オラリオで好き勝手するのはまちがっているだろうか   作:JP_JK_Loling

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十五話 後悔【後】

「おい! あいつはどこだ! 辺りを探せ!」

 

怒号が鼓膜を突き刺し、無数の足音が地面を揺らす。肺は灼熱の炎を吸い込んだように熱く、心臓は肋骨を内側から叩き壊さんばかりに暴動を起こしている。

俺は今、絶望的な状況にある。

いや、絶望という言葉すら生ぬるい。これは破滅だ。終焉だ。

 

どうしてこうなった。

数時間前までの俺は、確かに夢と希望に満ち溢れていたのに……。

 

 

________________

 

決行の刻。

俺たちは、以前と同じあの薄暗い酒場に集結していた。

そこには、計画の首謀者であるジジイことゼウスと、失敗フラグ建築士のヘルメス。そして――見慣れない一人の青年がいた。

 

「おい、そいつは誰なんだよ」

 

俺が不機嫌そうに尋ねると、ゼウスが「ホッホッホ」と相好を崩す。

 

「おお、こいつは儂のファミリアのサポーターじゃ。クラネルという」

 

「お前がトートか! 俺はクラネル。よろしくな!」

 

青年は、まるで英雄譚の主人公のような爽やかな笑顔を見せた。だが、その瞳の奥には、俺たちと同じ欲望が渦巻いているのを、俺は見逃さなかった。

 

「おいおい。急に知らないやつを連れてきても困るんだがよぉ……」

 

「そうは言っても、こいつが積極的に今回の情報を仕入れてくれたんじゃ。警備のシフト、女神たちの好みの湯加減、さらには脱ぎ捨てられた衣類の配置までな!」

 

ゼウスの言葉に、俺は沈黙した。……有能すぎる。

俺はクラネルを値踏みするように一瞥し、内心で呟いた。

(まあいい、何かあれば、こいつを囮にすればいいだけだ)

 

「……お前、冒険する覚悟はあんだろうな?」

 

俺が凄むと、クラネルは胸を叩き、迷いのない声で言い放った。

 

「もちろん。男には、命を懸けてでも挑まなければならない時がある。それが今日さ!」

 

「フッ。オレにもあるさ。神としてのプライドよりも大切なものがね」

ヘルメスが不敵に笑う。

 

「儂もじゃ。千年の退屈を、この一瞬の輝きのために捧げよう」

 

俺たちは今日、冒険する。

叶えたかった、叶えなければならなかった、叶えるべきだった至高の頂に、俺たちは今、挑むんだ!

 

「やるぞぉ!!!!! 男たちの聖戦だ!!!」

 

「「「おう!!!!!」」」

 

 

 

 

神聖浴場。

そこは、ギルドの管理下にある、選ばれし神々のみが入ることを許された絶対聖域。

俺たちはヘルメスの完璧(笑)な計画通り、北側の水道管から文字通り泥水をすすりながら侵入し、更衣室の防壁を男の意地(ピッキング)で突破した。

 

温泉の傍らに広がる茂みの中に潜伏した俺たちの前に、立ち上る湯気の向こう側、神々しいまでの光を放つ女神たちの肢体が広がっていた。

特に豊穣の女神デメテル。彼女が湯船に浸かった瞬間、その圧倒的な質量が月明かりを浴びて瑞々しく輝く。

 

ふと足元を見てみると何かが落ちていた。

(こ、これは!?)

俺は水を差さないようにそれを誰にも言うことなく、静かに懐の中にしまった。

 

だが、ゼウスが鼻息を荒くして身を乗り出した瞬間、「パキッ」と乾いた木の枝の音が静寂を殺した。

 

「――侵入者! いや、覗き魔だ!!!」

 

女性団員の鋭い叫び声が響く。入浴中の無防備な神を守る警備が、薄いわけがなかった。

 

「逃げるぞ! トート、オレを担げ! クラネル、君はゼウスを!」

 

ヘルメスの号令で俺たちは脱兎のごとく駆け出した。俺はヘルメスを、クラネルはゼウスをそれぞれ米俵のように担ぎ、狂ったように走り出す。

 

「ヘルメス! さっさとアイテム出せよ!」

 

「分かってる! オレ特製、超粘着性投擲泥だ! これで足止めを――」

 

ヘルメスが投げた泥塊は、背後から迫る高レベル冒険者の剣筋によって一瞬で両断された。

 

「次はこれだ、超濃縮煙幕弾!」

 

勢いよく放たれた煙は、追っ手の放った強力な風圧魔法によって、俺たちを吸い込む暇もなく吹き飛ばされる。

 

「クソッ、こうなったら最悪オレだけでも逃げるさ! このハデスの兜を被ればオレは透明に――」

 

「てめぇ自分だけ逃げる気かよ!」

 

ヘルメスが懐から取り出した兜に手をかけた瞬間、どこからか飛来した一本の矢がその兜を正確に撃ち落とした。

 

「ああっ! オレの、オレの秘蔵アイテムがぁ!!」

 

「フラグ回収早すぎんだろ死ねよ!!」

 

背後には、湯浴み着を羽織り、殺意をむき出しにした美女軍団。その先頭には、Lv.5やLv.6クラスの化け物たちが顔を並べている。

 

「クソッ……このままじゃ全員捕まる……!」

 

俺は一瞬、隣を走るクラネルに目をやった。囮にする、そう決めていたはずだ。

だが――泥にまみれながらも、必死にゼウスを担いで前を見据えるその真っ直ぐな瞳。

 

(……ちっ、あんなキラキラした目で『冒険』とか言ってた奴を、こんな泥臭い場所で終わらせてたまるかよ!)

