…! 俺の脳裏に、以前市場ですれ違った時の、あの圧倒的な存在感が蘇る。
「デメテル…だと…!? 行きます! 俺もその偉大な冒険に連れてってください!」
俺はテーブルに身を乗り出して懇願した。俺の覚悟と葛藤は、デメテルの四文字の前に木っ端微塵に砕け散った。
「うむ! もちろんじゃ、そのために呼んだのじゃからな!」
「ああ、君のその若さとパワーは、この計画に必要不可欠だからね」
ヘルメスは自信満々に計画の概要を説明し始めた。
「いいかい? オレの計画では、警備が手薄になる時間帯、ギルド職員の巡回ルート、そして女神たちの長風呂の傾向まで、全てのデータを計算済みだ。侵入ルートは警備の死角となる北側の水道管から。脱出ルートは東側の庭園を抜ける」
「おい、完璧みてえに言ってるけどよ、もし見つかったらどうすんだ? さっきも言ったが、ギルドと入浴してる女神のファミリア全部敵に回すことになるんだぞ。逃げ切れんのかよ」
俺の至極もっとうな質問に、ヘルメスは待ってましたとばかりに胸を叩いた。
「フフン、甘いねトート君。もし見つかった際のために、オレ特製の煙幕弾や閃光玉、それに警備の目を欺くための幻術アイテムまで用意してある。これを使えば、Lv.5の冒険者相手でも数分は足止めできるはずさ。オレの計画に、抜かりはないよ」
ヘルメスはそう言ってウインクしたが、その完璧すぎる説明と自信満々の態度が、逆に巨大な失敗フラグにしか見えなかった。だが、そんなことは今の俺にはどうでもよかった。
「すげえ…! さすがはヘルメスだぜ!」
「ホッホッホ! これぞ知勇兼備よな!」
こうして、二柱の神が紡ぐ遊戯と、一人の少年が抱く原始の欲望は、薄暗い酒場の一角で固く交差した。歴史の大きな転換点を目前にしたオラリオの喧騒の裏で、後に誰の記憶にも記録にも残ることのない(めちゃくちゃ残った)、しかし確実に存在した一夜の伝説が、今、静かに始まろうとしていた。それは、英雄譚として語られることも、神話として詠われることもない、ただひたすらに愚かで、それでいて純粋な渇望に満ちた、男たちの聖戦?の序曲であった。
俺の胸は、アルフィアとの決闘とはまた違う、別の種類の興奮と期待で、今にも張り裂けそうだった。
映画見てレゼ好きになったけど、マキマさんも好きなんだよな~