オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか 作:JP_JK_Loling
「おい! あいつはどこだ! 辺りを探せ!」
怒号が鼓膜を突き刺し、無数の足音が地面を揺らす。肺は灼熱の炎を吸い込んだように熱く、心臓は肋骨を内側から叩き壊さんばかりに暴動を起こしている。
俺は今、絶望的な状況にある。
いや、絶望という言葉すら生ぬるい。これは破滅だ。終焉だ。
どうしてこうなった。
数時間前までの俺は、確かに夢と希望に満ち溢れていたのに……。
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決行の刻。
俺たちは、以前と同じあの薄暗い酒場に集結していた。
そこには、計画の首謀者であるジジイことゼウスと、失敗フラグ建築士のヘルメス。そして――見慣れない一人の青年がいた。
「おい、そいつは誰なんだよ」
俺が不機嫌そうに尋ねると、ゼウスが「ホッホッホ」と相好を崩す。
「おお、こいつは儂のファミリアのサポーターじゃ。クラネルという」
「お前がトートか! 俺はクラネル。よろしくな!」
青年は、まるで英雄譚の主人公のような爽やかな笑顔を見せた。だが、その瞳の奥には、俺たちと同じ欲望が渦巻いているのを、俺は見逃さなかった。
「おいおい。急に知らないやつを連れてきても困るんだがよぉ……」
「そうは言っても、こいつが積極的に今回の情報を仕入れてくれたんじゃ。警備のシフト、女神たちの好みの湯加減、さらには脱ぎ捨てられた衣類の配置までな!」
ゼウスの言葉に、俺は沈黙した。……有能すぎる。
俺はクラネルを値踏みするように一瞥し、内心で呟いた。
(まあいい、何かあれば、こいつを囮にすればいいだけだ)
「……お前、冒険する覚悟はあんだろうな?」
俺が凄むと、クラネルは胸を叩き、迷いのない声で言い放った。
「もちろん。男には、命を懸けてでも挑まなければならない時がある。それが今日さ!」
「フッ。オレにもあるさ。神としてのプライドよりも大切なものがね」
ヘルメスが不敵に笑う。
「儂もじゃ。千年の退屈を、この一瞬の輝きのために捧げよう」
俺たちは今日、冒険する。
叶えたかった、叶えなければならなかった、叶えるべきだった至高の頂に、俺たちは今、挑むんだ!
「やるぞぉ!!!!! 男たちの聖戦だ!!!」
「「「おう!!!!!」」」
神聖浴場。
そこは、ギルドの管理下にある、選ばれし神々のみが入ることを許された絶対聖域。
俺たちはヘルメスの完璧(笑)な計画通り、北側の水道管から文字通り泥水をすすりながら侵入し、更衣室の防壁を
温泉の傍らに広がる茂みの中に潜伏した俺たちの前に、立ち上る湯気の向こう側、神々しいまでの光を放つ女神たちの肢体が広がっていた。
特に豊穣の女神デメテル。彼女が湯船に浸かった瞬間、その圧倒的な質量が月明かりを浴びて瑞々しく輝く。
ふと足元を見てみると何かが落ちていた。
(こ、これは!?)
俺は水を差さないようにそれを誰にも言うことなく、静かに懐の中にしまった。
だが、ゼウスが鼻息を荒くして身を乗り出した瞬間、「パキッ」と乾いた木の枝の音が静寂を殺した。
「――侵入者! いや、覗き魔だ!!!」
女性団員の鋭い叫び声が響く。入浴中の無防備な神を守る警備が、薄いわけがなかった。
「逃げるぞ! トート、オレを担げ! クラネル、君はゼウスを!」
ヘルメスの号令で俺たちは脱兎のごとく駆け出した。俺はヘルメスを、クラネルはゼウスをそれぞれ米俵のように担ぎ、狂ったように走り出す。
「ヘルメス! さっさとアイテム出せよ!」
「分かってる! オレ特製、超粘着性投擲泥だ! これで足止めを――」
ヘルメスが投げた泥塊は、背後から迫る高レベル冒険者の剣筋によって一瞬で両断された。
「次はこれだ、超濃縮煙幕弾!」
勢いよく放たれた煙は、追っ手の放った強力な風圧魔法によって、俺たちを吸い込む暇もなく吹き飛ばされる。
「クソッ、こうなったら最悪オレだけでも逃げるさ! このハデスの兜を被ればオレは透明に――」
「てめぇ自分だけ逃げる気かよ!」
ヘルメスが懐から取り出した兜に手をかけた瞬間、どこからか飛来した一本の矢がその兜を正確に撃ち落とした。
「ああっ! オレの、オレの秘蔵アイテムがぁ!!」
「フラグ回収早すぎんだろ死ねよ!!」
背後には、湯浴み着を羽織り、殺意をむき出しにした美女軍団。その先頭には、Lv.5やLv.6クラスの化け物たちが顔を並べている。
「クソッ……このままじゃ全員捕まる……!」
俺は一瞬、隣を走るクラネルに目をやった。囮にする、そう決めていたはずだ。
だが――泥にまみれながらも、必死にゼウスを担いで前を見据えるその真っ直ぐな瞳。
(……ちっ、あんなキラキラした目で『冒険』とか言ってた奴を、こんな泥臭い場所で終わらせてたまるかよ!)