 

俺は急停止し、戦斧を地面に叩きつけた。

 

「おい、お前ら! さっさと行け! ここは俺が食い止める!」

 

「トート君!? 君、何を……!」

 

「いいから行けっつーの! ていうか俺が全員あいつらを倒してもかまわねぇだろ!」

 

俺は背後から迫る無数の気配を睨みつけた。

ヘルメスとゼウス、そしてクラネルが、苦渋の決断と共に闇の中へと消えていく。

 

「さあ……来やがれ。 俺の『偉業』、その目に焼き付けてやるぜ!!!」

 

 

 

 

 

 

数時間後。

バベルの塔前。そこには、急造された処刑台が置かれていた。

両手両足を魔道具で拘束された俺は、何千、何万という群衆の前に立たされていた。

 

見上げれば、青い空。

群衆の中には、冷ややかな視線を送るアルフィアの姿もあった。その瞳は、ゴミを見るような軽蔑を通り越し、虚無に近い哀れみを浮かべている。

 

処刑を執行するギルド職員が、厳かに宣言する。

 

「トート。神聖浴場への不法侵入、および女神への猥褻な視線の投射。その罪、万死に値する。」

 

処刑執行人が、巨大な鋏をジャキリと鳴らした。

 

「よってこれより、こいつの首(ちんこ)を切り落とす。」

 

「そんな、男として終わりじゃないか!」

「そこまでするなんてひどすぎるじゃねぇか!」

男たちの悲痛な叫びが上がる。

 

「当然よね」

「足りないくらいだわ。汚らわしい」

「変態に甘すぎるんじゃないかしら」

一方、女性陣の反応は氷点下だ。

 

その隅の方でゼウスがヘラに詰められているのが見えた。

「おいゼウス。お前も関わってたんじゃないだろうな」

「わ、儂はなにもしとらん」

俺が何人かを倒したり、隠れて何とか稼いだ時間であいつらは逃げ切れたようだな。

 

「最後に何か言い残すことはあるか?」

 

俺は、ボロボロになった顔で、ニヤリと笑った。

かつて、海を制したあの男の最期を脳裏に描き、腹の底から声を張り上げた。

 

「俺の宝か? 欲しけりゃくれてやる……」

 

群衆が、ざわりと揺れた。

 

「探せ! このオラリオのどこかに、デメテルのパンツを置いてきた!!!」

 

一瞬の静寂。

そして――。

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!! デメテル様のパンツだとおおおおお!!!!!」

「マジかよトート! お前、漢だぜ!!!」

「探しに行こうぜ! 男たちの新時代だ!!!」

 

オラリオ中の男たちが、歓喜の咆哮を上げた。欲望という名の火が、街全体に燃え広がる。

処刑台の上で、俺は見た。アルフィアが「……汚物め」と呟き、完全に目を逸らしたのを。

 

だが、俺は満足だった。

 

〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇

 

人がいなくなり、さっきまでの喧騒が嘘のようになった処刑台前。

俺は、なんとか「物理的な死」だけは免れ(社会的には死んだが)、ボロボロの体で地面に座り込んでいた。

 

「トート……お前ってやつは。儂らのために……」

「おい、クラネル泣くなよ。汚ねぇ面だな」

 

「だってトート、ちんちんが!

「ちんこの一本や二本、安いもんさ。魂さえ繋がってりゃあな……」

 

俺は震える手で、懐から「それ」を取り出した。

 

「仕方ねぇ、クラネル。こいつをお前に預ける。俺が命を懸けて取った、宝だ」

 

俺の手には、デメテルのパンツが握られていた。(さっきのは全部嘘)

 

「もっと強くなったら、俺に返しに来い。いいな」

「……トート! 俺は強くなる! この重み、一生忘れない!」

 

こうして、夢は受け継がれた。

 

【トート】

Lv.4

力:D591

耐久:C622

器用:D508

敏捷:D586

魔力:E499

 

《発展アビリティ》

治力:G 耐異常:H 魔防:I

 

《スキル》

拒却死(タナトス・アンチ)

臨死臨界(ヘブン・ダイバー)

 

【不徳の凱旋(ヴィランズ・パレード)

自身に敵意・悪意を向ける対象の数、およびその強さに応じて全アビリティが上昇する。

 

《魔法》

▪ペイン・サクリファイス

 

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