俺は急停止し、戦斧を地面に叩きつけた。
「おい、お前ら! さっさと行け! ここは俺が食い止める!」
「トート君!? 君、何を……!」
「いいから行けっつーの! ていうか俺が全員あいつらを倒してもかまわねぇだろ!」
俺は背後から迫る無数の気配を睨みつけた。
ヘルメスとゼウス、そしてクラネルが、苦渋の決断と共に闇の中へと消えていく。
「さあ……来やがれ。 俺の『偉業』、その目に焼き付けてやるぜ!!!」
数時間後。
バベルの塔前。そこには、急造された処刑台が置かれていた。
両手両足を魔道具で拘束された俺は、何千、何万という群衆の前に立たされていた。
見上げれば、青い空。
群衆の中には、冷ややかな視線を送るアルフィアの姿もあった。その瞳は、ゴミを見るような軽蔑を通り越し、虚無に近い哀れみを浮かべている。
処刑を執行するギルド職員が、厳かに宣言する。
「トート。神聖浴場への不法侵入、および女神への猥褻な視線の投射。その罪、万死に値する。」
処刑執行人が、巨大な鋏をジャキリと鳴らした。
「よってこれより、こいつの首(ちんこ)を切り落とす。」
「そんな、男として終わりじゃないか!」
「そこまでするなんてひどすぎるじゃねぇか!」
男たちの悲痛な叫びが上がる。
「当然よね」
「足りないくらいだわ。汚らわしい」
「変態に甘すぎるんじゃないかしら」
一方、女性陣の反応は氷点下だ。
その隅の方でゼウスがヘラに詰められているのが見えた。
「おいゼウス。お前も関わってたんじゃないだろうな」
「わ、儂はなにもしとらん」
俺が何人かを倒したり、隠れて何とか稼いだ時間であいつらは逃げ切れたようだな。
「最後に何か言い残すことはあるか?」
俺は、ボロボロになった顔で、ニヤリと笑った。
かつて、海を制したあの男の最期を脳裏に描き、腹の底から声を張り上げた。
「俺の宝か? 欲しけりゃくれてやる……」
群衆が、ざわりと揺れた。
「探せ! このオラリオのどこかに、デメテルのパンツを置いてきた!!!」
一瞬の静寂。
そして――。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!! デメテル様のパンツだとおおおおお!!!!!」
「マジかよトート! お前、漢だぜ!!!」
「探しに行こうぜ! 男たちの新時代だ!!!」
オラリオ中の男たちが、歓喜の咆哮を上げた。欲望という名の火が、街全体に燃え広がる。
処刑台の上で、俺は見た。アルフィアが「……汚物め」と呟き、完全に目を逸らしたのを。
だが、俺は満足だった。
〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇
人がいなくなり、さっきまでの喧騒が嘘のようになった処刑台前。
俺は、なんとか「物理的な死」だけは免れ(社会的には死んだが)、ボロボロの体で地面に座り込んでいた。
「トート……お前ってやつは。儂らのために……」
「おい、クラネル泣くなよ。汚ねぇ面だな」
「だってトート、ちんちんが! 」
「ちんこの一本や二本、安いもんさ。魂さえ繋がってりゃあな……」
俺は震える手で、懐から「それ」を取り出した。
「仕方ねぇ、クラネル。こいつをお前に預ける。俺が命を懸けて取った、宝だ」
俺の手には、デメテルのパンツが握られていた。(さっきのは全部嘘)
「もっと強くなったら、俺に返しに来い。いいな」
「……トート! 俺は強くなる! この重み、一生忘れない!」
こうして、夢は受け継がれた。
【トート】
Lv.4
力:D591
耐久:C622
器用:D508
敏捷:D586
魔力:E499
《発展アビリティ》
治力:G 耐異常:H 魔防:I
《スキル》
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自身に敵意・悪意を向ける対象の数、およびその強さに応じて全アビリティが上昇する。
《魔法》
▪ペイン・サクリファイス